元ホワイト鎮守府より、憎悪を込めて。   作:D535Rave

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鎮守府に満ちる狂気

 

 

 残暑厳しい8月の昼下がり。大規模作戦を終え、大湊鎮守府は束の間の休息を堪能していた。支援任務とはいえ、消費した資源も投入した戦力も普段とは一線を画している。戦いの傷を癒す意味でも、次の戦いに備える為にも──ティータイムは大事にしないといけない。

 

 

「フンフン〜♪」

 

 

 金剛お姉様が、萩澤提督の膝の上に抱きつくような形で座っている。久しぶりに甘える時間が出来たのが嬉しいご様子で、Warspiteが作ったスコーンを頬張りながら上機嫌に鼻歌を口ずさむ。

 満たされていた。大好きな提督と、大好きなお姉様の触れ合い。2人がいちゃ付き合う様子を眺めながら書類仕事を進めるのが、この私──金剛型4番艦霧島──の、最高の幸せの1つであった。

 

 だが、いつもとは違い萩澤提督の表情は少し暗いものがある。何か悩みがある──というよりも、引っ掛かりを感じているような、違和感の正体を探しているような、そんな表情だ。

 

 

「どうされたんです?昨日から、表情が浮かばれないご様子ですが」

 

 

 2人の隣に座っていた比叡お姉様が、私と同じ疑問をぶつける。萩澤提督はちらりと窓を見た後、金剛お姉様の綺麗な茶髪を手で梳かしながら呟く。

 

 

「今回の作戦、随分と指示が通りやすかったなって……。その理由を考えてるんだけど、なんか引っかかるっていうか、嫌な予感がするっていうか……」

 

 

 ぐぬぬと萩澤提督が唸る。確かに今回の大規模作戦ではいつもと違って、敵の暗号解読や編成、拠点の位置が初動の内から通達されていた。加えて主力艦隊である横須賀鎮守府の動向が敵の通信妨害に遭うことなく伝わっていたので、戦力の集中運用・分散両方が極めて効率的に行えていた。

 

 

「舞鶴の影浦提督が新しい暗号システムを開発したと聞いています。それが原因では?」

 

「いや、それだけじゃ説明のつかない部分が所々あるんだよ……」

 

 

 萩澤提督が、眉間に皺を寄せたまま金剛お姉さま越しに机の上のティーカップを取る。

 

 

「煮え切らない。何かとてつもない見落としをしている気分だ」

 

 

 紅茶の香りが立ち込める部屋に、萩澤提督の溜息が響く。

 歴戦の提督はその練度に比例して感覚も鋭くなっていく。顕著な例が宮下元帥である様に、未来を見ているような神がかり的な予測、予知に近い物を萩澤提督も持っていた。

 その萩澤提督がここまで憂いているという事実に緊張が走る。もしかしたら、開戦して以降最大級の試練が待ち受けているのかもしれない。

 いや、もしかしたらもう始まっている可能性も──

 

 バタン、と執務室の扉が乱雑に開かれる。私の思慮は、榛名の叫び声の様な報告に中断された。

 

 

「失礼します!たった今(いなづま)ちゃんから連絡があって、『横須賀鎮守府の提督が消息不明に』と──!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 灰色の救急袋をもう一度開け、中身を確認する。昨日の夜、丁寧に小分けして、何度も何度も確かめたのにもかかわらず、私の頭には不安の二文字がこびり付いて離れない。

 

 

「大丈夫。きっと無事よ」

 

 

 震える手に、(いかづち)ちゃんがそっと重ねてくる。雷ちゃんの手は、司令官さんのに比べてずっと小さい。あの冷たく、ゴツゴツと骨ばっていて、傷だらけの手の感触を思い出す。

 助けたつもりになっていた。救っていた気持ちになっていた。司令官さんの心が悲鳴をあげていたのはわかっていたし、自分なりに彼の為にやれる事は全てやっていたつもりだった。

 でも、それでも、足りなかった。出撃前だというのに震えが止まらない。後悔の念が体の底から込み上げてくる。視界が涙でぼやけ、歯をカチカチと鳴らせる。

 

 

「皆、お待たせ。おや?珍しい物を引っ張り出してるね。今回の哨戒任務は輸送船団のルートからは外れてたと思うんだけど」

 

 

 補給から戻ってきた響ちゃんが尋ねてくる。今回私達が持ち出したのは、普段のポーチ型の救急キットとは違い、より重度の怪我にも対応出来るリュックサック型の医療キットである。大規模の海難事故や港の襲撃等を想定された装備で、練度の高い駆逐の子でも講習を受けてそれっきりというのが多い。

