ご主人さまとエルフさん   作:とりまる。

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戦いの後に

 

「偉そうなこと言って手も足も出ないじゃないですかばーかばーか!」

「馬鹿って言うほうが馬鹿なの! ていうかそれ卑怯なの出てきて私と勝負するの!!」

「なんで安全地帯から出て行かなきゃいけないんですか頭悪いんですか悪いんですね幼女だから!」

「きぃぃー!!」

 

 ボクの安全圏からの攻撃に地団駄を踏む幼女はさておき、葛西さんと縦ロールの戦いは早くもクライマックスを迎えていました。

 

 縦ロールは正統派なフェンシングの使い手のようで、ボクだと目で追うのすら難しい速度の突きを連続してはなっています。しかし葛西さんは落ち着いた様子で身体をずらし、刺突を剣で払い対処しています。

 

 余裕が十分にある葛西さんと焦りが顔に出始めた縦ロール、実力差はかなりあるようでした。やはりチートは恐ろしいのですよ。

 

 そしてご主人さまの方はもっとひどいのです、まず炎の魔剣による最初の一撃で糸目の剣を叩き折り、柄で顎を打ち上げ、がら空きになった胴に魔法で強化した回し蹴り。

 

 吹っ飛んだところで剣を上段に構えて「紅蓮飛翔剣!」と叫びながら振り下ろせば、炎が鳥の形になって飛んでいき周囲に居た騎士ごとまとめてふっ飛ばしました。

 

 初めて見たけどあれが聖剣技なのですかね、恥ずかしがって使ってなかったのに使うほど頭にきてるんでしょうか。なんというかご主人さまが糸目にぶちかます攻撃の余波で倒されるその他大勢が哀れでなりません。

 

 数秒して爆発で空中を飛んでいた糸目が黒焦げになりながら雪の上に落ちてきました。ボロボロになった顔には怯えが浮かんでます。しかしご主人さまは容赦なく手の平を向けて魔法陣を浮かべます。

 

「がっ、ふ……ば、ばか、な、この僕が……ひっ、まっ」

 

 その先の言葉を言う前に爆発魔法が発動したらしく、糸目がまた空へと旅立っていきました。ここまでご主人さまは無言かつ無表情です。

 

「お、お前の彼氏怖すぎるの、ストルムがボロ雑巾なの」

「ボクもちょっと怖いですあと彼氏じゃねーのです」

 

 先程から障壁の前で罵倒を繰り返していた幼女が、容赦なくボコボコにされる糸目を見て青ざめています。今この状況でまともに勝負になっているのが縦ロールと葛西さんなあたりがひどいのです。

 

「はぁぁぁ!」

 

 縦ロールの鋭い踏み込みから放たれた突きは、しかし葛西さんに届くことはなく。横に回避した葛西さんの剣が縦ロールのレイピアを叩き割り、柄が鳩尾に吸い込まれていきました。

 

「がっ……」

 

 短い悲鳴を残して、縦ロールが寄りかかるように崩れ落ちました。何度目かのフライトを終えて着陸したボロ雑巾も悲鳴すら漏らさなくなり、騎士たちも全滅状態。決着がついたようです。

 

「どうしますかちび」

「降参するの、アレと戦うとか嫌なのよ。でも勘違いするななの、お前に負けた訳じゃないのよ耳長猿」

「はーん、負け惜しみですか? 負け惜しみですね? 悔しいんですか悔しいんですか? 涙が溢れそうですよ? 強そうに見えて実は雑魚だったのですね強がりだったんですね、かーわいいー」

「やっぱり徹底抗戦なの!! 出てくるのよ、オークの巣穴に放り込んでやるの!!」

 

 ご主人さまの障壁に手も足も出ないくせに生意気なのです、やれるもんならやってみるがいいのですよー!

 

 

「…………」

「不覚なの」

 

 さてさて、ボク達の目の前には縄でぐるぐる巻きにされた3人の襲撃者が並べられていました。といっても縦ロールは気を失ったまま、糸目は全身焦げ跡だらけの顔面ボコボコ状態で気絶。

 

 まともに喋れるのは無傷でご主人さまに拘束された幼女だけという有り様です。騎士たちは全員簀巻きにして大規模の結界で閉じ込められています。

 

 ルルは無事に治療を終えて、ユリアに付き添われて本邸へ。護衛として葛西さんが同行して、クリスとフェレも一緒に付き添っています。

 

 ボクとご主人さまは雪の上に正座させた幼女に尋問するために外に残っていました。ご主人さまの傍が一番安全とも言います。

 

「それで、お前たちの目的は何だ?」

 

 ご主人さまが腕を組み、幼女を見下ろしながら訪ねます。幼女は拘束されているというのに不敵に口元を歪めて鼻で笑いました。

 

「お前は馬鹿なの? 話すわけがないの」

「ご主人さまが馬鹿なのは同意しますが話すのですよへちゃむくれ」

「なんでお前がしゃしゃりでてくるの、引っ込んでるのえぐれ胸!」

 

 こいつむかつくのです、一度立場を教えてやらないといけないかもしれませんね。

 

「いいからとっとと話すのですよ、いいですか、このご主人さまは見た目小さな女の子にご主人さまと呼ばせたり、あまつさえあんなことやこんなことをするのにも戸惑わない、真性の鬼畜なのです」

「……ほ、本当……なの……!?」

「本当です、綺麗な身体でいられるうちに話したほうが身のためですよ!」

 

 どうやらボクの言ってることが本当だとわかったようで、青ざめて小さく震えだしました。自分の立場を理解するのが遅すぎるのですよ。

 

「…………」

 

 突然後ろから頭をわしづかみにされて振り返ると、無表情のご主人さまがボクを見下ろしていました。何か用でしょうか、後もうちょっとで喋りそうなので邪魔しないで欲しいのですが。

 

「……後でお仕置きだな」

「何でボクが!?」

 

 こちらに飛び火したのです、訳が解りません、横暴にもほどがあるのですよ!!

