元ホワイト鎮守府より、憎悪を込めて。   作:D535Rave

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溟海にて、彼岸花は咲き誇る

 

 

 さかのぼること五〇分。私達は『敵残存艦隊のせん滅、及び解放海域の水質・水温調査』という、ひどく大げさな、なおかつ形式的な任務にあたっていた。

 どうして私がこの任務にここまで嫌悪感を抱いていたかというと、端的に言ってしまえば私達の提督――陰湿で引きこもりで人付き合いが壊滅的で目つきが深海棲艦で情報を独占し打算に溺れ策を溢れされる潔癖症メガネこと影浦蓮悟――が弄した、いつもの回りくどい手であると確信していたからである。敵残存艦隊と仰々しい物言いにしているが、会敵したのははぐれ駆逐艦数隻。水質・水温調査なぞもっともらしいことを言っているが、この様な主力艦隊で行う様なものではない。自分の燃費の悪さはよく知っている。

 

 

「武蔵さん!」

 

 

 はっきりと通る、幼い声。グレーの髪を後方で二本に束ね、小さい顔の頂点ではアホ毛がぴょこぴょこと跳ねる、夕雲型駆逐艦の末妹である清霜。よく私になついてくれていて、トレーニングに勝手についてきて勝手に落伍する姿はもはや舞鶴の風物詩となっている。

 

 

「やっぱここら辺の海水はまだ赤いわ!あとぬめぬめしている気もする!味は……どほふぇ……鋼材の塩辛って感じぃ……」

 

 

 奇行に走る清霜の頭を軽くはたき、水筒で口をゆすがせる。そもそも私達は水質を確認する機材等を持ち込んでいない。清霜にはこの作戦はあくまで建前である旨を何度も説明していたのだが、私と同じ艦隊に組まされて有頂天だったのだろう。やる気を出してくれるのはいいが完全に空回りしている。

 戦艦になれるかな?と聞いてくる清霜の質問に答えあぐねていると、同じく駆逐艦の秋月が表情を曇らせ、こちらに話しかけてくる。

 

 

「その、この作戦……大丈夫なのでしょうか……」

 

 

 真面目気質な秋月にとって、回りくどい影浦提督のやり口は、少し違和感のあるものなのだろう。艦娘に作戦の詳細を伝えず、結果だけを求める彼のやり方は、今でも反感を買うことが多い。受け入れられるのは、私やグラーフの様に長年の付き合いによって諦めに近い割り切りを持てている艦娘か、五月雨や清霜の様に、どんな状況でも提督への絶大な信頼を寄せられる艦娘か……。

 疑問を持つというのも、決して悪いことではない。秋月はこの作戦の裏にある、本当の意味を真剣に考えているのだろう。

 

 

「心配するな」

 

 

 秋月の頭をくしゃりと撫で、言葉を返す。

 

 

「横須賀の連中によって敵主力艦隊は既に壊滅している。それに、影浦提督(やつ)がどの様な回りくどい作戦を練っていたとしても――この武蔵がいる。お前らが沈むようなことはあるまいて」

 

 

 清霜がきゃあ、と叫び、興奮しながらすり寄ってくる。一方秋月は、少し赤面し、恐縮しながら、それでも不安げな顔のままである。

 

 

「も、もちろん武蔵さんと御一緒させていただいて、秋月、大変心強く感じております!ですが、その、私が気にしているのは、自分ではなく……」

 

 

 秋月が、目を伏せる。

 

 

「横須賀の方々です。翔鶴さん、瑞鶴さん、大丈夫でしょうか……」

 

 

 秋月と同じく、私も海面を見つめる。不気味なほどに凪ぎきった足元は、銀鏡の様にオレンジの夕日を跳ね返す。静まった海の上を、波を立てて割っていく事に、何故か不吉なものを覚えてしまった。

 彼女らの顔を最後に見たのはいつだっただろうか。私がずっと昔、宮下元帥の指揮下にいたころ、五航戦と私は新戦力として肩を並べ、共に切磋琢磨したものだった。今の彼女らの練度や装備を考えると、中破をすることすら稀に思う。だが、拭いきれない不安が、じわりと広がっていった。

