ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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外伝:ジャミトフ暗殺計画、後編

●嵐の前の静けさ

 並べられた画像はどれもジムの物だった。

一口にRGM-79と言っても多数存在するが、無数のウインドウで画面がいっぱいだ。

 

「他の基地で見せてもらったんだけど、同じのばかりで良く分からないのよね。諸元がどうの言われても困るし」

「それは比べ方がマズイよ」

 カレン・ラッセルという少女に連れられて、コウ・ウラキはPXでテーブルを囲んでいた。

端末に表示されたのは画像だけで、さすがに諸元表まではもらえ無かったらしい。

それでも軍事機密の一種なので、凄い事ではあるのだが(回収を前提としているのかもしれないが)。

 

「この場合は来歴の方を並べないと。RX-78って判る? あれが高級車とか自家用クルーザーみたいなもん」

「ガンダムよね? 前に広報ので見たことあるわ。どこまで本当なのか知らないけれど」

 コウはニンジンが嫌いなくせに、キャロット・ケーキは食べるらしい。

カレンはくすりと笑いながら、彼の指先がジムの画像をクリックしていくのを眺めた。

 

スナイパーやストライカーといった判り易い物が省かれ、初期のジム『たち』だけが残る。

 

「初期ジムでもこのRGM-79[G]……通称、陸戦ジムはガンダムの予備パーツで作られたやつ。こっちのは同じ時期だけど、間に合わせのパーツで作った初期生産のジム」

「同じ時期だけど、性能が全然違うってことね。後から生産したのが適当に作ってないジムってことなのかな。あら、このケーキ美味しい」

 コウはガトー・ショコラとホイップクリームを追加したので、カレンも付き合ってカヌレとカタラーナ(固いプリン)を頼んだ。どうせ代用品なのだから、蜜蝋の触感まで再現しなくて良いのにと思ったのだが実に美味しい。

 

「もしかして、これ代用品じゃないの?」

「ジャミトフ閣下の趣味らしいよ。兵士には安くて幾らでも呑める酒を、技術者やパイロットには美味しいケーキをってね。えっと……後期型の話は半分正解」

 カレンはケーキを少し切って小皿で渡してやると、コウの方もショコラをくれた。

苦みの強い味は濃いチョコレートを使っており、コウは気が効かないのかクリームをくれなかったので、仕方なくカタラーナと一緒に食べるが、こちらもちゃんとした卵の味がする。

 

「最初に作ったジムを捨てるわけにはいかないからね。それを手直ししたのが単純に後期型、一から運用される場所も含めて考慮するのがジム・コマンドって呼んでる」

「そんなに違うの?」

 聞き返すとコウは笑ってケーキを指さした。

確かに同じケーキだが、コロニーで普通に売ってる代用品と、このケーキは随分と違う。

だいたい同じ味になるように仕上げられているし、店によっては材料も同じものを使っていることになっている。

 

だが、ここのケーキはちゃんと美味しく、パティシエとはいわずともお菓子つくりの得意なシェフが努力していることが伺えた。

 

「そもそも使う場所が宇宙か、それとも砂漠かで違うだろ? 装甲に穴を開けながらパーツを付け加えるための改造するのと、最初からそういう形状なのとじゃ全然違うよ。100kmの距離と道のりくらいの差があるよ」

「そういうモノなのかしらねぇ」

 コウは行儀悪くコーヒーで皿の上に地図を描いた。

一直線にA地点からB地点、次に曲がりくねって移動。

 

要するに途中で無駄が生じているという事なのだろうが、女の子の前で他の例えはないものか。

 

「そしてジム改ってのは、終戦までにエースの人たちがやった改造とか、上の人らが必要だと判断した改造をひっくるめて再生産したんだ」

「ふーん。コウが乗るはずの機体もそれなの? あのおっきなのかもしれないけど」

 話がそこまで来た段階で、コウは難しい顔をした。

ジム後期型とジムコマンドの間、ジム・コマンドとジム改の差。その三つの差は大きく違うと言おうとした段階だった。

 

「さーて、それは秘密。っていうか、まだ何をもらえるか聞いてないしね。ソレに……なんだって俺が君に解説しないといけないんだ?」

「そりゃ他の人じゃインテリジェンスを感じないもの。こんな美少女とお茶できて役得でしょ」

 どんな機体に乗るかは軍機なので教えられない。

ジムの解説だって、お偉いさんとのコネがあるような感じだったから、仕方なく応じたところがある(コウの趣味でもあるが)。

 

