「違うんです!俺は、かなでちゃんと音無君のイチャイチャが見たいだけなんです! SSS団には入りませんからぁ!」   作:岳鳥翁

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おや、なんだか書ける気がしてきたぞ……?


Alive~Dancer in the Dark

 面前でハンドソニックを構えるかなでちゃん(分身体)に、俺は冷や汗を流すしかない。

 

 分身体とは言え、そのスペックはオリジナルであるかなでちゃんと同じものだ。

 

 その性能は以前ギルド降下作戦で対峙した時に十分体験させてもらったが、代償覚悟で英霊スペックを引き出さなければ相手をするのは難しい。

 

 そもそも、あの時とは条件が違うのだ。

 

 明確にギルドという目的があったかなでちゃんに、足止めする気しかなかった俺。しかし事今回に至っては、その対象は俺一人に限られる。

 

 そして分身体であることもやっかいだ。

 

 オリジナルのかなでちゃんが守りであるなら、分身体である彼女はその対極。好戦的な性格であると言えるだろう。

 

 動きに警戒しながら、物干し竿を引き抜く。

 

「あら? 危険なものを持っているのね。それも校則違反よ」

 

「あいにく、もっと危険そうな相手が目の前にいるからな」

 

 皮肉を口にするも、彼女は「そう」と短く零しただけだった。

 その反応に嫌な予感すら覚える。

 

 以前対峙した時の事を考えれば、身体能力は若干俺が有利。だが、それは時間制限付きで時間が来れば痛みと疲労で俺がまともに動けなくなる。

 あとは得物の長さか。間合いに入られてしまえば、手数で有利な向こうに良いようにされるだろう。

 

 となると、俺がとれる選択肢は間合いを取って隙を伺いつつ、その時が来れば気配遮断を全開にして即撤退、というもの。

 

 

 あるいは、燕返しの一撃で殺して逃げるか、だ。

 

 幸い、この世界では死んでも生き返るため、この後の物語の流れに影響は出ないはず。

 

 しかし、だ。しかし……!

 

 

(俺に、分身体とは言えかなでちゃんを殺せるのか……!?)

 

 いや、実際に俺が殺されるかもしれないというピンチなのはわかっているし、何なら現在進行形で襲い掛かってきそうな彼女を危険だと判断できないわけではない。

 

 が、こんな時でさえ『推し』であるというその事実のみで行動に起こせない俺はもはや末期なのではないだろうか。

 

 

 ……願いを叶えてやるって言われてここに来た時点でもう末期か。ハハッ。

 

「ヌゥッ!?」

 

「……」

 

 無言で両刃を振るってくる分身体を、体が耐えられる程度の動きでいなす。

 的確に急所を狙ってくる分、まだ攻撃の予測はつきやすい。それでも殺意マシマシなその攻撃には思わず顔をひきつらせた。

 

「シッ!」

 

 詰められた間合いを離すため、物干し竿を横に薙ぐ。

 分身体は屈んで刀を避けるが、それは予測済み。少々無理はするが、薙いでいた刀の軌道を修正し、袈裟斬りを繰り出した。

 

 

「っ」

 

 しかし、彼女は両手を交差して頭上に構えると、その一撃を耐えた。

 まずいと思い、今度はバックステップでこちらから距離を取るも、彼女は素早く追従し、ブレードによる刺突を繰り出した。

 

 回避は……間に合わない。

 

「グッ……!?」

 

 仕方ないと覚悟を決め、心臓を狙ったその一撃を左肩へとずらし、即死を免れる。

 

 想像を絶する痛みに悲鳴をあげそうになるが、そんな暇はないため彼女の胴に向けて蹴りを入れる。

 

 無理やりな体勢で苦し紛れの攻撃は、当然の事ではあるが彼女には通用しない。

 

 軽く後ろに下がることで簡単に避けられる。

 距離を離せただけマシと考えよう。

 

「危ないわね」

 

「俺が言いたい一言だよ……」

 

 

 幸い刺突の攻撃であるため、少しでも時間が経てば左肩は治るはずだ。現に、治っていく気持ちの悪い感覚がある。

 が、この状況で治るまでは待てないだろう。

 

 左腕が満足に使えないため、物干し竿を十全に扱うのは少し難しい。

 使えないこともないが、目の前の存在を相手にするには致命的すぎる弱点だ。

 

 仕方ない、と俺は得物である物干し竿を背負った鞘に納刀する。

 

「抵抗をやめたのね」

 

「そんなつもりはない……ね!!」

 

 可能な限り全力をもって、俺は足元の土を蹴り上げた。

 筋力のステータスが低いとはいえ、英霊スペックを十全に使用すればそれなりの砂埃は巻き起こすことができる。

 

 突然の行動に反応ができなかったのか、彼女は顔を防ぐように掲げただけで追撃はしてこない。

 

 逃げるなら今だろう。

 

 俺ができる限りの気配遮断を使用し、すぐさまその場から離脱する。

 彼女の身体能力を侮ってはいけない。故に、後の筋肉痛を度外視して最速で寮の自室まで避難した。

 

 

「はぁ…はぁ……ぐっ……」

 

 背負っていた愛刀を立てかけ、すぐさまベッドへとダイブ。

 左肩はもうほとんど治ってはいるが、貫かれた時の痛みを思い返して思わず顔を歪めた。

 

 外がやけに騒がしい。きっと、SSS団が川の主のおすそ分けでもしているのだろう。すぐにでもここから出て、音無君とかなでちゃんの名前呼びイベントをすぐ傍で目視したいが、血の付いた制服で行っても怪しまれるだけだ。

 

 購買部で新しく購入しなければなるまい。

 

「くそ……ここにきて、イベントを見逃すことになろうとは……許すまじ分身体」

 

 悔し涙で枕を濡らしながら、ぶつぶつと文句を零していく。

 

 ……まぁいい。この悔しさは、今日写真に収めた音無君とかなでちゃんの姿を鑑賞することで紛らわせることにしよう。

 あれ一つで、ご飯三杯はいけるぜ!

