「違うんです!俺は、かなでちゃんと音無君のイチャイチャが見たいだけなんです! SSS団には入りませんからぁ!」 作:二修羅和尚
ここ最近の出来事といえば、ガルデモの岩沢が消えたことであろう。
天使エリア……まぁ要するにかなでちゃんの寮の部屋に侵入するミッションの際、その囮役を担っていたガルデモの彼女らは、乱入してきた教師のNPCによって取り押さえられた。
そこからは記憶にある原作と一緒。一曲歌ったあと、岩沢はギターを残して消滅したわけだ。
しかし、俺もその場にいたわけだが、消えるときは本当に突然消えるらしい。英霊が消滅するように光の粒子となるわけでもなく、気がつけばいないのだ。音もなく消えるというのは、ああいうのをいうのだろう。
さて、この岩沢の消滅を機に戦線の多くは、卒業以外にこの世界から消える方法があると判断するわけだ。
学園生活を真面目に送らずとも、消えることがある。その事実は多くのメンバーに衝撃を与えたことだろう。高松加入の際にいた初期メンバーは見たことがあるかもしれないが、まぁそこはいいだろう。
大事なのは、この岩沢の消滅の理由を音無君が知ることなのだから。
そういう意味では、まぁ申し訳ないという気持ちもあるのだが、岩沢が原作通り消えたことにホッとしている部分はある。
最近、原作通りにいかないんじゃないかと不安になっていたところだ。一つの壁を乗り越えた今、今日は安心して寝ることができるだろう。死後の世界で寝不足なんてあるのかは知らないが。
ワイワイガヤガヤとしている教室の中、窓の外を見てみれば、グランドでは野球の練習をしているNPCたちの姿がチラホラと伺える。
そういえば、もうすぐ球技大会の時期かと思考を巡らせ、俺自身がどう動くかを考える。
まぁさしあたって特に重要な話ではないのだが、高校野球の未練が残る日向が消滅するかもしれないので注意はしておくべきだろう。彼には、最後まで残ってもらわなければならないのだから。
そこまで考え、あっ、と声が漏れた。
「…そういや、ボーカルが変わるのもこの時期か」
消滅した岩沢に変わり、ガルデモのボーカルを務めることになるのは彼女のファンでもあったユイ。苗字は知らん。
今回から戦線のレギュラーとなる彼女は、良き日向のパートナーだ。日向と同じくギャグキャラじみた少女であるが、戦線メンバーと同じく、彼女もそういう前世を経験しているのだ。
あのやんよで、グッとこないやつがいるのだろうか。いや、いない。
だが日向に関しては、彼女がいればある程度は安心できるだろう。勝利のかかった一球をふいにしてまで、日向にキックをかますような少女なのだから。
閑話休題
とりあえず、球技大会だ。
戦線の目的は、大会にゲリラ参加し、優勝することでかなでちゃんたちを正攻法でギャフンと言わせること。
まぁゲリラ参加の時点で正攻法もクソもないのだが、重火器などを使った暴力でない分だいぶマシだろう。
もっとも、後から生徒会が野球部レギュラーを引き連れて参加し、戦線チームを蹂躙していくのだが。
死よりも恐ろしい罰ゲームを回避したい彼等には合掌するしかない。頑張ってくれ。
そして今回の俺の方針であるが、恐らく大会に参加することもないだろう。参加したところで、どうということでもないのだ。
だが、参加はせずともやることはある。
もうすぐ授業が始まるがそこは無視。優等生を気取っているわけでもないので、気にすることはない。音無君とかなでちゃんのイチャイチャがあるのなら、全てを投げ打ってでも見に行くぜ、俺は。
◇
「確か、体育用具の倉庫だった気がするんだが…」
気配遮断を十全に使用し、外を散策する。
一般生徒が授業中に外をうろついてるわけがない。姿を見られてしまえば、一発で人間だと気づかれるだろう。
いつもの白い骸骨の仮面を装着し、倉庫らしき場所を目指す。
今回は彼女と話をするつもりだ。
基本的に作戦本部である元校長室以外ではどこにいるかもわからない彼女が、めずらしくそれ以外の場所で一人でいることが確定しているのだ。この機を逃してしまうと、次がいつになるか見当もつかない。
二人で会うなら、今回しかない。
