ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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月の裏側で

●a little wars.

 月は常に地球へ一定の貌を向けている。

表側ではマスドライバーを巡る戦いが熾烈さを増してるはずだ。

 

そんな中で、裏側ではまったく別の戦いが起きようとしていた。

 

「まさかこの子の能力を、こんな風に使うとは思ってもみなかったわ。閣下って何を考えてるのかしら」

 民兵として徴用される形になったカレン・ラッセルことベルトーチカ。

彼女はコウと共に、テスト機の試験を行っていた。

 

もちろんテストというのは言い訳だ。

二人は40mもの巨大マシンのスペックを利用して……。ムサイの残骸に隠れながら超望遠観察を行っていた。

 

この機体はそのサイズもさることながら、炉心を足に移すことで、胴体に大きなスペースを確保している。

そこへ新型の演算型教育型コンピューターだの、長時間行動用の循環装置だのを取り付けて、長期観察させていたのだ。

しかも武装の代わりにライフルよりも大きな超望遠レンズや各種センサーを乗せたカメラ・ガンを携えていた。戦闘力があることはテロを退けたときにハッキリしているというのに、カレンにとってそこが不思議でならない。

 

「夢……じゃないかな? 前に言ってたよ。指導者と子供くらいは夢を語れないと世界は狭すぎるって」

「そりゃそうだけど、反乱組織との戦争中なんでしょ? 足元見えてるのかしら」

 大型炉心に演算コンピューターはともかく、望遠レンズと循環装置は余計だ。

それらが必要になるとしたら、まさに宇宙開拓の為でしかありえない。

 

要するにジャミトフにとって、エゥーゴの反乱など興味の外なのだろう。

……もっとも、二人が知らないだけで、原作知識では観察対象であるコロニー輸送は重要事なのだが。

 

「あら? 何か変化が見えた気がするけど……。いまいち分からないわね」

「ちょっと待って。インコム伸ばしてみるから」

 カメラ・ガンにはインコムのテスト仕様を改造して載せていた。

ワイヤーの先にカメラを付けて、詳細に色々把握できるようにしたのである。

 

コウは仮想ディスプレイを投影すると、器用に指先でインコムの軌跡を調整し始めた。

 

「……よくそのキーボード使いこなせるわね。この子のフルスペックもだけど、あなたの他に誰が使いこなせるの?」

「俺の他? ……ええと閣下くらいかな。ホラ、あの人が色々口出したっていうから。多分」

 こういってはなんだが、このテスト機を使いこなせるのはコウがメカ・オタクでインテリゲンチャだからだ。

普通のパイロットでは到底不可能で、考案者のジャミトフのような趣味人くらいが精々だろう。

 

現に仮想キーボードに拒否感を示す者も多く、カレンもまた、タッチペンで直接ディスプレイに軌跡を描くことが多い。

 

「居た。こいつはザクだけど……見ない型だな。統合生産計画機だと思うんだけど……」

 それはそれとして、インコムを伸ばしていくと、データを幾つか拾うことに成功した。

カレンの『何それ?』という言葉を無視して、コウは周囲の状況を色々と調べていく。

 

MS-06FZ、ザク最終生産型が居るという事は、ジオン残党……いやエゥーゴである可能性が高いのだ。

 

「っ!? 違う。こいつザクじゃないぞ! ところどころゲルググのパーツに変更してある! 確かこの傾向は……」

「ゲルググって、あの幻の名作機って言われてる?」

 コウが次々にピックアップするのは、コックピット周りの装甲や追加ブースターだ。

パイロットの保護によって作戦経過を確実にし、移動速度の増加によって作戦進行時間を短縮する。

 

その二つを重視しつつ、当時最新の装備を必要とする精鋭部隊。それは……。

 

「判った! 海兵隊仕様だ! 奴ら輸送中のコロニーに強襲上陸する気なんだ!」

「え!? まさか、コロニー落としをする気なの!?」

 MS-14Fゲルググ・マリーネ。

実際にはその実装過程にあたる機体なのだろうが、少なくともザクより強力なのは確かだ。

もしかしたらパーツを持ち出して、改装してるのかもしれない。

 

だが、そうだとしても戦力が足りるはずはない。

失脚してサイド6に籠る前のジャミトフは、輸送計画を提出された段階でちゃんと護衛を手配するように徹底していたからだ。

 

だから本来は、成功するはずのない作戦であった。

幾らバスクがジャミトフを嫌っていたとしても、既に命令書まで発行している作戦を簡単に中断などできない。

 

