「貴方が私の提督なの? はっきり言って全く期待はしていないわ」
初対面はお互いに最悪の印象だった。彼女の痛烈な罵倒から始まった俺たちの関係は、分かり合えることも無く、ねじ曲がったまま、間違い続けていく。
思い返すと、俺の人生は失意の連続であり、これまでも、そしてこれからも、強い自虐心と重圧に耐えていくしかないのであろう。
「前の提督さんみたくさ、100点、いやそれ以上の作戦を考えろとは言わないよ? でも覚えることは覚えようよ」
俺には才能が無い。努力してその差を抜くだなんて無理だ、やってみたらわかる。それができると思うのは傲慢だ。敵も味方も、部下も上司も、俺より優秀なやつしかいない。そもそも戦時に軍部に関わる仕事において、無能な奴なんぞ許される筈も無い。
だとしたら何故、俺はここにいるのだろうか?
「貴方の粗雑な指揮を受けて作戦行動するくらいなら、私は……自沈を選びます。ちっぽけな満足感を得る為に、駆逐艦の子達の安全を脅かさないで!」
必死で考えた作戦も、血反吐を飲み込みながらまとめた資料も、目を真っ赤にして覚えた海域も、信頼が無ければちり紙と化す。何の教育も、訓練も行ってない男に、果たして百戦錬磨の鉄鋼女史達が黙ってついてきてくれようか?
「睡眠をとらずに勉強。まっこと素晴らしい向上精神です。ですが、貴方は一応この鎮守府の長。その方が生活リズムすら守れないなんて許されましょうか。貴方の身を案じてるのではありません。寝不足による判断ミス、そのケアさえ出来ない単細胞っぷりに驚いているのですよ」
1日とは不平等に与えられる、勝者が決めた敗者の足枷である。不幸な者は24時間の長さに苦しみ、あるいは理不尽に自由時間を削られ、眠ることすら許されない。明日が来るのが怖いから寝るのが怖い。吐くために食べ、死ぬために生きる我々は、常に八方塞がりの人生を歩むしかない。
「建造すら出来ない提督が着任するなんて……」
「大本営とは折が悪かったからでしょうか? だとしても、酷すぎます……」
陰口、悪口。もはや傷付くことすらない。涙が枯れるとはこういうことなんだろう。正当な評価であるが故に、自分を肯定することも出来ない苦しみ。
いくら努力をしてみても、周りの鎮守府の提督に頭を下げて教えを乞うても、艦娘達の信頼を得ることは出来なかった。世界の色が薄く水で延ばされて行く。米を噛んでも何の匂いもしない。あぁ、死にたい。だが死ぬ勇気すら俺には無い。
「食堂には来ないで下さい。これからは私が貴方の部屋に持っていきます。……はい、……はい。申し上げにくいのですが。……士気に関わりますので」
艦娘は皆共通して、人間離れした美しさを持っている。外見だけでなく、性格も良い、そして強い女性達だ。
前任提督の退職、戦果の低下、演習の成績、大本営への反発。それを払拭するのが俺の役目だったが、未だにそれが出来ていない。繰り返すが彼女達は本来優しい子達なのである。あぁ、艦娘という存在に憧れていた日が懐かしい。愛国心の名のもとに目指させられた薔薇の道は、何時しか鉄のトゲとして俺の体に食い込み、血に染まっている。
彼女達はどうやら、俺を視界にすら入れたくないようだ。
地獄、地獄、地獄である。夢の中でも艦娘達の冷たい言葉が俺を切り裂く。
加賀の真っ黒な目。瑞鶴の口撃。鹿島の悲痛な訴え。妙高の適切かつ憎しみに満ちた説教。明石と大淀の疲れきった顔。鳳翔の何も映らない瞳。
全てが俺を苦しめる。彼女達の、全てが。
8年前の事だ。
第二次世界大戦が終わってから、幾許の平和を過ごしていた人類を、深海棲艦と後に呼ばれる事になる怪物達が襲った。
ところで、兵器とは人類が産み出して来た英智の結晶である。天才達が発想し、秀才達が形を作る。人間の進歩には常に戦争、そして兵器が付き纏っているからだ。
その素晴らしくステキな財産の全てが、怪物達には通用しなかった。
人類の制海権は後退し、制空権も劣勢で、もはや核で海を焼き払うしかかないのでは、という段階まで来た。
そこに颯爽と助けに現れたのが、第二次世界大戦の艦艇の魂を美しい少女の身に宿した艦娘達である。
だが彼女達だけでは深海棲艦共の侵攻を食い止めることは出来ても、押し返すことは出来なかった。