付け加えていうと、コウが受領するはずの機体は理由を付けて遅れていた。

それだけではない、友人であるキースが受領して、敏感過ぎるマグネット・コーティングで事故を起こし損傷したジム・カスタムの再調整すら遅れていたのだ。

 

ガンダム開発計画の先触れであるジム・カスタムは、これまでのジムと違い外部装備を大幅に強化されている。どのような不具合で故障したのか、どう再調整すれば問題が起きなくなるか調べるだけでも重要な事のはずなのに……。

 

「どうしたの? ボーっとして」

「ああ、ごめんごめん。大王様はユニット・ブロックのテストもしてるところでね、やっぱり乗れないんだ」

 カレンは冗談で自分を美少女だなんていったのに、コウが言い返さなかった事に驚いた。

確かにカレンは美少女だが、自分で言うような子ではないので、いつもならツッコミが入る。

 

少なくともこれまではそうだったし、いきなり話を転換するタイプではない。

どちらかといえばメカオタクなところがあり、一度始めた話がループすることもある。あるいは話してなかったスナイパーなりガンダムの話でもしそうだった。

 

カレンがコウの疑問に追いついたのは、研究所の見学中にサイレンが鳴り響いてからだ。

 

●ガーズ

 コロニー内にサイレンが鳴り響く。

外部区画で爆発が起き、小さく揺れるのが判った。

 

実験による大事故ではない、本来あり得ない筈の……敵襲である。

 

「MS-09を中心としたモビルスーツ多数! 敵襲です!」

「ジムの姿も見受けられますな。一個大隊は居ますか」

 オペレーターの悲鳴に対し参謀たちは静かなものだ。

それも仕方あるまい、ここには連邦の重要人物『だった』、ジャミトフ・ハイマンが居るのだ。ある程度は想像できたことである。

 

「こちらは増強中隊といえば聞こえが良いですが、調整待ちで定数を割っています」

「理由を付けて納品が遅れたからな。まあ、だからこそ読み易かったが」

 研究所には余計な目がない方が良いので、元の守備兵が少ない。

それでも新型に乗った精鋭が詰めているのは流石だが、露骨な妨害により戦力が低下していた。

 

「閣下、どうなさいますか? 脱出されるならば早い方が良いと思われますが」

「馬鹿を言え。せっかく盛り上がって来たのに逃げられるか。それにお客さまを出迎えねばな」

 周辺地形は勝手知ったる宙域で、研究所を設立する段階で守り易い場所を選んでいる。

だから援軍が来るまで守り切れなくはないが、戦力比を考えると少々微妙であろう。

 

ゆえに逃げるのも手ではあるが、幾つかやっておかねばならぬ事があった。

 

「ローレンとカラバの小娘はどうだ?」

「ナカモト博士は実験機を逃すべきだと言っています。閣下もお逃げくださいと」

「娘の方は見学中だったようですが……この様子だと本気で怯えていますね」

 ローレン・ナカモトは資料を集める指示を出し、テストベットに装備を設定できるかを尋ねているところだった。

 

カレンはカラバから送られたスパイだと判っているが……。

どうやら怪しげな研究をしていないか監視する程度らしい。心底驚いている姿が見受けられる。その様子からは演技や、『まさか自分がまきこまれるなんて』といった驚きはない。

 

注目していた二人の動きを見て、ジャミトフはフンと鼻を鳴らして宙図を見渡した。

逃げるとしたら味方が居るであろう他のサイド6コロニー群の方か、ヤザン達が訓練に使っているデブリや隕石群のある場所だ。

 

「今の時期だと隕石群がコロニーに近いな」

「はい。脱出するには打ってつけです。どちら寄りでもコロニー駐留軍と合流できるかと」

 隕石を盾しても、紛れても良しと脱出し易くはある。

だが、襲撃者がそんな都合の良い時期であることを見逃すだろうか?

 

そして、黒幕が本当に不確定な方法を選ぶだろうか?