 

 私と同じように、リュックサックの中身を確かめている暁ちゃんが、そこから目を離さずに響ちゃんに応える。

 

 

「司令官を助けに行くのよ」

 

 

 当たり前の事聞かないでよ、と言わんばかりに、暁ちゃんはリュックサックを強引に閉める。

 

 

「まだそんな事を……。もう彼の生存は絶望的だよ」

 

「そんな事って何よ!?司令官は私達が追い詰めたのも同然なのに!」

 

「彼が行方不明になった海域は未だに制海権が取れていない。あやふやな証拠や感情的な理由で、わざわざリスクを冒す必要は無いと言っているんだ。彼が鎮守府から逃げ出した可能性もゼロでは無いんだろう?」

 

「司令官はそんな事しないわ!」

 

「2人ともいい加減にしなさいよ!出撃前よ!」

 

 

 顔を真っ赤にして激昴する暁ちゃんと、冷めた表情で淡々と物を言う響ちゃんの間に、雷ちゃんが割って入る。

 昔はあんなに仲良しだったのに、どうしてこんな事になってしまったのだろうか。司令官さんが着任してから、時間が経つにつれて響ちゃんの、いや、皆の様子がどんどんおかしくなっていっている。

 

 

「司令官さんも、艦隊の皆も、大切な存在なのに、どうしてこうなっちゃうのです……」

 

 

 何も出来ない無力感に苛まれる。

 そうしていると、書類を脇に抱えた叢雲(むらくも)ちゃんが走りよってくる。特徴的な艤装をパタパタと揺らして、息を落ち着かせてから言葉を発す。

 

 

「ごめん遅くなって……。なに、あんたら、またケンカしてたの?」

 

 

 暁ちゃんと響ちゃんは目を逸らすが、叢雲ちゃんはそれに構わず書類に目を通す。

 

 

「大湊の萩澤提督から伝言。『今すぐそっちに向かう』ですって。……何言ったの?」

 

 

 それと、と呟いて、叢雲ちゃんが書類をめくる。

 

 

「通信が途絶えた時間帯と海流から、提督の大まかな現在地を割り出したわ。私と五十鈴(いすず)さん、Romaさんはここを探すから、あんた達第六駆逐隊は南部を探しなさい」

 

 

 司令官さんに協力的だった数少ない艦娘の名前を挙げながら、叢雲ちゃんは海図を指さして指示する。

 

 

「凄いのです。この短時間でここまで詳細なデータが割り出せるなんて」

 

 

 そう電が言うと、叢雲ちゃんは少し沈黙した後、

 

 

「影浦提督がやってくれたのよ」

 

 

 と呟いた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 大湊から6時間ほどかけ、電車と新幹線を乗り継いで横須賀へとたどり着いた。ここに来るのは随分と久しぶりだ。英国で無敵を誇っていた私の艦隊を、完膚なきまで叩き潰した宮下元帥との演習を思い出す。最高の練度、緻密な連携、そして何より宮下元帥への圧倒的な信頼……。今の大湊の艦隊の基礎を作り上げたのは、間違いなくあの人が影響している。

 車の窓から、寂れた繁華街を見る。長引いた戦争の影響で、随分とシャッターが目立つようになっていた。戦争の被害を真っ先に受けるのは、いつだって何の罪の無い市民だ。いつもの日常が、軍靴によって踏み潰される。多くの人々は内地へと追いやられ、最低限のインフラは肝の据わった一般人……若しくは、他に選択肢が無い人々によって辛うじて保たれていた。

 街を抜け、軍事車両が目立つ通りを進み、憲兵にIDカードを渡して横須賀鎮守府に入る。妖精は“ひどく人見知り”である為、提督適任者及び艦娘以外はこれより先には入れない。

 懐かしい木の香りを感じながら、彼について思考する。彼の性格なら、自分を捨て駒に入れてでも作戦を遂行しようとするだろう。ようやくピースがハマった。そうか、彼は無線の仲介役として単身海へと……!

