ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
『なんだ、コイツは!?』
目の前に降りてきたレイの駆るインパルスと相対したアビスは、戸惑いに似た声を上げる。大剣を模したエクスカリバーを振り回して構えたインパルスは、そのまま風を凪ぐようにアビスへエクスカリバーを振りかざした。
間一髪のところで、大剣を躱したが、その風圧と破壊力は凄まじく、エクスカリバーは地面に接すると易々と瓦礫を吹き飛ばしていった。
冷や汗を流すアウルを他所に、戦況を見つめるスティングもイレギュラーの存在に困惑している。ステラのガイアを牽制する可変機。
『あれも新型か?どういうことだ…あんな機体の情報は…アウル!』
機体の配色、反応からしてザフト軍の配備済みのモビルスーツとは考えにくい。そんなスティングの眼下では、インパルスに攻め入られるアビスの姿があった。
《レイ!命令は捕獲だぞ!解ってるんだろうな!あれは我が軍の…》
「解っています。でも出来るかどうか保証はできません」
淡々とコクピットの中で答えたレイは、逃げ腰で距離を取ろうとするアビスへ、腰に懸架していたビームライフルを手に持って構える。
不味い…この体勢じゃ…!そうアウルの警鐘がピークに達しようとした瞬間、ガイアともう一機の影が、インパルスとアビスの間を横切った。
《このバカ!コロニー内でビームを撃つ奴があるか!?》
困惑するガイアを押し出したのはシンの操るメビウス・ストライカーだった。
ビームライフルを構えているインパルスを見てギョッと目を剥き、相手取るガイアの退路を誘導して、わざとアビスとの間に割り込んだのだ。
「何だと、貴様…!」
憤慨するレイの声を、シンはそれを上回る怒声で封殺する。
《ここには民間人が住んでるんだぞ!!こんな空気の袋にビームで穴を開けるなんて…なんのための近接戦闘装備だ!!状況を考えろ!!》
せり返してきたガイアの攻撃をいなして、片腕に装備したパンツァーアイゼンで殴りつける。可変機ゆえに耐久性は無いが、今はそんなことを言ってる場合では無い。
駆動系のエラーを無視しながら、シンはガイアを押し戻してシュベルトゲベールを構える。
「シン!よく来てくれた!」
後方にいるザクには、案の定アスランとキラが乗り込んでいる。映像回線は使えないが、おそらくカガリたちもコクピットに搭乗しているのだろう。
「アスランさん!アスハ議員もアルスターさんも無事ですね!キラさん!くっ…!?」
『なんだ、お前ええーー!!』
パンツァーアイゼンで殴られたことに咆哮を上げるステラ。ガイアから放たれるビームをアイゼンのシールドで防ぎながら、シンは距離を詰めていく。
「こいつ、ザフトの新型…!!なんだってこんな簡単に!敵にっ!」
『このおおお!!』
前に出たメビウス・ストライカー。それに合わせてガイアもビームサーベルを抜いた。こうも足場が瓦礫だらけだと距離を開けようにも手間がかかる。ならば、相手が懐に飛び込んできた隙を狙う!!
取り回しが悪い大剣であるシュベルトゲベールより、ガイアのビームサーベルの方が小回りは早かった。そしてそれはーーーシンが一番よく知っている。
「一本調子で来たところで!!」
シンはすでに、シュベルトゲベールを〝逆手〟に構えていた。小型ビームサーベルが展開できる柄頭を迫り来るガイアめがけて突き出す。
大剣は小回りは悪い。だが、それは刃を使う時だ。柄頭などの部分を逆手にとれば、ビームサーベルよりもこちらの方が小回りが効く!!
