ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

16 / 21
第14話 伝説と流星

 

 

 

「——貴方は?」

 

突然議長らに声をかけてきたことに、タリアが怪訝そうな表情に変わる。議長も向かい合った人物に少しばかり顔を硬らせた。

 

いつぶりの再会か。ラリーは前大戦でクルーゼの我儘に振り回されていた頃のデュランダルを思い返して小さく笑うと、真面目な面持ちでタリアたちへ敬礼を打った。

 

「失礼しました。民間軍事企業「トランスヴォランサーズ」のパイロット、ラリー・レイレナードです。この度はオーブ軍からの依頼により、カガリ・ユラ・アスハ議員の護衛隊長を受け持っています」

 

民間軍事企業「トランスヴォランサーズ」。

 

ラテン語で〝流星〟の意味を持つ単語を織り交ぜた企業名は、設立時に多くの投資をしてくれたアズラエル理事のアイデアだ。

 

地球軍との戦闘の後。前大戦終結後にオーブを占拠していた地球軍が撤退する際、オーブの動向を監視する名目で、オノゴロ島の南東部に位置する湾岸基地に地球軍が駐留することになった。

 

だがそれは表向きであり、そこに出入りする地球軍の関係者は極端に少なく、ハルバートン提督やアズラエル理事の息の掛かった信頼できる者しか内情は知らない。

 

その基地に籍を置くのが、「トランスヴォランサーズ」だった。

 

ラリーたちの主な任務は、地球軍が軍を出すには危険な場所への偵察や要人の護衛、救出。オーブ軍とアズラエル財団、ハルバートン提督帰属の地球軍からのオーダーを受けることで機能する、言わば地球圏最高勢力の懐刀といえる存在だ。

 

組織に属さない少数精鋭な上に、自由度と汎用性が高いことから多くの極秘ミッションや警護、救出任務を成功させている影の功労者とも言える。

 

そして、その企業の主軸とも言える戦力が——。

 

「まさか、君がここに来ているとは思いもしなかったよ。〝流星〟」

 

先ほどまで抑揚の無かった声に、僅かにだが高揚が見えた。はたと、デュランダルの放った言葉に、タリアやアーサー、アスランを怪訝な目で見つめていたハイネや、フレイの手伝いをしていたヴィーノたちと…。

 

ラリーの出時を知る者以外が途端に固まり、空気にピシッと何かが走るような幻聴が聞こえた。

 

「流星…?」

 

タリアが震えそうな口でそっと呟く。

 

誰もがその意味を脳内にリフレインさせると、隣にいたアーサーの顔が一気に白目から青色へと染め上げられていった。

 

「流星…流星って、ネメシスですか!?」

 

「アーサー!!」

 

「あぁ…いや!す、すいません!!」

 

つい口にでてしまった言葉に、アーサーはひれ伏す勢いでラリーに向かって頭を下げる。

 

流星。

 

またの名をメビウスライダー隊、〝凶星〟ネメシスと呼ばれた存在。

 

グリマルディ戦線から、数多くの伝説と恐怖をザフト軍に与え続けてきた英雄の呼び名だ。

 

前大戦でモビルスーツに劣るはずのモビルアーマー「メビウス」に乗り、その類稀なる操縦技術と戦闘能力で、多くのモビルスーツ、エースパイロットたちを撃破し、戦争終結の突破口となった伝説のパイロットだ。

 

「じ、実在したんだ」

 

ヴィーノの溢れるような言葉。

 

事実、ザフトではその存在は大戦後から否定的な論議が交わされた。

 

世論では「流星」という存在は、前大戦の悲惨さを象徴する象徴として処理され、その実態、事実関係は封鎖。ザフト軍やプラント政府にも徹底した緘口令が敷かれ、全てが闇へと葬られたのだ。

 

「議長!」

 

