ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第17話 デブリの戦い 2

 

 

「ナイトハルト、てぇ!」

 

ラリー達がデブリ内でのモビルスーツ戦に身を投じる中、ミネルバはデブリの小惑星群に身を隠しながら、依然有利な場所から艦砲射撃を継続している。

 

「くっそー!!バカスカ打ってくるぞ!!」

 

ダガー隊を蹴散らしたシンは、隕石群に身を隠しながら飛来するミサイルやダガー隊の迎撃で手一杯だ。

 

「艦長!これではこちらの火器の半分も…!」

 

「浮遊した岩に邪魔されてこちらの砲も届きません!」

 

射角を取ろうとミネルバも動くが、相手が常に優位な位置を確保していることと、こちらの動きが身を守ってくれる隕石群によって制限されている状況もある。

 

「後ろを取られたままじゃどうにも出来ないわ!回り込めないの?!」

 

どうにか打開策を打ち出そうとタリアが策を練るが、状況がそれを許さない。すぐ横の小惑星に敵艦のゴットフリートが直撃し、揺れと衝撃がミネルバを襲う。そんな状況を見つめるデュランダルの隣で、アスランとカガリも今の状況の悪さに渋面を作っていた。

 

シンも奮戦しているが、この有利さが覆らない限り、今の状況を打開することは困難だ。

 

「くうッ!くっそぉー!!こっちの新型を!!この泥棒がぁッ!」

 

デブリ内でも、ハイネとレイが連携をとって迫るガイアへ攻勢を翻す。ハイネ用にチューンされたザクとは言え、新型機であるガイアには性能面で大きく劣る。レイのフォローや、逆にハイネがレイをフォローすることでガイアとの立ち回りを維持できていると言えた。

 

『落とす!!』

 

モビルアーマー形態へ変形し、デブリ内の小惑星を縦横無尽に闊歩するガイアに手こずる2人からわずかにそれた方向。

 

『回り込めアウル!今度こそ首貰おうぜ!』

 

『僕は別に要らないけど!!』

 

そこではカオスとアビスが、戦闘状態へ突入したメビウスライダー隊との交戦を繰り広げていた。隕石群の合間を飛ぶリークのメビウスに、カオスが機動兵装ポッドを展開して追い立てる。

 

放たれた小型ミサイルの雨を掻い潜りながら、リークはヘルメットの中で唇を軽く舐めて集中力を高めた。

 

「こっちの位置を把握されているなら…!!」

 

操縦桿を操るリークの機体は、ひらりと隕石群の中に空く穴の中へと突入してゆく。

 

機体一つが通れる穴を鮮やかな動きで抜けたリークは、カオスの死角を突くように配置された隕石や小惑星の裏を飛び回り、こちらを探すスティングの背後を捉えた。

 

『後ろだと!?』

 

「当たれ!!」

 

下部に搭載された小型の収束砲である「アグニⅡ」が火を吹く。その一閃をスティングは咄嗟に交わしたが、急制動を掛けた結果、後方にある隕石が彼の退路を断つ形となった。

 

「釘付けだ!!」

 

その正面から、ラリーの機体が迫る。翼端から出るビームサーベルが退路を絶たれたカオスの胴体目掛けて飛翔する。スティングが顔をしかめた瞬間、退路を絶っていた隕石の影からアビスが現れた。

 

『うろちょろと邪魔なんだよ!!』

 

追い詰めた相手の後ろから、さらに攻撃だ。アビスの収束エネルギー砲を放ったアウルは、敵撃破の手応えを感じていた。

 

「…ーーっがぁっ!!」

 

だが、相手はアビスを見た瞬間にマニュアル操作でフレキシブルスラスターの向きを無理やり変えて後退、そして上昇する変則的な機動を繰り出したのだ。パイロットに掛かる負荷を考慮していない不可思議な動きに、アウルは目を見開く。

 

『避けたぁ!?』

 

ラリー機はそのまま変則的な機動から復帰すると、現れて奇襲を仕掛けたアウルの機体へ、機体下部に備わる無反動砲が閃光を撃ち放つ。

 

その弾頭は、投入されるだろうザフトの新型機に対応した〝昔ながら〟のものであり、ラリー達が所属する民間PMCでも常用弾頭の一つだ。

 

『うわぁあああ!!』

 

「やはりフェイズシフト装甲並みか!化け物染みた硬さだな。だが、HEIAP弾は有効のようだ!」

 

HEIAP弾。

 

それは旧世紀から実在する弾頭だ。

 