「ちょっと待って。何か高速で飛んでくる……これミサイル? 核弾頭でコロニーを壊す気なの?」

「E.M.P弾頭! いまどき電磁パルス攻撃だって!?」

 それは無意味な攻撃であるべき牽制攻撃だ。

電磁パルス攻撃と言うのは汚い核と呼ばれ、相手の手前……地球であれば敵国の上空で爆発させることで巻き起こる、電磁波によって電子機器を狙った攻撃である。

 

冷戦時の地球であればまだしも、いまは宇宙世紀である。

軍用機であれば電磁シールドを処理していて当たり前。今時は無意味な攻撃であり、核弾頭を警戒する方がマシとすら言われていた。

 

ただし、『万全であれば』の話である!

 

「コウ! この子、何か調子が変よ!?」

「しまった。処理しきれずに、こいつパニック起こしてやがる。このままじゃあ……味方に撃ち殺されるぞ!」

 二人の乗るテスト機は、いまさら行われると思ってすらいなかったEMP対策などしていない。

それでも宇宙航行を前提にしているので、全てが破壊されたりなどはしない。

 

だが全てを処理しきっておらず、一部の電子機器が破損。

突然の処理に演算コンピューターがパニックを起こし、再起動を掛けたり、方々に信号を放ち始めたのだ。

 

「仕方ない。一度、こいつの心臓を止める。一から再起動を掛けるんだ!」

「そんなことやったことなんてないわよ! ちょっと待ってったら!!」

 コウはマニュアルをカレンの方に放り投げると、コンピューターと炉心の再起動を掛けた。

同時にマイクを取り出し、昔ながらの放送の準備をし始める。

 

敵味方識別信号どころか、様々な電波を発信し始める機体。

ソレがしばらくの間とはいえ、無事だったのには理由がある。護衛艦隊が一時期センサーが故障し、一足早く再起動していたからだ。

 

『シーマ様! 連中の対空砲火が勢いを落としました!』

『どこも二線級は世知辛いね。今のうちに叩くんだよ!』

 ジャミトフが見落としたとしたら、こちらの方面には修理も適当に済ませている二線級の部隊が多い事だった。

どの部隊が担当だったとしても、充分な修理パーツがなく『間に合わせている』機材が多い。

 

当然ながら電磁処理など後回しで、センサーが完全に死んでいないだけ、ちゃんとした軍艦だったということだろう。

とはいえそれでも対空センサーなどが一時的に故障し、予備回路に切り替えるまでに時間が掛かったのが致命的だ。たちまちのうちにシーマ艦隊が急接近してしまった。

 

『待て! このコロニーは宇宙移民のための……』

『やかましい! あたしらにはそんな話を聞いてる余裕なんざないんだよ!』

 唯一、完全なゲルググ・マリーネがコロニー公社の船を沈める。

既に護衛艦隊は一瞬の隙を突かれ、対空監視網やカタパルトが停止している間に肉薄されていた。

 

そうなれば脆いものだ。

マゼランの居ない小規模の分艦隊ともあって、練度の差もあり容易く粉砕されてしまう。

 

『シーマ様、あちらで何やら奇妙な動きが』

『なんだいありゃ。蛍ってやつかい?』

 その頃だ。二人の乗るテスト機がパニックを起こしたのは。

様々な発光信号や、音波の類を出しまくって、やがて一度すべての電源が落ちたのが見える。

 

「こちらプロメテウス機関に所属するテスト・モビルスーツ。試験中に事故が起こりました。航法コンピュータ他、各種機器が停止……」

『……ふん。戦場に出といて、見逃してもらおうなんざ甘いんだよ!』

 このままいけば宇宙をあてもなく漂流するのは間違いない。

そう判っていてなお、シーマは念のためにライフルを撃ち込んだ。

 

遭難者の救助は船乗りにとって必須と知りつつも、作戦を優先したのである。

あえていうならば、爆発が起きたことで、それ以上の追撃をしなかったことが慈悲に成るだろうか。もっとも、コロニーを奪って移動するという当初の目的で精いっぱいというのもあるだろうが。

 

 

「ねえ。外はどうなったの?」

「判らない。ダミーに使ったムサイの残骸が爆発したのは判るけれど……。というか、こいつちっとも再起動しないな」

 ガン・カメラはもちろん巻き込まれて破損。

当然ながらインコムも千切れて吹っ飛び、無事なセンサーを探す方が難しいだろう。

 

だが、それでも生きていられるのはありがたい。

そう思っていられたのは、三日ほど何も反応がないのを確認するまでの間だった。

 

