ギンガ団員、ガラルにて 作:Ly
倒れていく。
スローモーションで倒れていく、薄ら白の美。
この世界における異物。余所者。理解不可能性。他者。はぐれ者。
あの子は、私。私は、あの子。
迷い込んで、どこにも行けずにいる私たち。
(だけど、私は全てをフェローチェに委ねてしまった)
ダーテングの鋭い一撃が、細く柔らかい身体を斬り伏せた。
折れてしまいそうな薄白を目で追った。
その幻想的な姿と相まって、ひどく儚い光景だった。
狭いオフィスと不釣り合いな美しさが、崩れていく。桜が散るような、そんな妖しさがあった。
「あ、」
現実味はなかった。
決行から今までずっとぼんやりしていて、とてもまともではいられなかったから。
すべてがひどくスローに見えて、内的意識だけが淡々と動き出す。
何が悪かったのだろうか。
指示? 決行のタイミング? 意地を張ったこと?
ああ、私は全てを委ねて、現実から逃げようとした。
関係性を理解していないであろうフェローチェに、代わりに清算してもらおうとした。
きっと簡単に勝って、私を楽に帰してくれると思ったのだ。
共に戦った相棒たちに足止めされることなど、考えたことがなかったのだ。
正面から、本気で瀕死にさせる指示を細かく出せるはずがなかったのだ。
苦しみは覚悟したところで避けられない。
分かっていた。分かっていた。
だけど、
「まって……」
地面に倒れ伏すフェローチェ。
流れていた血が全部抜け出てしまったかのように身体が冷えていく。
かくん、と脚の力が抜けて、鈍い衝撃が膝を打つ。
視線が一段と低くなる。
そうして、戦い争うポケモンたちを見た。
『トライアタック』を放つポリゴンZ。苦し気に『光の壁』で受けるチラチーノ。サイコキネシスを放つイエッサン。
クロバットとウォーグルが、互いを傷だらけにしながら絡み合って飛んでいた。
この光景を作り出したのは、私。
――迷うな。
覚悟が揺らぐ。
「なあ、理由を……、理由を聞かせてくれよ」
――耳を貸すな。
「ジムのことも、カシワさんのことも、夢のことも全部ウソ!」
「いまのあたしだけが、本当!」
半狂乱で、紫色のボールを掴んだ。
そのとき。
「……」
チラチーノと目が合った。
戦闘のさなか、ただ、悲しそうに此方を見ていた。
過ごした日々は、嘘ではなかったのに。
――ピピピピピ
電子音が無機質に響いて、ポリゴンZから光線が放たれた。
私の指示で戦っている最中だから。
零れた水は戻らない。吐き捨てた言葉も、取り消せない。
放たれた光線も、止まらない。
無抵抗に、チラチーノは光線に直撃して吹き飛んで行った。
隙を見せれば当然、命取りとなるのは知っているだろう。
避けることも、防ぐことも、本当ならできたはずなのに。
それでも私を見つめていたのは。動けなかったのは。
「ぁ、違うの、」
「嘘じゃない、嘘なんかじゃ、」
私が吐き捨てた言葉のせいじゃないか。
決着は、感情の激しさに反して静かなものだった。
フェローチェが倒れ、チラチーノが吹き飛んだ。
そうして、ルリミゾは戦える状態ではなくなっていた。
誰もが、自然と動きを止めていた。
ポケモンたちは、戦いたくなかったから。
状況を解さないポリゴンZは『破壊光線』の反動で動けず。
瓦礫に埋もれたチラチーノを必死に掘り起こすルリミゾを、黙って見守っていた。
爪が割れるのも気にせず、指先を血まみれにして、一心不乱に瓦礫を退ける。
そして漸く、瀕死の小さな身体を抱きかかえた。
「……戻って」
ポリゴンZとドータクンをボールに戻して、ルリミゾは戦いを止めた。
ノマは何も言えずに、不似合いなリュックの肩紐を握るばかりだった。ポケモンたちに戦いの意志がないことは明白で、あとは人間たちの言葉の問題だとノマは理解していた。
淡々と、幽鬼のように、ルリミゾはポケモンたちの治療を始めた。
激しく戦っていたとは思えないほど、二人は静かだった。
「……」
沈黙が、二人の間を風になって通り抜ける。
戦いによって空いたあちこちの穴から、嵐がごうごうと唸っている。赤黒いグロテスクな空と、薄らぼんやりと見える赤い光柱。世界が終わるなら、今日以外にありえないだろう景色だった。
ノマは、外の状況が一刻を争うのをなんとなく直感していた。
(ローズ委員長が何か起こしたのはわかる。だけど、ルリミゾは何をしてたんだ……? 委員長を止めるためなら、俺から逃げる必要もないはず)
ノマは、わからないことを、わからないままに推理した。とても、たかだかひとりのジムトレーナーに理解できる問題ではないことだけはわかっていた。
「あぁ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
薄灰色の、手入れされて艶やかなチラチーノの毛が、ルリミゾの血でべっとりと汚れる。
それも構わないで、ルリミゾは手当をし続けた。
そして、あらゆる傷ついたポケモンに手当をして回った。
一度もルリミゾはノマに顔を見せなかった。
時折鼻をすする音と、目元を擦る仕草があったような気がした。ノマは、追求することも、考えることもしなかった。
心を整理する時間が必要なのだろう。
とうに擦り切れていることは目に見えていたが、ノマは待った。
そして、最後――軽傷だったウォーグルに包帯を巻き終えるのを見て、問いかけた。
「ワケを、教えてくれよ」
「……」
震える唇は、何かに耐えるようにかたく結ばれていた。
拒絶ではなく、躊躇。
「俺は、理由が知りたいだけだ。お前のことだから何か考えてるんだろうし、止める気もない」
諭すように、ゆっくりと言葉を重ねた。
「でも、あんな隙を見せるほど憔悴するくらいならさ、何か相談してくれよ……」
「同じ町の、ジムのメンバーだろう……?」
【あとがき】
お待たせしています。
完結に向けて頑張りますのでよろしくお願いします。
今までのベストバウトは?
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vs マクワ
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vs ノマ
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vs ポプラ
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