ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第9話 アーモリーワンの戦い 3

 

 

 

「ミネルバ発進。コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。パイロットは直ちにブリーフィングルームへ集合して下さい!」

 

それは突然の報であった。アーモリーワンの外縁部のゲートから宇宙へと出たミネルバは、あろうことか〝戦闘配備〟を意味するコンディションレッド発令の勧告を艦内へと流したのだ。

 

有毒ガスや混乱したコロニー内から避難するために宙域へ出るのだと考えていたオーブ一行にとって、ミネルバのコンディションレッド発令は、まさに寝耳に水であった。

 

「おい、この船は戦闘に出るのか!?避難するわけじゃなく!?」

 

手持ち無沙汰と、職人気質でバリバリ指示を飛ばすフレイに触発されて、全員で散らかっていた物資を片付けていた中、突然の艦内放送にアレックスがハイネやヴィーノに詰め寄る様に問いかける。

 

だが、彼ら自身もアーモリーワンの混乱で指令をまともに受け取れていない状況であり、ミネルバ艦内も浮き足立っているのは明白であった。

 

そんな彼らに詰め寄るのは少し…と思ったキラ。

 

それは彼の人となりから現れる善意からの発言だった。

 

「アスラン!今はそう言っても…」

 

そこでキラはハッとなる。カガリがキラの方を見て固まり、アレックスことアスランの動きも止まる。

 

「えっ?」

 

「あっ」

 

ハイネの溢れるような声。シンやフレイの「この人やりやがった」という何とも言えない顔。そして後ろではリークとトールが一緒に運んでいたコンテナに手をかけながら、静まりかえったハンガーの中にいるアスランを見つめた。

 

「…アスラン…?お前、アスラン・ザラか!?」

 

「あちゃーー」

 

誰の声か分からなかったが、ハイネの驚いた声によって、アスランの正体はミネルバの作業員全員へと周知されることとなった。

 

そのあと、手が止まった彼らの尻を叩くように、フレイは数回咳払いをして片付けの指示を再度出していくのだった。

 

 

////

 

 

ミネルバから先。

 

先の大戦によりできたデブリ宙域の中で、ラリーは驚愕の顔色を見せていた。

 

「なんだ…この機体は!!モビルアーマーだと?」

 

隣にいたレイのインパルスも、現れたモビルアーマーに驚きを隠せずにいる。

 

相手はメビウス。

 

それも型落ちしたタイプのものであり、手は加えられているが一見したイメージではとても手強い相手とは感じられない風貌をしている。

 

だが、レイは知っている。

 

メビウスという機体にまつわる、恐ろしく、鬼神じみた伝説の数々を。

 

「いったい何の冗談だ…コイツ!」

 

警戒するレイの隣で、ラリーは吐き捨てる様に呟く。メビウスという機体の意味。ラリー自身にとっても切っては切れない感情を持つ機体ではあるが、あれは明らかにグリマルディ戦線時代に活躍したタイプのメビウスだ。

 

大戦中や大戦後にも、いくつかのマイナーチェンジやモデルチェンジが施された機体を、ラリーはチューンして乗りこなしてはいたが、相対する機体はまさに初期型。

 

それこそ、ラリー自身が〝初めて乗っていた〟

メビウスのそれだった。

 

「こいつ…!!」

 

悠然と現れたメビウスは、呆然としたラリーへレーザー光を浴びせる。機体にはロックを知らせる警告が鳴り響いた。ラリーはすぐに機体を挙動させると、宙域に浮かぶメビウスへ銃口を構える。

 

メビウスの伝説は多くある。それ故に旧型のメビウスを験担ぎ的な意味で乗る人間もいる様だが、戦場に出すにはあまりにも古い機体だ。

 

とにかく、エンジン部を狙って行動を不能にするほかにはない。そう考えた上で、ラリーはライフルから閃光を撃ち放った。

 

(そんな殺意のない攻撃など…!!)

 

その閃光を見てから、〝ネオ・ロアノーク〟は挙動を開始した。

 

機体のスラスターを全開に吹かしながら、メビウス特有のフレキシブルスラスターを「マニュアル」で操作し、機体を鋭敏に動かして伸びてきたビームを紙一重で避けたのだ。

 

(今のを躱した!?)

 

『さすがは流星と言ったところか。だが、俺とて間抜けではなぁ!!』

 

ネオが発したコクピットの台詞は鮮明にラリーへと届いた。明らかに向こうは余裕がある。いや、それよりも自分の技量を見極める様な動きをしていると言える。

 

「くっそぉ!俺のことを知っている…!?」

 

相手には聞こえないはずのラリーの毒づいた言葉。それを発した直後、ネオはマスクの大半で表情が隠れる中、口元だけをニヤリと吊り上げる。

 

『やはり〝聞こえるか〟。いい動きだな、流星!!そうでなくては…!!』

 

まるでラリーの独り言に呼応するかの様な敵の台詞に、今までにない感覚を味わう。操縦桿を握る手が久しく強張る感じを思い知ったラリーは、確認するように言葉を投げた。

 

「なんだ…?通信は繋がってないはずだぞ!?」

 

『聞こえているなら良い!やはりお前は本物だったか!ならば、ここで出てきた甲斐があったと言うもの!!』

 

