ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第50話 分水嶺

 

最終ブリーフィングを終えたフレイは、念のために作戦では使用する予定のない機体のチェックを行なっていた。

 

こういったときこそ、有事の出撃の可能性もある。ドミニオンからアークエンジェルへと移動した機体を点検していると、ふと、エクスカリバーのコクピットが開かれているのが見えた。

 

「何してるの?」

 

手慣れたように機体に足をかけてコクピットまで登ったフレイは、ハッチが開いたコクピットの中でキーボードを叩いているキラに声をかける。側には水の入ったペットボトルを持っている旦那のサイもいた。

 

「うん、ちょっと戦術OSの見直しをね」

 

「何か噛み合わないことがあったの?」

 

フレイがサイヘアイコンタクトを投げるが、サイ自身もよくわかっていない様子だ。

 

夕食どきになってもハンガーから中々戻ってこないキラを心配してやってきたが、キラがやっていることは書き換えたOSを再び元に戻したり、手を止めてウンウンと唸ったりと、いつものような覇気というか、凄みというものが感じられないものでもあった。

 

「特にそういうわけじゃないんだけど…いや、そういうわけだったかも」

 

歯切れの悪いキラの言い方に、フレイは「ふーん」と声を出して、そのままハッチの縁へと腰掛ける。小脇に抱えていた工具箱は適当にそこらへと置いて、堅牢な安全性を持つワーキングブーツを履いた足を組む。

 

それはフレイが「話を聞いてあげるから言ってごらんなさい」という合図だった。

 

「前の戦いで、敵の新型機を相手にして…僕は何もできなかった。クラウドさんや、ラリーさんはしっかりと対応できてるのに、僕は何やってんだって…」

 

「ふーん、で?OSの見直し?」

 

フレイの問いかけに、キラは頷いて答えた。自身の反応速度に、機体が、システムが噛み合っていないように思えたからこそ、対応したOSが必要だと思い、エクスカリバーのOSの見直しを行なっていたのだ。

 

しかし、これはキラが作った基本骨子が元となっているものだ。サイもそのシステムについてはよく知っている。かなり汎用性が高く、構造も完璧に近い。そして運用に関する設定では、ラリーやクルーゼの機体の方が適度であり、キラの扱うOSは彼が自分好みに改造しているため、かなりピーキーなものになっている。

 

にも関わらず、自分がラリーたちに及ぶことができないのは何故か。OSに手を加えれば加えるほど、見えないドツボにハマっているように思えて、キラは深くため息をついた。

 

「キラってさ。MSの操縦ヘタクソよね」

 

フレイの一言に、サイのメガネにヒビが入りそうになった。

 

「…え?」

 

顎杖をついて突拍子もなく言ったフレイの言葉に、キラは目を見開いて固まった。OSを書き換えていた手が、まるで時間をとめたようにフリーズしている。

 

ヘタクソ…ヘタクソ…ヘタクソ…。

 

フレイの言葉が、キラの中でリフレインしてゆく。こうもはっきり言われるとは思って…いや、そもそもヘタクソと言われることを想定してなかったキラは、放たれた言葉に半ば放心状態だった。

 

「このデータ。何かわかる?」

 

そんなキラへ、フレイは愛用している端末を取り出すとあるデータシートを見せた。放心状態からかろうじて戻ったキラは、虚な目で表示されているデータシートを見つめる。

 

「えっと…僕の機体データ…だよね?」

 

「ピンポーン。で、こっちはラリーさんとクラウドさんの機体データ。負荷と消耗率の差が歴然よね?」

 

続いて見せられたのは、ラリーとクルーゼが操っていた機体のデータだ。一目見るだけで、その差はハッキリとわかる。クルーゼの運用データは、エクスカリバーの許容値ギリギリを掠めており、ラリーに至ってはスピアヘッドの予想限界値を超えているものもあった。

 

「う、うん…そりゃあ、あれだけの動きをしてたら…」

 

「そこよ」

 

ビシッとフレイは見上げる形となったキラへ指を指した。

 

「その考え自体が、キラのヘタクソの根元」

 

サイとキラは顔を向き合わせて首を傾げる。再びキラと他2名のデータを見比べるが、その差は変わらない。

 

キラのデータは可もなく不可もなく、エンジンや機体に負荷をかけないギリギリの域を叩き出していて、他の2名はその負荷を無視した機体性能限界値を叩き出していて——。

 

「極端な話だけど、この機体データでもわかるように、〝あれだけ〟振り回しても機体は動いてくれる。戦うことができるってわけよ」

 

フレイの言葉で、キラはハッとした。機体性能や機体負荷を抜きにして、あれだけ無茶な動きをしているはずの二人は、機体を壊すことなく持ち帰っているのだ。

 