この接触が、どう影響するか俺もわからないが、こと彼女に至っては既に原作からずれた行動をしているのだ。今更であろう。
「……っと、ここか」
用具倉庫らしき場所についたため、そっと中へと侵入する。
少し埃っぽく、小さな窓からしか光が入らない倉庫の中、彼女はいた。
……右手に箒を立てながら。
「……そういや、そんなことしてたな」
確か、降下作戦で新入りの音無君に遅れをとったのは集中力が足りなかったからだ、と降下作戦の日からずっと箒を掌の上に立て続けているのだとか。
ユイがアホなんですねというのもわかる。彼女もアホではあるが。
「……! 貴様か。何の用だ」
気配遮断の効果を弱めると、途端空いた左手で小刀を構えた彼女は、俺の姿を視認すると構えたまま問うてきた。
「話し合いだ。敵意はない」
「……信用するとでも?」
両手を上げて武器がないことを示してみせるが、あまりうまくいってないようだ。
「ならば仕方ない、そのまま聞け。俺はお前たちを害する気などない。いちいち警戒するのはやめろ」
「それこそ信用できるわけがなかろう。それに、一度ならず、二度までも私達を監視していた貴様がそれを言うのか。あさはかなり」
もっともなご意見で。
「俺にも目的がある。その目的のためには、お前たちを見張らなければならない。それだけだ。危害を加えることはないと誓おうじゃないか」
「ではその目的は何だ」
「……それはちょっと」
「ならば信用なんぞできるわけがないだろう」
ごもっともで!!
しかし困ったことになったぞ……武器を持たないことで誠意を示し、危害を加えないということを信用してもらおうと思ったのだが、そもそもそこまでいけてないんじゃが?
でもなぁ!目的話すのもなぁ!
「音無君とかなでちゃんのイチャイチャを最後まで見たいんです」なんて絶対に言えるか!ボケ!
どうする?かなでちゃんが仲村たちと仲良くする前に戦線入っちゃう?
無理だよこんちくしょう。まだ椎名としか接触していない今ならともかく、戦線全員と関わることになればどんな影響があるか見当つかねぇ。
加入するのは最低でも川釣りの話で増殖したかなでちゃんが出てきてからだ。
「……ともかく、言いたいことは伝えた」
くそ、こうなるんだったら、話になど来なかったぞ。
ではな、と椎名が襲いかかってこないことを確認しながら倉庫を後にする
……はずだったんだがなぁ
「お〜い、椎名っち〜。いるか〜」
正面から入ってきた3人組。
椎名を相手にしていて外から来る者に注意を向けていなかった。
突然響いた声に焦った俺は、倉庫から出ることなく、気配遮断を使用して倉庫の奥へと隠れた。
日向、音無君、ユイの3人である。原作にもあった椎名を野球のメンバーに誘うのだろう。
よりにもよって今日なのか。昨日のうちにここにきていればよかった。
奥から四人の様子を見ていると、日向たちは椎名の勧誘に成功したようだ。
戦力の確保に喜ぶ三人は、そのまま椎名を引き連れて他のメンバーを勧誘しに行くようだ。原作通りなら、次は野田だろう。
ここで出て行くならまぁそれはそれでいいだろう。話も終わるというもの。
しかし、そんな俺の予想に反して椎名は動いた。
「すまないが、私は後で合流させてもらおう。ところで日向。メンバーに当てはあるのか?」
「あったりまえだ!この俺の人望、なめんじゃねぇぞ?まぁでも、人が多いことに越したことはないぜ」
「さっき断られてたけどな」
それをいうなよぉ〜!と音無君に突っかかる日向。
しかし、俺はそれどころではない。
まただ
また、椎名が原作に沿わない行動を起こした。
何のつもりだあいつ、と恨みがましく彼女を見ているとそれに気づいたのだろう。日向たちと別れた彼女は俺のいる倉庫内へと引き返し、敵意が漏れているぞ、と忠告してきた。
相変わらず、役に立つようで役に立たない気配遮断だな。
「……何のつもりだ」
「? よくわからんが、私の信用が欲しいと言ったな、お前は」
一瞬首を傾げていた彼女は、徐にそう言った。
「……まぁ、こちらがお前たち戦線と敵対することはないと信じてもらえればそれでいい」
「なら取引だ。こちらの要望を呑むのなら、その言葉を信じよう」
……どういうことだ?