動揺が広がる中、今度こそタリアが怒りを孕んで声を荒げた。ただでさえ、前大戦ではその首に莫大な懸賞金がかけられた存在であり、それを亡きものにしたプラント政府にとって、デュランダルが発した言葉はあまりにも危険だった。

 

「やはりプラントとしては、流星の存在は秘匿しておきたいはずだったようだが、言って良かったのか?」

 

当の本人であるラリーは、おくびにも出さずデュランダルに問いかける。たしかに、ラリーたちの存在はある一定の秘匿性はある。

 

それはあくまで平時の時だ。

 

ザフト軍の新鋭艦に乗り、さらには何者かによって極秘に開発されていたモビルスーツが盗まれていた現場に居合わせるなどと、そんな異常な状況下では薄っぺらい秘匿性など無意味に等しい。

 

「構わんよ。状況が状況なのだから」

 

デュランダルも同じような思いだろう。

 

レイが乗るインパルスと比べ、後で合流していたはずのオーブ軍機の方がひどく消耗している。それだけで、流星と呼ばれた彼が如何に苦戦したかなど容易に想像できた。

 

デュランダルはクルーゼと彼の死闘を知っている。その異常性と能力についても。そんな彼をここまで追い詰めたのだ。敵にも自分たちが想像する以上の〝不確定要素〟が存在しているのだろうか。

 

「まぁ、貴方が流星なのですか!?」

 

ふと、固まっていた他の面々の中から、畏怖や恐怖を含まない純粋な驚きの声が上がった。バルトフェルドの横を飛び出したミーアが、デュランダルと向き合っていたラリーに駆け寄る。

 

「私、ミーア・キャンベルと言います!お会いできて光栄です!」

 

彼女はそういうとすぐにラリーの手を握って顔を近づける。カラン、とハリーが持っていた工具を床に叩きつ……無重力なのに落とした音がハンガーに響いた。

 

そんな遠回しな威圧に気付いてないのか、無視しているのか、ミーアは構う気もなくラリーにラクスにはない人懐っこい笑顔を見せた。

 

「ミーアは彼を知っているのかい?」

 

「はい!砂漠の流星のファンですから!」

 

「さ、砂漠の流星?」

 

「はい!!」

 

砂漠の流星…聴き慣れない言葉だ、とラリーは首を傾げた。

 

そんな彼ら流星がアフリカの地で戦った軌跡を描いた大ヒット小説、アフリカで流星らと共に戦った戦士サイーブの息子が出版した「砂漠の流星」を知ることになるのは、まだ先のことである。

 

「キャンベルさん、今は」

 

タリアの声に、気分が高揚していたミーアはハッと気がついたのか、困ったように笑って戸惑うラリーの元から離れていく。タリアは一息つくと気を取り直して改めて語りかけてきたラリーへ言葉をかけた。

 

「で?そんな貴方は何故、何者かに奪取された三機に関心があるのですか?」

 

ミーアの勢いに気圧されたラリーも、不信感のこもったタリアからの声に真剣さを取り戻して答える。ただし、返す相手はタリアではない。

 

「デュランダル議長。ひとつ解せないことがある」

 

「聞こう」

 

タリアからの視線に気づきながら、デュランダルはあえてそう答える。議長からの許しを得て、ラリーは改めて本題へ入った。

 

「そもそも、なんで敵はモビルスーツ奪取の計画を実行したんだ?この船の進水式がある前日の今日に、だ」

 

敵の勢力…ラリーは検討は付いているが、この世界がDestiny通りの世界である保証はない。現に、ミネルバでカガリを憎んでいたはずのシンが、こちら側にいるのだ。トールもフレイも、そしてラクスと共にミーアもいる。

 

この世界で起こることは全く予想が付かないのだ。故に、あえてデュランダルに問いかける。

 

なぜ今、あの新型の奪取の計画が実行されたのかを。

 

「それは、ミネルバの進水式があったからで…」

 

「式典の準備なら、もっと前から始まっていただろう?それこそ、あの機体達が運ばれてきたタイミングを狙うこともできたはずだ」

 

