ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
「オーブ軍のモビルアーマーが合流!!艦長!!」
まったくもって予想外の展開に、タリアは深く息を吐く。ザフト…いや、プラントの領域であるアーモリーワンでの、オーブ軍の介入。事態で言えば前代未聞だ。
オーブとの密談は事前に議長から聞かされていたが、それに合わせる様に起こった新型モビルスーツの奪取。
そしてオーブが極秘に持ち込んでいた新型可変モビルスーツでの迎撃行動。
緊急事態とは言え、外交的には致命的な国際問題に発展することになる。タリアは隣にいるデュランダルを見たが、彼は別段青ざめるわけも無様に狼狽ることもない。むしろ、アーモリーワン宙域でオーブが介入してくるのが当然だと分かっていた様な落ち着き様である。
「インパルスのパワー危険域です。最大であと300!」
オペレーターの若い赤い髪の女性からの声で、タリアはハッと顔を上げた。事態を鑑みても、オーブがこの戦いに介入している事実は変わらないし、なにより意表を突かれたザフトに奪われた新型機を追える戦力がないのも明白だった。
故に、タリアはミネルバの艦長として決断する。
「インパルスまで失うわけにはいきません。ミネルバ発進させます!!」
「艦長ぉ!!」
情けない副長の声を無視して、タリアは隣にいるデュランダルへ、答えは分かっている質問だとわかりながら、あえて言葉を投げる。
「よろしいですね?」
「ああ。頼む、タリア」
何の迷いもなく頷いたデュランダルを見て、タリアは肩をすくめる。この人は、〝何を見て〟、その決断を下しているのか。そんな問答をしても今は意味がない。だから後にする。今はとにかくインパルスとパイロットを失わないことが最優先だ。
「ーーミネルバ、発進シークエンススタート」
「本艦はこれより戦闘ステータスに移行する!SCSコンタクト、兵装要員は全ての即応砲弾群をグレードワンへ設定!」
副長の声と同時に、進水式典を待つ身であった巨大な新造船艦は、その息吹を吹き上げながら発進準備を整えていく。ドッグに鳴り響くアラームの中で、タリアはデュランダルに小さく言葉をかける。
「議長は早く下船を」
この船は、〝今この瞬間をもって戦場に出る船〟となったのだ。彼らが安全だと言って避難してきた場所が、戦線の最前線となる。そんな場所に、ザフトの要人…それもプラント最高評議会の議長を置いておくわけにはいかない。
そんなタリアの言葉に、デュランダルは困った様に笑った。
「タリア、とても残って報告を待っていられる状況ではないよ」
「しかし…」
「私には権限もあれば義務もある。私も行く。許可してくれ」
言葉とは裏腹に、熱のない目と表情がタリアを射抜く。彼はいつもそうだった。あの時から今までずっと、彼の目に熱があるところを、タリアは見たことがない。
そして、そんな目をする彼もまた、自身の言葉を曲げない意固地さがあるのを、彼女は充分に理解していた。
「ーーー承知しました」
折れるようにタリアが瞳を伏せて、体を前に向ける。そして、ほんの少し間が空いたのち、デュランダルは思い出した様にタリアへ語りかける。
「ああ、そうだ。確かオーブの来賓方も…」
「本艦は此より発進します。各員所定の作業に就いて下さい。繰り返します、本艦は此より発進します。各員所定の作業に就いて下さい!」
デュランダルの言葉は、同時にタリアが発した命令に打ち消されて、ブリッジは喧騒の中へと包まれていくのだった。
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「で?何だってオーブの人間が何故ここにいるんだ?」
フォースシルエットが射出されて、落ち着きを取り戻したハンガーの中で、ハイネは改めてオーブ一行に言葉を向ける。
ザフトのパイロットからしても、オーブの勢力がこの場にいることは知っていないし、何よりオーブの軍用機がこちらの事態に介入することが異常なことだった。
ハイネの言葉に、サングラスをかけ『アレックス』となった彼が単調な言葉で答える。
「ーーこちらはオーブ連合首長国議員のカガリ・ユラ・アスハ氏と、ブルーコスモスのフレイ・アルスター事務次官だ。俺はアレックス・ディノ。あとはオーブ軍が指定した民間PMCの随員護衛だ」
「モビルスーツの装備のロック、忘れるなよ!」
アレックスが状況を説明する中でも、ハンガーの作業は続いていた。
まだ物資搬入の途中であったハンガーは、ひどく乱雑に物資が配置されており、割り当てられた作業員たちもミネルバのマニュアルを見ながら作業にあたっている有様で。
「あーもー…!見てらんないわね!あんた達!」
その凄惨たる作業現場を横目でチラチラと見ていた女性。まだ慣れていない作業員たちのちょっとしたミス。それが繰り返されて遅延していく作業。マニュアル頼りの臨機応変のなさが際立つ作業。
その全てが、フレイ・アルスターの〝癪に触れる〟!!
