リクエスト内容
友情と愛情と、それから敗北

いや、最後が無理

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彼女は彼の隣に、彼は彼女の後ろに

「あら、またあなたと一緒に仕事なのね」

 

 ランディングポイントに到着すると、見覚えのある顔ぶれが待っていた。だからこのクライアントからの依頼は嫌なんだ。

 

 つい仏頂面してしまった俺に非はない。いつもこいつら——404小隊の連中を運ぶ時はいつだって災難に会ってきた。

 

 わざとのような囮指示、無茶のある攻撃指示、そして人の労力を考慮しないポイント変更。いまだに生きていられるのが不思議なくらいだ。

 

 この部隊、どうやら秘匿されているらしく、金払いは良い。そんなんだから俺も首を横に振れないんだが、正直いってご遠慮をお願い申したてまつりたい。

 

W(ウイスキー)、今回もよろしく」

 

 UMP45は、笑顔で手を差し伸べてくる。普通だったらこんな美少女、手を取って甲にキスしたくなるんだが、こいつにだけはごめん被る。いままでどれだけ酷い目に合ってると思ってんだ。

 

「それより、今回はおまえ一人なのか?」

 

「ええ、今回は他の皆は休暇よ」

 

「そりゃ残念だ、久々に11のほっぺを抓ろうと思ったんだが」

 

「私のほっぺにしとく?」

 

「反撃が怖い、却下」

 

「あら残念」

 

 45はクスクスと笑う。少し顔を下に向けるもんだから目に影がかかってなんだか怖い。

 

「それでお姫様、どこまで?」

 

「○地区の最も高い場所へ」

 

「そんなところになにをしに行くんだよ」

 

「貴方らしくないわね、介入したいのなら私は止めないけれど」

 

「やめてくれ、それ聞いたら消されるタイプの情報だろ」

 

 勘弁してくれ。実家には家族が——いるわけでもないが拾った猫の餌代ぐらいは稼がにゃならんのだ。

 

「飛行の際は〜安全のためにシートベルトを〜」

 

「いいから早く、急いでるの」

 

「はいはい」

 

 回転翼が次第に加速していく。はぁ、たまんない、このエンジン音がたまらない。

 

「ちょっと〜、すごい顔になってるよ?」

 

「うるせえ!このエンジン音がいけねえんだ!」

 

「ほんと、これがなければ最高なんだけどねぇ……」

 

 ヤレヤレと45がそう言ってくる。うるさいわい!

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 操縦席に座る彼を後ろから見つめる。

 

 彼は私たちがよく依頼するフリーのパイロットだ。一度利用してからというもの、彼以外のパイロットが低レベルに見えるようになってしまった。

 

 卓越した操縦技術、一人とは思えない精密な援護射撃、ポイント変更を先読みしたかのような素早さ。

 

 一度、彼ではないパイロットに同じ指示を出したら、戦場に置いていかれたことがある。アンタらには付き合えないってね。

 その時も戦場まで迎えに来てくれたのは彼だった。

 

 今回の任務は、彼でなくてはいけなかった。というか、彼以外は嫌だった。ここだけは、私のわがままだけれど……

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「はい、到着〜。またのご利用をお待ちしておりません」

 

「仕事、干されたいの?」

 

「あっいえそんなとんでもない」

 

 くそう、こいつ雇う側だからっていい気になりやがって。見てろよ今に一山当てて隠居してやる。

 

「隠居するなら私も連れて行ってよ」

 

「おいこら人の心のうちを読むな」

 

「それと、今回の仕事はまだ終わってないよ?」

 

「えっ……?」

 

 45はスーツケースを俺に投げつけてくる。危ねえと思いながらキャッチしてしまった己の身体能力の高さに惚れ惚れしちゃうぜ。

 

 

 

 

 それで、それでだ。どうして俺はタキシードなんか着てるんだ?なあなあ教えてくださいよぉ。そこのドレスで着飾ってる45さんよぉ。

 

「契約書、目を通してないの?」

 

「俺の仕事は送り迎えだけだって知ってるだろ?」

 

「あら、じゃあ丁度いいじゃない」

 

「なにがだ?」

 

「私をパーティー会場まで送り迎えをする依頼だし」

 

「……それってエスコートじゃないか!」

 

「いや、そんなぴっしりとタキシード着込んで髪までセットしちゃってから言うこと?」

 

「いやだって……パーティーってことは美味い料理とかも……」

 

「料理……あなた料理で釣れるの?」

 

「仕方ねぇだろ……俺は基本缶詰飯なんだよ」

 

「じゃあ料理上手なお嫁さん捕まえないとね」

 

「出会いがねえ!出会いがねぇ!」

 

「……ねぇ知ってる?最近人形との結婚が合法化されたらしいの」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「私なんてどう?」

 

「ははは……」

 

 嫌に決まってる。おまえは隣に立つよりも背中を任せたいからな。

 

「それも……いいかもな」

 

 だがここは!面白そうだからノリに乗ることにする!

