ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
インパルスのコクピットの中。
操縦桿を握る白いノーマルスーツを着こなすレイは、迫りくる巨影を目にして、機体を振り回した。
距離を詰めるザムザザーにビームライフルを放つが、その巨体に似合わず素早い動きで機体を翻し、詰めが甘ければビームをリフレクターで防がれる始末だった。
「ちぃ!なんて火力とパワーだ…!」
あの巨体からして、パワーもエネルギーも相当量持つ機体だろう。対するこちらは、地球軍が投入したMSの相手に加えて、新型のMAを相手取っている状態。小回りや立ち回りで何とか釘付けにはしているが、致命的な一撃を与える術を、今のレイは持っていない。
それに、パワーソースでもMAのほうが利がある。結果、インパルスのコクピットにアラームが鳴り響くこととなった。
「インパルスのパワー、危険域です!」
レッドゾーンすれすれだ。だが、ここで引けばこの巨大なMAは無防備なミネルバへと向かうことになる。
思考を走らせるレイのモニターを、ザムザザーの四脚に備わる複列位相エネルギー砲「ガムザートフ」が横切る。
イージスガンダムやカラミティガンダム等に装備された「スキュラ」の改良型だ。あんなものを食らえば、ミネルバもタダでは済まない。
「レイ!生きているか!」
どうするかと考えを巡らせていた中、ザムザザーから一度距離を取ったレイのもとへ、一機の戦闘機が近づいた。
「貴様は!?」
「シン・アスカだ!その機体!もうパワーがないだろ!?さっさと乗れっての!」
エクスカリバーを駆るシンの誘導に従うまま、レイはインパルスを翻して、翼面に備わる足場へとインパルスを着地させた。
『ええい!流星の機体か!だが、このザムザザーの敵ではない!!』
多品種であるMSの規格に合わせるために、脚部の固定ユニットにはユニバーサル規格を採用したエクスカリバーは、レイの機体の脚部を固定すると、機体を鋭く旋回させて、四脚から放たれた高エネルギー砲を難なく避けた。
《地球軍もゲテモノMAが感染したか。だが、あれは失敗作だな!》
《誰か私に対して失礼な事言った!?》
「うるさい!と言っても、失敗作と表してもな!パワーや防御力はピカイチだぞ!」
AWACSオービットのニックが軽口を叩き、ハリーが反応したように声を上げたが、今はそれどころではない。ラリーから見ても、ザムザザーにはMSに対して致命的な欠点を抱える機体と言えたが、今はレイテルパラッシュの相手でザムザザーに構う余裕がない。
「シン!やれるな!!防御が固い相手にはどうするか!」
「…!わかりました!!いくぞ!レイ!」
「俺に命令するな!!」
ラリーの声に応じたシンは、文句をいうレイを乗せたまま再びザムザザーの射程距離内へと挑む。敵MAのパイロットは、顔を歪めて応戦態勢へと入った。
『敵機接近!主砲!てぇ!!相手を止めろ!』
四脚や各種装備から放たれる弾幕の合間を縫うようにスラロームするシンは、攻撃の中からザムザザーの能力や、パイロットのクセをつぶさに観察していた。
「単調なリズムだ。隊長の動きより全然遅い。けど、あの装甲と防御力は厄介だな」
「相手はタンホイザーすら跳ね返すバリアを持っている。こちらの武装ではやつのバリアを突破するのは無理だ」
「バリアを張っても、機体が傷つかない強度を持つわけじゃないだろう?」
フェイズシフト装甲や、トランスフェイズシフト装甲も同じことを言える。リフレクターや、いくら機能面で優れた装甲を使おうが、それは物体弾を弾く程度や、チャージすることで陽電子砲を食い止めるに過ぎない。
ならば、より大きな力で張られたシールドや分厚い装甲を食い破るほかない。
「レイ!その機体で近接格闘機に換装できるか!?アーモリーワンで出てきたときのやつだ!」
シンが言ったことは、レイの乗るインパルスがアーモリーワン内部で見せた近接専用のソードシルエットのことだ。自分を乗せる傭兵の思惑に気がついたレイも、単調な声で応答する。
「ああ、可能だ」
「ならミネルバに一度…」
「その必要はない。ミネルバ!ソードシルエットを。それと、デュートリオンビームの用意だ」
通信回線から伝えたれたレイの言葉に、ナビゲーターを務めるメイリン・ホークは戸惑った表情を浮かべた。ソードシルエットを射出することは可能だが、デュートリオンビームの実戦使用は実績がない。メイリン自身も操作手順は把握しているが、うまく実戦で行えるかどうか…。
「指示に従って!」
「は、はい!デュートリオンチェンバースタンバイ」