 

「……喋るから私は見逃して欲しいの、代わりにその耳長猿は好きにしていいの」

「何で敵のお前がボクを身代わりにしようとしてるんですか!!」

 

 そんな不条理通してなるものですか!

 

「あぁ、そうするから話してくれるか?」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 頭のイカレタことを言いはじめたご主人さまに文句をつけてやろうとしたら口を塞がれてしまいました、何も喋れません。

 

「わ、解ったの……」

 

 怯えながら話し始めた幼女曰く、あの避難民の中に居た青年は現王の兄であり、本来は彼が王位を継ぐはずだった人なのだそうです。

 

 しかし今から四年前、先王の病死とともに何故か彼も病に倒れてしまいます。治療法もわからない重い病で立つこともできなくなり、とうとう健康であった弟王子が継承者として選ばれることに。

 

 弟王の即位の直前、病の身でありながら私利私欲のために王位を簒奪するべく謀反を企て、血を分けた肉親である弟王を手に掛けようとしたのだとか。

 

 しかし勇気ある貴族の告発により悪しき企みは阻まれ、彼等は数人の従者とともに王城から姿を消した。

 

「というのが大筋なの」

 

 それからどうしていたのかと思えば、獣人の集落に隠れ住んで元奴隷で従者の兎耳とイチャイチャしていたと。一息に言い終えた幼女が、深い溜息をつきます。

 

「なるほどな……」

 

 そして話が終わったからか、やっとご主人さまが手を離してくれました。

 

「ぷはっ……つまりこういう事ですね、馬鹿弟が王位欲しさに父親と兄の暗殺企てて兄の方はギリギリで失敗したと」

「かいつまんで言うとそういう事なの、今は国庫の金を使いまくって国中の可愛い小さな子を集めて酒池肉林なの、あいつは一刻も早く股間が腐って死ぬべきなの」 

 

 味方からも嫌われてるんですね、今の王様って。まぁ所業からすれば当然でしょう。ご主人さまも渋い顔をしています。でも国内に居た頃はそんなに政治が荒れている感じはしなかったんですけど。

 

「救いようのない馬鹿で変態だけど能力はそこそこあるから手に負えないの」

「まるでご主人さまのようです……」

 

 違いがあるとすれば良心と、持ってる戦闘力くらいですかね。

 

「…………」

 

 それとご主人さま、事実をつかれたからって睨まないで下さい。

 

「……ともあれ、一度彼等ときちんと話をしないといけないな」

 

 原因の半分以上は彼にあるようですし、話せなかった理由は理解できますが巻き込まれる形になったのは事実です。

 

「そうですね、リアラさんも一緒に……ってそういえばリアラさんは?」

 

 そういえば見てません、獣人たちと一緒に里に戻っているのでしょうか。

 

「あぁ、彼女なら……」

「ふ、く、くははは……」

 

 ご主人さまが言いかけたその時、突然笑い出したのは糸目でした。歪な菓子パン製のヒーローみたいになった顔を上げます、哀れなことに整っていた容姿が見る影もありません。

 

「かっひゃつもひでひるようはけほね……、もひのいひくひに、ふたいをのこひてるんひゃよ」

 

 えーっと、聞き取りづらいんですけど、森の入口に部隊を残してるって言いたいんでしょうか。増援はまだいるんだから、これで勝ったと思うんじゃねーぞ、数の暴力で踏み潰すしてやんよって事ですかね。

 

 ご主人さまの方を見ると、話を遮られた事で機嫌が悪いのか違うのか、僅かに嗜虐的な笑みを浮かべました。

 

「森の入口に、ネズミ退治へ行ってるよ」

 

 瞬間、コォォォォンと甲高い鐘の鳴るような音が響いて、森の一角に巨大な光の柱が落ちるのが見えました。何事かと思えば、その方角を見て糸目パンマンが真っ赤に腫れた顔を青ざめさせました。

 

「全滅ですかね?」

「殺しはしてないと思うけどな」

 

 こうやって全員生け捕りにしたのは、無闇に人を殺したくないという気持ちも勿論あるのでしょうけど……なにか考えがあるようです。

 

 血に餓えてるわけでもないので、殺してしまえ何て言うつもりもありませんけどね。

 




◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
NO BATTLE
◆【ソラ Lv.88】
◆【ルル Lv.36】
◆【ユリア Lv.35】
◇―
================
ソラLv.88[887]
ルルLv.36[366]
ユリアLv.35[351]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>34
[MAX BATTLE]>>34
【PARTY-1(Main)】
[シュウヤ][Lv95]HP2100/2100 MP3460/3460[怒り]
[ソラ][Lv88]HP42/63 MP1253/1253[おこ]
[ルル][Lv36]HP60/835 MP40/40[負傷]
[ユリア][Lv34]HP1840/1840 MP89/89[正常]
[フェレ][Lv30]HP282/282 MP1030/1030[正常]
【PARTY-2(Sub)】
[マコト][Lv66]HP3450/3450 MP150/150[正常]
[クリス][Lv13]HP200/200 MP20/20[正常]
================
【一言】
「集団戦とは何だったのか」

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