彼女達が必要としたのは人間との繋がり。その触媒として、「提督」と呼ばれる優秀な人間が妖精によって選ばれた。
提督達は卓越した指揮能力で人類の制海権を押し上げていく。華々しい戦果の中で、1人際立つ戦果を上げ続けた人物がいた。
それが艦娘たちを最初に部隊として率いた、前任の提督である、宮下幹一元帥だった。
ラジオの雑音混じりの声が、しきりに宮下元帥のこれまでの戦果を叫んでいる。やはりプロパガンダはラジオで聞くに限るな、と少し気取りながらおにぎりを頬張る。鳳翔は俺の事を嫌っているが、それでも料理は一切手を抜かない。ありがたいことである。
自分でいれたお茶を飲んで一息ついた所で、執務室の扉を叩く音が聞こえる。さぁ口撃戦だ。あまりにも短かかった安寧の時間を惜しみつつ、入れ。と声をかける。
「失礼します。加賀です。午前の演習内容と、哨戒任務の確認に参りました」
「そこに置いといてくれ。後で目を通しておく。急務の事態は無いな?」
「えぇ。……ところで、貴方、午後から休みをとると聞いたのだけれど」
「正確には休みでは無いが……。まぁそう思ってくれて良い。午後の執務は妙高に任せてある」
「そう。ようやく体の休み方を覚えたようね」
まずは軽いジャブだ、ここから彼女のラッシュが始まる。加賀の変わることの無い表情を眺め、慈悲のある事を願う。
「ところで、今構築している戦線だけど、近々攻勢作戦が始まるようね」
予想通りのご指摘だ。午前中の空いた時間を使ってそれなりの自論(言い訳とも言う)を考えてきている。今日こそ鉄面皮にヒビを入れる時だ。
「今回の攻勢作戦は、我が鎮守府は徹底して補佐という形で参加する。理由は私の経験値不足だ。下手に突撃して艦娘を失う訳にはいかない。もちろん戦果をあげたい艦娘もいることはわかっているが、資材集めや開発任務も大切な━━━━」
「充分です。自分の力を鑑みて作戦を練るのは良いことです。ですが支援艦隊の運用も主力艦隊のそれとは別の難しさがあります。決して侮らないよう」
「また、必要以上に艦娘に対して媚びへつらうことはやめなさい。本心からではないというのがバレバレよ。まだ士気を高める程の演説は無理なようね」
「それと、食べながら執務をするのはやめなさい。行儀が悪いわ」
ははは(乾いた笑い声)、今日も俺は加賀には勝てなかった様だ。胃が痛い。俺の企みは全て看破されていた上、加賀は最初から攻勢作戦を支援で担当すると考えていたのだ。
フナムシを見るような目で「失礼しました」と吐き捨てられる。扉を閉める音が痛い。辛い。死にたい。
だが今日、ようやくこの地獄から抜け出せるかもしれない。午後から呼び出しの書類、行先は病院である。
休暇先にて、敵空母の空襲により戦傷を負い、3ヶ月間入院していた宮下元帥から、お声がけを頂いたのだ。
ただの病室ではないのであろう、と一目でわかる厳重警備っぷりだ。日常生活においておおよそ見ることはないであろう重装備の警備兵達を見て興奮しつつ、それもそうか、と内心納得する。
国にとって今回の失態は看過できないものであった。英雄として長年この国の、それどころか世界の制海権を守ってきた人物を、暗号漏れという初歩的なミスで失いかけたのだ。3ヶ月に及ぶ大規模な治療の末、どうにか回復したものの。
結果、俺という無能が代役として着任してしまったのだから、お偉いさんたちはさぞ頭痛に悩まされる1ヶ月だったことであろう。俺は胃が痛かったけど。
目上の人との会話なんぞ教養の無い俺に分かるはずもない。せめて失礼の無いようにしよう。
「おお。来てくれたか!」
まるで親戚の子供に話しかけるように、微笑みながら声をかけてくる老人。筋肉の鎧を身にまとい、とても齢80を超えてるとは思えないほど陽気だ。しわくちゃの顔を綻ばせながら話しかけてくる様からは、鉄人と呼ばれる歴戦の提督だとは気づかないほどである。
テレビや新聞で見る様子との違いに困惑する。というかてっきりお叱りの言葉をいただくものだと思っていた。彼が現在の鎮守府の状況を知らないはずがないであろうに。
「君が私に会うのは初めてだろうがね、君のことはよく聞いているよ。少しやつれたみたいだ。さ、備え付けの冷蔵庫の中にゼリーがある。とても一人では食べきれない」