タリアの答えを聞く前に、ラリーはバッサリと言葉を投げた。ミネルバの進水式前とはいえ、より警備が手薄だった搬入時や、それこそ〝ヘリオポリス〟のようなやり方も相手は取れたはずだ。

 

「ザフト軍の新型機開発を、世界に知らしめるため?」

 

「式典当日を狙った方が効果的だ」

 

カガリの推察もおそらく違う。

 

現に今回の事件では、プラント政府にとっては大きな損害にはなったが、地球圏にはあまり情報が流れていない。地球への中継テレビが入るのも進水式の当日からだった。

 

プラントとしても、新型機を開発していた情報管制の包囲網なら、いくらでもやりようはあるはずだ。

 

「じゃあ、何が目的で…?」

 

不安げな声で言うアーサーに、ラリーは一つの予感を告げる。

 

「——おそらく、俺たち」

 

「僕たちが、ですか?」

 

会話に加わってきたキラやリーク。そしていつの間にか真剣な面持ちで聞くバルトフェルドやフレイたちも、ラリーを中心に集まってきていた。

 

「極秘のオーブとの会談。しかも、アスハ議員が議長に連れられて工場の視察を行っていたときに、事件は起きた。たしかに偶然にしては出来すぎている」

 

視察もスケジュールも、今回の密談では大まかには設定されていない。視察としても、ザフト側が提案してきたことだ。ラリーのデュランダルを見る目が少しばかり強い何かを持ち始めている。

 

今回のこと。

 

そしてミーア・キャンベルという存在。

 

ラリーにとって、デュランダルという相手もまた、気の抜けない相手に変わりはない。

 

「だが、敵の目的はあくまでザフトの新型機だったぞ!殺すのが目的ではないと言うことになる」

 

「相手がアスハ議員の存在を知っていたということは、偶発的に事件に巻き込まれての死亡を狙ったということか?」

 

「そう。ポイントはそこだ」

 

カガリとアスランの言い分に、ラリーは語気を強くして頷く。重要なポイントとしては、そこになる。

 

「敵は俺たちの存在は気付いていたが、結論的には〝俺たちの死を目論んだわけじゃない〟」

 

「どういうことだね?」

 

この事に関してはデュランダルも疑問的だった。そしてラリー自身が、デュランダルを完全に疑えていない理由にもなる。

 

カガリとフレイ。

 

オーブとアズラエル財団の重要なポイントになり始めた二人であり、ナチュラルを蔑視するコーディネーターやプラント関係者にとっては目の上のたんこぶと言ってもいい。始末するならばあの瞬間が絶好のチャンスだった。

 

もし仮に、デュランダルが今回の件に〝関わっている〟ならば、この千載一遇のチャンスを物にしないはずがない。

 

故に、そこが分かれ目とも言えた。

 

「オーブは今や各国に対する楔だ。軍事力をひけらかさず、増長させず、世界に一定のバランスを保つために動き続けている。だからこそ、大っぴらに要人を暗殺するのは不味い。だから〝ついで〟だったんだ」

 

あの作戦や敵の動きからして、ザフトの新型機を奪い、アーモリーワンの工廠としての能力を低下させることはわかる。仮にあの場でカガリたちが死んだとしても、敵にとっては死因をプラントになすり付けれてラッキーくらいにしか思っていないのだろう。

 

新型機を秘密裏に作っていたザフト。

 

そんなザフトと密談をしていたオーブ。

 

そんな状況だけでも分かれば、燻っている〝内部の人間〟を焚き付けるには効果が絶大だ。

 

「敵にとって第一目標が新型機で、第二目標はオーブの要人と実働部分をプラントに足止めし、オーブの能力を一時的にでも麻痺させることにあったと推測は立てられる」

 

「待ってください。そうすることで敵になんのメリットがあるというの?」

 