 なんて無茶を!今すぐ捜索隊を出したとして、太陽が沈むまで残された時間はあと4時間程──

 やはり時間が無い。

 焦る気持ちを落ち着かせながら、足早に鎮守府の廊下を歩く。

 彼の消息が途絶えてから既に一日が経過している。この広い太平洋のど真ん中で、しかも深海棲艦の蔓延る海域での遭難──それがどれだけ絶望的な状況なのかは海軍に属して無い人間でも容易に想像出来るだろう。

 

 だと言うのに──横須賀鎮守府に所属している艦娘は混乱している素振りを全く見せない。たとえ嫌っていたとしても、百歩譲って提督だと認めていないとしても、自分達の為に命を賭して出撃した彼を、まるで元から存在しなかったように振る舞う。談笑し、訓練に励み、小走りに艤装を抱えて出撃の準備をし、私と目が合えば敬礼をする。よく訓練された、厳しくも和やかである理想的な鎮守府の日常。その姿がそこにはあった。

 

 

「失礼致します、萩澤提督。現在秘書艦である電が遠征任務で外れており、代わりに秘書艦代理の大淀が対応させていただきます。お待たせして大変申し訳ありません。視察にいらしたとの事でしたので、まずは当鎮守府に所属している艦娘のリストと装備一覧をこちらに──」

 

「ふざけてんのか」

 

 

 我慢の限界だった。部屋に入ってきて深々とお辞儀をする大淀に掴みかかる。隣に控えていた金剛が制止してくるが、それを振り払いさらに詰め寄る。

 

 

「何呑気な事言ってやがる。君達の提督が消息不明になっているんだよ?一刻の猶予も許されないこの状況下だというのにこの鎮守府は一体何をやっているんだ」

 

 

 大淀は苦しそうにうめき、眉をひそませて私を見る。金剛が再度私に近寄ってきて、落ち着いてクダサイ。と声をかけてくる。

 軽く突き飛ばすように解放した後、睨みつけて話すよう促す。大淀は呼吸を整えた後に、少し怯えた表情を見せながら口を開く。

 

 

「大本営から通達があり……『今回の件は各々の判断に任せる』との事で……」

 

「それで?まさか鎮守府に所属している艦娘全員が彼を見捨てたのか?」

 

「見捨てたというよりも、あの方の正確な現在位置が不明なのと、そもそも逃亡された可能性も否定出来ないので、闇雲に出撃出来ないといった感じでして……」

 

 

 見捨てたのも同然だろうが!

 心の中で悪態をついたあと、深くため息を吐き、ソファーへと腰を埋める。横を見やると無人の執務机が、窓から差し込む西日に照らされている。机の上にはおびただしい数の書類、付箋、海図が乱雑している。

 逃げ出しただと?あの彼が?ありえない。

 ビデオ通話越しに見ていた彼の表情からは、艦娘に対する恨みや憎しみといった感情では無く、もっと昇華された感情……一種の信念に近い物を感じた。どんな手を使っても絶対に艦娘を沈ませませんと口癖のように呟いていたあの子が、大規模作戦中に艦隊をほっぽり出して逃げるなんて考えにくい。

 とにかく、捜索には人手がいる。大湊から引っ張ってくる事の出来る艦娘の数にも限りがある。どうにかしてこの大淀を説得し、横須賀鎮守府の艦娘を動員しなくては……。

 

 

大淀(オーヨド)。貴方のテートクが行方不明になってるのデスヨ?確かに彼には至らなかった所が多々あったのカモデース。でも、彼は死力を尽くして貴方達の提督であろうと励んでイマシタ。研修も説明もロクにされないまま着任し、それにもかかわらず艦娘を一人も失わなかったのは彼の功績の一つデショウ」

 

 

 金剛が大淀の乱れた制服を直し、優しく語り掛ける。英国から大湊に着任した当時、外国籍の艦娘が多いことや私自身の若さもあってか、少なからず大本営の方から反発する声や軽い嫌味、いやがらせがあった。そのイメージアップに尽力してくれたのが宮下元帥、そして当時の秘書艦である大淀だった。

 ワタシは金剛型の、いや日本の戦艦の長女みたいなものデスガ、もし姉がいたとしたら、大淀みたいなお姉ちゃんがよかったデスネ。と朗らかに話すいつしかの金剛を思い出す。

 

 

「何より……一番近くで彼の努力を見ていたのは大淀、貴方の筈デース。彼が土壇場で逃げ出すような人間じゃないことくらい、わかっているのではないデスカ?」

 

 

 大淀は俯き、拳を握り締めている。彼女の表情からは何かに抗っているような、強い苦痛の色が垣間見える。だが、大淀の口から出た言葉は──

 

 

「ですが、私達の提督は、宮下元帥です……」

 

 

「大淀、どうして……」

 

 