「キラのデータは、たしかに綺麗よ?負荷も少なく、燃費もいい。アンタの機体って手が掛からないのよ。フルメンテは2回か3回に一度。短期の出撃なら、機体配線のチェックと補給で済むくらい」

 

フレイや他の作業員たちも、ラリーの機体に何度頭を抱えさせられたかわかったものじゃない。機体をばらし、エンジンをバラし、オーバーホールして、摩耗部品を交換して、組み立て直して、点検をする。それだけでどれだけの時間がかかるか。そしてキラの機体は驚くほど手が掛からない。点検といっても、2、3時間あれば終わるし、交換した部品も綺麗にすれば再利用できるほどの消耗しかしていない。

 

そして、そこに穴があるとフレイは言う。

 

「逆に言えば、〝その程度〟の範囲でしか機体を動かせていないってことにもなる。キラは、自分から制限をかけて戦ってる。そんなの、手を縛って飲み物を飲むようなものよ」

 

それで噛み合ってない、付いていけないというのは当たり前だと、フレイはさらに釘を刺した。

 

キラは前の大戦で物資が少ない中、ストライクをやりくりして宇宙から地上の中を戦ってきた。ろくな訓練や教導も受けないまま。

 

「前の大戦の節約術が、キラの操縦技術の基礎になってるのよ。それも無意識の内に」

 

結果、キラ自身の根底にある操縦センスというのは歪な形に形成されたのだ。

 

消耗させず、壊さず、無理をさせない。

 

機体スペックの高い域を出すことはできるが、最大値を出すことを控えているという扱い方が、キラの首を締め上げているのだ。

 

「節約して…戦ってる…か」

 

フレイに言われて、キラは改めて気がつく。ストライクやフリーダム、そして今まで乗ってきた機体もそうだ。無理な負荷をかけて壊さないように、心の奥底のどこかで意識して乗っている自分がいる。迷惑をかけないようにと、気にかけている自分が。

 

そんな思い悩んだキラのおでこに、フレイは軽くデコピンをした。

 

「機材も、部品も、人手も、あの時と比べたらかなりマシになってるんだから。もっと整備士たちを信頼しなさいっての。特に私の腕をね?ラリーさんの相手をしてるとね、アンタが多少無茶したって可愛い程度で済むんだから」

 

この機体のエンジンくらいなら、5時間もあればバラして組み立てられるんだし、とフレイは言う。ちなみにハリーなら、5時間もあればエンジンをチューンしながら組み上げることができると、フレイは追記するように言った。

 

「ははは、そう言われると、なんだか元気出た」

 

「まぁ、最初から変えるのは難しいんだから、いろいろと考えてみなさい。考えて、ためして、身に付ける。技術を身に付ける基礎よ」

 

だから、焦りは禁物。ちゃんとご飯を食べなさい。そう凄みのある笑みで言ったフレイに、キラは少し怖気を感じながら何度も頷いた。

 

サイを連れてハンガーを後にするフレイを見送ってから、キラはいじっていたデータを全て元に戻してからキーボードを片付けて、コクピットから高い天井を見上げた。

 

「無理を通せば道理が引っ込む。だから「模範的な行動をしてないで殻をブチ壊せ!」…か」

 

目を閉じれば浮かび上がってくるラリーの無茶な機動。

 

果たして、自分はあれほどの動きができるのだろうか。一人思うキラは、とりあえずフレイの怒りを買う前に、食事を取るためにアークエンジェルの食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

翌朝、オーブ首長国連邦は、アスハ家の遺児であるカガリ・ユラ・アスハと、現主流派のトップに位置するセイラン家の息子、ユウナ・ロマ・セイランの結婚式パレードが大々的に行われた。

 

父や叔父を失ったばかりであるカガリには酷な話であるが、内外へオーブ政府がしっかりと運営されていると言うことを知らしめる必要があるから、ウナトが画策したこの結婚の話がかなり前倒しになって勧められた経緯もある。

 

何を思っていたのか。パレードの最中、ウェディングドレスに身を包んだカガリは、手を振る民衆へハラハラと涙を流しながら手を振る場面もあったが、パレードの一団は無事に式場となるヤラフェス島の教会へと到着したのだった。

 

「ああ…わかった。そっちも気をつけて」

 

側近たちを下がらせ、個人の〝携帯端末〟で話を終えたユウナは、純白のタキシードを着こなしている。まったくもって不本意であるが、これも作戦の内だ。

 

そして、ここからが作戦の一手目になる。

 