 

 

「あの二人なら何が起こっても大丈夫であろう。今頃横須賀の基地でゆっくりしているのではないか?」

 

 

 半ば自分に言い聞かせる様に、秋月に返す。僚艦のビスマルクが、少し驚いたようにこちらを振り向いた。

 見透かされたのであろう。自分でも、本心の筈だった言葉が、空虚なものになっていることに驚く。静かすぎるこの海が、何かの前兆である様に思えてきたのだ。

 

 

「私もそう思います。根拠は無いんです。だけれど……」

 

 

 秋月が言いよどんだ瞬間、雑音混じりの無線の中に、聞き覚えのあるイギリス訛りの声が入ってきた。

 ビスマルクが鬱陶し気に、私達の頭上を行く複葉機を睨みつける。

 この形式ばった任務を放棄する、合図だと判断。不安を頭の隅へと追いやり、交戦準備を始める。たとえかつての戦友がどの様な目にあっていたとしても、指揮系統が別な以上、自分に課せられた任務を第一に考えるのが、私の信条だ。だが、もし、「敵の残存勢力」が私の目の前に現れて、友を傷つけているのだとしたら――当然任務を遂行し、クソ野郎共を海の底へ叩き落としてやる。

 

 

 

 

 

 

 砲煙を払いのけ、着弾地点を確認する。おびただしい数の敵の群れ、それもかなりの精鋭揃いと見える。不意を突いた私達の攻撃は、かなりの損傷を相手に与えた。だが、それでも敵の分厚い装甲を貫くには至ってない。爆炎と黒煙の先に、夕日に揺らぐ地平線が見えた。日没まで時間が無い。

 

 

「航空優性の利が働いている内にケリをつけるぞ!弾薬効率度外視の一斉射を行う!全艦この武蔵に合わせろ!」

 

 

「フッ……、一斉射か、面白い。いいだろう。このNelsonに任せるがいい。全艦余に合わせろ!」

 

 

「一斉射ね!良いんじゃないかしら。もちろん旗艦はこのBismarckよね。全艦、この38㎝連装砲に合わせなさい!」

 

 

 

 "Nelson Touch‼"

 

 

 私達に近い敵からフォーカスを合わせ、次々と葬り去っていく。即席の日独英入り乱れた艦隊であるが、有無を言わせない圧倒的な火力を押し付け、連携という形にしている。爆炎に爆炎を重ね、魚雷や副砲も総動員し、鉄の暴風雨を相手に浴びせる。

 

 

『Ark Royal攻撃隊、再度爆撃を行う。これが最後の攻撃だ。積み荷を全てぶちまけろ!』

 

 

『よろしい。Graf Zeppelin攻撃隊、発艦始め!夜目が利くフラグシップ空母を最優先標的とする。蹴散らすぞ!』

 

 

 無線から、航空支援の旨が届いてくる。一斉射で付けた傷口を、潤沢な質量爆撃で広げていく。夜になってしまえば、特別な場合を除いて、航空母艦は殆どその役目を終えてしまう。ここで全ての爆弾と魚雷を使い果たすのは理に適っているが、我々の一斉射を読んでいたかの様なタイミングに、彼女らの高い練度が窺える。

 

 一方的な戦いであった。結果的に我々は敵増援部隊の虚を衝いた形となり、極々少ない損害で敵精鋭部隊を壊滅させるという、大戦果を挙げた。

 フラグシップに鬼級、姫級すらも容易く撃沈出来た。今後の戦況に大きな影響を及ぼすであろう、開戦きっての大勝利。日が沈みきる頃には、動く敵艦はいなくなっていた。

 大規模作戦での勝利を踏まえると、深海棲艦側が切ることの出来るカードは殆ど無くなったはずだ。だが、その勝利の、あまりにも大きい代償に、私の心は沈んでいた。

 油で燃え、赤く濁った海の上で、動かなくなった白い着物。煤と血で汚れて、面影も無かったが、それでも彼女であると、断言出来る──いや、断言してしまっていた。

 戦闘の後だというのに、海はまだ、腹だたしい程に静まり返っていた。炎で照らされた彼女の顔を見た、秋月が悲鳴を上げて駆け寄って行く。

 クソ、と消えゆくようなか細い声で、私は悪態をついた。亡骸となり、黒い粒子を傷口から漏れ出す深海棲艦が、見開いた目で、じっ、と私を睨みつけてくる。

 

