ご主人さまとエルフさん   作:とりまる。

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書籍化記念の番外編になります
時系列は隠れ里にきてから国が興るまでの間のふわっとした感じです。


明日は明日の風が吹くのです
xxx.1 結局いつもどおり


「はぁ」

 

 隠れ里の近くにある小さな泉、魚なんかが釣れるというそこへ釣り糸を垂らし、ご主人さまがわかりやすいため息を吐きました。

 

 それを敢えて無視しながら適当な枝で水面をつつきます。波紋の先で小魚が驚いて逃げていくのが見えました。そんなことしたら逃げるだろうって? だからやってるのですが何か問題でも。

 

「ふぅ」

 

 底の方は少し濁っているので見えないのですが、大きな魚影が悠々と泳いでいきます。いいですねぇ自由で。

 

「はぁぁ……」

「せんぱい、いい加減聞いてあげてくださいよ」

 

 めんどくさくなったのか、背後で見守っていたルルがボクの背中をつつきますがノーサンキュー、ノー! サンキュー! なのです。

 

 絶対ろくでもない悩みです、そうに決まってます。ボクの勘は当たるのです。

 

「以心伝心はいいですけど、言葉にしたほうがいいことだってあるんですよー?」

「面白い冗談ですねルル、自分で聞くといいのですよ、ポイント稼ぐチャンスなのです」

 

 ご主人さまポイントを稼いでおけば良いことがあります。なにせチート野郎なので味方にしとくと得しかないのです。ボクは今日は媚びる気分じゃないので遠慮しておきます。

 

 さすごしゅは期間限定の商品なのです。気軽には売れませんよ。

 

「……えぇ」

「今あからさまにめんどくさって顔しましたよね」

「そんなことありませんよ! せんぱいってば酷いこと言わないでくださいよぅ!」

 

 急にぶりっこして酷いですーやんやんとくねくねするルルを半眼で見ます。しかし流石は猫、この程度じゃ微動だにもしません。

 

「――最近さ」

「すいませんいまちょっと忙しいので」

 

 横でそんなことをしていたら、衝撃でスイッチでも入ってしまったのかご主人さまが口を開きます。

 

「スランプ気味なんだよな」

 

 だから忙しいって言ってるのです勝手に話を進めないで下さい、ハイと言うまで問答をやめないどこかの王様ですか。

 

 というかスランプて、新しい魔道具のアイデアでも尽きましたか?

 

「ソラとはここの所ワンパターンだろ、もう少し別のいちゃつき方を試したいんだが」

 

 あ、なるほどそういう感じの奴ですか。なるほどなるほど。

 

「おーけーわかりました!」

 

 リクエストに応えるべく、元気よく返事をしたボクはそのままご主人さまの背中に飛び蹴りをぶちかますのでした。

 

 成仏しやがるのです……!

 

 

「それで結局ワンパターンだったんですね」

「せんぱいも懲りないですよね」

「枕元でうるせぇのですてめぇら……!」

 

 ルルもユリアもボクが動けないのをいいことに人の部屋を女子会に使いやがって。ちなみに飛び蹴りはあっさり防がれましたが、まんねりという理由で程々で解放されました。

 

 いろんな部分を噛み千切らなかった自分を褒めてやりたい気分ですね。そんな気力もなかったですけど。

 

 ちなみに下手人はボクを軽く介抱してから部屋に運んで、さっさと自室に戻っていきました。あいつほんとなんなのですかね……。

 

「それで旦那様はどちらに?」

「んー、なんか考えながら部屋にいっちゃいました。おかげで私だけ食いっぱぐれ」

 

 なんか文句言ってますけど、ボクを放置してさっさと引っ込んだのはルルの方ですからね?

 

 他人事を装うルルを睨んでいると、突然扉が開いてご主人さまがやってきました。

 

「揃ってるな? ちょっと出掛けようと思うんだが」

「なんですか? 誰かさんのせいで動けないんですけど」

 

 というか誰かさんのせいでボクが動けないと里の女衆に生温かい目で見られるんですけど。

 

「……ソラが回復してからだが、花見に行こうと思う」

「はなみ?」

 

 ルルとユリアはピンと来ていませんが、ボクはちょっと感心しました。ご主人さまにしては気の利いた発想です。

 

「いい花見スポットでもあるのです?」

「リアラさんに聞いたが、この時期に綺麗な花を咲かせる樹があるらしい」

 

 話によると白い花びらが舞い散って綺麗な光景が見られるそうです。その木々は森の中の高台にあって、どうも花自体に魔物が嫌う匂いでもあるのか比較的安全なのだそうな。

 

 子供たちもよく遊びにいくそうなので、問題はなさそうです。

 

「そういうわけだから……2~3日したら行こう」

「つまりピクニックですよね、準備しなきゃ!」

「お弁当とかも用意しましょう」

 

 明日と言いかけて、ベッドの上で睨むボクに気づいたご主人さまが日付を変更しました。少しは気を使うのです。

 

 冬のあいだ暇だったのか、お出掛けには大喜びのふたりはきゃいきゃい騒ぎながら自分の部屋へと戻っていきます。

 

 完全にボクの部屋がたまり場になってますよねこれ……。

 

「悪かったな」

 

 戻るふたりを見送ったあと、ご主人さまが隣に腰掛けてうつ伏せで眠るボクの背中を撫でてきます。中途半端に気を使うなら最初からやらないでほしいのです。

 

「……やりすぎなのです」

 

 というか素直に謝られるとちょっと気まずくなるのでやめてほしいのですが。ボクだって思いっきり蹴り落とそうとしたわけですし。

 

「あんなのじゃ何ともならないんだが、ついいじめたく」

「ちょっとでも気後れしたボクがバカだったのです……」

 

 よくわかりました、反省とか必要ないですね。今後も反骨心を忘れないでいきたいと思います。

 

「安心しとけ、ソラのイタズラぐらい屁でもない」

「その言葉いつか絶対後悔させてやるのです!」

 

 しゃーと威嚇しながら引っ掻こうとしますが、あっさり避けられました。逃げるなんて卑怯なのです、こっちは動けないっていうのに!

 

「こっちに来るのです!」

「お誘いか?」

「そうですよ! 地獄へのですけどね!」

 

 どうせ他の場所じゃ効かないでしょうし、そのマジカル棒を引っ掻いてやるから射程範囲に入ってくるのですよ!

 

「それは近づきたくないな」

「屁でもないんじゃないのですか、びびってんじゃねーのです!」

 

 枕を投げて……ぐえっ!? 普通に受け止めて投げ返すとか卑怯じゃないですか!

 

 身体能力の差を考えるのです、こっちはか弱いのですよ!

 

「…………」

 

 何とかご主人さまに攻撃しようとしていると、なぜか部屋の入口で扉を開けたルルが立ち止まっていました。何故かイラッとしたようすで片眉を釣り上げて、しっぽの毛を少し逆立てています。

 

 ……どうしたんでしょうね。

 

 暫く動かなかったルルがゆらりと身体を動かし、突然大きな声をあげました。

 

「結局ふたりでいつもどおりイチャついてんじゃないですか!」

「イチャついてないのです!」

 

 根も葉もない風評被害はやめてほしいのです!!


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