断れる筈もない。距離感の近さに唖然としつつ、グレープ味のゼリーを口に運ぶ。甘いはずだが、やはり味がわからない。愛想笑いを浮かばせ、なるべく機嫌を損ねないよう注意する。
「さて、本題に入るがね。1ヶ月間、彼女たちと関わってどうだった?」
来た。ここだ。事実を誇張せず、ありのままを伝える。装飾なしでも十分退職処分ものの失態続きである。加えて、いかに提督業というのが難しいことか、艦娘をまとめ上げるのが難しいことかを説いた。要するに褒め殺しである。わたしは貴方の代わりにはなり得ませんよ。というアピールを露骨にするのだ。
演技は得意ではないが、本当に限界なのだ。俺の熱い主張は元帥にしっかり届いたようで、点滴のついた太い腕を俺の体に回し、ねぎらいの言葉をかけてくる。
「辛かっただろう。もっと早く君に会うことが出来ていたなら……。彼女達はかつて数多の優秀な提督を乗せてきた。その分要求するところも多いんだろう」
いいんすよいいんすよ。もう俺関係ないんで。心地よい温もりに心が穏やかになる。というか良いにおいもするし。勘弁してくれ。俺はそっちの気もあっちの気もないのだ。
元帥は俺の背中を優しく叩き、言葉を続ける。
「これからも困難が続くだろうが、私がなるべくサポートする。何千万の中から、君が選ばれたのだ。素質が無い等というな。必ず選ばれた意味はあるだろう」
あれ? おかしい。風向きが変わったな。サポート? 何の話です?
「私はもう妖精すら見えなくなってしまった。世代交代、ということなのだろう。君は若いにも関わらずしっかりしているし、無謀な進撃を繰り返すような愚者でもない。自信をしっかり持ちなさい」
そんな馬鹿な。呆然としている俺の両肩をがっしりとつかみ、元帥はにっこりと笑う。
「加賀君を通して君に指南書を送ろう。君には覚えてもらわんといかんものがたくさんあるけんの。少しばかり寝てしまったが、ふふふ、これから忙しくなるぞ!」
目の前のじじいが元気はつらつの顔で俺の肩を揺さぶる。ぐわんぐわんと頭をゆさぶられ、血が上り、白昼夢でもみてるような気分になる。今日で地獄が終わるはずだったのに。今日で……
薄いカーテン越しの西日が鬱陶しいほど眩しい。窓のレールに腰かけた妖精どもが愉快そうにケラケラ笑っている。というかお前らいつの間についてきていたんだ……?
三時間ほど元帥の熱い励ましと、簡単な指導を受けた。流石に長時間鎮守府を空けるわけにはいかないので、妖精どもを鞄にかき入れ退室する。
「大変勉強になりました。病み上がりにも関わらず、長時間居座って申し訳ございません」
内心ではふざけんなクソジジィと八つ当たりしたい気持ちでいっぱいだったが、言えるわけがない。帰りたくないめう……働きたくないめう……。艦娘達と顔を合わせたくねぇ。1ヶ月の辛抱だからと辛い業務にも耐えてこられたのに、こんなのってないよ。
「気にしないでくれ! 執務室にこもってると君のような若い男性と話す機会がないんだ。楽しかったよまた来てくれ!」
元気なジジィだ。1週間前まで絶対安静状態だったとは思えない。というかこっちの生気まで吸われた気がする。
お土産にゼリー詰め合わせを押し付けられ、帰りたくない仕事場へ戻る。すでに日は落ちかけていたが、病院の外へ出るとやる気の失せる蒸し暑さが俺を襲う。
バスに揺られながら、今日教わったことを反復する。目的は果たせなかったが、得られたことも多い。これからは瑞鶴の爆撃を顔面にくらう回数も減るはずだ。ていうか減ってくれないと近いうちに死ぬ。
すっかり暗くなってしまったな。とバスの窓から外を見る。戦争の影響で、海に近くなるほど人口密度は小さくなっていく。鎮守府近くを通るこのバスもかなり本数が縮減されており、それを待っていたために既に時計の針は7を指していた。
遅くなる旨を伝えたかったが、軍事機密のなんたらで連絡手段は艦娘を通さないと使えない。というか普通こういう外出に艦娘ってついてくるもんじゃないのか。人望の無さに愕然とする。大本営も大本営だ。曲がりなりにもこちとら提督様やぞ! 艦娘に命令だすなりせんかい!
