クリスマス前になるとやさぐれるサンタ。
理由は至極単純。忙しいから。

そんなやさぐれサンタも、「悪い子」にはなれないのだろう。

やさぐれサンタとトナカイと、悪い子のお話。

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サンタは良い子になれない

「クリスマスなんて来なけりゃいいのに……そしたら俺仕事しなくていいのに」

「サンタが言う台詞じゃないだろ」

 

 

「だってそうじゃん!世間はやれ聖夜だイルミネーションだとカップルや家族でキャッキャウフフしてるくせに!俺はその時期子どものためにめっちゃくちゃ頑張ってプレゼント調達してるんだぜ!?俺だってニンテンドースイッチ欲しいよ!ポケモンやりたいよ!!」

「子どもには絶対見せられないサンタの姿だな……」

「うるせえよヒトヒトの実も食ってないくせに人の言葉喋りやがって。鼻青に塗るぞ」

「それやったら困るのあんただろ」

 

 

「あーあ。クリスマスの日って寒いんだよな……おいトナカイ。なんかの間違いでお前足大怪我とかしない?そしたら当日サボれる」

「途轍もないブラックなこと言ったな今」

「深夜働かせるこの仕事こそブラックだよ」

「あんたは一度ブラックサンタに連れ去られるべきだ」

 

 

「何よりもめんどくさいのはこの子どもの手紙を読んでるこの時間なんだよな」

「お前ホントにサンタか?子どもに夢を与えるサンタなのか?」

「いや、勿論子どもの無邪気な手紙はいいんだぜ?「にんてんどーすいっちがほしいです」とか「でらっくすじくうどらいばーがほしいです」とかは可愛いもんだし、よーしじゃあ頑張ってシルバニアファミリーのお家作っちゃるけんね!ってなるじゃん」

「そこはちゃんとスイッチとジクウドライバーを作れよ」

「ただそういうのに紛れて冗談半分で中学生高校生くらいの字で「彼氏が欲しい」「彼女が欲しい」って書かれてるのを見るとめちゃくちゃムカつくんだよな。自分で作れバーカ!シルバニアファミリーの比較的ブサイクな人形送り付けてやろうか!?「これがてめえの彼女だ!ほら愛でろ!」って」

「意味不明な方向で八つ当たりするのやめてくれないか?」

 

 

「そりゃあ八つ当たりしたくもなるよぉ!?今めっちゃ忙しいんだもん!トナカイお前も手伝えよ!」

「手伝うっつったって俺おもちゃとか作れないし」

「お前ミニチュア化したらシルバニアファミリーのお人形さんになれるだろ」

「無茶を言うな」

「それをムカつく中学生や高校生に送り付けるから」

「それは暗に俺がブサイクだと言ってるのか?」

 

 

「そもそも俺ってサンタの中でもダメな方のサンタだからさー!給料も少ないのにお前を頑張って養ってるんだぜ!?ちょっとくらい恩返ししてくれたっていいじゃんかよ!」

「悪いな、俺ガラル地方出身だから恩返しは覚えないんだ」

「なんで最新のポケモンで恩返し無くなったこと知ってんだよお前。トナカイのくせに」

「買ったから」

「お前ホントムカつくな!?俺が必死におもちゃ作ってる横で子ども達がやりたがってるポケモンやってんの!?俺だってやりてえよ!」

「そもそもお前に恩返ししても効果無いだろ、万年金欠で亡霊みたいに腹空かせてんだから」

「人をゴーストタイプ呼ばわりするのやめろ」

 

 

「くそぉ……俺だってポケモンやりてえ……キャンプでかっこいいポケモンとカレー食べたい……」

「やたら俗に染まったサンタだな……」

「せーの!言いたいことがあるんだよ!やっぱりカレーは美味しいよ!好き好き大好きやっぱ好き!やっと見つけた王子様!俺が生まれてきた理由!それはカレーを食べるため!俺と一緒にガラルを歩もう!世界で一番愛してる!あ!い!し!て!るー!」

「お前の見つけた王子様レトルトカレーじゃねえか」

「なんでそんなに辛口なの?」

「面白くねえんだよ」

「ちなみにカレーの王子様は甘口」

「聞いてねえ」

 