腕まくりをして髪の毛を結い上げたフレイが、手際の悪い作業をするヴィーノの横に大股で歩いてきて、端末を奪い取った。
「な、なんだよ。アンタは…」
「モビルスーツの装備ロックでしょ!?マニュアルなんて見ながらやってたら、太陽が一周した上に船に穴が空くわ!」
マニュアルに軽く目を通したフレイは、素早く端末を操作していく。師の受け売りであるが、『形式は違えど根本的には同じ』という物があって、オーブとザフトとは言え、やることは変わりはない…考え方さえ変えれば、フレイにとってはザフトもオーブも地球軍も変わりない。
それに、先程の戦いで新型ザクの規格を一通り目を通しているので、解読には手間は掛からなかった。
「は、早ええ…」
四苦八苦していた端末の操作を、まるで手足の様に操るように遂行していくフレイの姿を見て、ヴィーノとヨウランが引きつった顔つきで、その作業に何も言えずに呆然と見守る。
「…僕たちは、デュランダル議長との会談中に騒ぎに巻き込まれ、避難もままならずに議長と共にこの船に乗ることになったんだ」
そんなフレイの姿を見て見ぬふりをして、キラがアレックスに続いてハイネの問いに答える。
機能停止した行政府に避難した後、オーブの船に戻ることも検討したが、アーモリーワン内部の有毒ガスの影響もあって、デュランダルの許可のもと、このミネルバへと避難してきたのだ。
「ただ、肝心の議長とは何も話せてないんだ。こちらに入られたのだろ?御目に掛かりたい」
カガリもオーブの議員として、説明責任がある。故に議長とも今後のことで話はしなければならない。オーブとしても、今回の事態には何らかの対応が要求されることになる。
とにかく、今は事態の終息を待った上でオーブの船に戻り、本国やアズラエル理事と連絡を取ることが優先だ。
ーーだが、事態はカガリたちの予想を裏切る方向へと動き出そうとしていた。
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「くそ…敵はどこに」
アーモリーワンから抜けた三機の新型機は、デブリ宙域へと隠れる。レイやラリーと交戦していた三機は、まるで何かに導かれる様に別方向へと動き出して、瞬く間のうちに二人を出し抜いて行方をくらませたのだ。
「ザフト機!一旦退け!闇雲に出てもエネルギーを消費するだけだ」
ただでさえ先の大戦の残骸が多い宙域でだというのに、こんな状態で闇雲に動けばどうなるかわかったものじゃない。もし仮に、新型機を回収しにきた〝勢力〟の部隊に待ち伏せでもされていたら、窮地に立たされるのはこちらだ。
そんなラリーの忠告に耳をかさず、レイはデブリ宙域の中をどんどん進んでいく。
『あの機体…予想通りか。それにーー貴様もいるな?流星様よ』
デブリの中。
出力を落とした一機のモビルアーマーの中で、マスクをかぶった人物は目を細める。モニターに映るのは、見失った三機を探すザフトの新型機と、そしてモビルアーマー形態となったオーブの機体。
間違いない。あれに乗っているのはーー。
『〝特異点〟…その力ーー見定めさせてもらうか。無事に帰れよ、お前たち!』
そう言って通信を繋げた〝ネオ・ロアノーク〟は、しっかりと誘導したスティングたちへ指示を出した。退路は確保してある。あとは宙域の外で待っているガーティ・ルーに回収して貰えば、スティングたちの任務は達成される。
『了解!いくぞ、アウル!お前がそうしたんだ、責任持ってステラを船に引っ張ってけよ!』
『えーー』
『死んでない…あぁ…あたし大丈夫…大丈夫よね、ステラ…』
スティングはネオの指示に頷くと、まだ立ち直っていないステラと、ぶーたれるアウルを連れて指示された航路を行く。
スティングにとって、彼は信頼できる人物だった。そして、彼が『メビウスライダー隊』のことを与太話ではないと信じていた理由もネオにある。