大本営が俺に警護を付けない理由。まぁ捨て駒だろうな。身寄りも交友関係も無に等しい人間なんてそれにうってつけだ。俺が時間を稼いでいる間に、軍のお偉いさんがたは新たな提督候補を探すか、優秀な人材を妖精にプレゼンしていることだろう。
そうだ。妖精。潰れていたりしてないだろうか。鞄に乱暴に詰め込んでからそれっきりだ。慌てて鞄のベルトを外し、中身を確かめる。
着替え中だったらしいデフォルメされた少女が、はだけた服で身を隠しながら、わざとらしく顔を赤面させる。言葉にすると「いや~ん、エッチ!」みたいな感じか? 心配して損した。とんだ茶番である。
乱暴に鞄を隣の席にほうり投げ、背もたれに身を預ける。バスの振動が気持ちよい。
深くため息をつき、目を閉じて思考する。……妖精、妖精か。
提督は人類と艦娘を繋げる触媒だといったが、艦娘と妖精を繋げるのもまた提督である。この世界で妖精と会話できるのは提督だけであり、そのコミュニケーションこそが艦娘達との絆を深める第一歩らしい。
だが、俺は提督適合者の中で唯一、妖精と会話ができなかった。
平凡以下の出自、教養のなさ、ひねくれた性格、陰気な顔。艦娘達が新しく着任した俺に反感を持つ理由は数えきれないほどあったが、決定的な理由になったのがコレであろう。
妖精と喋れないということは建造ができない。開発や改修にも膨大な手間と時間がかかるようになるし、作戦を練るにも一苦労である。
なんで俺を選んだんだい?
鞄を自力でこじ開け、お土産のゼリーの蓋を協力してぺりぺりと剥がす妖精たちに心の中で問う。どうせ俺を選ぶんだったら優秀な他の提督に並べるようにチート能力をつけてくれたらよいのに。それどころかマイナス補正をかけるとは。
鎮守府に着くまでおよそ30分。連日の疲れからか、もう意識を保つのは難しそうだ。俺の太ももの上で鼻提灯を膨らませる妖精をどかす気力もない。ああクソ。起きたら……またあそこに戻ってしまう……。
木材と磯のかおりがする廊下を歩き、執務室を目指す。なるべく艦娘と会わないようなルートを選んではいるものの、それでも少なからず誰かとはすれ違ってしまう。
人間の目というものは感情を写しやすい。艦娘たちから向けられるそれは、怒りだったり、憎しみだったり、恐怖だったり、不信だったりする。
目の前で震えながら立ち尽くす、ブラウンの美しい長髪をアップヘアーにして束ねている少女、駆逐艦電の金色の目は、明らかに怯えの念を発していた。
さて、難しいな。下手な選択をとったら駆逐艦標準搭載の防犯ブザー(泣き声)がやかましく鳴り響き、大井や瑞鶴といった艦娘が嬉々として俺のケツに雷撃をかましてくるだろう。(実体験)
前回は頭を撫でて失敗した。(暁)
前々回は優しく声をかけてだったな。(潮)
もう打つ手は無いのかと絶望していたが、瞬間脳に電流が走る。人間、やはり追い詰められると自分の能力を超えた結果を出せるものである。
「これ! もらったの。お土産! 姉妹みんなで食べてね!」
無理やりテンションを上げながら、その場にゼリー詰め合わせの入った紙袋を置き、電が困惑している内にそそくさと場を離れる。危ない所だった。全身から汗が吹き出す。
要するに意識の書き換えである。俺との遭遇に恐怖を感じているのなら、新たな事象を上書きしてしまえば良いのだ。
幾つか妖精が食べていたが、姉妹全員に行き渡るには十分すぎる程であろう。
もう俺は1ヶ月前とは違う。諦めにも近い感情だが、この仕事をやるという覚悟が少なからず出てきているのだ。
窮地を切り抜けた達成感に酔いしれる。久しぶりに幸福を感じているのかもしれない。悪いことばかりだったんだから、良いこともあるよね! 自分の成長を噛み締めながら執務室の扉を開ける。
般若がいた。
いや違った。加賀っぽい般若だ。違う加賀だ。凄まじい殺気を放っており、束ねたサイドテールがゆらゆらと闘気で揺れている。
「随分と……長い間……ご休憩を……取っておられたようで……」
泡を吹いて倒れそうになるのを必死に耐える。今までの俺とは違うのだ。元帥の指導を無駄にするな。ちゃんと遅れた理由を話せば納得してくれるはずである。
「い、いやー、元帥にあってきたんだけどね。そう、あの、前任の。すっごい、めちゃくちゃ元気でさw もう3時間も帰してくんなくて……」
「待ちなさい。提督が意識を回復されたの? 何故それを最初から言わないの……?」
あぁ、加賀が怒りと喜びで感情がぐちゃぐちゃになっている。それを表情に出さない分、口調がどんどんバグり始めている。というか加賀さんの中では提督は未だに元帥なんですね。ごめんなさい。死にたい。
まずい。このままだとまた執務室の床の味を知ってしまう事になる。この状況を切り抜けようにも、ゼリーは全て電に渡してしまったし……!