 金剛の絞り出した様な言葉の後、執務室を静寂が包み込む。

 執務室の窓をもう一度見る。高い高い入道雲が空を支配し、うっすらと艦載機が作ったcontrail(飛行機雲)が延びている。

 もし私が──大湊を誰かに託し、横須賀に着任していたら、こうはなっていなかったのだろうか?彼への虐待も、命令無視も、戦果の減少も……。

 だが彼女達の彼に対する強い憎悪の念と、宮下元帥への強すぎる敬慕の念は、もはや洗脳じみた物さえ感じる。彼自身、若しくは艦娘に問題があるのではなく、もっと別の理由が何処かに……。

 

 窓が風によって強く揺れ、ガタガタと音をたてる。

 再度溜息をつき、多少強引な手を使ってでも捜索に協力させる事を決意する。

 窓から目を離し、大淀を見る。

 

 

「お、大淀……?」

 

 

 金剛が悲鳴の様な声を出す。

 大淀は瞳孔を開き、脂汗を流して頭を抱えている。口から白い泡を撒き散らし、過呼吸の様に浅く息を吐き続け、ふらふらと足が覚束無い。

 明らかに先程までと様子が違う。金剛が急いで大淀の元に走り寄り、肩を触ろうとした瞬間。

 

 横須賀鎮守府に、砲撃の轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 今日の海は穏やかだ。波も小さく、夏の日差しを地平線がキラキラと反射している。海上では蝉の声もアスファルトの焼ける臭いも感じないが、巨大な入道雲や突き抜ける潮風が、夏の気配を、そしてそれがもう終わる予感を届けてくれていた。

 こんなカンカン照りでも、妖精達は足を止める事無く働いてくれている。小さい手に工具を持ち、甲板の応急修理をしている様は大変可愛らしく、見てて癒される。艦載機の臨時燃料補給を見守りながら、隣のうるさい後輩の話を聞き流す。

 

 

「ねぇ加賀さん、ちゃんと聞いてる?」

 

 

 適当に相槌を打っているのがバレたのか、不満げな顔でほっぺを膨らませる五航戦のやかましい方──翔鶴型2番艦瑞鶴──が睨んでくる。

 私は通り抜ける不快な生暖かい風を払うように髪をかき上げ、耳の上に押し上げた。

 

 

「全く聞いてなかったわ」

 

 

 ムキーーー!と漫画の様に怒る瑞鶴を、姉の翔鶴が宥める。2人とも前世では私達がいなくなった後の機動艦隊を引っ張り続け、こうして艦娘として2度目の生を受けてからは私達一航戦や二航戦のライバルとして切磋琢磨する仲だ。数少ない装甲空母という理由もあるが、私はこの2人を高く評価している。まぁそんな事を言ったら調子に乗るから──特にこのツインテールは──絶対に悟らせないようにしているのだが。

 

 

「だから!新しい代役がいつ来るかって話!まぁ私は宮下元帥が戻ってくるのが一番なんだけど、まーたあんなやつ……作戦中に逃げ出すようなのが来たら嫌じゃない?」

 

「こら瑞鶴、あまり人の事を悪く言っては駄目よ……」

 

 

 海風に美しい髪を靡かせる2人の後輩を見やり、そうね。と呟く。

 あの陰気な顔、この世の全てを恨んでいるような三白眼を持った彼の事を思い出す。彼がそれなりに頑張っている事は重々承知していたのだが、どうしても提督として認識する事が出来なかった。

 初対面に感じた強烈な不快感と違和感、そして少しの頭痛。それからずっと、彼を視界に入れる度に何故か怒りと憎しみが込み上げてくる。彼を貶す事が宮下元帥の意思に反すること、ひいては宮下元帥の立場を悪くする事に繋がるのはわかっているのだが……。

 

 

「あーあ……。早く提督さんのいる病院に行きたいなぁ……あれ……?」

 

 

 瑞鶴が空を見上げる。つられて同じ空を見上げる。

 入道雲の下に灰色が侵食している。恐らくあの下では激しい雷雨が巻き起こっているのだろう。

 青い、青い空。オゾンの深い群青に、地平線を揺らぐ陽炎に。いつもと変わらない風景の筈なのに、何故だろうか。懐かしさを感じた。

 いや、懐かしさでは無い。これは記憶……?

