「違うんです!俺は、かなでちゃんと音無君のイチャイチャが見たいだけなんです! SSS団には入りませんからぁ!」 作:二修羅和尚
元々一話しか予定になかったんや許してくんろぉ
そんなわけで、初投稿
直井が生徒会長をやめたかなでちゃんに代わって生徒会長代理となったことが告げられた。
まさに、戦線の思惑通りに事が進んだといってもいいだろう。しかし、彼らはそのかなでちゃんの存在が彼に対する抑止力になっていることを知らない。数日もしないうちに、彼らは直井の手によって追い詰められることになるだろう。
それは原作ファンである俺にとってもいろいろと言いたくなるシーンなのだが、そこを解決するのが我らが主人公である音無君だ。
この話によって、あの直井が犬の様に音無君に懐くのだが……まぁ、それに関しては特にいうことは無い。
原作の中でも割とショッキングな場面が出てくる話ではあったが、それと同時に音無君とかなでちゃんがより深く関わることになる話でもある。今回の俺は、その様子を密かに観察することがメインとなる。
椎名さえ居なければ、二人の様子を見ていたとしても誰にも見つかることは無いだろう。
今後の二人の事を思い浮かべるだけで頬が緩んでしまいそうになるが、この集会は戦線もみているのだ。変に目をつけられても困るため、何とか抑えて直立不動を維持する。
戦線は今夜にでもオペレーショントルネードを決行するだろう。
そうなれば、時間外活動の校則違反によって戦線全員が反省室に送られ、彼らは反省室内で一夜を明かすことになる。
音無君とかなでちゃんの二人のペアが一番好きなのは変わりないが、戦線メンバーによる混沌とした様子も好きなので、中の様子を見てみたいとも思っている。
「……旧校舎、だったか?」
集会が終わり、クラスごとに教室へと移動していく中で、俺のその言葉は周りの喧騒の中に消えていく。
普段は元校長室である作戦本部でしか見れない様子が、それ以外の場所で見られる貴重な場だ。見てみたいという気持ちが湧くのも仕方のないことと言える。
気配を消して、窓の外からでもその様子を見られればそれでいい。
高松は、やはり筋トレでもするのだろうか。
◇
けど、こんなことは予想してなかったんだよぉぉぉ!!!
どうもこんばんは。普段はひっそりとNPCとしてふるまう山野です。
私は今、反省室にいます。窓の外ではないです。中です。
「男女一緒だなんて、デリカシーもなんもなしね」
「天使を失墜させれば、私たちの楽園となるんじゃなかったんですか、この世界は」
「……なんで上脱いでるの?」
「いつもはトレーニングの時間だからです」
反省室の隅っこ。
気配遮断を使用して戦線の様子を観察する。
まぁ、こうなってしまったことに関しては、仕方ないと諦めるほかないだろう。俺の管理が杜撰だったのだ。今は彼らの様子を生で見れるのだから、これはこれでよかったと考えておくことにしよう。
はぁ、と小さくため息を吐こうとしたが、椎名がいたので我慢する。他にバレなくても、あいつには気づかれる可能性があるからだ。
また、寝ている間に気配遮断が解けてしまう可能性もあるため、眠ることもできないだろう。
この世界に来て、徹夜しなければならないとは…
反省室内で戦線同士の話し合いが続けられ、高松の筋トレの呼吸音が続く中、俺は今日寮での出来事を思い返していた。
◇
どうやら今日はガルデモのライブがあるらしい。ということはやはり予想通り、今日がオペレーショントルネードの決行日。
ボーカルを務めていた岩沢の穴を埋める要因としてユイが抜擢された初めてのライブ。確か、岩沢が作った曲にユイが歌詞を入れたんだっけか?
