ご主人さまとエルフさん   作:とりまる。

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君と作る未来の為になのです
春の訪れ


 

 春が来て、全ての雪が溶けて川の水が勢いを増し始めた頃の事。

 

 急ピッチで建設されていたムーンフォレスト城がついに完成しました。何やらいろんな魔法や道具をフル活用して超特急で作り上げたようです。外観は湖の畔に作られた西洋風の白煉瓦作りの城。

 

 サイズ的には屋敷に毛が生えた程度ですが、それなりに華美な見た目となっています。

 

 完成と同時に結界の中心は城へと移され、里のあった場所から城までの間を領地として家が作られて行き、今ではちょっとした城下街が出来上がっています。

 

 リアラさんはそのまま宰相として国のまとめ役となり、葛西さんは国防の要である大将軍の地位へと祭り上げられました。

 

 ユリアとルルはといえば、侍女としての仕事の傍らで糸目へのリベンジのために特訓に励んでいます。フェレはささくれだって居た避難民や流民達の心を癒やすため、何度もコンサートを行ったせいか歌姫としてアイドル化。

 

 ご主人さまは態勢を万全にするために森の中を駆け巡り、とあるものを集めていました。

 

 アラキスさん達の解放軍も順調に人が集まり、それなりに形にはなってきたようです。あちらとしても想定される開戦に向けて着々と準備を進めているのでしょう。

 

 そんな感じでボク達は毎日、来る戦いに向けて準備を進めながらも楽しい日々を過ごしていました。クラリスさんから緊急連絡が来たのは、毎日少しずつ進めていたこちらの準備がひと通り終わった時でした。

 

 

「フォーリッツが動き出したそうだ」

 

 場所は会議室、手紙を机の上に置いたご主人さまを上座に、リアラさん、葛西さんと偉い順に席についています。

 

 いつの間にか侍女長と護衛隊長なんて役職がついたユリアとルルも同席中。ボクとフェレは端っこの方で静かに座って話を聞くポジションです。

 

「随分とかかったのう」

「雪解け前に攻め入る度胸は無かったんだろ」

 

 呆れたようなリアラさんに言葉を返したのは、ご主人さまと葛西さんがノリノリで作り上げた特殊強襲部隊『FOX』の隊長、二足歩行する狸のおじさんのゴランさん。

 

 色々突っ込みドコロはあるのですがスルーします。

 

「それで、相手はどんな手を?」

 

 小さく手を上げてしたボクの質問に、ご主人さまは静かに頷いて答えます。

 

「冒険者達に大々的な依頼を出したようだ、内容は大罪人シュウヤ・キサラギの討伐。罪状は国家反逆罪とか奴隷窃盗罪とか諸々……何でも俺は力尽くで連れ去った亜人達に暴虐の限りを尽くしているそうだ」

「確かに、あのヤキトリは暴虐の限りだったな、毎日仕事帰りにあんな美味そうな匂いの食べ物作られちゃぁ我慢ができねぇ」

 

 お陰でこのザマよとお腹を叩いてポンッと良い音をさせたゴランさんの姿に笑いが漏れます。王国側はまずは冒険者を使って牽制と戦力調査を行おうとしているみたいです。

 

「実戦部隊の方は?」

「想定の8割ってところだ、一応すぐにでも戦えるが完璧とは言えない」

 

 前線部隊の隊長である狼人の男性が渋い声で答えました。準備はいい感じに進んでいるようですが、本格的に攻めてこない事はラッキーだったかもしれませんね。

 

「私達はどうしましょうか、里の防衛への助勢をすべきかと考えているのですが」

 

 話を聞いていたアラキスさんが小さく手を上げました。ご主人さまは少し顎に手を当てて考えこむような仕草をしました。

 

「とりあえずは防御を固めて待機していて下さい、この段階では森を訪れる冒険者と私との諍いになるでしょう。ドサクサに紛れて暗殺者が入り込まないとも限りませんので」

 