 

「……あれ?」

 

 写真を見ようと、首から吊り下げていたカメラを取ろうと手を動かしたのだが、俺の手はただ虚空をつかみ取るだけだった。

 

 その可能性を信じきれない俺は、恐る恐る視線を下げた。

 

 綺麗にすっぱりと斬られた紐だけが残っていた。

 

「…………」

 

 時間にして数秒、俺は受け入れたくない現実を前に言葉を失うしかなかったのだが、それに反して頭の中は大パニック。

 暴走列車が街中を蹂躙していくように、様々な言葉が駆け巡った。

 

 

「分身体ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」

 

 

 結局、口にできた言葉はそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 グランドで川の主のおすそ分けが行われているのを泣く泣く見過ごしながら、俺は先ほど分身体と争った場所まで戻ってきた。

 

 大きく地面がえぐられているため、場所はよくわかる。

 

 もしかしたら、という可能性にかけてカメラが落ちていることを願ったのだが、いくら探しても目当てのものは見つからない。

 

 これだけ探しても見つからないと言うことは、あの分身体が持って行ってしまったと考えた方が良いだろう。

 

 

「まずいまずいまずいまずいまずい……!!」

 

 一番考えたくなかった可能性が浮上し、俺は思わず頭を抱えた。

 

 何がやばいって、あの中には俺の盗撮記録がそのまんま残っていると言う点だ。

 

 ありがたい可能性としては彼女が拾ったカメラを何事もなかったように写真部に戻すことだが、たぶんそんなことはしてくれないだろう。

 

 何が写っているのか確認するだろう。

 

 校則違反をお仕置きとか言って襲ってくるような奴だ。下手すれば写真を消されることが考えられる。

 

 泣きたくなる。

 

 だがこれはまだましな方で、もっと最悪なのは彼女が写真を消さず、カメラを手元に残しているパターンだ。

 

 

 消されないからいいだろうって? 甘いね!

 

 この後のイベントは、そう。元ギルドの奥へと誘拐されたオリジナルのかなでちゃんをSSS団総出で救出する。

 

 原作では、音無君がかなでちゃんの元へとたどり着き、他のメンバーたちと共に帰還するのだが、その際にカメラが見つかってみろ。

 

 

 もう、考えただけで地獄よ。

 

 恐ろしい未来の可能性に、頭を打ち付けたくなる。

 

 そうなると、俺が考えられる最善は自らカメラの回収に動くことだ。

 

 だが、一人で回収に向かうのはあまりにも危険だ。

 何せ、たどり着くまでの間に、いったい何人の分身体が待ち受けているのか。そんな人数を連続して相手にするのは流石に無理だし、待ち受けているのは狭い一本道。十全に物干し竿が扱えるとは限らないだろう。

 

 

 なら相打ちになったかなでちゃんが誘拐される前に回収を、と思うかもしれないが、原作において分身体が姿を現した後からかなでちゃんのいる保健室を襲撃するまでの間、分身体の行動は不明なのだ。

 

 

 おまけに、うまく見つけたとしてもカメラが回収できるとは限らない。

 なら、誘拐の後でSSS団に付いて行くのがベストだろう。最悪、元ギルドになくてもSSS団(彼ら)に見つからなければそれでいい。後々捜索するだけだ。

 

 

「しっかし、こんなことで傍観をやめることになるとは……我ながら情けない…!」

 

 夜空の下、俺の残念なその言葉は誰にも聞かれることなく虚空へと溶けていった。

 

 

 

 

 仕込みとその成果は完璧だと言っていいだろう。

 

 二日後。

 どうやら、原作通りにかなでちゃんと分身体は心臓を一突きの相打ちとなったらしい。

 それに伴い、SSS団も行動を開始。

 彼らを更生させようとする分身体を警戒して、授業を受ける振りをしていた。

 

 今頃、仲村がかなでちゃんの部屋でAngelPlayerの書き換えを行っているだろう。

 

 

 書き換えた内容はアブソープ。ハーモニクスによってできた分身体を元に戻すスキルだ。

 

 それを使用させなあいために、分身体は見張り役の松下五段とTKをものともせず、かなでちゃんを誘拐することになる。

 

 

「……始まったか」

 

 俺は音無君や日向と同じクラスであるためその動向がよくわかる。

 

 遊佐が教室に現れて何かを二人に伝えると、彼らは急いだ様子で教室から飛び出していった。

 

 それを確認した俺も教室を出る。

 向かう先はSSS団幹部が集まる保健室……ではなく、自室。

 

 立てかけてあった物干し竿を背負い、俺は部屋を後にする。

 

 接触するなら、仲村たちが分身体の目撃情報を集め始める今だろう。

 

 

 SSS団のメンバーたちがNPCなどにも接触して情報を集めている様子を尻目にしながら、俺は目的の人物を探す。

 

 そして夕方も近いころ、俺はその人物と接触を図った。

 

 

「あなたは……確か、山野?」

 

「久しぶりだな、仲村。早速で悪いが、協力を申し出たい」

 

 

 その人物……SSS団リーダーの仲村は、突然現れた俺に少しだけ驚きながらも俺の名前を口にしたのだった。




そんなことは無かった。


また失踪します
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