まぁいい。
大事なのは、もうすぐ音無君とかなでちゃんの関係性が深まるというただその一点のみ。
とりあえずは、今日の夜にでも旧校舎の方にこっそり行ってみることにしよう、と授業が終わると同時に帰宅した俺は、すでに靴があることから珍しく同居人が早く帰ってきたんだなと考えた。
俺に苦手意識のあるらしい彼は、勤勉な生徒の如く夜遅くまで図書室で勉強してから帰ってくる。こちらとしても特に困ったこともなく、むしろ気楽でありがたいのだが、何か帰宅しなければならない用事でもあったのだろうか。
「珍しいな。こんなに早……」
「やぁ。君が山野君だね」
この寮の部屋は、基本的には二人でワンルームを使用する事になっている。そのため、玄関の扉を開けたすぐその先に生活スペースが広がっており、その奥にある勉強机は玄関からでも丸見えだ。
だが、俺の視線の先には真面目君な同居人であるNPCがおらず、代わりに返答したのはその手前から。普段はNPCが利用している一段目のベッドに腰かけていた室内でも帽子を外さない非常識な男子生徒だった。
「……生徒会長代理が、どうしてここに?」
元生徒会副会長、現生徒会長代理。直井文人。
まさかまさかの存在の登場に一瞬目を見開いたが、すぐに表情を正してNPCを装った返答を返す。
しかし、直井は「タレコミがあったんだ」と薄く笑った。
「『自分の部屋の同居人が、物騒な刀を所持しているから何とかしてくれ』ってね。脅されている、とも言ってたよ。まったく、学園内にこんなものを持ち込まないでほしいものだ」
そう言って、直井は手元に置いてあった愛刀の物干し竿を手にする。その時に、小さく「長いな」と声を漏らしたのが聞こえた。
しかし……なるほど。同居人が密告したのか。
あれだけ言わないようにと言い聞かせていたんだが……こりゃ、やられたものだ。
「山野直樹。君は奴等とは違い、授業もちゃんと出ていれば、普段の生活もいたって普通だ。生徒会としても特に注意することは無いと思っていたんだが……こんな危険なものを所持しているとなれば話は別だ」
ベッドに刀を置いて立ち上がった直井は、窓を背後にして俺に向き直る。
「へぇ、それはそれは……いったい生徒会長代理様は俺をどうするつもりなんですかねぇ」
密かに気配遮断を発動させる準備を整える。
しかし、いったい何故こんなところまで直接やってきたんだ? いくらNPCのタレコミがあったからって、こんなところまで言いに来るものなのかね。
わからない。だからこそ怖い。
原作にない、俺の知らない完全な未知。
「ハハッ、そんなに警戒しないでくれ。僕は取引に来たんだ」
そう言ってのける直井は、敵意がないことを示すためなのか軽く両手を上げて見せた。
「取引……?」
「そう、取引だ。同じ生きていた時の記憶を持つ者同士、仲良くしようじゃないか」
「……は?」
突然の言葉に、俺は思わず声に出してしまった。
そもそもの話、この直井という男は原作においても今の俺と同じようにNPCのような行動を続けていたのだ。数十年間戦い続けてきた戦線の誰もが気づかないレベルで、だ。その徹底ぶりは伊達ではないと言えるだろう。
そんな奴が、初見の俺に人間であることをカミングアウトしただと? 何かあると疑うしかない。
しかしそんなことが言えるのも、俺が原作を知っているからだ。直井からすれば、俺がすでに直井自身が人間であることを知っているとは夢にも思っていないだろう。
案の定彼は、「そう、僕もねあるんだ。生前の記憶が……ね」などと言って笑う。
「君が知っているかどうかはわからないが、この世界には死んでここに辿り着いた人間と元々ここにいる人間の二つに分かれる」
何をもって俺が生きていたころの記憶がある人間だと断定しているか……いや、そもそもあんな刀持っているNPCなんてのがいないか。見つかった時点でバレてるわな。
「それがどうして、仲良くしようという話になる」
「ほぉ……とぼけるのをやめたか。なら、話は早い。君には、僕の下に付いてもらいたいんだ。あいつらと違って君はどこにも属さない、所謂フリーの人間だ。そういうのは貴重でね。是非とも、手駒にしておきたいと思ったのさ」
……なるほど、要は勧誘か。自身と同じ、生きていた人間の駒が欲しいと。
確かにこいつの仲間である生徒会の構成員は、その全てがNPCだったはずだ。彼が行動を起こすときは、基本的にその構成員に催眠術をかけて動かしているのだろう。
いちいち催眠術など使わずとも動かせる駒が必要なのか。
「メリットは?」
「おや、乗ってくれるのかい? フフッ、そうだね。僕の権限で君の行動の自由を約束しようじゃないか」
「……ほぉ」
つまり、校則違反をしても見逃す、ということだろうか。
確かにそれはメリットと言える。其れが許されるのであれば、俺は校則違反などを気にすることなく音無君とかなでちゃんの二人を見続けられるだろう。
「それに、だ。この世界の神であるこの僕の仲間になれるんだ。断る理由なんてな―」
「だが断る」
気分良さげに話している直井の言葉を遮って、キメ顔で言い切ってやった。
まさか、こんなきれいに決まってしまうとは思ってもいなかったが、決まると何故か気分がスカッとする。きっと今の俺の顔は劇画タッチだろう。
「……理由を聞こうじゃないか」
「簡単だ。俺が気に入らん」
これは割と本当の話。
音無君に懐いた後の彼ならともかく、俺は今の彼は嫌いなのだ。
当然だろう。なんせ、これから彼は音無君とかなでちゃんのマーボーデートを邪魔する害虫となるのだ。誰がそんな奴の下に付くもんか。
それに、お前代理になってから数日で改心して音無君のイヌに成り下がるだろーが! 実質メリットねぇよ!