ユウナは「彼女と二人で話がしたい」と張り付いたアホらしい笑みを浮かべて警備員や関係者たちを締め出すと、カガリが控えている扉へノックを鳴らした。

 

「カガリ」

 

応答なし。物音も聞こえない。ユウナは再度、扉を叩いた。

 

「カガリ…話があるんだ。ドアを開けておくれ」

 

これも応答なし。頼む、扉を開けてくれ。でないと「この作戦は破綻する」。急にも似た思いを胸に、ユウナは真剣な表情で言葉を放った。

 

「君のこれからについての話だ」

 

すると、閉ざされていた扉は勢いよく開き、ユウナは整えられた蝶ネクタイを引っ張られて部屋の中へと吸い込まれた。

 

突然の衝撃に驚いたが、ユウナは体勢を崩すことなく部屋の中へと立つ。目の前には、綺麗に整えられた顔を覆すほど、怒りに満ちた顔をするカガリが立っていた。

 

「カガリ…まずは話を」

 

「お父様が…お父様を彼らが殺すなんてあり得ない!となれば…結果はひとつだ」

 

「ああ…君の思う通りだ。ウズミ・ナラ・アスハは下級士族たちによって暗殺された」

 

隠す必要はない。ユウナの言葉に、カガリの肩が震えた。あの病院へ爆弾物を仕掛けたのは、間違いなく現主流派の氏族たちだ。もしくは、自分の父親かもしれない。彼らはその罪をでっち上げてまで、ラリーたちを陥れようと画策している。

 

ユウナは湧き上がった怒りを鎮めるように息を吐いて、カガリを見つめた。

 

「こうなることが分かってたから、僕は順を追って君に話を…」

 

言葉を続けようとしたが、ユウナの台詞は遮られた。カガリがユウナの首元を掴み上げて、そのまま窓際へと押しやったのだ。

 

「なぜだ…」

 

力強い圧からは考えられないほどのか細い声だった。ユウナへと顔を上げたカガリの顔は涙で濡れていた。

 

「なぜ、オーブの氏族たちはお父様を殺した!なんで!答えろ!」

 

「今はそれを言い合う時間ではない!!」

 

その涙と怒りに満ちたカガリの大声を、それを上回る言葉でユウナは跳ね返した。掴み上げていたカガリの手を払い、ユウナは真っ直ぐな目でカガリを見る。

 

「ユウナ…?」

 

「君はオーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハの娘であり、彼の後継者だ!それが何だ!下級氏族の思惑に良いように利用され、自由を奪われ、挙句、主犯格であろうセイラン家の息子である僕と結婚することを認める!?」

 

本当に、君はそれでいいのか!納得しているのか!何故、嫌だと言わないのだ!思っていた声が感情と一緒に溢れ出してゆく。

 

ああ、わかっているとも。

 

僕は、彼女に抱いていた想いがある。そしてそれは、自分に向けられることはないということも。ふと、ザフトの彼のことが頭をよぎったが、今はそんなこと、どうでもいい。

 

「ウズミ様が何を理由に殺されたことを言及するより、君には為さなければならないことがあるだろう!?」

 

そこまで大声で叫んでから、ユウナは肩で息をしながら感情を整えてゆく。カガリもすっかり毒気を抜かれた様子でユウナを見つめていた。自分よりもキレている人を見ると、逆に冷静になるというアレだ。

 

「…僕には、それを止められなかった責任がある。君に事の全てを説明する義務も。そして君も立ち止まるのは、今じゃないんだ」

 

きっと、父の死を悲しむのも、家族を失ったことを嘆くことも、今ではないのだろう。残酷な話だが、国を背負うものという人間に待つのは、いつも残酷な現実ばかりだ。

 

彼女はウズミ・ナラ・アスハにオーブを託されたんだ。ならば、行かなければならない。

 

「僕と結婚して、君の父を殺した氏族たちの傀儡となるか。それとも、ウズミ様の意思を継いで、道なき荒野へと踏み出すか。君が決めるんだ。カガリ・ユラ・アスハ」

 

その決断が、この先の未来を分かつ。それだけはハッキリとわかった。真っ直ぐに問いかけるユウナに、カガリは一息、瞑目するように瞳を閉じてから、凛とした表情でユウナを見た。

 

「——話を…聞かせてくれ。ユウナ」

 

「仰せのままに、アスハ〝代表〟」

 

膝を折って、まるで騎士のように頭を下げるユウナ。彼にとってのオーブは彼女だ。汚い手段で国を取った父や氏族たちではない。

 

故に、彼女の進む道を作ろう。

 

ユウナはドミニオンで説明した作戦のことを思い返しながら、カガリへこれから起こる内容を伝えてゆくのだった。

 

 

 

 

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