「違うんです!俺は、かなでちゃんと音無君のイチャイチャが見たいだけなんです! SSS団には入りませんからぁ!」 作:二修羅和尚
油断なく愛刀である物干し竿を構え、その切っ先を目の前の少女へと向けた。
彼女の名は立華かなで。
この死後の世界の学園にて生徒会長を務める存在だ。
神に抗うSSS団のメンバーたちは、彼女を神の使いである天使と断定して日々戦っているのだが、彼女も死んだ人間であるため、現時点においての彼らの戦いは無意味なものだと言えるだろう。
まぁそもそも、学生らしく過ごしていれば前世のある人間は消滅してしまう中、何十年と消えずに残っているかなでちゃんを見れば勘違いしてしまうことも理解できなくはない。特に、理不尽な死を許せなかった彼ら彼女らにとっては。
だが、この世界における消滅の条件は学生として過ごすだけではないのだ。
前世の未練。
それが解消できた時、人はこの世界から消える。逆に言えば、その未練が残っていればいくら真面目に学生として過ごしていてもこの世界から消えることは無い。
立華かなでは、この後者に当たる。
刀を向けているはずなのだが、表情一つ変えることもなく俺をまっすぐに見つめているかなでちゃん。その瞳は、もう少し感情を込められるようになったら音無君に向けてもらいたいものだ。是非ともね!
「ぜあぁっ!」
袖から飛び出ている刃を構えた瞬間に合わせて斬りかかる。
しかし、彼女はそれを避けることなく、片方の刃を頭上に構えて受け止めてしまった。
「やっかいだな!」
原作ではなく、そのSSS団創設当時の話において彼女が語ったパッシブスキルであるOverdrive
その効果は単純に身体能力の強化だ。
このGuardskillによって、彼女は日向を軽く振るっただけで吹き飛ばせたし、原作においてもすさまじい戦闘能力を発揮している。
筋肉痛やら筋断裂覚悟で相手にするのは嫌なんだけども!
もう片方の腕を振るって斬りかかってくる彼女から、今度はこちらがバックステップで距離を取る。
振るう速度がすでに少女のそれではない件について。知ってたけども、こうして対峙して体験すると本当にとんでもないな!
着地と同時に前へと飛び出し、愛刀の切っ先を彼女の腹に向けて突き出した。
そもそも、今回は足止めが目的であるため、必要以上にかなでちゃんを痛めつけるつもりはない。今のこの状況でさえ本当に、本っ当に仕方なくなのだ。推しに刃を向けたのだ。俺はこの後、死んで詫びるべきかもしれない。
Guardskill Delay
……まぁ、俺がかなでちゃんを相手に生き残れればの話ですがね!
瞬間移動によって軸をずらし、刀の突きから逃れると、今度は彼女が両腕を構えて斬り込んできた。
ヤバッ、と口に出るよりも先に、俺の体は伸び切っていた腕の軌道を無理矢理変更。とてつもない痛みに顔が引きつりそうになるが、体はかなでちゃんの背後に向けて刀を振るう。
しかし、そんな攻撃も彼女は簡単に凌ぎ、更には空いた方の手で突きを放ってくる。
狙いは……心臓!!
「こなくそ!!」
刀を振るった勢いを利用して片足を一歩後ろへ。
半身になった体のすれすれをHand-sonicの刃が抜けていくのだが、その際、浅く学ランを斬られてしまう。
そのハートキャッチ(キャッチはしてない)は音無君が相手の時だけにしてくれないかなぁ!?
頭の中で散々喚きながら、接近していたかなでちゃんの腹を蹴り出した。
攻撃的なものではなく、距離を取るためのものであるため威力はないが、仕切り直すには十分な間が開いただろう。
かなでちゃんの方も空中で体勢を整えると、スマートに着地を決めていた。
刀を構えたままの俺と、両腕を下げ感情のこもっていない目を俺に向けてくるかなでちゃん。
お互いがお互いを見つめ合いながら、ただ時間が流れていく。
なお、恋なんて生まれない。生ませるものか(使命感)
「……あなたは誰?」
「最初に戻るのかぁ……」
あれだけ斬りかかっていた相手にこんなことを聞けるのは、流石というか天然というべきか。
しかし、その質問に答えるつもりは毛頭ない。
……いや、あえて名乗るのもいい案かもしれない。
「俺の名前は、名無し権兵衛だ」
「ナナシ……そう、覚えたわ」
やはりこの娘天然が過ぎるのではないだろうか
「ああ、しっかり覚えてくれ。……っと、時間か」
自身のはるか後方に人の気配を感じた。おそらく、仲村と音無君がギルドに到着し、爆薬を仕掛ける間の時間稼ぎに出てきたのだろう。
なら、今回の俺の役目はこれで終わりだ。
これ以上、この場に居座っても意味はないだろう。
「それでは、これにて」
「あ……」
気配遮断を最大限に使用してその場を離脱する。
突然姿を消した俺に最初は少しだけ反応を見せていた彼女であったが、しばらくすると再び歩を進めてギルドの方へと向かっていった。
その様子を後方から見ていた俺は、もう大丈夫だろうと地上への道を駆けた。
SSS団が地上へ戻るまでの間に、新しい学ランを新調しておかなければならない。でなければ、NPCの生徒の学ランが斬られているなんておかしいと思われかねないからな。
「とりあえず、関わるのはここまでだな。……原作崩壊してないよね? 修正出来てるよね?」
何か、めちゃくちゃ心配になるが、今の俺には祈るしかできない為今後のSSS団の動向に注意するしかないだろう。
「はぁぁぁ!! はやくくっついてくれねぇかなぁ!!」
連絡通路を駆けながら、文句を垂れ流す。
早くこの目で、ゆづかなを見て尊死したいものだ。
死んでるけどね!