用途は装甲目標の破壊であり、直撃したときにのみ、その特殊な効果が発揮される。着弾時に先端部に内包された焼夷剤に火をつけ、爆薬の起爆を誘発させる。

 

起爆時には焼夷剤に加えて、非常に可燃性の高い化合物にも同じく引火し、炸裂によって燃料は一気に熱エネルギーに変換され、爆発的に膨張する圧力と3,000℃の高温へ達する。

 

さらに砲弾内部のタングステン弾芯が標的の装甲を貫通し、内蔵されている炸薬に点火し被害を拡大させた。

 

フェイズシフト装甲の発展型でもあるヴァリアブルフェイズシフト装甲ではあるが、装甲に受けたダメージによる電力の消費という特性に変わりはない。

 

高熱によるダメージとタングステン弾芯による衝撃は充分な効果を発揮したようだった。そして、この弾頭運用法は敵の機体に著しい消耗を与えるだけではない。

 

「トール!」

 

「取った!!チエェストォオオオオ!!」

 

膨大な熱量によるエラーで、動きが鈍ったアビスへ、隕石群の合間から姿を現したトールのメビウスが襲いかかる。メビウス用に取り回しが効くように小型化されたシュベルトゲベールを展開したトールの機体は、アウルの肩部装甲を腕ごと切り裂いて飛び去ってゆく。

 

『アウル!!』

 

中破したアビスを援護するように前に出たカオスが、三機のメビウスへビームライフルを放つが、ラリー達は巧みな機動力と、モビルアーマーならではの「離脱力」を駆使してカオスから距離を置く。

 

アビスの姿を見たステラのガイアも、敵への攻勢からメビウス隊への攻撃へ切り替えるが、白兵戦に特化したガイアの動きでは機動力に勝るメビウス達を捉えることはできない。

 

『何なのよ!あんた達はまた!』

 

「モビルスーツの性能差で、勝てると思うなぁあーーっ!!」

 

隕石群の表面を滑るように飛ぶメビウス編隊が、カオスとガイア目掛けて飛んでゆく。

 

その姿を見たハイネは、自身が想像していた「メビウスライダー隊」の評価を根底から覆されていた。先の大戦で、多くの作戦に参加していたハイネであったが、彼はメビウスライダー隊との交戦経験はない。というより、彼らとの交戦経験を聞く機会が少なすぎた。

 

彼らと間近で戦って生き残ったパイロットが余りにも少なすぎたからだ。

 

たった三機のモビルアーマーによる縦横無尽な戦術に翻弄される、ザフトの最新鋭機。しかも彼らの動きには、まだ余裕すら感じられる冷静さがあった。

 

ハイネはグッと操縦桿を握りしめる。彼らと先の大戦で出会わなかったこと。そして今、彼らが味方であることをハイネは柄にもなく神に感謝するのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「粘りますな」

 

ガーティ・ルーの艦長であるイアンは、デブリ内に逃げ込んだミネルバを見つめながら、捻りのない感想を呟く。

 

イアンの指示通り、自艦からは絶え間なく艦砲射撃やミサイルでのハラスメント攻撃を継続している。相手が根を上げるのも時間の問題と言えた。

 

「艦っていうものは足を止められたら終わりさ」

 

だが、そこで現状維持を執るのは二流指揮官だと隣に座っていたネオ・ロアノークは吐き捨てる。敵艦が粘れるということは相応の理由があるものだ。そして、その答えはデブリ宙域にある。

 

「奴がへばり付いている小惑星にミサイルを打ち込め。砕いた岩のシャワーをたっぷりとお見舞いしてやるんだ。船体が埋まるほどにな!」

 

最後の希望を断てば、相手はなす術なく敗走へと転がり落ちるだろう。ネオは立ち上がるとそのままブリッジの出口へと無重力中を飛んでゆく。

 

帰る場所を失えば、「流星」と言えど行動は制限されてくるだろう。いわば、ここが勝負どころでもあった。

 

「出て仕上げてくる。あとを頼むぞ」

 

そう言ってブリッジを出てゆくネオに、イアンは静かに敬礼を送るのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「ミサイル接近!数6!」

 

「迎撃!」

 

「しかし、この軌道は…!!」

 

ほどなくして、ミネルバへのミサイル攻撃が敢行される。議長の隣で状況を見ていたアスランが、こちらではない方向へと向かうミサイル群を見て、顔を青ざめさせた。

 

「まずい!艦を小惑星から離して下さい!」

 