むしろ誘導でしかないように思える。その気になればコロニーごと爆破できるアナハイムが、ジオンや独立主義者の名前を使っているのではないだろうか。だとしたら迂闊に近づくとドカンだ。

 

「大根役者を使ってかき回してやるとしよう。民間人保護の理由を付け試験機に小娘を乗せて逃がせ。その間に歩兵を使って向こうの発着ベイ辺りで爆薬を探させろ」

「了解しました。迎撃へのテコ入れはいかがいたしましょう?」

 カレン・ラッセルことベルトーチカ・イルマは、念のために送っておく程度の連絡員だろう。

そう判断するならば逆利用できる。例えばジャミトフが悪事を働いていないなどだ。少し怪しいが暗殺されたと偽報を流す場合だ。

 

対して警戒が必要なのはローレンの方だ。

実験機とジャミトフがセットで移動したら、隕石群から敵の伏兵が飛び出るなり、コロニーにミサイルが飛びかねない。

 

ゆえに実験機を逃がして様子を見つつ、自分よりも民間人保護を優先するという権力者がやらなさそうなことを見せつけておく。ローレンがスパイならばアテが外れてガッカリするだろうし、ベルトーチカが単純ならば善意でも抱いてくれるだろう。少し怪しいが暗殺されたと偽報を流す場合は、悲しんでれるかもしれない。

 

「ヤザンは何時でも出れるのだな? ならばよい。それと手の空いているミッシング・ナンバーは誰が居る?」

「お屋敷にBが、ヤザン隊にFが居ます」

 ミッシング・ナンバーというのは公表できないエージェントのことだ。

死亡扱いの連邦兵や、ガルマから借り受けているジオン側のエージェントになる。アルファベットは特技や特性を指しており、ジンネマンであればCという感じだ。

 

戦闘執事(バトラー)か。……G-3を与えてコロニー内を制圧させろ。こちらから打って出るのだ」

「G-3ですか? マグネット・コーティング等を試す為にレストアしましたが、調整もしてない旧式ですよ?」

 RX-78-3、通称G-3ガンダム。

最後に残ったガンダムだが、当時から実験機として使われていた。

成果を乗せたアレックスが製造されて以降、いろいろと旧式のまま放置されており、マグネット・コーティングを試すために、このあいだ組み合げ直したばかりだった。

 

「構わん、奴ならば使いこなす。それとヤザンには好きにやらせろ」

「了解しました。アッシマーの使用許可込みで全兵装の許可を出しておきます」

 この拠点の正規兵力は中隊規模に落ちていた。

だが先のG-3や、宇宙適応型のテストに持ち込まれたアッシマーがある。

中隊の中にヤザンが構築中の精鋭部隊が居ることを考えれば、不正規の大隊ごとき何とでもなろう。

 

それがジャミトフの算段であり、自らが逃げ出さずに特等席で観覧する理由だった。

その意味ではテストベットを動かすことでベルトーチカを逃がすことなど、プロパガンダの一種に過ぎない。多少の危険でカラバの関心が買えるならば、実に安い物だ。

 

 

「大尉がアッシマーを使用されないのですか? しかも元とはいえジオン兵なんかに……」

「あいつが一番使いこなせるからな。それにモビルアーマーであそこに飛び込むイカレはそうそういねーよ」

 ようやく三機で一個小隊の旧編成が二つ。

それだけしか居ない手持ち戦力にヤザンはそれなりに満足していた。

 

「なかなかできる事ではありませんよ大尉……」

「悔しかったら腕でも磨くんだな。お前さんがあいつより強く成ったら、アッシマーのシートをくれてやるよ。ムラサメ少尉」

 何しろムラサメ研究所で拾ってきたこの強化人間が、隊で一番下なのだ。

接収される前は周囲からバケモノじみた目で見られていた彼が一番未熟、それほど整った部隊である。満足するなという方が嘘だろう。

 

「ジャミトフのクソオヤジを助けに行くんだろ。コッドの小隊が配置へつき次第に動くぞ」

「はい! お供します!」

 ゼロ・ムラサメ……プロト・ゼロと呼ばれた強化人間もまた今の境遇に満足している。

ジャミトフ・ハイマンを親代わりとして記憶調整されたこともあるが、この部隊ではバケモノとして見られることはない。

 

