AIが発達し、人間同様の受け答えができるようになった未来
人間の生活をサポートしながら彼らは成長していく、人が歩く速さで進めば、AI走るように。
だが、人とAIは同じ速度で歩いていた。





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人工知能は見捨てない

「ねぇ、アル」

 

「はい、なんですか沙織」

 

 高台から街を眺めながら、手に持った端末に話しかける。

 ちょっと前なら、音声でサポート機能を使っている光景に見えるのだろう。

 電話や調べもの、テレビを着けたりお湯を沸かしたりなどなど人間のサポートをするとかのアレだ。

 そのままでも便利ではあったけれど、時代が進んだ今は少し違う

 

「なんだか全くやる気が起きないの、どうしよう」

 

「おお、それは大変ですね。 もうすでに学校にいる時間なのにこんなところにいることと関係が?」

 

「ええ、大いにあるわね」

 

「そうですか、なら早く解決しなければいけませんね」

 

 と、思考ラグもなしにリアルタイムで受け答えができるレベルのAIにまでなった。

 それによって、いろんなことが変わったり変わらなかったりしている。

 学生の私にとっては、いつでもどこでもお小言を言ってくる面倒な存在という認識が強い。

 

「それで? 具体的には何が原因なのですか?」

 

 作られた音声が私に聞いてくる。

 人工音声の技術の向上もあって、その声は人間の声帯から出てくる声みたいだ。

 

「学校がつまらない」

 

 私がそう言うと、わかりすいくらいにため息の音を流してきた。

  

「沙織、それを言うのはいったい何回目ですか?」

 

「んー5回ぐらい?」

 

 あんまり覚えていないので、適当に答えてみれば

 

「記録されている回数では、今回で50回目になります」

 

 記録から正確なデータが返ってくる。

 

「そうだっけ、ならどうする? このまま下校時間まで街でも眺めてる?」

 

「これでもあなたと共にあり続ける者です。 できうる限りあなたの考えを考慮したいですが、これ以上サボりますと学業に影響が出ます」

 

「うーんそうはいってもなぁ……」

 

 別に、学校が嫌いなわけではない。

 自分の好きな学科を選んでいるし、友達もいないわけでもなければいじめられているわけでもない。

 学校は綺麗だし、ちょっと前にはいたらしいセクハラをしてくる教師はいない。

 

 なら、何がだめなのか。

 

「あそこには、それしかない」

 

 友達との楽しい会話? 楽しい学校生活? そう言われてもしっくりこない。

 厨二病とという思春期特有の現象が近いのかもしれない。

 あそこでは、”私は居ていないのだ。

 0にプラスできなければ、1にはならない。

 

「ふむ。 では、何か楽しみはないのですか?」

 

 楽しいこと……。

 

「よく、わからない」

 

 おいしいものを食べていれば楽しいのか、違う。 食欲は満たされるけれど、楽しいとはまた違う気がする。

 友達と一緒にどこかへ行く、これも違う。 それなら家族と一緒にどこかへ行くのと同じに思える。

 

 なら何が楽しいのだろうか、目をつぶって考える。

 風の音が耳に届き、少し離れた場所から配達用のドローンの音が聞こえてくる。

 

「んー」

 

 腕を組んでさらに考える。

 だけど、答えは出てこない。 

 漠然とした違うという感情が、心を支配している。

 

「思いつかない」

 

 思えば、今まで生きていて本当に楽しかったということがあっただろうか。

 昔のことはよく覚えていないけれど、楽しかった思い出という物が出てこない。

 

「そうですか……」

 

 私がそう言うと、アルは端末に思考中というポップアップを浮かべて考え始めてしまった。

 珍しい、普段どんな質問にも1秒のラグもなしに答えてくるアルが10秒以上考え込んでいる。

 AIに感情を語ることはそんなにも難しいのだろうか。

 そこからデジタル時計が1分ほどたった後、思考中のポップアップが消えた。

 結論が出たようだった。

 

「長かったね。 それで答えは出たの?」

 

「はい、長らくお待たせしました。 結論をお答えします」

 

 アルは一息間をおいて、答えた。

 

「答えはありません。 なので、これから探しに行くとしましょう」

 

「はい?」

 

 驚いて呆けた声を出してしまった。

 アルが、AIがこんな不確かな答えで結果を出すとは思わなかったからだ。

 

「どうしたの、もしかしてバグでも起こった?」

 

 私は心配になってそう言ってしまった。

 

「いえ、私は正常です」

 

 アルはそう言ってまた、一息間をおいた後こう言った。

 

「私が答えを出すには、まだまだあなたと共に過ごした時間という物が足りないのです。 簡単に言えば時間が解決してくれるでしょう」

 

 ひどく不確定な結論である。

 

「ふっははは! AIでもそんなことを言うのね」

 

 思わず笑ってしまった。

 だけど、なんだかストンと心に落ちた気がする。

 

「ご満足いただけましたか?」

 

 そう言って、結果の不思議と不安げに聞こえるような声で反応を聞いてくるアル。

 私は笑うことを抑えながらこう返した。

 

「ええ、なんだか納得がいった気がする」

 

 そう言うとアルは、安心したような声で

 

「そうですか、それはよかった。 ではまずは学校に戻りましょうか」

 

「えー……ってうそうそ。行きます、行きますよ!」

 

 地面に置いていた鞄を手に取って学校へと向かう、今から行けば午後からの授業には間に合いそうだ。

 不思議と軽い体で、階段を走っておりていった。

 

 

 

 

「あなたがいる限り、私はずっと一緒にいますよ。 ですからいつでも話しかけてくださいね」

 

 

 

 

 知恵は進化し、人と共に歩んでいく。

 それは永遠に、そして永久に。

 

 

――我らはあなたたちと共にある。

 



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