敵の狙いに気がついた時にはすでに遅かった。アスランの叫びで、咄嗟に操舵手が惑星から船を離すように舵を切ったが、直撃したミサイル群の衝撃波によって粉砕された小惑星の破片がミネルバへと襲い掛かったのだ。

 

「右舷が!艦長!」

 

「離脱する!上げ舵15!」

 

「更に第二派接近!」

 

凄まじい揺れに見舞われるミネルバの中で、タリアの指示が飛ぶが、粉砕された小惑星の向こう側から新たなミサイルが飛来してくる。敵はこちらを落とすために勝負に出てきたのだ。

 

「船には皆が…!!落ちろ!!このぉおおお!!」

 

それを指を加えて見るつもりはない。シンが駆るメビウス・ストライカーはモビルアーマー形態とモビルスーツ形態を巧みに使い分けてミサイル群を捉え、ビームライフルと頭部のイーゲルシュテルンで飛来するそれらを撃ち落としていった。

 

『さて、進水式もまだと言うのに、お気の毒だがな。仕留めさせてもらう!』

 

その爆煙の向こう側から、複数のダガーを引き連れたネオの駆るメビウスが向かってくる。

 

「4番、6番スラスター破損!艦長!これでは身動きが!」

 

「針路、塞がれます!」

 

「更にモビルアーマー、モビルスーツ接近!」

 

後方にいるミネルバに到達されたらアウトだ。シンは先行してきたダガーの編隊へと単身斬りかかる。ビームサーベルの閃光が閃き、迂闊に前に出たダガーは即座に両断された。

 

「このぉおお!!」

 

続くようにシンは機体を翻す。敵が放ったビームライフルを、ラリー直伝ビームサーベル切り払いで防ぎ、真正面から敵の頭部を切り裂き、回転力を活かしたまま敵コクピットをビームサーベルの切っ先で貫いた。

 

『がぁっ!?』

 

貫かれたダガーがデブリのように浮遊するのを見つめて、ネオは相対するパイロットが誰なのかを予測し、笑みを浮かべる。

 

『ほう、君はそちら側にいるのか…!!』

 

「メビウス!?なんだよ!その機体は!ちぃ…邪魔が多い!!」

 

現れたネオのメビウスに困惑するシンだが、まだ周りにはダガーがいる。飛来するミサイルも撃ち落としながら複数のダガーと大立ち回りを演じるシンだったが、消耗戦になれば数で劣るこちらが不利になる。

 

「予備の機体は!?」

 

「あります!しかしカタパルトが…」

 

タリアの声にオペレーターであるメイリンが困惑した顔で答える。予備機はあるが、カタパルトがダメージを受けている上にパイロットも足りないのだ。シンの劣勢を見て、アスランが立ち上がろうとした時、ブリッジに通信が入った。

 

《こちらオーブ軍のキラ・ヤマト!メビウス・ストライカー、出れます!ハッチを開けてください!!》

 

ノーマルスーツに着替えたキラが、修復を終えたメビウス・ストライカーに搭乗していた。戦闘の揺れの中、ミネルバのハンガーではマードックとハリー、そしてフレイの手によって、ラリーがボロボロにしたキラのストライカーをなんとか動かせるまでの調整を施したのだ。

 

「ボウズのストライカーが出るぞ!さっさと退くんだよ!!」

 

マードックの怒号のような指示が飛び、ザフトの整備員達が手動でハッチを開いてゆく。作業員用のノーマルスーツを着たフレイが、コクピットハッチを開いているストライカーへ向かい、キラに語りかけた。

 

「キラ!機体調整はかなりピーキーになってるわ!アラームが出たら無茶したらだめよ!?」

 

「了解!キラ・ヤマト、メビウス・ストライカー、行きます!!」

 

フレイが離れたことを確認してから、キラは機体を稼働させてハッチから出ると、即座にモビルアーマー形態へ変形し、苦戦するシンの元へと急いだ。

 

『ほう、貴様が出てくるか…キラ・ヤマト!』

 

「キラさん!」

 

「シン、遅くなった!これより援護するよ!」

 

シンと合流したキラのストライカー。それを見てネオはグッと操縦桿を握りしめる。ラリーと同じように相手の声が聞こえる彼は、数刻前に戦ったメビウスに乗るパイロットがキラであることを看破していた。

 

ならば、やることはひとつだ。

 

『その力、試させてもらう!!』

 

「あの機体…メビウス!?」

 

シンとキラが並ぶ中、ネオが駆るメビウスが飛翔してゆく。戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 


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