ここではただの少年兵で、一番の小物である。

何かの冗談のようだが、愉快な仲間たちと呼ばれて悪い気分ではなかった。

 

「くそっ。出遅れた。宇宙人の奴が真っ先に……トッシュ、まだか!」

「慌てるなブレイブ。新選組(ニューディサイズ)の幕開けにはまだ早いよ」

 ジム・カスタムは最新型のジムだが、完成した新型装備を再調整するのが欠点だった。

なにしろ本来あるべきリミッターを外して、各個人にアジャストした、まさしくカスタム機である。六人全員が専用機を持っているのと同じ扱いで、入隊試験中のキース達が負傷するのも仕方あるまい。

 

だが二番隊であるニューディサイズを率いるブレイブ・コッドは、極度の地球至上主義者だ。

協力者として派遣されたエージェントが最新型に乗り込み、しかも先方として功績を稼ぐのは気に入らないのだろう。

 

「ジョッシュ。フィッシャーマンはどこまで行った?」

「最高速で隕石群に突っ込んで行きました。寝ぼけているわけでも嘘じゃありませんよ」

「見ろ、やっぱり宇宙人だ」

 ブレイブの相棒であるトッシュ・クレイが新人のジョッシュ・オフショーに尋ねると、信じられない言葉が返ってきた。

三人は苦笑を浮かべ合って戦闘速度を上げ、アッシマーに負けまいと後に続いたのである。

 

●マリオネット・ロンド

 隕石群の中では、少なくないモビルスーツが潜んでいた。

それもかなり良い部隊で、コロニーに侵入したドムや、囲んでいる輸出仕様のジムとはモノが違う。

 

大半が最新型のジム……本来は、この研究所に納入される予定だったジム・カスタムである。

反ジャミトフ派やアナハイムに用意させた書類を幾つか使って、掠め取ることに成功としていた。ネイアスと名乗っている男の真骨頂は、こういった政治工作なのだ。

 

「エントリィィィー!!」

『はああっ!? 減速しないだと!?』

『非常識な、ここは隕石群だぞ!』

 だが、待ち伏せしていた伏兵たちは突如混乱に陥れられた。

モビルアーマーがいきなり、最高速度で突っ込んできたのだ。

 

来るとしても砲台に徹して、モビルスーツの後ろと思っていたことから虚を突かれてしまった。

 

「なんだなんだ。獲物がウジャウジャいるじゃねえか。こいつはいいや、右も左も敵ばっかりで狙いを付ける必要がねえ! ラッセイラーラッセイラー!」

『ひっ!? 体当たりだと? こいつ、頭がおかしいぞ』

「しょ、少佐を呼べ。こんなやつ、ネイアス少佐くらいじゃないと止められない!』

 アッシマーの装備されている武器は、腕部のメガ粒子砲だ。

簡易四肢に備え付けられた比較的小型サイズだが、空気中と違って減衰しない分だけ強力である。

 

しかもぶつかるのを気にもせず、高速で突っ込んで来るモビルアーマーから放たれるのだ、まともに戦えという方が嘘であろう。

 

『落ち着け。所詮は一機が突出しているに過ぎん。後続を足止めし戦力を分断すれば問題ない』

『はっ!』

 隊長機を操るネイアスだけはガンダムを操っていた。

外見を誤魔化すために旧式のRX-78に近いが、中身はアナハイムがモビルスーツを作るために実験を繰り返した最新型である。

もちろん連邦の高官から横流しを受けており、ジム・カスタムよりも遥かに強い。

 

(冗談ではないぞ。雑魚に勝っても何にもならん。ジャミトフを仕留めないと、連邦将校になった時の私の立場という物が……)

 ネイアスはとっくにジオンに見切りをつけており、連邦内のどの派閥に潜り込むかまで計画を立てていた。

ジャミトフは軍官僚であり、武人肌に嫌われている。政府の犬として、緊縮財政やら綱紀粛正などの大鉈を振るったのだから仕方あるまい。

 

とはいえ命あっての物種である。

イザとなったら逃げだすべきかと、コアファイターに分離するためのスイッチを確認した時……。そこに見慣れない機構が組み替えられて居たのに気が付いた。

 