 今後のことを考えて王軍として協力した実績を作りたいアラキスさんと、余計な動きをされたくないご主人さまとの牽制しあいです。

 

 王都にも居るアラキス派の貴族が現王の悪い噂を流す形で頑張ってくれているみたいなので、それがいい具合に足止めになっているとは思うのですけどね。武力の実績は人を引きつけるのです。

 

「解りました、ご武運をお祈りします」

 

 とはいえその反応が予想通りだったのでしょう。答えに満足したのかアラキスさんが質問を切り上げる事で報告会は終了。冒険者を迎え撃つため、各々が指示された内容を守るために行動することになりました。

 

 

 とまぁ形だけ参加したものの、正直ボクには戦闘能力がありません。

 

 冬の間に引いた2回のスキルガチャですら戦闘能力とは一切関係ないものがでましたし。

 

 というかひとつは今までで一番酷いスキルでした。皆より1回だけ多く引かせてもらったのにこの体たらくは泣きたくなります。そういう訳もあり、いつもと変わらないように与えられた職務を全うするしかないのです。

 

「――従って、クリスちゃんは20個のリンゴを買うことが出来ます」

 

 そんなボクの現在の職場は青空教室。黒板にチョークで計算式を書きながら、子どもたちに算数を教えるのが日課です。

 

「クリスおねえちゃんひとりじゃ食べきれないよね」

「あたしたちが食べてあげるー!」

 

 しかしながら算数という概念すら無い子どもたちに計算を教えるのは中々大変です。というかぶっちゃけボクが舐められてるのでしょうか、そのせいでまともに授業が進んでない気がするのです。

 

「てめぇら真面目にやらないとユリアおねーさんの給食は抜きですよ!?」

 

 チョークを置いて声を荒げると、子どもたちが一斉に立ち上がってブーイングをはじめます。

 

「えー! ソラのおうぼうー! ぺったんこ―!」

「「ぶーぶー」」

「誰がぺったんこですか!?」

 

 別に気にしてませんけどね、なんかムカっとくるのですよその発言は。

 

 ボクをぺったんことか言う悪い子犬は、どこぞのマダムにフランソワちゃんと名付けられる犬のごとく巻き巻きにしてやるのです……。

 

「きゃー! そらが怒ったー!」

「わー!」

「待ちなさい! その尻尾の毛をくるくるにしてやるのです!!」

 

 その巻かれた毛の数を一本ずつ数えることで算数という概念を恐怖とともに心に刻み込んでやるのですよ!

 

「おー、今日も元気だねぇ」

「あ、クリスおねえちゃん!」

 

 逃げまわる子犬や子猫たちを追い掛け回していると、"大きなお腹を抱えた"金色猫さん、クリスがやってきた所でした。

 

 何を隠そう彼女、冬の間に行ったロックンロールがベイベーして見事にヒットしたのです。

 

 戦争準備が始まったので言うほど激しいベイビーラッシュは訪れなかったのですが、中にはしっかり出来てしまった人もそれなりにいて、彼女もそのひとりでした。

 

 妊娠が発覚した時のリアラさんの反応はちょっと思い出したくありません。いえ、最初は孫のように思っている子に赤ちゃんが出来たととても上機嫌だったのですが、酒が深くなるに連れて孫のような子にまで先を越された事に気付いてしまったみたいで……。

 

 葛西さんですが、最初はちょっと青ざめてましたが覚悟決めてからは凄く奥さん思いの旦那さんとなってましたね。まぁ男の話はどうでもいいのです。

 

「ソラちゃん、手伝いにきたよ」

「ありがとうございます、こいつら言うこと聞かなすぎです……」

 

 汗を拭って椅子に座ると、くすくす笑うクリスが子供たちに手を引かれて隣に座ります。今は安定期に入ったので、青空教室を手伝ってくれているのです。

 