ステラのモニターに、シュベルトゲベールⅡの柄頭から発生したビームサーベルの光が広がっていきーー。
『ステラ!!』
その攻撃を、スティングの駆るカオスが横から遮った。レールガンが辺りに着弾し、シュベルトゲベールⅡのビームサーベルは、ガイアの胴体脇を掠めた。冷や汗を流したステラはバックステップで距離を置くと、ガイアをモビルアーマー形態に変形させて、シンからさらに距離を取った。
「いぃ、ザフトのモビルスーツってのは犬にも変形するのか!?」
さらにモビルアーマーに変形したカオスからの追撃も加わり、シンはガイアを追うのをやめて、アスランやキラを守るために防御の体制へと入る。
《こちら、ミネルバの艦長、タリア・グラディスです。貴方方は…オーブ軍の?》
その後方では、アスランのザクに新造艦ミネルバから通信が入ってきていた。相手はミネルバの艦長、タリア・グラディスだ。
「オーブ軍所属のアレックス・ディノです。グラディス艦長」
カガリを横に乗せたまま応答するアスラン。そんなアスランとキラのザクには一切の攻撃が及んでいない。シンがカオスとガイアを相手取って大立ち回りを演じているのだ。
ああなったらシンは強い。彼は守りに関してはすでにアスランやキラを上回る実力を有している。
あの〝流星〟が手ずから育てた逸材だ。まだ飛行訓練しかしていなかったとき、地球軍のモビルスーツへ軍用機で体当たりを行い、無傷で生還している記録も持つほどのパイロットだ。
故に、アスランたちも安心してグラディスからの通信に応答できていた。
《見て分かる通り、何者かに新型機が奪取されました。とにかく、貴方方は無事に離脱することを優先に。レイ、わかってるわね?》
「はい、そのつもりです」
「そんなこと言ってる場合でもないけどな!!こいつ!!」
いくら強いとはいえ、スペックでは上回るザフトの新型2機を相手取って戦っているのだ。淡々と答えるレイとは違って、シンは必死そのものだ。
《強奪部隊ならば外に母艦が居るはずです。パトロール艦、そちらは?》
すでにアーモリーワン外部に展開したパトロール艦からの応答を待つ。だが、それは事態を更なる悪化へと導く通信となった。
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アーモリーワン外部中域。
ミラージュコロイドを展開する特殊艦「ガーティ・ルー」のブリッジでは、事が始まったアーモリーワンからの通信により、その進路を合流予定地点である場所に向けていた。
「作戦は開始されたな?ならば、こちらも進めようか。艦長?」
マスクを被った男性は、悠々と座席に座りながら隣にいる艦長、イアン・リーへ指示を仰ぐ。彼はわかっているように、彼の下で働く士官たちへ命令を下した。
「ゴットフリート1番2番起動。ミサイル発射管、1番から8番、コリントス装填」
「イザワ機、ハラダ機、カタパルトへ」
「主砲照準、左舷前方ナスカ級。発射と同時にミラージュコロイドを解除。機関最大!」
姿を覆い隠していたベールが外れ、牙を剥き出した船はまだ事態を把握できていないパトロール艦へと突き進んでいく。その光景を、イアンたちは待ち望んでいた。その顔には愉悦に似た笑みがある。
マスクを被った男性は、頬杖を突きながら小さく微笑んだ。
「ーーさて、ついに幕間は終わり、新たな物語が始まる、か。相手はどう出てくるかな?」
「ゴットフリート、てぇ!」
艦長の怒声に似た声により、艦主砲から極光の光が打ち出される。それは狙いを逸れずに、こちらに気づいていないパトロール艦のブリッジへ走った。
『何!?敵艦だと!?』
それがパトロール艦「ハーセル」艦長の最期の言葉となった。ゴットフリートに打ち抜かれたブリッジは赤く焼けただれて、火を拭いて爆散する。
『ハーセル被弾!ブリッジが!!』
『ミサイル接近、数18!!』
『不明艦捕捉!数1、オレンジ25、マーク8ブラボー、距離2300!』
『そんな位置に!?ミラージュコロイドか…!!』
『地球軍なのか!?』
相手は手に取るように混乱している。全て作戦通りだ。ザフトなど、すでに恐るるに足りない。イアンの怪しい笑みが、戦況の波乱を呼んでいく。
『熱紋ライブラリ照合、該当艦なし!』
『迎撃!ナスカ級を呼び出せ!モビルスーツもだ!』
敵もまた、すぐに動き出した。港には新造艦の進水式のために集まった艦艇がある。その内の二隻が、こちらに向かって進んできた。
「ナスカ級接近、距離1900!」
よし、素晴らしいーー予定通りだ。マスクを被った男性は、無重力の中に浮かぶと、そのままシートを蹴ってブリッジの外へと向かっていく。振り向き様に、艦長へ指示を投げた。
「よーし、モビルスーツ発進後回頭20、主砲照準インディゴ、ナスカ級。あちらの砲に当たるなよ?私も出るーーー〝メビウス〟を用意しろ」
マスクの下で彼は笑う。
そうだとも。
私は待ったのだ。この瞬間のためだけに。
故に証明して見せようーーー私が〝流星〟であるということを。