ご主人さまとエルフさん   作:とりまる。

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穏やかな日常を

 あれから調子を取り戻したご主人さま。

 

 おかげでうちの牛猫の不満も解消されました。国の方も政治的なゴタゴタはまだあるようですが、表面上はだいぶ落ち着いてきています。

 

 周辺各国も隕石事件を知ってか知らずか、それなりに友好的な態度を示してきているため、当面は争いが起きる気配もありません。

 

 正しく平和そのもの、だいぶ発展してきた街の中を見て回ると、いつの間にか獣人をはじめとした色々な種族が増えています。彼等も日常を送る中で少しずつ国が平穏であることを実感してきたのか、明るい笑顔を浮かべているようです。

 

 今は近々行われる予定の建国記念祭に向けて、その準備に国中で盛り上がっている所でした。

 

 城の中も心なしか賑やかで、見ているだけでも明るい気持ちになれそうな感じです。

 

「クリスー、入りますよー」

「どうぞー」

 

 城の一角に与えられたクリスと葛西さんのお部屋、扉をノックして返事を待ってから中に入ると、クリスがベッドの上でお包みの中で眠る猫耳の赤ん坊を大切そうにあやしていました。

 

 先日無事に産まれたクリスと親馬鹿になることが確定した葛西さんの娘さんです。

 

 ちょっと難産でしたが、母体と子供に影響はなく元気に産まれて来てくれました。その時の葛西さんの狼狽っぷりと喜びようは今では侍女たちの間でちょっとした語り種です。

 

「ソラちゃんごめんね、仕事出来なくて」

「いいのです、母親は子供の面倒を見るのが仕事です」

 

 乳母なんてものはないので子供のためにも育児休暇は必要です、クリスには未来の為にも子供に時間を割いて上げて欲しいのです。幸い青空教室の方も子供たちが素直に話を聞いてくれるようになってきたので、一人でも何とか回せてます。

 

「今日はリアラさんから果物の差し入れです」

「わ、ピルチだ、ありがとう」

 

 籠いっぱいの桃に似た果物を棚の上に置くと、クリスが目を輝かせました。小さい頃からの好物だそうで、リアラさんから採れたてのものを預かってきたのです。ボク達の分は既に分けられているのでこれは全部葛西さん一家のものです。

 

「お祭りの準備はどう?」

「ドワーフさんたちが魔法花火の発射順で揉めてます」

 

 強い希望により部族や氏族毎に催し物をする事になっているのですが、一部では順番争いとかで仲良く喧嘩してる感じです。顕著なのは職人気質のドワーフとかですかね、祭りに必要とご主人さまがけしかけた事でどっちが優れた花火を作れるかで競い合っています。

 

 ああいう職人芸が光るアイテムはドワーフ達の琴線をとても擽るようです。

 

「あはは、楽しみだね」

「全くです」

 

 誰もが国の行く末に希望を見出して祭りを楽しみにしているので、本当に成功してほしいと思いますね。

 

 

 時間は流れて祭りの当日。城の周囲は屋台で溢れて、広場では音楽に合わせて人々が笑顔で踊っています。この賑やかな空気はとても良いものです。

 

「ドッガ鳥の串焼きあるよ! 焼きたてだよ!」

「冷たいエールはいかがですかー!」

 

 護衛役であるルルに付き添われて屋台通りを歩いていると聞こえてくるのは威勢のよい客引きの声。こういう空気は嫌いじゃありません、ただ一つだけ不満があるとすれば……。

 

「あぁ、王妃様! リンゴの串焼きいるかい?」

「わーいってボクは王妃じゃありません!」

 

 何故かこんな風に声をかけられるところでしょうか。なんかボクが王妃という認識が手遅れなレベルで広がってる気がするのですが、気のせいですかね。

 

「そうだったねぇ、結婚式楽しみにしてるよ!」

「永遠に来ない日を楽しみにしても仕方ないと思います……」

 

 縁起でもないことを言わないで下さい。はぁ……。

 

「センパイ、なんか元気ないですね」

「うーん……最近ちょっと体調が悪いのです」

 

 ため息をついて肩を落としながらも、ルルからりんごの串焼きを受け取ってかじりつきます。火が通ったことで凝縮された甘みが舌に鮮烈です。

 