メビウスライダー隊は行方を眩ませた?そんなもの、信じるに値しない話だ。
『ネオ・ロアノーク』という男が自分たちの隊長として居てくれる以上、流星が行方を眩ませたなんて話は、〝嘘〟なのだから。
「大佐より入電!ガーティー・ルーはブルー18、マーク3アルファに進行せよ、とのことです」
「見つけたようだな。さすがは大佐だ」
あとは上手くやってくれるだろう。そう言って艦長であるイアン・リーは笑みを浮かべる。
彼こそが自分たちにとっての切り札だ。
『流星の再来』
そう呼ばれるネオ・ロアノークの戦いぶりを、特とご覧頂くとしよう。
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《システムコントロール、全要員に伝達。現時点を以て、LHM-BB01、ミネルバの識別コードは有効となった。ミネルバ緊急発進シークエンス進行中》
ドックから発進したミネルバは、順調に宙域へと出る準備を進めていく。外縁部へ繋がるリフトを降りながら、ミネルバはその秘密に包まれていた姿を現していく。
《コントロール、全チームスタンバイ。ゲートコントロールオンライン。ミネルバリフトダウン継続中。モニターBチームは減圧フェイズを監視せよ》
降下するリフトの感覚を味わいながら、シンは指示に従って移動させたメビウス・ストライカーから出ると、隣でザクの固定作業をしてある作業員、ヨウランへと話しかけた。
「宇宙へ避難するのか?この艦。プラントの損傷はそんなに酷いのか」
「酷いなんてもんじゃないさ。あちこちから空気漏れが起こって毒ガスも発生してるって」
それを聞いて、シンの顔が強張る。敵はコロニー内であれだけビームライフルを使用したのだ。大きな穴が空いたこともあり、アーモリーワン内部の状況は予想よりも酷いものとなっている。
「くっそ…!!あいつらめ!!」
もう少し、自分がうまく動けていれば。そんな思いがこみ上げてくるが、シンはグッと握りしめた手を眼前にあげる。軽く握っては離しを繰り返して、罪悪感にも似た思いを鎮めた。
そういう思いで戦場に出れば死ぬ。
戦争はヒーローごっこではない。
どちらも師から教わったことだ。自分が兵器に乗っている以上、割り切れる心と、それを納得できる気持ちがなければ壊れてしまう。
戦いの中で、傲りが一番そのパイロットを危うくすることを、シンは理解していた。
「シン!アンタも手伝いなさい!」
そんなシンに、いつのまにかザフトの作業員の上着を身につけたフレイが指示を飛ばす。
「わかってます!!」
シンはフレイの言葉に答えると、スルリとメビウス・ストライカーから降りて、彼女と共に山積みの搬入作業を手伝っていくのだった。
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「ザフト機!2時の方向!ボギーだ!!」
突如として、それはやってきた。アラームが鳴る前に光を見たラリーは、怒声の様な声でデブリの中を彷徨うインパルスへ叫ぶ。
「高エネルギー反応!避けろ!」
レイからの返答を聞かずに新たな情報を投げたラリーは、機体を鋭く動かして降り注いできた閃光を避ける。
レイも習う様にインパルスを挙動させたが、その閃光はコクピットをギリギリ逸れて通過していく。
「おいおいおい、嘘だろ…?」
ラリーは頭上を見上げて、思わず息を呑んだ。
迫り来る敵の姿。
それはまるで、鮮やかな流星。
独特なシルエットが浮かび上がり、飛来するそれは、機敏な動きを見せながらラリーの乗るメビウス・ストライカーへと急接近していく。
ネオ・ロアノークは、この瞬間を信じても崇拝もしていない神に感謝しながら、ニヤリと笑みを浮かべた。
『さあ、見せてもらおうか…流星!!本物の力っていうやつを!!』
「あの機体はーーメビウス!?」
駆るはメビウス。
共に名を冠した〝流星〟
二つとなった流星は、始まりの場所で運命が交錯していく。