椎名が原作に沿わない行動をしたこともそうだが、俺に取引を持ちかけてくること自体意味がわからない。
「一応、聞いておこう」
「私たちのチームに入って大会に出ることだ。恐らくだが、あの男は人数を集められないだろうからな」
あの男、というのは日向のことだろうか。本当に人望があるのか謎である。
「……その取引を、俺が受けるとでも?」
「受けないなら受けないでそれでいい。今後も変わらず、お前を敵として扱うだけだ」
今更ながら、少し話しすぎたと思っている。
こいつ、俺がそう扱われることを嫌がっているのを利用してマウントを取りに来やがった。
焦りすぎたか……ともあれ、やってしまったことを後悔しても仕方ない。それに、受けることに関してもメリットはある。
こいつさえ俺を気にしなくなれば、俺の影響はぐっと小さくなるはずだ。それに、俺の存在自体は骸骨の仮面の男としてバレているため、ここで協力しておけば仲村にも敵と認識されることはない…はずだ。
「条件をつけてもいいならば受けよう」
「言え」
「俺の正体について言及しないこと。そしてこの大会以降で約束を守ることだ」
基本的にこれさえ守ってくれれば、こちらからの干渉はない。なんたって俺は傍観が目的なのだ。下手に手を出すつもりはない。
それに、時期を過ぎれば加入も考えていないわけではないのだから。
「わかった。それでいい」
「しかし、お前が自分で取引を持ちかけてくるとは思わなかったよ。リーダーに確認を取らなくて良かったのか?」
「大丈夫だろう。ゆりの命令は「優勝しろ」だからな。その目的の達成のためにお前を利用するだけだ」
それに、と彼女は続ける。
「……死よりも恐ろしい罰ゲームは、私も受けたくはないからな」
「そんなになのか」
原作では言われてなかったが、いったい何があるんだよ罰ゲーム怖いよ。
そりゃ、必死になるわな。
◇
「というわけで、戦力を連れてきた」
『……』
「あー……椎名っち?」
「?どうした」
「いやあのさ、連れてきたってお前……」
チラリとこちらを見る日向に軽く会釈すると、相手はあ、どうもと会釈を返した。
「戦力だ」
「いや、そこじゃないだろぉ!?何でこんな如何にも怪しいですって格好のやつ連れてきたの!?」
『失礼な』
「しかも筆談っ!?」
わーわーと喚いている日向はさておき、現状の説明でもしておこう。
今の俺は、身バレ防止のため、演劇部の小道具にあった顔全体を覆うマスクを着用している。気分はプロレスラーだ。
あと、声から判別されても困るので会話は全て筆談で行なっているのだ。
何この人、みたいな視線が少し痛いです。
「安心しろ。実力は確かだ」
「いや、そんなこと言ってもよぉ……第一、あいつ人間だろ?生きてた記憶のある」
「悪いが、詮索しないことを条件にされている。聞くんじゃない」
『ごくごく一般的なNPCですが、よろしく( ̄Д ̄)ノ』
「NPCはそんなこと言わねーよ!?あと、顔文字ウゼェ!!」
しまった、つい原作のキャラと普通にお話ができたことに浮かれていたようだ。
もう少し引き締めなければ
『黙れ』
「急に辛辣!?」
すると、「おい」という言葉とともに、俺の首元に向けて刃を突きつけられた。
「どこのどいつかは知らねーが、ただの雑魚なら要らんぞ。ゆりっぺの作戦を邪魔するだけなら、この俺自らが始末してやる」
「おいやめろっての」
そのハルバードの柄を音無君が掴んで咎める。
野田は邪魔するなと反抗するが、音無君はそれに屈さず庇ってくれていた。
推しの一人が……俺を……
『ケフッ!』(吐血)
「何で今吐血したの!?」
「アホですね」
何が何かわかっていないユイのファンであるNPCたちはおろおろとするばかり。なんともカオスな集団が出来上がったものだ。
しかし、人数はこれでジャスト九人。原作で一人足りていなかったが俺が入ったことでその穴が埋まってしまった。
しかし、取引はしてるし、俺もここで正体を明かすつもりはない。予定通り、最後まで勝ち抜いて生徒会チームに敗れればそれでいいのだ。
「おい、マスク!大丈夫か!?」
『尊死』
「マスクゥゥゥ!!」
「みんなアホですね」
まぁそんなわけで、球技大会スタートである。
ガバガバすぎるので失踪します。
探さないでね