ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
『敵の排除を開始する』
高速域から悠々と滑走路内へと着地した二機の二脚型…いや、MSというには歪すぎる形をした人型の兵器。
半天周囲型モニター越しからその二機を見たラリーは息を飲む。この世界ではあり得ないはずの歪な人型機動兵器…ユニウスセブンで遭遇したオッツダルヴァのステイシスと同じく、常人では扱え切れないであろう、驚異的なポテンシャルを持つ機体を〝生産できる〟という事実が確定する。
そして同時に、人ならざるパイロットたちが無数に生み出されているという事実も。
自分たちの頭上を無傷で飛び越えた二機が挙動した瞬間、ラリーは弾けるように機体を翻して、対応にあたるために降りてきたクルーゼとキラに通信を放った。
「気を付けろ!キラ!クルーゼ!あいつら…強いぞ!!」
そう言うのも束の間、二機の内の一機である「マイブリス」が素早く、細かなスラスターを吹かしては機体を滑らした。その轟々たる重量型からは考えられないスムーズな挙動に目を見開くキラの脇を、ハイレーザーライフルの一閃が駆け抜けた。
(反応が遅れた…!?)
慣れないエクスカリバーの操縦もあったのか、キラにとっては信じられない速度で飛来する閃光だった。幸いにも、狙いはキラではなくクルーゼ。そしてクルーゼは横へ飛び退く形でレーザーの猛威から寸前のところでなんとか躱したのだ。
「ぐぅ…くっ!いつにもなく弱気だな、ラリー!そんなにあの機体が怖いか?」
「本当にムカつくな、お前…だが、ああ、怖いね。なにせ、俺がホワイトグリントに乗っていても、奴らはサシで戦えるほどだ」
「ハッハッハッ!それは怖いな!なら、こちらも本気で行くとしよう!」
『なるほど、あの戦闘機が部隊の頭か。私がやろう。ロイは他の敵を頼む』
『ああ、こっちは任せな。ウィン・D』
クルーゼの余裕とも言える言葉に鼓舞されるように、固まっていた戦局が目まぐるしく動き始めた。
皮肉にも同じ名を司るパイロット、ロイ・ザーランドが操るマイブリスを相手取るのはキラとクルーゼ。
そして残る機体、「レイテルパラッシュ」を相手取ったのは、スピアヘッドに乗るラリーだった。
コクピット機構から始まり、すべてのパーツや構成を見直されたMSであるレイテルパラッシュ。従来のものよりも小さく、戦闘のみに特化し、機能化されたコクピットの中で、コードが繋がったヘルメットをかぶる女性は、舌舐めずりをしてスピアヘッドを見つめた。
ウィン・D・ファンション。
生み出されたシリーズの中で、特に戦闘力が高い彼女は、この戦闘に自分が起用されたことに疑念を持っていた。極東の、しかも単なる民間PMCを排するだけの作戦だと言うのに、選出されたのは自分と、それに追従できる腕を持つロイ・ザーランドだった。
敵戦力もたったの四機。オーブ軍の可変MSが太刀打ちできなかったことは否めないが、それは機体の能力とパイロットが未熟だったからと言う側面もある。
現に、後方で爆撃機を落とそうとする四機の内の一機に食らいつくムラサメはいい動きをしているようにウィン・Dには見えていた。
それほどの実力なのだろうと、彼女は自身の中にある経験値から目の前のスピアヘッドの能力を推測した。
だが、その推測にも違和感が張り付く。
前時代の遺物となったはずの戦闘機のはずなのに、背中に感じる悪寒は何だ。
目の前の情報と、パイロットとしての勘を持つ自分の感受性が驚くほどに似合っていないのだ。
『まぁいい、消えろ』
その不揃いさようなものを感じながらも、ウィン・Dは振り払うように近づいてきたスピアヘッドもどき目掛けてレールガンの矛先を向けた。
——そして、その動きはラリーにもはっきりと見えていた。
『っ…!?』
緩やかな戦闘機らしい機動を模していたスピアヘッドは、こちらの射程距離に入ったと同時に、その戦闘機らしさを捨てた〝何か〟へと変貌する。考えられないほど鋭く、深い角度で機体を切り返したそれは、ウィン・Dの予想を遥かに上回った速度でやってくる。
(速い…!!)
視認追尾の反応速度では追いきれないと判断したウィン・Dはすぐにレールガンの選択肢を捨てて、片腕に備わるレーザーブレードを用意する。迷うな。この手の敵は判断が一瞬でも遅れたらこちらが喰われる!
そして彼女の判断は正しかった。レールガンで討ち取れると錯覚していた距離をパワーと旋回性能で瞬間移動のように詰めたラリーのスピアヘッドは、翼端をレイテルパラッシュに擦りつけるような軌跡を描き、その先端から内蔵されたビームサーベルが閃いた。
ゾッと、ウィン・Dの背中に漂っていた不揃いさが、死神の鎌となって首筋へと伸びる。
「浅いかっ!!」
咄嗟にウィン・Dが展開したレーザーブレードと、ラリーのビームサーベルが干渉し、ビームの磁場によって二機は弾かれるように距離を置かれた。
運が良かった。そう思ったウィン・Dは、その事実に驚愕する。運が良かった?それで切り抜けた戦闘など、自分の経験には存在しない。確実なルート、堅実な戦略、確かな力量。それらのデータと実績と経験をもって、彼女はMSを操り、確固たる勝利を掴んできた。その経歴の中で「運に左右されたもの」など存在しない。
故に、今目の前にした存在がどれだけ異質なものなのかを、ウィン・Dは初めて実感した。
データや外観ではなく、自身の生死の狭間で見た経験から、彼女は相手の脅威度レベルを一気に跳ね上げる。
これが…メビウスライダー隊。
これが、流星っ!!
『なるほど…コイツ…』
さっきまで薄かった殺気を漲らせるウィン・Dの様子を見つめて、ラリーも負荷から溢れた汗と、二酸化炭素に溢れた肺から一気に息を吹きだし、酸素をめい一杯吸い込む。
まったく、オッツダルヴァといい、マイブリスといい…この相手はほんと本当に。
「『手強いっ!!』」
同時、挙動。
レイテルパラッシュの放ったレールガンと二連装のハイレーザーキャノンの弾幕のような猛攻を、ラリーはフットペダルと操縦桿を引き絞って機体を翻す。
迎角が極端に大きくなった機体は不安定に揺れて失速状態となり、スピアヘッドは揚力を得られないまま敵の砲火に身を晒した上で、その隙間を縫うように躱したのだ。
…なんだ、あの動きは!!
普通なら、その神がかり的な機体の挙動に揺さぶれるところではあるが、それは想定済みだと言わんばかりに、ウィン・Dはレーザーブレードを振りかざして、向かってくるスピアヘッドへ斬りかかる。
「読みもピカイチかよ!!この野郎!!」
落としていたスロットルを全開にして、ゼロから100へと押し上げられたスピアヘッドは、レイテルパラッシュから放たれる斬撃から逃れるように大空へと舞い上がった。そしてすぐにスロットルとフラップを効かせて失速へと入る。
敵の頭上、ほぼゼロ距離で行うポストストールマニューバだ。銃口が、飛び去ったスピアヘッドを見上げるレイテルパラッシュへと向けられる。
『突拍子もない!!』
「指し合いなら、こっちだってぇ!!」
互いの気力と実力を発揮する指し合い。敵の意表、裏、意識の外側を攻める。
そんな途方もない隙を貫く戦いが、ラリーとウィン・Dの間で繰り広げられていたのだった。