ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第27話 新たなる脅威と落ちた流星

 

「ユニウスセブン落下限界点まで残り1000ポイントを切りました!!」

 

ケストレルのオペレーターが悲鳴を上げた。予想以上に〝速く〟落ちてゆくユニウスセブンが、阻止限界点へ近づいてゆくのだ。第八艦隊とザフトのミネルバもその様子をつぶさに観測している。

 

「工作隊はどうなっている!」

 

「磁気嵐がひどいため、観測ができません!」

 

ミネルバのブリッジも混乱状態に陥っていた。所属不明機がユニウスセブンを破壊するために出た部隊を襲っているのだ。あれほどの質量が落下すれば地球もただでは済まないというのに、一体何を考え攻撃など!

 

そう激昂する議長の横にいたカガリは、自身の護衛であるアスランが無重力の中へ浮かび上がったことに気がついた。

 

「アスラン…?」

 

浮かび上がったアスランは座席に手をかけてデュランダルの元へと向かってゆき、頭を下げた。

 

「議長!勝手な申し出なのは分かっています…ですが、俺に…MSを預けて出撃させてもらえないでしょうか!」

 

シン、とアスランの言葉でブリッジが静まり返った中で、最初に声を上げたのは副官のアーサーであった。

 

「ええっ!?ユニウスセブンに向かう!?無茶だ!間に合ったとしても、もう限界点ギリギリだ!」

 

「このまま手をこまねいていれば、世界は…地球が無くなってしまう!」

 

「アスラン君…」

 

「議長。私からもお願いいたします」

 

アスランの申し出を後押ししたのは、ユニウスセブンの惨状と今の状況に震えて怯えるミーアの隣にいたラクスだった。

 

彼女もまた、手をこまねいて見ているつもりはない。ユニウスセブンで戦闘が起こっている以上、今必要なのは破砕作業を護衛できる兵士の力だ。

 

「クライン殿…まったく、聞き分けのない若者たちだな」

 

そうぼやくデュランダルは、タリアの方を見て頷く。タリアは頼むと言葉を紡ぐデュランダルを一瞥してからため息を付くと、オペレーターであるメイリンへ指示を送った。

 

「ハンガーに伝えて!格納中のザクに発進準備を!」

 

「艦長ぉ!」

 

「迷ってる暇はないわ!ただ、覚悟しておきなさい。貴方がユニウスセブンに到着した時…あそこは地獄と化しているわよ」

 

タリアの忠告にアスランは頷くと、議長とラクスたちに敬礼を打ってからブリッジを後にする。閉じてゆく扉の向こうでは、残されたカガリが不安げに瞳を揺らめかせていた。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

《見せてもらおうか、ヤキンドゥーエ戦役の英雄の力とやらを!》

 

オッツダルヴァ!?

 

ラリーの思考は驚愕に染まった。操縦桿を引き絞りながら、放たれるライフルの雨を潜り抜ける。

 

あの奇怪な形をしたMS、そしてオッツダルヴァと名乗った敵。嫌な感覚が全身を支配する中、放たれるビームを躱したラリーは、ひらりと機体を翻してオッツダルヴァと名乗った男が駆る機体を穿つ。

 

だが、放った攻撃は届くことなく、オッツダルヴァの機体は大きな光を発するとまるで瞬間移動するように真横へとズレた。

 

クイックブースト…だと!?

 

「ラリー!」

 

明らかに異質な敵を目にした二番機であるリークが、警戒心を最高レベルに上げてラリーの隣に付く。あの独特な流線形状の機体と、人体から逸脱したフォルムは、間違いなく〝ステイシス〟だった。

 

掠れていた過去の記憶が鮮明に甦る。あの動き、あの機体をラリーは知っている。だが、あれは〝存在しないはず〟の機体だ。〝あってはならない〟機体だ。

 

なぜ、〝アーマードコア・ネクスト〟が、〝この世界〟に存在している!!

 

「ちぃい!こいつの相手は俺がする!各機は加速装置を破壊しろ!」

 

ラリーの意表を突いた攻撃がことごとく躱されてゆく。それが普通のMSならリークやキラは焦りはしなかった。だが、相手取る敵は明らかに常識を逸している動きと形をしている。

 

「何なんだよ…あの機体は!」

 

「あれは本当に…MSなのか?」

 

ラリーとステイシスの攻防を目の当たりにするハイネとレイも、その異様さに戦慄していた。

 

あんな動きで人が乗り込む兵器として成り立っているのか…!?あんな、人が乗っていることを考慮していない挙動をする機体が…!!

 

「隊長!」

 

「待つんだ!シン!」

 

苦戦を強いられるラリーへ駆けつけようとするシンを、リークが強い語気で呼び止める。キラやトールが異質な敵の存在に言葉を失っている中、リークは冷静に状況を判断していた。

 

「聞こえてるよね、皆。僕らは加速装置を破壊する!」

 

「ベルモンドさん!」

 

「これは命令だ!あの交差に飛び込めば、逆に僕らがラリーの足を引っ張ることになる。大丈夫、ラリーを信じて僕たちは先に行くよ!」

 

その言葉と共にユニウスセブンの地表へと降りてゆくリーク。キラやトール、ミネルバのハイネとレイも、ラリーたちの死闘を頭上に地表へと降りた。

 

《ふっ、どんな化け物かと思えば…存外、貴様も人間なのだな》

 

悠然と構えるオッツダルヴァは、眼下で細かな挙動で攻撃を交わすラリーの機体を見つめながら呟いた。

 

「知ったような口を!」

 

フットペダルを踏み込んだ矢先、眼前にロケットランチャーとビームの多重攻撃が飛び込んできた。グッと体に力を入れると、ラリーは機体を大きく旋回させた。閃光と実弾兵器の雨を縫いながら飛ぶラリーは、鋭い息を吐き出してグリップを握り直す。

 

《そら、どうした。あの男なら今の攻撃の合間に打ち返してくるぞ》

 

「くぅう…!」

 

あれほどの攻撃をしながら、オッツダルヴァの動きはまだ余裕があった。機体ポテンシャルが既存のMSを圧倒的に凌駕しているステイシスは、まるで瞬間移動のようなクイックブーストを使用してラリーのメビウスへ簡単に肉薄してくる。

 

《やはり、貴様と奴は別だな…同じ性質を持った存在とはいえ》

 

「奴…?ネオ・ロアノークのことか!」

 

《違うな。奴の名はそんなものではない》

 

ユニウスセブンの瓦礫を盾に動き回るラリーの機体へ、オッツダルヴァはゆっくりと近づいてゆく。漆黒に鈍い光を放つライフルをラリーの首元へ向けながら…。

 

《奴の名は…アナトリアの傭兵…かつてアナトリア半島で伝説的な戦いを繰り広げたパイロット、らしいぞ?》

 

「アナトリアの…傭兵!?」

 

《そら、手がお留守だ!》

 

バララッと放たれた弾丸は、鋭い挙動をしていたラリーの機体を捉えた。真っ白なボディにいくつもの弾痕が刻まれると、真っ黒な煙を上げ始めた。

 

「くっ…メインエンジンが…!?」

 

出力が上がらず、いつもは鋭く反応するスロットルが無反応になる。ラリーの機体は翼をもがれ、そのままユニウスセブンの地表へと落ちていくのだった。

 

 

 

 


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