 

 

 

 

「救援要請に応じてくれてありがとう。助かったわ」

 

 

 椅子型の艤装に座ったまま、ウォースパイトが礼を述べてくる。女王の様な風格を感じさせる、泰然とした態度で、赤黒い海を見つめていた。炎に照らされた頬は、煤と血で汚れきっていたが、それが彼女の美しい白く透き通った肌とブロンドの髪を、より一層際立たせていた。

 萩澤提督率いる日英艦隊の両翼を担うのが、金剛とここにいるウォースパイトである。二度目の生を受けたこの世界でも、彼女は世界随一の武勲艦としてその名を轟かせている。

 

 

「こちらこそ──」

 

 

 次の言葉が、出てこなかった。唇を噛み、俯く。するべき謝辞も労いも、今の私には出来そうに無かった。

 そんな私に気を遣ってか、ウォースパイトは続きを待たず、再度口を開く。

 

 

「間違いなく、この先の戦況を変える戦闘だったわ。この様な大戦果はBritain(英国)でも経験した事は無く──」

 

 

 彼女が、艤装の手すりを、さらり、と撫でる。宝石の様な碧眼を細め、揺れる炎の先から目を逸らした。

 

 

「彼女達の犠牲に見合った、それだけの戦闘結果を──」

 

 

 ウォースパイトは口を閉じ、俯く。私は彼女の言葉に返す事は無かった。

 

 

「──ごめんなさい」

 

 

 私はただ、目の前に広がる、地獄の様な光景を、呆然と眺めていた。

 

 

「翔鶴さん!あぁ、嫌……嫌ですっ!死なないで……嫌ぁ……」

 

「あり……う……瑞……守って……れて……」

 

「守れて無いです!翔鶴さんの事……うぅ……また、また私……っ……」

 

 

 秋月が、翔鶴に縋り付き、泣き叫ぶ。必死に止血作業を行っているが、誰もそれを手伝おうとしない。翔鶴は下半身を喪失しており、端正な顔立ちだったはずの頬には、亀裂が入り、白い粒子が漏れ出している。死だ。死なせてしまった。我々は自責の念にとらわれながら、死を迎える、沈んでいく彼女を眺めていることしかできない。二人の傍ら、初月が半壊した翔鶴の艤装を持ち、立ち尽くしていた。

 

 

「同志Верный(ヴェールヌイ)!なんて傷だ……今、応急処置を施してやる」

 

「同志!遅くなってごめん……、あぁ、そんな、(アカツキ)……酷い、酷過ぎる……!」

 

 

 ロシア艦の2人が、響の元へ駆け寄る。透き通るような銀色の髪と、純白の服は、最早見る影も無かったが、辛うじて轟沈には至っていない。だが、暁は……。既に言葉を発しなくなっている最愛の姉の手を握りしめながら、響はうわごとのように口を開く。

 

 

「私が……私が沈むべきだったんだ……。一緒に、司令官に謝りに行ってくれるんじゃなかったのかい……。どうして私をかばったんだ……。私はもう、何も、償えない……」

 

 

 ウォースパイトが眉をひそませる。

 

 

「あの子たちまで」

 

 

 第六駆逐隊はかつて萩澤提督の編成下にあった。数多の死闘をくぐり抜けてきたウォースパイトも、戦友を失うことには慣れていないのだろう。彼女には珍しい、明らかな動揺だったが、今の私にはそれに反応出来る気力はもうなかった。

 

 

「なぁ武蔵(ムサシ)

 

 

 爆撃の任を終え、艦載機を収容しながら、グラーフが語り掛けてきた。私の顔を見て一瞬怯んだ様子を見せたが、直ぐに話を続ける。

 

 

「彼女はこちら側なんだよな?」

 

 

