ご主人さまとエルフさん   作:とりまる。

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xxx.2 寒空に舞う

 宣言通り数日後、ボクたちはお花見に向かうことになりました。

 

 目的地は里から少し離れた小高い崖の上、木々が開けた場所にある泉なんかを見下ろせるなかなか良い立地の高台です。

 

 天気も良くてお花見には絶好の日和ですね。

 

 青空に白く小さな花びらが舞っているのが見えます。まるで桜にも見えて、ほんのちょっぴり感傷的な思いが沸きあがってきます。

 

 ……隣でじっとボクを睨んでいる猫がいなければ、浸りたいところだったんですけどね。

 

「ルルはなんで不機嫌なのですか」

 

 ボクが動けないので数日はご主人さまひとりじめだって喜んでたはずなのに、なぜか圧を感じます。

 

「途中で気付いたら、なんかおこぼれもらってる気分になっちゃったんですよ……!」

「ひっはるほはひゃめるのへふ!」

 

 知りませんよそんなの! なんでボクの頬を引っ張るのですか、ご主人さまに文句言ってください!

 

「はぁーせんぱいはいいですよねー……そんなでも可愛がってもらえてー」

「あれで結構気を使ってると思うのですけどね……」

「そこです! そこですよ! 気を使われてる所です!」

 

 なんかめんどくさいことを言い出したルルから目をそらしてご主人さまを見ると、結界らしきもの張って安全を確保しているようでした。

 

 ……こういう時に気付かないふり出来るのずるいですよね。同じ男子枠なのになんですかこの違いは。

 

「ユリアもわかるでしょ!?」

「え、あ、うん」

 

 ボクでは埒があかないと思ったのか、今度はユリアに絡み始めました。お弁当を広げ終えていたユリアは一瞬面食らいましたが、共感できる部分もあるのかうんうんと頷いてます。

 

 めんどくさい予感がしたのでそそくさとご主人さまの元へ向かうと、頭の上にぽんと手を置かれました。

 

 ……寝癖をいじらないでほしいのです。何度直してもすぐ一部がぴょんと跳ねるんですよね。

 

「なんか懐かしいですね」

「…………あぁ」

 

 しんみりされるとそれはそれで反応に困るのです。ボクだって懐かしいですけどね、ふくらはぎをぱすっと蹴りつけます。

 

「見れば見るほど桜だよな」

「花は全然違いますけどね……」

 

 満開になっている花はとても花弁が多い種類で、パッと見は桜に見えません。でも花びらの形が似ているので舞い散る姿は桜吹雪。

 

 これはこれで、良い思い出になりそうです。

 

「…………だよな」

「です……!?」

 

 言葉を交わしてふっと前を見ると、ルルが静かにこっちを見ているのに気付きました。

 

 嫌な予感がして慌ててご主人さまの背中に隠れると凄い勢いでこっちにきたルルがボクに抱きついてきます。

 

「せんぱいはどうしていっつもいっつもぉぉぉ!」

「いたたたた!? なんなのですか! ご主人さまちょっとヘルプです!」

「――あー、ふたりともその辺で」

 

 助けを求めると、面倒そうにしながら仲裁しようとするご主人さま。

 

「シュウヤさま! 今はせんぱいと話をしてるんですぅぅ!」

 

 でしたが、ルルの剣幕にあっという間に手を引いて結界を張る作業に戻ってしまいました。

 

 どうしてそういうとこでヘタれるんですか……!

 

 

「自然な感じになるコツを教えて下さいよせんぱい」

 

 結局ボクを捕まえたルルがしたのは、何とも反応しにくいお願いでした。

 

 自然な感じと言われても困るのですが。

 

「どういう意味ですか」

「なんかせんぱい、凄い自然な感じでシュウヤさまの隣に行くじゃないですか。夜の時だって当たり前みたいな顔して真っ先に腕枕されてるし」

 

 全く記憶にないことを言われましたね。人に聞かれてたら完全に風評被害ですよまったく。

 

「記憶にねぇのですが……自然な感じと言われても、普通にしてればいいんじゃないです?」

「そこがわかんないんですよ!」

 

 ちらりと近くにいるご主人さまをみると、ユリアにお酌をされてぼんやり花吹雪を見上げていました。あれはあれで自然な距離感だと思うんですけど、あっちを真似すればいいのでは?

 

「ユリアじゃダメなのです?」

「あれってメイドと主人の距離感じゃないですかぁー! そうじゃなくてですねー」

 

 ルルが言うにはもっと気心の知れたカップルチックな距離感を目指したい……だそうです。ますますボクに言われてもな案件なのですが。

 

「もっとせんぱいみたいな、天然ビッチっぽい距離の詰め方をですね! シュウヤさまには実践していきたいんですよ、今後のためにも!」

「おいこらどういう意味ですか」

 

 ものすごい自然に罵倒されましたけど、ボクってそういうふうに見られてるんですか?

 

「せんぱいって自然に"そういう雰囲気"に持っていくの凄い上手じゃないですか」

「わかりました、決闘ですね?」

 

 ボクとしたことがまったく気付きませんでした。ルルってば欲求不満をこじらせてボクに喧嘩を売ってきていたのですね、なるほど良い度胸です。

 

 あれのどこが自然ですか、結局無理矢理持ち帰られてるだけじゃないですか、違和感バリバリなのですよ。

 

「そういうわけなんで! もう下手なプライドは捨てて先人に学ぶことにしたんですよ。というわけでビッチの秘訣を教えてください!」

「おーけー、最初はグーなのですッ……!!」

 

 いい加減イジられるだけの小動物だと思われるのも癪でしたからね、いい機会なのです。

 

 上下関係ってやつを叩き込んでやるのですよエロ猫……ッ!!

 


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