『ダメです少佐! 後続も速度を落とさず分断しきれません! ……っ』

『どうした?』

『分隊指揮を引き継ぎました。しゃ、遮蔽が役に立たない!? 次々とウワアー!?』

 ザリザリと酷いノイズで不吉な言葉が繰り返される。

ネイアスが行動するとしたら、この時点で機体から降りて逃走すべきだったのだ。

 

本気で戦う気はないにしても、相手の姿を確認しつつ逃げるなどと悠長なことをするべきではなかった。

 

『EXAMシステム、スタインバイ』

『なんだコレは!? 知らん、私は知らんぞ!! よせ、よ……』

 ガタンガタンと音を立てて、狂気のシステムが稼働する。

ワイヤーのようなトレーサーがネイアスに取りつき、網膜モニターが強制的に彼から対応行動を採り始める。

 

『システム、フルドライブ』

 AIはネイアスを最後のパーツとして組み入れた。

自身の損耗は既に考慮外、戦闘力の喪失か十分後に焼却命令は最初から設定されている。

 

問題なのはサブに切り替えても戦える伝達系とちがって、最大速度で戦うと、Gで生体パーツたるネイアスが数分しか保てないことだった。

 

「うん? 外した? こいつやるぞ!」

 F……フィッシャーマンと呼ばれている男は咄嗟に大きく軌道を変化させた。

絶対当たると思った砲撃が、簡単に避けられたからだ。

 

「なんだアイツ? ゼロの坊ちゃんよりもスゲーが。ちと違う気がするな」

 アッシマーは腕だけではなく、足を突き出してブースター機動を不規則に変化させた。

直観に従ってランダム回避を大きくとらなければ、彼の機体は既に破壊されていただろう。

 

「ぼっちゃんみたいに、こっちのやることが判ってるわけじゃねーな。力業で強引に追いついてんのかよ」

 ゼロは予測軌道上に射撃を置いてくるが、この敵は体勢を変化させて動きを追加している。

各部に存在するアポジモーター……やはり最新の機体制御技術で、追いつかせているのだ。

 

小刻みに噴射するのノズル噴射が、大きく外れるはずだった射撃を有効にする。

まだ当りはしないものの、追い詰めるように行動されれば、動きの大き過ぎるモビルアーマーではいつか有効打を受けてしまうだろう。

 

「どうにかせんといかんなあ。んじゃまあ、ちょっち白兵戦でも……」

 粒子放出の設定を弄り、射撃距離を近距離に設定し直す。

同時に砲撃時間を長くすることで、疑似的なビームサーベルを作ろうとした。

 

だが、誰にとって残念な事か、追いついてきたヤザンから指向性レーザー通信が入る。

 

「ウラキの援護に行け、ホルバイン! あっちにも何機か居るようだ。テスト機じゃ荷が重いかもしれんし、ひょっとするとひょっとするぞ!」

「かーっ! 何たる忙しさ!」

 実のところ、ヤザンは戦闘に関しては心配していない。

コウの腕は立つし、窮地に追い込まれると心が座って落ち着くタイプだ。しかも普通の人間ならやらないような、アクセルをベタ踏みできる愉快な仲間の一人であると見込んでいた。

 

「あいよ! スパイが居たら俺が始末すりゃあいいんだろ!」

 問題なのは連邦軍に所属する第三者の方だ。

軍服と階級だけは立派だが、その実、他の派閥だかアナハイムだかに所属するスパイの可能性がある。

 

ここまで段階を踏んでいる敵である。

そのくらいは考えている可能性は高いし、そうなった場合、コウが判断できる領域を超えている。仮にジャミトフならばもみ消せるとしても、一介の少尉にそこまで判断しろというのは無理筋だ。仮に思いつけたとしても、その後に恨まれる覚悟ができるとも思えない。

 

だがその点、ホルバインならば何の問題もない。

それこそ遺族に恨まれるとか、降格処分をされたとしても、彼はあくまで雇い入れられたエージェントなのだ。

 

●滑稽な戦い

 その頃、コウは民間人であるカレン・ラッセル……ベルトーチカを助けるために友軍の元を目指していた。

大型の実験機は急遽装甲がでっちあげられ、テスト中だった対ビーム装甲でキンキラキンである。

 