「さっきも言っただろう?オーブは世界の均衡を保つ楔だと。その楔は今や、地球圏復興の立役者的な物になっている。オーブが先頭に立ってノーと言えば大きく動けない勢力もあるだろう」

 

たとえば、コーディネーターを蔑視するナチュラル勢力。たとえば、戦争経済で潤っていた者たち。たとえば、戦争を境に独立を狙っていた独裁国などなどなど。上げればキリがなくなるほど、今の地球圏は混沌としている。

 

その危ういバランスを何とか保持しているのが、オーブとアズラエル財団だ。

 

「代表的な象徴である、アスハ議員やアルスター事務次官がプラントにいる。殺害、少なくとも足止めされれば、都合がいい奴らがいると言うわけさ」

 

「都合がいい…勢力」

 

シンの言葉に、キラやアスランもなんとも言えない顔になる。また戦争がしたくてしょうがない馬鹿どもが地球にはウジャウジャといるのもまた事実だった。

 

「待ってほしい。敵が属している勢力はまだ確定してないでしょ?」

 

「オーブとしても大西洋連邦やユーラシア連邦にも打診はしてあるが、知らぬ存ぜぬの一辺倒でな——しかし、話ではかなりきな臭い様子らしい」

 

これはカガリたちがプラントに来る前からそうだった。力を取り戻し始めた大西洋連邦が、過去の過ちを繰り返さないように警告をしているが、向こうからの返事には良いものは無い。あったとしても表面上の言葉だけだ。

 

「何を企んでいるかは分からんが、今の状況を面白くないと思っているのは確かだろう。特に大西洋連邦の体質を抜本的には解決していないからな」

 

そう言うバルトフェルドの言葉に、アズラエルと共に多くの国を見てきたフレイも同感だった。

 

「アズラエル理事も同じことを言っていたわ。向こうにはブルーコスモス幹部のロード・ジブリールが居るから、油断はできないって」

 

アズラエルが実質離脱しているブルーコスモスで、急速に台頭し始めたらしいジブリールの力。それがどうあれ、地球圏は再び不安定な状況を呼び覚まそうとしているように思えた。

 

「問題はこの事件の裏にいる誰が何を企んでいるか…それを知るためにも、あの新型を追う必要がある」

 

ラリー自身にとっても、彼らを追う必要があった。

 

宇宙で会った、あの「メビウス」。

 

自分とほぼ同じ力を持つあの機体に乗るパイロットの正体を知らない限り、ラリーの中にある不信感や不安が消えることはない。

 

《ブリッジより艦長へ!ボギーワンを捕捉しました!オレンジ55、マーク90アルファ!》

 

ミネルバにアラームが鳴り響く。艦内放送で呼び出されたタリアは、すぐに近くにある通信機器に飛んでゆき、ブリッジへ指示を飛ばした。続くように若い女性の声がミネルバに響いた。

 

《敵艦捕捉、距離8000、コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ!》

 

「最終チェック急げ!始まるぞ!」

 

「だぁやべぇッ!」

 

ヴィーノやヨウランが、他のスタッフに尻を叩かれるように急かされる。すぐに発進状態にするために、二人も待機しているザクのもとへと飛んでゆく。

 

「申し訳ありません議長!」

 

タリアたちもデュランダルに敬礼を打ってすぐにブリッジへと向かった。そんな彼女達を見送った後、デュランダルは困った顔でラクスやカガリの顔を見つめた。

 

「本当に申し訳ない。できれば貴女方には戦闘の前に離脱して頂きたかったのですが」

 

今から離脱しようにも危険は伴う。ならばいっそミネルバで同行してもらえた方がデュランダルにとっても都合はいい。

 

「——ところで議長。ひとつ提案なんだが」

 

そんな彼に、イレギュラーであるラリーが笑みを浮かべて言葉をかける。

 

「何かね?」

 

 

 

 

「俺たちを雇わないか?」

 

 

 

 

 

逃した敵を捉える射程距離まで、残り3000。

 

次の戦いが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。