「有り得ない……私たちがどれだけ提督の事を心配していたかご存知の筈でしょう? どんな思いでこの3ヶ月を過してきたと? あぁ提督。会いたいです提督。今から抜け出しても提督はご就寝中でしょうし迷惑かしら。でも寝顔だけでも良いから見たい。提督提督提督提督……」
加賀の持つ矢がみしりと音を立てる。テメェなんでそんなもん執務室に持ってきてんだ!
このままだと加賀も俺も執務室も壊れてしまう。どうにかしないと……! と、焦る俺の目が、ゼリーを持った妖精がサムズアップしているのを捉える。
でかした! これしかない!
「落ち着いて聞いて欲しい、加賀。実は元帥は1週間前から意識を取り戻しておられたようだ。艦娘には明日の朝礼で伝達すると大本営が決めている」
だから元帥を心配する必要は無いし、明日になったら会いに行けば良いよ。と優しく伝える。
「これはお土産だ。元帥から貰った」
プラスチックのスプーンと一緒に、既に蓋が開けてあるゼリーを渡す。妖精が少し齧った後があるが、どうだ……バレないか?
加賀は暫し沈黙した後、スプーンをとりゼリーを口に運ぶ。どうやら元に戻ったようだ。殺気も引っ込んでいるみたいだし、もしかして艦娘の機嫌をとるには甘味を与えておけよいのか? ちょろいなこいつら。
加賀の薄い唇にオレンジ色のゼリーが吸い込まれていく。ただの軽い食事風景にも関わらず、息を呑むほど美しかった。いつまでも見ていたい、と思わせる程であったが、あまり顔を見るとまた何か言われるかもしれない。
加賀がゼリーを食べてる間、手持ち無沙汰になった俺は机の上の書類に軽く目を通す。
「すみません。少し興奮して……。ご馳走様でした。美味しかったです」
「気にするな。それだけ忠義心が高かったということだろう。そこまで慕われるのなんて、元帥殿は幸せだな」
皮肉である。
まぁ何はともわれ切り抜ける事が出来た。もうこんなに遅い時間だ。休日らしく過ごす事は出来なかったが、晩飯にインスタントでも食べてとっとと寝よう。
「ふぅ……では本題に入りましょう。午後のたまった書類、簡単に重要であるものと、そうでないものに分けておきました。特に期限が迫っているものを優先して片付けておいてください」
えっ今日俺休みじゃん……喘ぐような小さい俺の声は、加賀の扉を閉める音であっさり消えさった。
ご機嫌取りの午前サービス執務は何だったんだ? そもそも休めと言ったのは加賀や妙高では無かったのか? 妙高は何をしていたんだ?
あまりの理不尽さに動悸が激しくなるが、ここはブラック鎮守府。
何よりも提督の価値が低く、提督の尊厳が無い。
俺に出来る事は、無能なりに、命を削りながら雑用と執務をこなす事である。
妙高に言わせると、おそらく「甘えんな」ってところか。
視界が涙で歪む。震える手でペンをとる。ああ、寝るの何時になるんだろうなぁ……。
暗い執務室の中、泣きながら必死にキーボードを叩き、判子を押す提督を、扉の隙間からある艦娘が覗いていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。以下本文とは全く関係無いです。
大好きな作品の作者さんが、小説の制作手順を公開されていたので、良い機会だと思い、人生で初めて二次創作というものをやってみました。
……めちゃくそ難しいですねこれ。普段執筆活動されてる人達の凄さが改めて感じられました。語彙力の無さを痛感……勉強せねば……。
ですが、楽しかったです。(KONAMI)
気が向いたら続きを書こうと思います。
感想や改善点等教えて貰えると嬉しいです!