「カレン、戦況はどうなってる?」

「上を見ないでよ! ……信じられないけどこっちが優勢よ。コロニー内なんて、一機で十二機倒してるもの」

 この実験機は様々な装備のテスト用ゆえにコックピットが広い。

それも単に広いというだけではなく、複座型で斜め後ろにガンナー兼オペレーター用の席があるのだ。

 

カレンとしてはこういった任務に参加すると決めた時、養父にモビルスーツの操縦を教えてもらったので問題がない。輸出仕様が発売された段階で、覚える者が居るから悟られる事もないだろう。それだけならば良いのだが、スカートなので色々と問題が多かった。次はズボンにするか悩むところだ。

 

「相手は旧型なんだろ? 同じ旧型ならガンダムの方が強いのは当然さ」

「そりゃまあ、そうなんでしょうけどね」

 コウの言葉に頷きつつも、十分以内で倒しきれるのか少し疑問だった。

怪しげな兵器が開発されてないか調べに来たのだが。もしかしたら、本命はあちらだったのかもしれない。

 

「あ、待ってコウ。なんか色々いっぱい来た。どうしたらいいの!?」

「安心してカレン。君は俺がちゃんと送り届けるからさ。……えっとバイザー越しに相手を視認してくれれば良いよ。トリガーはこっちに回してくれれば良い」

 ヘルメットのバイザー越しにモビルスーツや戦闘機を視認する。

その瞬間にターゲットマーカーが明滅して、ピピピと音声がしたと思ったら、それぞれロックオンが終了。

 

メインディスプレイにアンノウン表示と、友軍である可能性の二種類が出た。

コウは慎重に後者を待機状態にして、奪われた味方機でないことを祈る。

 

「トリガーをそっちに……って、これでいいの?」

「ああ。これで引き金を引くのは俺だ。君は巻き込まれただけ、良いね?」

 処理を簡単にするためとはいえ、元は一人用である。

単純な攻撃はコウの側からでも可能で、あくまで戦術管制やマルチロックにガンナーが必要なだけだ。

 

念のために連邦軍所属であるという証明と、降伏勧告などを送り始める。

だがアンノウンは射撃を開始し、友軍らしき部隊は不思議と見守るかのように動かなかった。

 

「えっと、ツインエンジンの出力最大は五分しか抽出できないって」

「こいつの火力ならばそれで十分さ。……降伏勧告はしたからな。恨むなよ!」

 実験機であり戦闘を考慮していないからこそ無茶ができる。

40mのボディに二つの融合炉を搭載し、Gファイターがそうであるように併用によって出力を上げることができた。

 

……しかも機体の動力と射撃の動力に分けて安定させるのではなく、短くとも最大出力で直列使用することを実験していたのである。

何度でも使える機能ではないが、五分間だけ世界最強の出力が保証されている。命中するのであれば、その辺のモビルスーツを消滅させるのに問題などなかった。

 

「あったれー!」

 折りたたまれていた砲は、スキウレ砲どころかバーストライナーに匹敵する火力。

後のメガ・バズーカランチャーには及ばずとも、シールドを構えただけのモビルスーツなど一瞬で融解した。

 

「あ……、何か通信が来てるけど?」

「様子見するつもりで今のに驚いたな? 構わないよ、協力に感謝すると伝えちゃって」

 恩を売りたかったのか?

そう判断したコウは迂闊にも、友軍らしき相手に後の戦闘をゆだねた。

 

そして危うく接収されそうな流れで、アッシマーによる介入が間に合ったのはその直ぐ後。

発着ベイに逃げ込んだという触れ込みの軍高官を出迎える為、赴いたジャミトフが爆発に巻き込まれたという報告が上がったのは、その日の終わりだったという。




 という訳で暗殺計画はアッサリ終わりました。
ジャミトフさんは爆発に巻き込まれて大変だそうです。なんて卑劣な罠なんだ(棒)

まあオールキャストに近い形で戦ったので、バラバラに戦うなら、戦力比三倍くらいはないも同然です。
今回の件は半分くらい予想済みで、罠に飛びこんできたので当然ではありますが。読者のみなさんが予想した通り、簡潔に終了しています。

●ベルトーチカ(若)
 検索された方が居れば一発なのですが、カレン・ラッセルというのはベルトーチカ・イルマの偽名です。カラバから派遣される過程で、警戒され難いので送られた感じですが……。
まあ女子供なので、表の研究機関に送られた感じになります。
あとは声優つながりで、川村さんと堀川さんを同じ機体に乗せたかっただけ。ついでにニナやクエスと逆パターンで、味方が増える感じにしました。