そんな中、タリアの一喝がブリッジの中に響く。打った水のように頷いたメイリンが素早く電子パネルを操作し始め、レイの要望通りにマニュアルを実施してゆく。
「座標値固定、慣性速度よし!行け!レイ!」
メイリンから送られてくるマニュアルを一通り目を通したシンが、とてつもない速さで機体を制御し、デュートリオンビームに適した位置へとレイのインパルスを運んでゆく。
〝なんて対応力なんだ〟
レイはたった数十秒で、ザフトの最新鋭技術であるデュートリオンビームのマニュアルを読破した上に、寸分の狂いもなく機体を安定させるシンの技量に素直に称賛した。
彼の言葉通り、脚部の固定ユニットを解放されたレイのインパルスは空中へと上がり、ミネルバが指定したポイントへと機体を安定させる。
『妙な真似を!!』
「遅い!!」
インパルスの不審な動きを察したザムザザーが、デュートリオンビームの妨害へと動き始めたが、その前にはシンの駆るエクスカリバーがいた。ビーム兵装が効かないならばと、タングステン弾頭の高速度ミサイルを叩き込み、その巨体を震わせ怯ませる。
「捉的追尾システム、インパルスを捕捉しました。デュートリオンビーム照射!」
ミネルバから発せられた高エネルギーの一閃がインパルスへと届くと、レッドゾーンギリギリだったパワーは瞬時に充填された。
「続いて、ソードシルエット、射出!」
ヤジリのように放たれたソードシルエットが飛翔する。フォースシルエットをパージしたレイは、そのまま空中でソードシルエットへと換装し、青色だった機体色がアーモリーワンで見たときと同じように赤く染め上がった。
『空中で換装しただと!?』
『敵機きます!飛行型です!』
撃ち落とせ!!指揮官のパイロットの咆哮と共に撃たれた4本の高エネルギー砲を、シンは操縦桿を傾けてバレルロールで躱してゆく。ビームの雨が降り頻る中、シンは機体を滑らせるように旋回させながら、相手との距離を推し量っていた。
「くぅ…ぁああぁあ゛っ!!258、245、225…!!変形速度っ!!」
横へと吹き飛ばされそうなハイGターンの中で、シンは計器類と目の前にいるザムザザーを視線で行き来させながら、来るはずの時を待った。戦闘機形態の高負荷旋回を物ともしないパワーでザムザザーは近づき、四肢に収められていたクローを展開した。
『裏切り者の流星め!ザフトの新型機共々、そのひ弱な機体を引き裂いてくれるわ!』
「今だ!!」
赤く染め上がったクローが繰り出される一瞬の隙。刹那のような時間の感覚の中で、シンは機体のスロットルを起こすと、戦闘機形態であったエクスカリバーは雲と風をかき分けて人型へと姿を変えた。
『なにぃ!?』
変形と同時に振るわれたビーム刃は、四脚のエネルギー砲と入れ替わる形で展開した超振動のクラッシャークローを、根本から断ち切った。クローを切られて慌てふためくザムザザーへ、シンのエクスカリバーはデュアルアイを煌めかせて更に追撃を見舞う。
「それで最新鋭のMAか!!隊長ならもっと鋭く反応している!!」
シンは手に持っていたビームサーベルを逃げるザムザザーの方へと放物線を描くように投げると、展開されたビーム刃目掛けて、反対側の腕に持っているビームライフルを放った。
ビームコンフューズ。
ビーム刃から跳ね返った粒子状のビームはザムザザーの全体へ降りかかるように舞い散り、その一撃は目には見えない致命傷をザムザザーへ与えた。
『な、なんだ…あの動きは…!!ぴったりとついてくる!!』
「この間合いではバリアも特殊装甲も、なんの意味もない!!そして、ビーム刃で貫ける装甲なら…!!」
シンが大型MAに距離を詰めた理由。それは、下手に距離を取って相手がパワー勝負を仕掛けてくる機会を潰すことと、近接クローを失った相手への牽制と、〝時間稼ぎだ〟。
『敵機接近!!直上です!』
『なんだとぉ!?』
反射的に上を見上げたときには、すでに手遅れだった。シンの駆る機体と同じ大剣を手にしたインパルスが、太陽を背にしてザムザザーの真上から襲いかかった。
「はぁあああ!!」
『り、リフレクターを…!!』
レイの咆哮に、ザムザザーは自慢のリフレクターを展開しようとしたが、それは叶わない。リフレクターを司る機器が、シンの放ったビームコンフューズによって損傷を受けていたからだ。
不完全なエネルギーを機器に充填させたザムザザーは、その機能を十全に果たすことができないまま振り下ろされたエクスカリバーによって貫かれる。
『うあ゛ぁああ!?』
コクピットへもろに直撃した刃は、パイロットたちを生存させる可能性の一切を切り裂く。ザムザザーは大きな爆発と黒煙を上げて、インパルスとエクスカリバーが見下ろす海へと落ちてゆくのだった。