 グラーフの視線の先、積み重なった死体の上で、女が一人、高らかに狂気の声を上げていた。

 

 

「キャハ、キャハハ、アァッハハハァ!!!沈メッ!惨メニ!死ネッ!死ネェ!!!」

 

「瑞鶴さん!もう動かないでぇ!本当に死んじゃいますからぁ!」

 

 

 その女は既に息絶えた深海棲艦に向かって、何度も何度も折れた矢を突き立てる。腕の肉は裂け血を噴き出し、骨まで見えていた。照月と涼月、清霜が必死に止めようと身体を押さえているが、意に介していない。髪は天に向かって逆立ち、歪な艤装を携える。顔は狂気に染まり、血を啜る鬼の形相だった。だが、かつて横須賀で肩を並べたあの空母の面影を、残酷なほどに色濃く残していた。

 

 

「絶対に撃つなよ。友軍だ」

 

 

 グラーフは再度こちらを見て、そうか、と短く呟いた。

 

 日が完全に落ちた。暗闇に光るのは、深海棲艦の亡骸から漏れる粒子と、炎のみ。血に染まった海に膝をつき、翔鶴の手を握る。恐ろしく冷たかった彼女の身体は、少し震えていた。ごめんなさい、提督。彼女が呟いた。身体の震えが止まった。秋月が絶叫する。

 私の身体に湧いてきたのは、悲しみではなく、怒りだった。彼女達を死に至らしめた深海棲艦に、彼女達を救えなかった自分の未熟さに、そして彼女達を死地へ追いやった司令部に――

 ふと、私の頭に一つの疑問が浮かぶ。

 宮下元帥は、この状況下で何をされているのだ?

 あの方がこの様な未来を許す筈が無い。横須賀に新しく着任した提督は失踪したと聞いている。その失踪が事故だろうが陰謀だろうが、司令官がいない以上、はらわたを引きずってでも臨時の提督として戻ってくるはずだ。

 

 歴戦の提督として神話を築き上げた、護国の英雄宮下元帥。

 珍しく、表立って行動をしている我々の指揮官、影浦提督。

 らしくない、焦った様子が報告されている、若き天才萩澤提督。

 宮下元帥が戻ってくるまでの繋ぎとして着任した、名前すら公開されていない、消息不明の少年提督。

 

 目の前に広がるいたましい光景と、提督達の不穏な動きに、何かしらの因果関係がある様に感じた。

 静かに燃える炎の前で立ち尽くしながら、目の前の現実から逃れる様に思案する。そうしていると、私の耳にノイズが走った。

 上空を警戒しているアークロイヤルの航空隊からの通信だった。ビスマルクが再度、苦虫を嚙み潰したような表情をする。余程焦っているらしく、チャンネルを絞らずに支援艦隊全体に無線を発していた。

 

 

『南東の方からこちらへ向かう正体不明の船舶を発見!距離にして3マイルだ!』

 

 

 船舶?深海棲艦ではないのか?何故この海域に?溢れる様に疑問が噴き出してくる。3マイルだと?日が落ちていなかったら、視認出来ていた程の近距離だ。萩澤提督の艦隊であれば、夜間装備も充実している筈。私は苛立ちを隠さずに、アークロイヤルに無線を返す。

 

 

「何故この距離になるまで報告しなかった。見逃したのか?」

 

 

『違う!レーダーに映らなかったんだ……!それだけじゃない。あの船、何か変だ!』

 

 

 変、だと……?その言葉に困惑しながら、南東の海を見る。

 

 その船はゆっくりとこちら側に向かってきた。船体の至る所に銃痕があり、船室の窓は割れ、天井は黒く焦げめくりあがっていた。

 波を立てず、エンジンの音さえしない。船を中心に、黒曜石を思わせるような紺藍の光が漏れ出している。炎に照らされていた筈の黒い海は、いつの間にか群青に染まっていた。

 私達は言葉すら発さずに、ただその光景を眺めていた。船体から発せられる細かい光の粒子が、妖精によるものだと気付くまで、その場に立ち尽くしていた。

 私達は、その光景を知っていた。私達が、二度目の生を受ける前、船としての役目を終えた者達が行きつく、海の一番深い場所の色。はっきりとは思い出せない、だが、私達の中に確かにある、魂が、あの色を覚えている。