言葉の応酬とは言えない投げ合い。そんな中からネオは止まっていた時間を取り戻す様に、機体を挙動させ始めた。

 

その動きははっきりとわかる。

 

異常なほど鋭く、速く、正確でありながら、激情の中にある様なプレッシャーを与えてくる。

 

「くっ…!!なんだこの機体は!?」

 

その異常性をラリーはよく知っていた。

 

体感したことがある感覚だから。ヘリオポリスからヤキンドゥーエの間に死闘を繰り広げた相手。彼と相対したときに味わった緊張感やプレッシャーと、今味わうものが酷似していたのだ。

 

「何をしている!止まっていたらただの的だ!この敵は普通とは違う!動け!」

 

レイに向かって叫びながら、ラリーも機体を可変させる。モビルスーツ形態ではやられると直感で理解したのだ。光の尾を引き連れながら、二人の機体が交差すると、レイの目の前で信じられない様な絡み合う攻防戦が始まる。

 

(この動きは尋常じゃない…次は直撃させる!)

 

クルーゼ戦から感じることが少なくなった高負荷のGの中で、ラリーは冷や汗を流しながら鋭い挙動をする敵のメビウスの背後を捉える。

 

『さぁ、撃ってこい…さぁ!!撃てよッ!!』

 

罠か?だが当たれば——!!

ネオの言葉を思考から削り落としながら、ラリーはターゲットに捉えたメビウスへ再びビームを放った。

 

モビルアーマー形態で機体下部に懸架したビームライフルから放たれた閃光は、今度こそネオのメビウスを捉えて…。

 

「なんだと!?無傷…!?」

 

インパルスからそれを目撃したレイが驚愕の声を上げた。ラリーの放ったビームは、ネオのメビウスに着弾する寸前に、光の膜にぶつかり飛散する様に弾き出された。

 

メビウスは稲妻の様な物を迸らせながら、ラリーの動きを嘲笑う様に悠然と宇宙を飛んでいる。

 

「あの反応は…!!」

 

『ふふふ…アッハッハッハ!!なんだ、使えるじゃないか!!〝プライマルアーマー〟とやらは!!』

 

「あれは、セラフの時と同じ…!!」

 

ラリーしか知ることのない世界であり得た、狂気の防護壁。自然環境を贅として、戦いに明け暮れる人類が生み出した業を体現するモノが、ラリーの前に立ち塞がった。

 

 

////

 

 

「気密正常、FCSコンタクト、ミネルバ全ステーション異常なし!」

 

副長のアーサーが出航したミネルバの状態を知らせる。処女航海がとんだモノになったものだと、タリアは息をつきながら自身がなすべき職務に従事する。

 

「索敵急いで。インパルスの位置は?」

 

「これは…!インディゴ53、マーク22ブラボーに不明艦1、距離150!ライブラリー照合…対象ありません!」

 

最大望遠で表示される敵の影。おそらく、奪取した三機を迎えにきた船だろう。所属も何も明らかにはならないが、パトロール隊を撃破したのも、おそらくあの船だ。

 

「それが敵の母艦か?」

 

「でしょうね。初見をデータベースに登録、以降対象をボギーワンとする!」

 

デュランダルからの問いかけに簡潔に答えながら、タリアはミネルバのクルーへ指示を飛ばした。

 

「ボギーワンを討つ!ブリッジ遮蔽、進路インディゴデルタ、加速20%、信号弾及びアンチビーム爆雷、発射用意!!」

 

処女航海も間もないのにいきなり戦闘ですかぁ!?そう叫びたくなるアーサーは、なんとか言葉を飲みこんで自身を落ち着かせる。大丈夫だ、訓練通りにすれば何も問題はないはずだ。

 

「え…あ…ぁぁはい!ランチャーエイト、1番から4番、ナイトハルト装填。トリスタン、1番2番、イゾルデ起動!照準ボギーワン!!」

 

アーサーの指示のもと、ミネルバに搭載された火器武装が次々と展開されていく。

 

「彼等を助けるのが先じゃないのか?艦長」

 

「そうです。だからこそ母艦を討つんです。敵を引き離すのが一番早いですから。この場合は」

 

搭載機のインパルスは不明機と交戦しているとのことだ。おそらく三機を回収したであろうあの船を逃すことは、避けなければならない。インパルスや合流して戦っているオーブ軍の機体のこともある。タリアの覚悟は決まっていた。

 

『戦艦と思しき熱源接近。類別不明、レッド53、マーク80デルタ!』

 

敵艦であるガーティ・ルーもミネルバの存在に気がついていた。艦長であるイアンは内心で敵の動きに称賛を送る。こちらはまだ三機を回収している最中だ。それにネオの機体も戻ってくる気配がない。

 

ならば、するべきことは一つだ。

 

『例の新造艦か?面舵15、加速30%、ゴットフリート、イーゲルシュテルン起動。大佐の機体は?』

 

そう問いかけたイアンに、オペレーターは何も返せなかった。

 

ただ、彼の眼前にあるモビルアーマーの戦いの様子だけは鮮明に映し出されており、その動きは今まで見たことがない、常軌を逸した戦いが繰り広げられているのだった。

 

 

 

 

 


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