ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
「ボギーワン、離脱します」
オペレーターの言葉に、タリアは胸を撫で下ろすようにシートへと腰を落とした。
「艦長ぉ!さっきの爆発で更に第二エンジンと左舷熱センサーが!」
自分たちの目的は、奪われたザフトの新型モビルスーツの奪還だったと言うのに、副長のアーサーが悲鳴のような声を上げているところを見ると、手痛い損傷を受けたのはむしろミネルバの方であった。
デブリに入った敵からまんまと策にはめられ、何もできずに敵にいいようにされたばかりか、臨時的に雇い入れた傭兵企業と外部国であるオーブに手助けしてもらう場面まである。
ザフト軍としての新造艦の処女航海にしては、あんまりな成果であった。
「グラディス艦長。もういい。あとは別の策を講じる。私もアスハ議員やアルスター殿をこれ以上振り回すわけにはいかん」
「申し訳ありません」
息をついたデュランダルの言葉に、タリアはそう返すことしかできなかった。
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「もぉー!本当にどうなるかと思いましたよ!」
プンスカという擬音が聞こえてきそうな不機嫌顔で、部屋からやっと解放されたミーアがミネルバ艦内の通路を浮かぶように移動しながら、後ろに続くバルドフェルドPや、アイシャに文句を呟いた。
「ここは戦場でしたからね。とにかく無事に切り抜けられてよかったですわ」
「ラクス様も!ほんとに死ぬ思いをしたんですから、もっと言うべきことがあるでしょう?」
そう言って落ち着いた様子のラクスの手を握るミーア。しかし、ラクス自身、先程の戦闘で動揺することはなかった。
自分たちの船が回収された段階で、ハンガーの様子はまさに戦闘直前の状態であったし、何よりもラリーやキラたちが戦場に出る準備をしていた以上、「過激な交渉」が行われることは火を見るよりも明らかであった。
「姫様は先の大戦では先陣を切って艦の指揮を取られていたからな。この程度では動じないのさ」
「バルトフェルドプロデューサー?」
「おっと、年頃の女性に失礼な言い方でしたかな?」
デリカシーにかける言い草は彼の持ち味なのか、それとも天然なのか。わかりにくい困った笑みを浮かべるバルドフェルドを一瞥して、ラクスはため息をつく。すると…。
「流星様!」
隣にいたミーアがバサッと衣装をはためかせながら飛び上がると真っ直ぐに目の前にいる集団へと飛んでいく。ラクスが目で追った先では、すでにミーアが豊富な胸と人懐っこい笑顔で先頭にいたラリーに絡み付いていた。
「私たちを守って頂き、ありがとうございました!」
「いや、俺は任務を果たしたと言うかとりあえず離れて!!」
「んもぅ、命の恩人に感謝をするのは突然の義務ですのよ?」
そう言って嫌々というラリーに絡むミーア。ふと、横を見れば目の光が無くなっているハリーがじっとラリーの方を見つめていた。ラクスはバルドフェルドやアイシャの方へ目を向ける。「進展なし」とバルドフェルドが顔つきだけでラクスの無言の問いかけに応えた。
「あちゃー、ありゃあ大変だね」
「ハリーさんがさっさとプロポーズを受けないから…」
帰投したリークとトールが呆れたように呟くと、ハリーはぐるりと顔を後ろに向けて2人を睨みつけた。
「何か言ったかしら?」
「 「ナンデモアリマセン!!」 」
そう言って2人がピシリと姿勢を正す。リークたちの後ろにいたシンもそんなハリーの目つきを見て縮み上がり、キラは困ったように笑っていた。
「本当に申し訳ありませんでした。アスハ議員」
その通路の先では、ブリッジから出てきたデュランダルが、同席していたカガリに頭を下げて謝罪していた。
「こちらのことなどいい。ただ、このような結果に終わったこと、私も残念に思う。早期の解決を心よりお祈りする」
「ありがとうございます」