 

 

「アァ」

 

 

 肉塊から顔を上げた瑞鶴が、歪んだ笑顔を船に向ける。血でべっとりと濡れた黒い顔に、白い歯が浮かび上がる。

 

 

「提督サンダ……」

 

 

 瞬間。船の中から、いっそう際立った光がゆっくりと現れた。その光の集合体は、ゆらりと揺れながら、海の上へ降りてくる。

 淡い光に充てられた秋月の顔は、呆気にとられていた。恐らく私達も、同じような顔をしていたのだろう。我々や深海棲艦と同じく、海の上に立っているソレは、人間だった。

 ちぎれかけた右足を引きずり、倒れこむ様に翔鶴の側らに跪く。

 その人間は、泣いているように見えた。翔鶴の黒く染まった袖を強く掴むその手には、細かい切り傷が刻まれ血がにじんでいた。何度も何度も翔鶴に謝り、時折苦しそうに鎌首をもたげ、うめき声を出している。

 光が強くなっていく。男と翔鶴の周りに、青い彼岸花が咲き始めた。二人を囲み、包み込むようにその花は咲き誇る。花弁が空へと昇っていき、光の粒子と混ざり合う。二人を中心に、円状の波が静かな海をかけていく。見たことのない姿の妖精が、翔鶴の周りを笑顔で飛び交う。

 翔鶴の手が、かすかに動いた。秋月が即座にその手をとり、号泣する。男は安心した表情を見せた後、暁の近くへ這い寄っていった。

 

 私達は最後まで、動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 コンクリートで囲まれた、冷たく暗い部屋に、青い粒子が怪しく光る。妖精が、ビーカーやフラスコに映った自分の姿を不思議そうな顔で眺めている。光の中心、古びた机の上で、白衣を着た少女が鼻歌を口ずさみながら、作業をしている。

 1匹の妖精が、換気扇からふらふらと舞い込んできた。白衣の少女が、その妖精を優しく両手で迎え入れ、愛おし気に頬を撫でる。

 妖精は嬉しそうに、少女の指の腹に頬ずりをする。少女は優しい笑みを保ったまま、鉗子で妖精の目を抉る。少女は妖精の目を口に放り込み、口の中で転がす。

 

 

「ウフフ」

 

 

 少女は一層、機嫌を良くしたようだ。古びた木の椅子に強くもたれかかり、鉗子を放り投げ、大きく伸びをする。

 机の上では、両の目を抉られた妖精がおぼつかない足取りで彷徨っていた。他の妖精が、その姿を嗤い、肩を突き飛ばし、足を引っかけて遊んでいる。

 少女はその光景を眺めながら、1人呟く。

 

 

「ダメージコントロール……いや、応急修理要員とでも名付けようか。まさかあの少年の歪んだ論理感、自己犠牲の感情が、この様に作用するとは」

 

 

 少女は盲目の妖精を、手のひらでひねりつぶす。妖精は青い光の液体になって、気体に離散した。

 

 

「彼はここで退場の予定だったが、計画を少し変更しなくてはな。薄ら寒い艦隊ごっこの解体の続きよりも、興味深い研究対象が出てきてしまった」

 

 

 少女は笑顔で作業を再開する。だが、背後の扉が開いた瞬間、憎悪と不機嫌が混ざり合った顔に豹変する。

 

 

「まったく君達は次から次へと」

 

 

 少女は溜息をつき、椅子を反転させて、扉を開けた人物へと向き直る。

 

 

「ここは一応、軍関係の施設の中でもトップシークレットの研究所なんだけどね。それを何だい君達は……公衆便所の様に出たり入ったりしやがって」

 

「ここからは便所以下の臭いがするけどな、ゴミカスめ」

 

 

 黒い長髪を翻し、純白の制服に身を包んだ女が、帽子越しに少女を睨みつける。

 

 

「ようこそ萩澤提督……。ちゃんと対面するのは初めてになるのかな……」

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