 突風が身体を通り抜ける。不吉な風。そう、これは……あの忌まわしき敗戦……ミッドウェーの戦いの前に見ていた風景……。

 

 遠くで、誰かの悲鳴が聞こえた気がした。

 海が()いでいる。不自然な程、まるで鏡のように波1つたっていない。

 

 

「えっ、なんで、わた、し、提督さんを、え、やだ、どうして」

 

「あ、ああ……待って、提督、私、私達っあぁ……うぁ……」

 

 

 瞬間。

 

 激しい頭痛と同時に、頭の中に記憶が流れ込んでくる。夜遅くまでレポートを書き続けていたあの人。目が真っ赤になるまで擦りながら必死に眠気に耐え、勉学に励んでいたあの人。いつも窓から、艦隊が帰投したのを安堵の表情を浮かばせて見守っていたあの人。戦闘詳報を眺めながら、保存食を不味そうに食べていたあの人。そして、私の空爆で赤い血を制服に滲ませるあの人……。

 彼のどす黒く濁った目が私を見上げてくる。痛みに顔を歪ませ、傷口を強く握りしめながら、反抗も懲罰もしてこない。

 それがいっそう、私達の憎悪を駆り立てた。彼が提督として成長すればする程、宮下元帥と歩んできた今までの時間を否定された気がした。

 だから私達は、提督を傷つけ続けた。初めは軽い嫌がらせや命令無視だったが、感覚が麻痺していき、日が経つにつれて普段温厚な筈の子達もこぞって虐待に参加していた。

 

 あんなに優しい提督を、私達はずっと……。

 

 頭が2つに割れそうだ。色んな情景が、塊となって私の頭を駆け巡る。まだ艦隊が発足して間も無い頃、戦艦ル級の徹甲弾を腹にくらった時の様な感覚だ。空と海が地平線の先で混ざり合い、ぐるぐると目が回る。耳鳴りで何も聞こえない。

 

 

「提督、を……」

 

 

 提督を捜さなくては。彼の性格なら逃げ出すなんてありえない。あの大規模作戦が何故成功したのか、私達はわかっている。彼が身を呈して私達を勝利に導いたのに、どうしてこんな所で油を売っているのか……。

 口いっぱいに酸っぱい胃液が上ってくる。今は吐いている時間すらも惜しい。飲み込み、喉が焼ける痛みを感じる。

 こんな痛み、提督に比べたら……。えづいていると、妖精達が顔に張り付いてくる。大慌てで周りを見るよう促される。

 耳を塞ぎ、獣の様な奇声をあげながら海に顔を叩きつける瑞鶴。身体を震わせ、涙を流しながら瑞鶴を止めようとしている翔鶴。

 走りよって、暴れる瑞鶴から弓を引き剥がす。目を真っ赤にして錯乱している翔鶴にそれを押し付け、すぐ戻るから待機する様に命令する。

 

 

「随伴艦の子達は──」

 

 

 無線で朝潮に連絡を取ろうとした瞬間、砲撃の衝撃が空気を揺らした。甲板に出てきた妖精達が、必死の形相で私を誘導しようとしている。

 頭痛を振り払うように息を吐き、朝潮達の所へ急行する。彩雲は敵を確認出来ていない。まさかの事を考え、弓から艦載機を外す。

 

 

「加賀さーん!翔鶴さーん!瑞鶴さぁん!だれか」

 

 

 2度目の砲撃音。掠れた声で助けを呼びながら、朝潮にしがみついていた大潮が爆炎に弾き飛ばされ、艤装を粉々にしながら海に頭から突っ込む。朝潮も同様に吹き飛ばされ、右手と顔が血で真っ赤に染まっている。荒潮が呆然とした顔で、涙を流しながら海面に立ち尽くしている。

 朝潮がゆっくりと膝立ちになり、バナナの様にひしゃげた砲塔を捨て、魚雷を自分の口に持っていく。

 

 

「申し訳ありません司令官……。司令官との約束は……何も守り通せませんでした……。だからせめて……この朝潮の命を……。きっと……司令官と同じ所には行けないだろうけど……!」

 

 

 歯を強く噛み締め、弓を引き絞る。

 朝潮は既に大破判定。この状態であんな位置の魚雷を喰らったら、間違いなく轟沈する。

 彼の口癖を思い出す。どんな手を使ってでも、艦娘は沈ませない──!

 

 

「ごめんなさい朝潮。少し痛いわよ……!」


















ここまで読んでくださってありがとうございます。以下、本文とは関係無いです。










大変遅くなってしまい、ごめんなさい。
今回には、本来考えていた話の十分の一くらいしか入っておらず、ハーレムタグが機能するにはあと数話程かかりそうです。
投稿が停滞している中でも、沢山の感想やお気に入り、ご評価をいただき、本当に感謝します。また、誤字報告もありがとうございます。
次の話こそは早めに作り上げたいです。
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