これからザフトは大変な時期になるだろう。新型のモビルスーツが奪われたのだ。まだ外部への情報規制が出来ているとはいえ、デュランダルの説明責任は免れないだろうし、もし、モビルスーツを奪ったのがザフトの反対勢力ではなく地球圏の勢力だったら…。
不穏な火種となりかねない事に、カガリの思いは少しばかり暗くなってゆく。
「本国ともようやく連絡が取れました。既にアーモリーワンへの救援、調査隊が出ているとのことですので、うち一隻をこちらへお迎えとして回すよう要請してあります」
追って出てきたタリアの言葉に、デュランダルが二つ言葉で答えると、カガリはデュランダルの方へ手を差し伸ばした。
「我々もここで離脱することになる。世話になったな」
そういうカガリの手をデュランダルは固く握り返す。
「私も、アスハ議員にお会いできて光栄でした」
そういうと、デュランダルはカガリの横に控えていたアスランの方へ視線を向けて微笑んだ。
「しかし先ほどは彼のおかげで助かったな、艦長」
わざとらしくデュランダルはそう言葉を発する。アスラン・ザラとしてではなく、アレックス・ディノであろうとするアスランの逃げ道を防ぐようないい草だ。
「さすがだね、数多の激戦を潜り抜けてきた者の力は」
「いえ……出過ぎたことをして申し訳ありませんでした」
「貴方の判断は正しかったわ。ありがとう」
言葉だけ言うだけ言い切ってから、デュランダルとタリアは通路の奥へと向かってゆく。カガリが横にいる中で、アスランは先ほどのブリッジのやり取りを鮮明に思い返していた。
〝この艦にもうモビルスーツは無いのか!〟
〝パイロットがいません!〟
〝ショーン機もシグナルロストです!〟
もし。
もし、自分があの場にザフト兵としていたなら…もしかすれば、こんな被害を出すことも。
「なぁに辛気臭い顔をしてるんだよ、アスラン」
そう言葉をかけられ、ハッとしたアスランは後ろへ振り返る。そこには、少し真面目な目をしたラリーが立っていた。
「ラリーさん…」
間髪入れずにデコピン。バシッとアスランの額へ小さな打撃音が炸裂し、思わずアスランは手で額を抑えた。
「いっづ…!!」
「悪い癖だぞ、それ。一人で突っ走って、どれだけ迷惑をかけてきたか、忘れたのか?」
そうだな。たとえばキラとの戦いのことや、ジャスティスを手に入れてからのことや、果てはジェネシスに一人で向かった事とか。そう言って指折り数えて例を上げてゆくラリーに、アスランは何もいえずにただ小さくなることしかできない。
「すまない…」
そう謝るアスランに、ラリーは笑みを向けて優しく肩を叩いた。
「とりあえず思ってることを話せよ。カガリも皆、交えてな?」
その言葉に、アスランは目を見開きながら、小さく頷く。うむ、そういって誰かに話すのが大切なんだぞ?とラリーは言葉を紡いだ。
「お前のことを誰もわかってない、なんて思うなよ?俺たちは仲間だ。昔も、そして今もな」
ラリーが向ける視線を追うように、アスランも視線を向ける。そこには、合流したカガリがシンを抱き寄せて頭を撫でまわしている光景があった。
「よくやったぞぉ!!さすがはシンだ!!」
「あーもうやめてくれよ、カガリ姉さん!!」
それを見て、キラやラクスも笑っている。リークや、トール。ハリーに、バルトフェルドやアイシャ。多くの人が温かな笑みを浮かべていた。
そうだとも。キラも何度も言っていた。自分たちは一人なんかじゃないと。
「ああ、わかってるさ。頼らせてもらうよ、隊長」
そう答えたアスランに満足したのか、ラリーはそれ以上、アスランを言及するような言葉をかけることはなかった。
そして、事態はさらに動き始める。
「そんなはずないだろ」
ミネルバとは違う観測船の中で、データシートを見つめながら呟く仲間に、それを観測した者は安易な言葉を否定するようにデータを見せた。
「いや何度も確認した。見てくれ。こっちが2時間前のだ。今も少しずつだが間違いなく動いてる」
「そんな馬鹿な」
ユニウスセブンが動いているなんて。
平和に向かっていた世界は、新たな戸口へと足を踏み入れていくことになる。