「戻ります?」

「ちょっと悪いくらいなので大丈夫ですよ、適当に回ったら戻って休みます。花火はテラスからでも見えますし」

 

 折角なのでこの活気をもっと傍で感じたいのです。それにボクが戻ったらルルも戻らないといけないので、流石にそれは気が引けますしね。

 

「無理しちゃダメですよ?」

「わかってますよー」

 

 返事を返して屋台通りを抜けて広場へ行くと、片隅の方でご主人様が部族長達と催し物の打ち合わせをしているみたいでした。ボクを見つけるなり抱きしめてキスしようとしてきたご主人さまを華麗に回避して、狼人族や虎人族、猫人族やドワーフ族など立ち並ぶバラエティ豊かな面々に挨拶をします。

 

「花火、ここで見ていくか?」

「んー、ちょっと体調がすぐれないので、テラスに戻ってから見ようと思います」

 

 挨拶が途切れた所でご主人様が声をかけてきましたが、実は既にちょっとふらふらしてます。ここまで体力ないのは我ながら情けないですね。

 

「そうか、気を付けろよ」

「勿論ですよー、ご主人さまも頑張ってくださいね」

 

 どうやら一枚かんでいるみたいですし、ついでに激励もしておきましょう。名残惜しげに肩を抱き寄せてくるご主人様を振り払って歩き出しました。

 

 ルルと一緒に変える道すがら、それぞれの部族の伝統料理や工芸品を冷やかします。

 

 その中の一つが、このへんでは珍しい揚げ物料理を出しているようです。珍しさからか人が集まっていますね。

 

 ボクとルルも興味を引かれて近づいたのですが、動物性の油を使っているせいか結構匂いがきつくてふらふらします。

 

「お肉の良い匂いがしますよセンパイ」

「…………」

 

 おかしいですね、ちょっと前ならボクも美味しそうと感じていたんですが。近くで匂いを嗅いでるだけで気持ち悪くなってきました。

 

「センパイもひとつ……センパイ?」

 

 ぼんやりしている間にルルが葉っぱに包まれたお肉の揚げ物を貰ってきたらしく差し出してきました。反射的に口元を抑えてしまいます。

 

「大丈夫ですか? 気分悪いならもう戻りましょう、背負いますよ」

 

 吐き気がこみ上げてきました、流石に食べ物屋の近くでこれはまずいです。気合で抑え込んで何とか阻止したのですが、その代わりに意識が遠のいていきます。

 

「センパイ? しっかりしてください、センパイ!」

 

 ほんとにどうしてしまったんでしょうか、ルルに嘘でも大丈夫だと伝えたいのに、口が動きません。結局ボクは意識を覆っていく暗闇に、抵抗すら出来ませんでした。

 

 

 それからどのくらい経ったのか、柔らかいものに寝転んでいる感覚を感じながら、少しずつ意識が戻ってきました。

 

「おぉ、起きたか」

 

 目を覚ました時、視界の中に広がっていたのは魔力ランプに照らされた医務室の天井でした。どうしてここに、と考えている間にボクの手を持ち脈を取っていたらしいリアラさんがほっとしたような顔で笑いました。

 

「ルルがお主を運び込んできた時はびっくりしたぞ、覚えておるか?」

「……はい、ご心配をおかけしたのです」

 

 記憶をたどってみると、変に途切れている部分はなくて一安心です。それにしてもどうしたんでしょうか、貧血ですかねぇ、ちゃんと毎朝ごはんは食べてるんですが。

 

「センパイ起きました!?」

「そらー、だいじょぶー?」

 

 原因を聞こうとした沖、慌ただしく扉を開けて飛び込んできたのはルルとフェレ。本気で心配してくれていたようです。

 

「ふたりとも騒がしくしない、病人がいるんですよ」

 

 ため息混じりのユリアの声も聞こえます。……お祭りには行かなくていいんでしょうか。

 

「みんな、お祭りは?」

「私のステージはもう終わったもん、ソラのが心配!」

「午前中でひと通り楽しんじゃいましたから」

 

 ボクの方を優先してくれたようで、何だか申し訳ないことをしたのです。

 

「ありがとうございます……」

「気にしないの、それより大丈夫?」

「リアラ様、どうなんですか? まさか悪い病気とかじゃ……」

 