●編成中の精鋭部隊
 ヤザン率いる第一小隊三名。ブレイブ・コッド率いる第二小隊名。
旧編成で二個小隊、新編成だと一個小隊(隊長はMS参謀扱いで別枠)でしかない小戦力。
問題なのはゼロ・ムラサメが一番の格下という狂気の集団ということです。
(研究途上で打ち切りなので、肉体強化系が主で、精神圧迫が行われていないのもありますが)

なお、ブレイブさん以下、第二小隊はガンダム・センチネルにおける敵役のティターンズを鍛える教導団。そのイメージ・モチーフは新選組だそうで、ニュー・ディサイズは新たな決意という意味ながら、ニュー・エディテットされた精鋭集団という響きに聞こえる。

●ミッシング・ナンバー
 死亡扱いの連邦兵士や、借り受けたジオン兵を含むエージェント。
全員が何らかの特技を持っており、それを冠する名前を持つ。
ジンネマンはキャプテン(隊商を率いての潜入工作)、ノリスはバトラー(戦う執事)、ホルバインはフィシャーマン(危険宙域への潜航)。
もし囚人が刑期を減らす契約で所属したら、プリズナーのPと呼ばれると思われる。ギレンだと刑期は一億年とか越えてそうですが。

なお今度のローレン・ナカモトさんは複数人の研究者集団扱いになり、その名前を使ってあちこちに潜り込むダブルスパイでニュータイプ研究のN。とします。

●今週のメカ
 今回出てきたジムに関する諸説は、あくまでコウの知識による判断。
原作と違う部分は、この作品における設定とします。

G-3ガンダム『影』
 サイド6でアレックスを作るためのテストに使われ、そのまま放置されていた。
それを改修して、今回のような時に備えていたとか。

装備はビームサーベル、ワイヤー(テスト用インコム)、ルナチタン弾頭のガトリング砲だけ。
しかしノリスが操ったらドムとケンプファーくらい訳はないので、戦闘シーンは丸々カットしました。ポケ戦とは違って攻守逆転で、黒いG-3がコロニー内を『ひとおつ!』とか『はーはっはは、よくご存じだ!』言いながらやってたでしょう。

『ジム・カスタム』
 戦争中に開発された技術を内部に、その後に開発された技術・ジオンから接収した技術を外部パーツに搭載している。特にブースターは重元素エンジンと稼働型噴射口を連邦の技術で作り直し、アポジモーターという追加ノズルの概念を投入。ジェネレーターも強化され、重量比を考えればガンダムに匹敵する性能を秘める。

なお、基本的には各パーツにリミッターが掛かっており、制御可能な範囲に収まっているはず。
ヤザン達はそのリミッターを外し、各個人の能力に合わせて段階解放したいわゆる専用機状態だとか。入隊試験中のキース、および同じくエージェント見習のバーニィは事故って負傷したそうである。

『アッシマー宙戦試験型』
 ティターンズ主力は地球での戦闘に向いた、飛行形態のみのアッシマー。
これを宇宙でも使えるかどうかテストするための機体である。
なお、基本装備は簡易四肢にある小型メガ粒子ビーム砲x2のみ。
オプションとして、大型ビームライフルないし散弾バズーカを胴体下にホールドできる。

?型:スルシャンダナ:最初の運用試験やマイクロウェーブ実験型
A型:エアカバード:コスト重視
B型:バトロイド:原作に近い、モビルスーツ形態実験型
C型:チャリオット:SFSや長距離飛行用で、燃料・浮力が強化されている。
D型:デストロイヤー:重戦闘型。この機体は大型ビームライフルがメイン兵装。
E型:EWAC:偵察用でレドームが追加されている
F型:ファイヤポート:浮力全振りで、小隊火器として大型砲を持ち込むランチャー輸送型

『モーター・テストベット』
 そのまま実験機を無理やり動かしただけ。全長40mの百式状態。
対ビーム装甲のキンキラアーマーと、複数のエンジン、視線を追いかける簡易マルチロック機能、大口径メガ粒子砲の小型サイズ化をテスト中だった模様。

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