「……まぁいい。断るならそれまでだ」
少し苛立たし気な直井は、入れっ、と強い口調で声を発した。直後、俺の背後の扉が開き、ぞろぞろとNPCが乱入してくる。
生徒会の奴等だ。
「へぇ……言うこと聞かなきゃ実力行使ってか?」
「それもいいが、僕もそこまで野蛮じゃない。それに、元々はこの危険物の所持について、君を連行しに来たんだ」
俺がどこにも逃げられないようにするためなのか、NPC達が両サイドから寄ってくる。せめて女子生徒のNPCにしてもらいたいものだ。
もちろん、逃げようと思えば簡単に逃げられる。がしかし、ここで俺が余計なことをしてこいつの行動を変えさせてしまった場合、俺にとっても甚大な被害を被る可能性が出てくる。
そう。それすなわち、音無君とかなでちゃんの二人のマーボーデートの延期、並びに中止だ。
何がどうなって結果が変わるかわからない。もしかしたらそんなことは無くて、むしろ俺への警戒を強めすぎてかなでちゃんの事が疎かになり、二人の時間が延びる可能性もあるかもしれない。
もっとも、かなでちゃんが校則違反をしたのをこの男が見逃すとは思えないが。
要は、これ以上俺自身が原作を引っ掻き回すようなことを起こしたくないのである。そこ、今更とか言わない。わかってるから。
だが俺が目指すのは音無君とかなでちゃんによるENDだ。それを無事に迎えるためなら、ここで連行されることくらいどうってことはない。
そう考えている間にも、NPCの何名かに腕を掴まれた。
大人しく捕まる俺を前に、直井はベッドに置きっぱなしにしていた刀を手に取った。
「この刀は生徒会が預からせてもらうよ」
思っていた以上に長かったのか、少し動かしただけで鞘の先を床にぶつけてしまった直井は少しばかり驚いて身を強張らせた。
そんな様子を見て、俺は後で取りに行きますよと心の中で返答したのだった。
◇
で、なんでここなんだよぉぉぉ!?
回想終了。
まさか、戦線と同じ部屋だとは思わなかったし、戦線が捕まるまでここに放置されるとも思っていなかった。
扉が開いて、もう出れるのかと思ったら仲村ら戦線のメンバーが入室してくるとか、それなんてどっきりですかねぇ!? 思わず気配遮断使って隅っこの方に待機する羽目になってしまったではないか。
どうしよう……このまま朝まで待つか…? というか、俺はいつまでここにいればいいんだ。もう五時間以上はここにいるんですけど!?
あのチョロ犬、そんなに根に持つか普通!! と心の中で生徒会長代理の直井に文句を零す。
……とりあえず、もしこのまま戦線が開放される朝まで一緒だというのなら、このまま起きておいた方が良いだろう。そして、彼らが出ていくタイミングで俺もこっそりと出ていく。これしかない。
戦線の様子を見てみれば、ちょうど彼らが寝る場所を決めているタイミングだった。男女で人数が違うはずなのに線引きされた範囲は同じくらいとは、リーダー仲村はやはり悪魔のような人だ(高松談)
まぁ、俺は戦線ではないので女子側にいますが。そもそも最初からここにいたし。それに人数が多いわ汗臭いは高松は余計に暑苦しいわの男側に何故好き好んで移動しなければならないのか。
幾分スペースに余裕のあるこの場所は実に過ごしやすいだろう。
やがて、次々に戦線の者たちが固い教室の床に寝転がると、彼らは眠りについていく。
そして俺以外の全員が寝静まったところで、俺は一度伸びをした。気配遮断で見られてはいないのだが、念には念をと思って動いていなかったのだ。流石に体が凝っている。
「さて、もうしばらく我慢しますか」
「そこにいるのは誰なのかしら」
ふうっ、と気が抜けたため息をつき、小声で呟いた俺の声に反応する者がいた。
凛とした、女の声だ。
……まだ、寝てなかったのかよ。
なんと言うか、俺の行動ガバ多すぎない? RTAのゲームだったら、再走不可避なんじゃが?
のそのそと体を起き上がらせた声の主である仲村は、部屋の隅にいた俺へと視線を向ける。
既に骸骨の仮面は装着済みであるため、顔バレの心配はないだろう。だが、今回は紙もペンもないため、声を出さないという選択肢がない。声でも変えるか?
「そう……あれが椎名さんの言ってた人なのね……」
「そうだ」
俺の骸骨の仮面を見てそう呟いた仲村。気づけば、いつの間に起き上がっていたのか椎名までいる。
能力をもらった『だけ』の俺は、気配は断てても、気配を探ることはできないのだ。そもそも、戦闘だって俺にとっては筋肉痛との戦いだ。
……仕方ない、腹を括ろう。
「椎名とは会っているが、君とは初めましてだな。死んだ世界戦線リーダー、仲村ゆり。俺は……そうだな、山野とだけ名乗っておこう」
疾走するわけではなく、失踪するんです。疲れるのは嫌いだ。
というわけで失踪します。探さないでください。