 

「あー……手紙読むのがしんどくなってきた」

「子どもの夢の結晶だろ。頑張れや」

「なになに……「じゅうしんさんだーらいがーがほしいです」……無理だ!それは普通に無理だ!人体錬成は無理だ!」

「それ本当に子どもか?」

「たまにあるんだよな、ウケ狙いで大して面白くもない願い事書く中学生」

「身も蓋もない言い方したな」

「ほんと、頼むから夢もへったくれも無いひねくれて拗らせたガキは斜に構えるのをやめてくれ……この手紙はどうだ?えらい長いな……」

 

 

 ──わたしは、サンタがきらいです。クリスマスがきらいです。

 

 

「奇遇だな、俺も嫌いだ」

「いいから読めよ」

 

 

 ──わたしは、きょねんはプレゼントをもらえませんでした。そのまえのとしも、プレゼントをもらっていません。わたしは、いままでサンタからプレゼントをもらったことがありません。

 サンタは、いいこにしかプレゼントをあげないってききました。わたしは、いいこだったのに、プレゼントをもらったことがありません。だから、わたしはサンタがきらいです。クリスマスもきらいです。

 

 わたしは、おとうさんとおかあさんがいません。おかあさんは、まえのまえのとしにしんじゃいました。おとうさんは、このまえ、とつぜんあえなくなりました。いまは、じゅんやおにいさんというひとがおとうさんのかわりです。じゅんやおにいさんは、「おまえはうられた」っていってました。

 

 わたしのいえは、とてもびんぼうでした。おかあさんのいいつけで、スーパーからたべものをなんどももらってかえりました。おかあさんはわたしがたべものをもらってかえってきたら、いつもとてもほめてくれました。「どろぼうじゃないの?」ってきいたら、「おかねがなくてかわいそうだからゆずってくれてるのよ」っておしえてくれました。

 おかあさんがよるにでかけると、おとうさんとたくさんあそびました。はだかでプロレスごっこをなんどもしました。たまにすごくいたかったけど、とてもたのしかったです。たまに、おとうさんのともだちともプロレスごっこをしました。おとうさんのともだちは、かえるときにわたしにアメをくれました。

 

 ──ほんとうは、おかあさんのいうことも、おとうさんとしていることも、いけないことだってしっていました。わるいことだってしっていました。けど、わたしはそうするしかなかったんです。それが「いいこと」だっておしえられてきたし、なんどもなんども、わたしはおかあさんにもおとうさんにも「いいこ」だってほめられたんです。

 

 いまも、プロレスごっこはしています。じゅんやおにいさんや、おにいさんのともだちとまいにちしています。プロレスごっこをしているわたしが、じゅんやおにいさんにとって「いいこ」だからです。じゅんやおにいさんにとってわたしが「わるいこ」になってしまうと、わたしはおにいさんにとてもおこられます。なぐられて、けられます。

 

 サンタにとって、わたしは「わるいこ」ですか?おとうさんやおかあさん、じゅんやおにいさんにとってとっても「いいこ」なわたしは、サンタからみたらとっても「わるいこ」ですか?

 サンタはいいこにしかプレゼントをわたさない、っていいますが、その「いいこ」って、どんなこですか?

 

 ──サンタさん、わたしはきっとわるいこなので、プレゼントはことしはいりません。

 

 でも、もしこのてがみをサンタさんがよんでくれたら。ひとつだけおねがいがあります。

 

 

 

 わたしを、いいこにしてください。

 

 

 

「トナカイ、この手紙別のとこに置いといて」

「んあ?いや別にいいけど、どうしたんだよ急に」

「その手紙が送られてきた住所、あとで調べる。あとプレゼント作る作業、そろそろ並行して本格的に進めたい」

「本当にどうした急に?締切直前の作家みたいになってるけど」

「まあな。どうせなら名作を書き上げたいじゃん」

「手遅れだぞ」

「あと俺の銀行の預金残高調べなきゃ」

「ゼロだろ」

「いや流石にそんなことはない……はず。サンシャイン芸人だって預金残高幾らかはあっただろ」

「毎日空前絶後の超絶怒涛の金欠サンタだろ、あんたは」

「返す言葉もねえ……」

 