 

「……」

 

 いや、黙り込むなよ!照れるなり罵倒するなりさ!

 

 っと重々しい扉、会場が見えてきた。ところでこれって何のパーティーなんだろうな?俺にはわからん。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 彼は宣言通り料理に舌鼓をうっているようだ。まったく、確かに仕事は送り迎えだといったけれど少しは会場内の案内もして欲しい。

 

「おおこれは、そこの美しいお嬢さん、一曲いかが?」

 

「失礼、挨拶がまだですので」

 

 先ほどから優男が話しかけてくるのもうざったい。せめて人避けくらいには使いたかったのだけれど。

 

 人混みをすり抜ければ、本日のパーティーの主催が目に映る。あれが、今回のターゲットだ。

 

 挨拶のフリをして、ターゲットに近づく。貼り付けた笑みは、油断させるのに非常に役立った。そして少しお伝えしたいことがと耳打ちをする。

 その隙に、彼のドリンクに薬を仕込む。無味無臭、遅延性、誰も私が殺したと言うことに気がつかない。

 

 笑顔のまま、主催の彼へと会釈する。あとは適当に時間を潰して、会場から出ればミッションコンプリート。

 

「終わったのか?」

 

「ええ、つつがなくね」

 

「そりゃ何よりだ」

 

 彼は手に持った料理をもさもさと食べながらそういった。まったく品がないのだけは人選ミスだったわ。

 

「それで、このあとは?」

 

「いい感じに退出して逃げる」

 

「りょーかい……っと待て」

 

 彼はそっと私の肩を抱いた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 腕の中でおとなしくしてる45を感じつつも、俺は主催の近くを注視する。こういうとき無駄に効く鼻は助かる。あの肥え太った野郎の付近から、目の前の45と同じ——純粋な殺意が漂ってきている。

 

「敵だ。おそらくおまえと同じ人形」

 

「えっああ。わかったわ位置は?」

 

「俺に聞くな。本気で偽装した人形なんて見分けがつかん」

 

「まあ一般人だものね」

 

 ははは、言わせておけば。それで、どうするつもりなんだろうか。

 

「どうするもなにも、逃げるわ。私、戦闘は苦手だし」

 

 だよなぁ。それじゃあお一人様、おかえりでーす。

 

 

 なんてそうは問屋がおろさないわけで……

 

「全員、武器を捨ててその場に伏せろ!」

 

 謎の武装集団、いわゆるテロリスト共は、銃を乱射しながら会場を恐怖のどん底に陥れた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 最悪だ。捕虜として女子供と男とで分けられた。彼は今、広いホールの向かい側に集められている。

 

 女子供に対してはなめきっているのか拘束すらしていない。しかし男たちに対しては足も手も縛るほどだ。彼は身動きできない、そして私も、ここで人形とばれては行けない。それに偽装用に戦闘力の劣る素体にしてある。戦力不足だ。

 

 テロリストのリーダーらしき人物が、銃を持って近づいてくる。最悪なことに、それは先ほど話しかけてきた優男だった。

 

「皆様、お騒がせして申し訳ありません。いえ、ここに旧友がいるときいてこのように離させていただいてるわけですが」

 

 私達に直感というものがあるというなら、こういう感触を言うのだろう。

 

「おいV(ヴィクター)。俺に用があるんだったら他の人は開放しろ!」

 

「やあやあW、まあ君だけが目的じゃあないんだ」

 

「じゃあ俺に何の用だ?そんなテロの片手間に会うような関係じゃないだろ?」

 

「黙れ裏切り者。おまえは一度、この手でぶん殴ると決めてたんだ」

 

 身動きできないWに対して、Vと呼ばれた男の拳がつきささる。手足を縛られたWは床へと倒れる。

 

 思わずピクリと動いてしまう。見ていられるわけがない。彼は私が連れてきたのだから。

 

「にぶったか?全然痛くないな」

 

 嘘だ。口内を出血しているのか、血を吐き出している。殴られた部分も、しだいに真っ青になっていく。

 

「まあ良い、おまえは最初に殺してやる」

 

「ははは光栄だな」

 

 Wはこっそりと私の方へと視線をやる。まるで大丈夫だとでも言っているようだった。

 

 そんなわけがない。Vは見せしめに殺されるに決まっている。

 