「皆に毎日ちゃんと授業を受けさせてるだけ、結構すごいと思うけどなぁ」

「これで勉強もちゃんとしてくれれば有難いのですが……」

 

 基本ボクをからかうだけで授業ができてる気が全然しないのですよ。クリスの回りには子供たちが集まり、恐る恐るお腹をなでたりしてます。

 

「クリスおねえちゃん、赤ちゃん元気?」

「うん、元気だよ」

 

 こうしてみると微笑ましい光景なんですけどね。ふと袖を引かれたのでそちらを見ると、さっきまでボクから逃げまわっていた犬娘がじっとボクのお腹を見つめていました。

 

「ソラとシュウヤ兄の赤ちゃんはいつ生まれるの?」

「生まれませんよ!?」

 

 なんて恐ろしいことを言うんですかこの子は!

 

 

 赤ちゃんまだーとせっついてくる彼等から逃れることにした後、クリスと子供たちを別の教師役の獣人に任せてから旧集落と城の中間にある街の広場へ向かいました。

 

 そこでは重厚な黒い皮鎧に身を包み、背中に剣を背負い、腰のホルスターに2丁の拳銃を装備した獣人の集団が整列しています。

 

 ご主人さまの作った銃と剣を使って戦う銃士隊だったはずです。獣人は体格が良い人が多いので並ぶと結構すごい迫力ですね。

 

 因みに銃は衝撃波の魔法弾を打ち出す魔法銃です、結構反動が大きくてボクじゃ扱えなかったのですよね。一発撃つ度に腕が跳ね上がってしまって狙いをつけるどころじゃありませんでした。

 

 隊長らしき狼人が僕に気づくと、すっと手を垂直に開き額に当てる敬礼を行ってきました。狼といい集団行動をするタイプの獣人は根が真面目な人が多いらしく、見事にはまってしまったようです。

 

「王妃様に敬礼!」

「誰が王妃ですかこのけむくじゃら!」

 

 そういえば気付いたらなんか一部の人達がボクを王妃扱いするのです。全く関知してないうちに外堀が埋まっている気がして怖いんですが。

 

「相変わらずですな王妃様は、侵入者が来たそうなので我々はこれから対応に向かいます。シュウヤ様は城にいるので、早めにお戻りください」

「解りました、気をつけるのですよ」

 

 暴言をあっさりと受け流し、口元だけで笑った隊長さんは要件を告げると、全員引き連れて森の方へといってしまいました。ボクはため息混じりに返答し、森へと向かう彼等の背中を見送ってから城へと戻ります。

 

 はてさて、どうなることやら。

 

 




◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
――時間経過による経験値を加算
◆【ソラ Lv.95】+100
◆【ルル Lv.37】+60
◆【ユリア Lv.39】+70
◇―
================
ソラLv.95[957]→Lv.105[1057] <<LevelUp!!
ルルLv.37[371]→Lv.43[431] <<LevelUp!!
ユリアLv.39[391]→Lv.46[461] <<LevelUp!!
【RECORD】
[MAX COMBO]>>40
[MAX BATTLE]>>40
【PARTY-1(Main)】
[シュウヤ][Lv125]HP3700/3700 MP4560/4560[正常]
[ソラ][Lv105]HP70/70 MP1685/1685[正常]
[ルル][Lv43]HP950/950 MP42/42[正常]
[ユリア][Lv46]HP2540/2540 MP91/91[正常]
[フェレ][Lv40]HP445/445 MP1450/1450[正常]
【PARTY-2(Sub)】
[マコト][Lv85]HP5500/5500 MP170/170[正常]
[クリス][Lv15]HP210/210 MP20/20[妊娠]
【Party-3(Sub)】
[リアラ][Lv130]HP850/850 MP3200/3200
================
「なんでみんなボクを王妃と呼ぶのですか!!」
「今更すぎますよせんぱい」
「お嬢様のことは里のみんなの共通認識ですから……」

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