◇
さて、それでは後日譚だ。
SSS団が変わらず活動を続けていることを鑑みるに、どうやら原作崩壊という最悪の展開は免れたようだった。まぁ、俺が少しでも介入している時点で原作のげの字もないのかもしれないが、最終的に音無君とかなでちゃんが協力するようになればそれでいいのだ。
言ってしまえば、俺がこの世界にいるのもただの自己満足のようなものなのだから。
……そういえば、OVAとかでかなでちゃんが卒業して音無君が生徒会長としてこの世界に残る可能性の話もあったか。
できれば、かなでちゃんと共に卒業して現世で再開という、俺が尊死必須のキタコレ展開になってほしいものだ。
だがしかし、もちろん俺の中での一番はゆづかなであるのだが、個人的にはひでゆいの結婚してやんよも大好物だ。第十話からそうやって泣かせにかかるのって本当に卑怯だなと思いました。
「……そういや、ギルド降下作戦が終わったってことは、もう次なのか」
ふと思い出したのは、この後の話。
確か、GirlsDeadMonsterのリーダーである岩沢がこの世界から消えるんだっけか。
彼女自身については、俺個人嫌いなわけではない。俺は環境的にできてないのだが、PC版のゲームでは彼女のルートがあったという話は聞いている。
音楽狂いと言ってもいい岩沢という少女は、前世において、やはり理不尽な人生を送っているということは知っている。
しかし、俺がここで彼女の人生について説明しても仕方のないことであるため何も言うことは無い。
それに、俺自身、彼女がこの世界から消えることについては止めるつもりはない。
前にも言ったが、この世界に来てしまった少年少女たちは未練を残して死んでいる。
そして、この世界で青春を送れば、やがて卒業とともにこの世界から消えるのだ。
だからこそ、SSS団の面々はそうならないために授業にも出ず、日々神に抗うため天使と称するかなでちゃんと戦っているわけだ。
しかし、岩沢が消えることでその前提が覆されることになる。
そして音無君が、未練を解消すればこの世界から「卒業」できるということを知るきっかけになる話……だったはずだ。何分、細かいところまで覚えている自信はない。
それに、今回の作戦はガルデモを陽動とした天使エリア侵入作戦だ。つまるところ、女子寮にあるかなでちゃんの部屋への不法侵入である。
確か、竹山クライストが登場する回でもあるな。
『-------』
……さて、そんな感じで色々と思考を巡らせていたのだが、なかなか相手もしつこいらしい。
意識して聞かないようにしていた放送。俺は机に突っ伏して寝たふりを続けていたのだが、体勢はそのままに耳だけを傾ける。
『ナナシゴンベエさん。今すぐ生徒会室まで来てください。繰り返します。ナナシゴンベエさんは――』
各教室に響く生徒会長、立華かなでの声。どうやら、彼女は放送室からわざわざこの放送を流しているらしい。
『生徒会長。恐らくですが、その名前は偽名だと思うのですが?』
『…そう?』
先ほどから何回も何回も呼びかけるかなでちゃんに痺れを切らしたのか、副会長である自称神、直井がかなでちゃんに正解を教えていた。
休み時間になるたびに教室から出て行ってはこの放送がかかるこちらの身にもなってもらいたいものだ。直井には是非ともかなでちゃんを連れて帰ってきてもらいたいものだな。
だが、まだまだ序盤ではあるものの、原作は大きく乖離しているわけではない。
このままいけば、無事かなでちゃんとSSS団も和解し、俺の見たいエンドも見ることが出来るだろう。
それまでは気が抜けないな、と教室に戻ってきた生徒会長かなでちゃんを見ながらひっそりと笑うのだった。
episode3 My Song は作品都合上ほとんどカットです。
介入する余地がないからね