「ははは、さよならだなV――元相棒」

 

「相棒?二度とその戯言が聞けないとなると悲しくなるよ」

 

「ぬかせ」

 

 Wはもう一度こちらを見て、ウインクをした。いや、ウインクではなく、これは符号だ。

 

 私が内容を理解した瞬間、それをWは実行した。

 

 いつの間にか解いた縄をつかって、Vの首を絞め付ける。

 

「おいおい、拘束からの抜け方を教えたのは俺だろ?相棒!」

 

「ぐっ……貴様ぁ!」

 

 Vの取り巻きが慌ててWを抑えこむ。

 

 

 ここまでしても、私は動かずにいた。あまりの薄情さに嫌になる。いや、もしかすると慣れてしまっているだけかもしれない。自分のために誰かを捨てることを――

 

 『うごくな』

 

 それがWからの指示だった。けれど、そんな指示がなくても私は動けなかった。

 動けるわけがない。私がここで動いても何もできない。強靭なボディも、烙印付きの銃も持っていない。そんな私ができることは、ただじっと座っているだけだ。

 

「おまえが!部隊を見捨てて何処かにいかなければ!僕たちは!」

 

 激昂しているVは、部下にWを掴ませて何度も蹴り、殴り、また蹴り、殴り。

 

「はぁ……はぁ……くそっ、嫌な記憶まで思い出したじゃあないか!」

 

「あれはアイツらの自業自得だ。俺はおまえらを裏切ったんじゃない、見限ったんだよ」

 

「まだ言うか!」

 

 Vは拳銃を握り、マガジンの部分で思い切り頭を殴り付ける。

 

「おまえが!おまえが殺したんだ!」

 

 Wの瞳が揺れている。視点が定まっていない。

 

「はぁ……もう……もういい。おまえはここで死ね」

 

 Vが拳銃をWに向ける。この距離なら、45口径弾が確実にWの命を奪うだろう。

 

 そんな中でも、Wは私に視線を向けてきた。

 

 

『うごくな』

 

 

 その次の瞬間、私は一歩を踏み出していた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「何を……してんだよ……。今日はバレちゃいけないんじゃなかったか?」

 

「仕方ないでしょう?」

 

 倒れている俺を、45は見下ろす。そしていつもどおり、くすくすと不気味に笑った。

 

「あなたが傷ついている様子をじっとみとくなんて、私にはできなかったのよ」

 

「ウソつけ、しばらく見てたくせに」

 

「でも『うごくな』と指示したのはあなたでしょ?」

 

「だっておまえが動くとさ」

 

 俺は仰向けになったまま、辺りを見回す。そこには、四肢をもがれたテロリスト側の人形が転がっている。他にも、泡を吹いて倒れている参加客もだ。

 

「こうなるじゃん?」

 

「だからと言って殺されなくてもいいんじゃない?」

 

「いや、テロリストの要求を聞こうと思ったんだけどな」

 

「そういえば結局聞かずに終わっちゃったわね」

 

「まあ、助かったよ」

 

 拳をあわせようと、俺は拳を45の方へと突き出した。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 ボロボロになった彼が拳を突き出してくる。顔は腫れ上がり、肋骨も数本は折れているだろう。きっと呼吸すらも、痛みが走っているだろう。

 

 私はその突き出された拳を、そっと握り込む。

 

「おいおい、どうしたんだよ」

 

 少し照れたように、Wは笑う。

 

「いいえ、なんでも。それより、警察が来る前に早く逃げましょ?」

 

「……、俺は置いていけ。どうせ操縦もできない」

 

「ばかね、私は404、痕跡は残さないわ」

 

 私は、Wを担ぎ上げる。

 

「はぁおっもい。もう少し小さくなってよ~」

 

「……、無茶言うな」

 

 ヘリまでは、そこまで時間がかからなかった。

 

 雑に席に座らせると、今度は私が操縦席へと座る。

 

「おい、操縦方法はわかるのか?」

 

「私がどれだけあなたの操縦を見てたと思うの?」

 

 操縦席に座って気がつく。ここからじゃ、後ろの席は見えない。きっとWも、私の視線なんて気がついてなかったんだろうな。

 

「気づいてたさ、どれだけ殺気を飛ばされてたことがか」

 

「殺気……?」

 

 まさか……彼に抱いていたこの胸の高鳴りは……殺意?

 

「ってそんなわけないでしょう!?」

 

「冗談だよ。でも、そんなに見てて面白いものでもないと思うけどな」

 

 面白いに決まっている。眺めてしまうに決まっている。

 

 

 だって最初に見たのは、あなたが操縦している姿だもの。

 



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