 

「……なあ、トナカイよ。あんたから見て俺はどんなサンタだ?」

「ろくでもないサンタだな」

「やっぱり?」

「やっぱり」

 

「ろくでもないサンタなら、良い子悪い子普通の子、どの子にプレゼントを渡すべきだと思う?」

「今更欽ドンかよ……というかどんなサンタでも良い子に渡すべきだろ」

「やっぱり?」

「やっぱり」

 

「……まあいいや!俺はこの子を「良い子」と認めることにしよう!だって俺ってばろくでもないサンタさん〜!」

「そうやって給料天引きされるんだよな……」

「うるせえ!やり甲斐までなかったらいよいよもって俺はこの仕事やめるわ!」

 

 

 拝啓、罪も無き麗しき彼女へ。

 

 手紙は確かにこの私、サンタクロースが受け取った。君の素直で純粋な心も共に。

 世間一般から見たなら、君は確かに「良い子」とは言えないだろう。或いは悪い子とも言える。当然だ、窃盗や援助交際、近親相姦を「悪いこと」だと知っていながら行っていたのだから。君の母親や父親、じゅんやおにいさんという人からすれば都合の「良い子」であろうと、君が生き抜く為に仕方無かろうと、きっと君は「良い子」とは言われない……かもしれない。

 

 私も、実は「良いサンタ」では無い。……いや、ブラックサンタでは無いのだが、なんというか……「良い子」とは言えないサンタなのだ。

 そんな「良い子」とは言えないサンタなので、君の手紙を受け取った時、「じゃあ今年は残念だったし来年頑張ってくれたまえ」とは言えなかった。良い子ではない君だが、私は君にプレゼントをあげなくてはならない、と思ってしまったのだ。

 

 君は「わたしをいいこにしてほしい」と書いていたね。私にはどうしたら君の望みを叶えてあげられるか、全く解らない。

 だから、私はこの手紙を君にプレゼントすることにした。もし、君が。決して「良い子」とは言えない私のようなサンタを信じてくれるなら。一度だけ、サンタを、クリスマスを好きになってくれるなら────

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 

「クリスマスなんて来なけりゃいいのに……そしたら俺仕事しなくていいのに」

「サンタが言う台詞じゃないだろ」

 

 

「今年に関しては俺マジで人気のおもちゃとかゲームとか知らないんだもん!トナカイ、お前去年めっちゃポケモンやってただろ?今年のトレンド知らないの?」

「残念ながら今年は俺も解らん。去年より貧乏極めてんだからゲーム買ってないし」

「だよなー。あー……もう手紙読むのもめんどくさい……この仕事やめたい……」

「毎年この時期になると絶対子どもには見せられない絵面になるな……」

 

「もー!お兄さん絶対サボってると思った!はい、これ今年のおもちゃトレンド調べてきたやつ!手紙はまとめてそっちの机にまとめといたからちゃんと読んでね!あと昨日見たけどソリ壊れかけてない?トナカイお兄さんにも迷惑かかるんだからちゃんとメンテナンスしなよ!……私疲れたから寝るね」

 

「……お、おう。サンキュ。おやすみ」

「おやすみ……あ、そうだ!そのおもちゃトレンド、女の子向けだから男の子向けのトレンドはちゃんと自分で調べてよね!」

 

 

「……なんというか、この一年でめちゃめちゃ「良い子」になったよな」

「今年こそは形になるプレゼントを枕元に置いてやれよ」

「そうだな……あいつ何が欲しいんだろう」

「今寝たんだろ?枕元とかに手紙置いてねえの?」

「確かに!確認するか……わかんなかったらシルバニアファミリーのお家作っちゃるけんね!」

「お前シルバニアファミリー好きだよな」

 

 

 ──サンタさんへ。

 

 わたしはことし、とってもいいこにしていました。

 とってもびんぼうなくらしだけど、まいにちがとってもたのしくて、しあわせです。

 

 だからおねがいです。

 

 

 

 

 

 サンタさん、わたしにすてきなあしたをください。

 

 

 

 

 

 

「…………金無いけど、美味いもんでも食わせてやるか」

「本当、「良い子」に育ったもんだよ」

 

 

 

 



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