 フェレが心配そうに顔を覗きこんでくる傍らで、ルルはリアラさんに詰め寄っていました。その頭を軽く小突いた後、リアラさんがボクを見て意味ありげな笑みを浮かべました。……何でしょうかね。

 

「大丈夫じゃ、病気ではない」

「やっぱり、ただの貧血ですか?」

 

 病気じゃないとしたらそのくらいしか思いつきません。

 

「そうじゃな、恐らく貧血じゃ」

「貧血?」

「血が足りないって事よ、でも毎日ちゃんと食事は取ってますよね、栄養もちゃんと考えてるのに」

 

 ユリアが不服そうな顔をしていますが、リアラさんは堪えるように含んだ笑い声をあげています。

 

「まぁ、栄養が少し足りておらんかったのじゃろうな」

 

 その物言いに、ユリアは表情を険しくします。食事に関しては本当に頑張ってくれているので悪く言うのはボクとしてもちょっと許容出来ないのですが。

 

「栄養についてもご主人さまに習って、ちゃんと献立を考えているつもりですが?」

「解っておるが、いくら何でも急激な変化には何も知らずに対応できんじゃろう?」

 

 何を言ってるのですかね。ユリアが不審そうな顔で首を傾げます。ボクの方はといえば何やら背中から冷たい汗が噴き出してきました。なんかこの先の話を聞きたくないんですけど、あの、調子悪いんで眠っていいですかね。

 

「どういうことですか?」

「その必要な栄養も、"そこにいる"もう一人の分まで考えていたわけではないじゃろう?」

 

 リアラさんはいたずらっぽく笑いながら、ボクを指さしていいました。咄嗟に背後を振り向くものの、そこには壁があるだけです。全くホラーとかやめてください、反応しちゃったじゃないですか。夜に眠れなくなったらどうしてくれるんですか。

 

「何言ってるのですか、誰もいないのですよ?」

 

 そういって居るのに、相変わらずリアラさんはボクを指さしたままで、ユリアもルルもフェレすらも、指し示す先を追いかけてボクを見つめています。まさか肩とかですか? 本当にやめてくださいよおっかない!

 

「み、みんなしてどうしたんですか、怖い事言わないで下さい!」

「ま、まさか……」

 

 ユリアがボクの、何故かお腹をじっと見つめて恐る恐る手を伸ばしながら震えた声を出しました。やめてください、聞きたくありません!!

 

「ごほん……んっんっ……王妃陛下、御懐妊おめでとうございます! で良いのかの?」

「おめでとうございますお嬢様!」

「嘘、ほんとに!? センパイ、おめでとう!」

「ほんと? 赤ちゃんいるの!?」

 

 …………………。

 

「すぐにでも旦那様にお知らせしないと、間違いないんですよね?」

「診断は正確じゃよ」

「きっとシュウヤさまも大喜びですね、マコトさんより親馬鹿になるかも」

「私も赤ちゃんの面倒みるからね! 安心してまかせて!」

 

 ………………………………………………。

 

「とにかく旦那様を呼んできます! お嬢様、安静にしててくださいね!」

「せんぱい良かったですねぇ! 私も子守手伝いますから!」

「ねー、子守唄はどんなのがいい?」

「嬉しいのは解るがちと落ち着け、病気でなくとも貧血で倒れたのは事実なんじゃからな」

 

 ………………………………………………………………………………………………。

 




◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
NO BATTLE
◆【ソラ Lv.105】
◆【ルル Lv.43】
◆【ユリア Lv.46】
◇―
================
ソラLv.105[1057]
ルルLv.43[431]
ユリアLv.46[461]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>40
[MAX BATTLE]>>40
【PARTY-1(Main)】
[シュウヤ][Lv135]HP4200/4200 MP5020/5020[正常]
[ソラ][Lv105]HP70/70 MP1685/1685[懐妊]
[ルル][Lv43]HP950/950 MP22/42[正常]
[ユリア][Lv46]HP2540/2540 MP51/91[正常]
[フェレ][Lv40]HP445/445 MP1250/1450[正常]
================
「…………………………」
「せんぱーい、せんぱーい?」
「そらー、動かないとちゅーしちゃうよー?」
「ダメですね、お嬢様完全に停止してます」

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