既にどれくらい流されたのか分からないころ、ようやく、一部のセンサーが復帰。

それもコックピットハッチを開けようと、爆発ボルトで機体を軋ませた後のことである。

 

「何処だ此処は?」

「月があんなに遠い……」

 かろうじて判る範囲には味方もコロニーも居ない。

今まで足元にあった月面は遥か彼方で、太陽と北極星の方位で自分の居場所を確かめる。

 

「はい。残りはコウの分よ」

「ありがとう。……こりゃ随分と流されたな」

 放り投げられた水のチューブを口にして、コウは自機の位置をようやくつかんだ。

 

間接キスにドキドキするなんて贅沢が許されたのは、漂流から二日を過ぎた辺りまでだ。

食料も水も半量に切り詰め、今では循環器の小型化テストをこの機体で試そうなんて考えたジャミトフに感謝しながら、通信機を直そうと必死の努力をする日々である。

しかしそれも何時まで保つだろう?

 

「ねえ。このまま助けが来なかったらどうする?」

「大丈夫さ。俺たちは連邦軍なんだぜ? きっとそのうちヤザン大尉辺りが助けに来てくれるさ」

 ともすれば悲観的になりそうなカレンを励ますために、コウは自分でも信じていない言葉を口にした。

 

ヤザン達は海兵隊を追って行ったはずだ。

仮にコウたちの合流が遅れたことに気が付き、途中で引き返したとしても、数日のロスは痛い。

コロニー落としの重要性を考えれば、自分たちなど放置してしかるべきである。

 

「でもね、私はコウと一緒で良かったと思ってるのよ? だって他の人とじゃ話題が半分も続かなかったわ」

「そりゃどうも。せっかく通信機が直ったんだ。自暴自棄になるのはもうちょっと待とうぜ。流されるだけ流されるのは、食料も水もなくなってからで……」

 さっきからカレンの様子がおかしい。

とっくに吊り橋効果なんてゲージmaxである。こんな狭い空間に若い男女が閉じ込められて何も起きない筈はない。

 

とうとう作業をしているのに、背中に人の気配を感じる。

 

「わ・た・し・は! 流されても良いって言ってるの!」

「……そりゃ嬉しいけどさ。どうせなら無線が直る前に成りたかったっていうか、聞かれちゃうぜ?」

 無線機を止めようか?

なんていう間もなかった。

 

「聞かせてあげましょうよ」

「えーっと……。光栄ですっていうべきかな?」

「ばか……」

 とかいう会話を聞きながら、アイナとシローはいつ介入するかを顔を見合わせて悩んでいたという。




 という訳でコロニーが盗まれてしまいました。
ついでにシーマ様は大変な物を盗んでいきました。二人の距離感とかプライバシーとか、できあがるお試し期間とかです。

コウとカレンがイチャイチャするために、シーマ様が仕事をするだけのお話です。
月の表側ではマスドライバー攻防戦が行われ、デラーズ達が撤退するまでの時間を特務隊が決行。
水天の涙作戦と違って、時間稼ぎが主目的なので完全に成功。デラーズの主力艦隊は撤退に成功し、バスクの艦隊にダメージを与えて行方をくらましています。

もちろんそれを追いかけることは容易いのですが、そこでコロニー奪取の話が伝わります。
というのが背景事情ですね。まあコウとカレンは二人で火星方向まで吹っ飛んでいるのですが。

●カレン・ラッセル
 テロ事件で乗ってしまったので、民兵扱いで徴兵されました。
それを機に髪を切りそろえ、動き易くして訓練にも参加。コウのパートナーとしてオペ娘をやってた感じです。

●今週のメカ
『E.M.P弾頭』
 いわゆる汚い核で、宇宙に進出すると電磁波は当然なので、本来は役立たずであった。
しかしザクがMS06F以降は対核防壁を除去して、色々な装備を搭載。そのことからジオンでは研究が行われていた模様。

今回は修理が適当に済まされている、間に合わせの艦隊であると事前情報を得たこともあって、作戦のキーにした模様である。
まあ、ぶっちゃけ、シーマ様がコウたちを見逃はずがないので、最初からフルボッコにして漂流するための前振りでした。

『モーターテストベット、惑星間航行試験型』
 正式な名前はまだない。
今回は各種センサーや、それを遠距離で行う超望遠レンズのガン・カメラやインコムを搭載していた。偵察用ザクの数倍は凄い。
しかしテストマシンであり、EMPを食らったせいで、ほとんどが壊れた模様。

なお、こいつの真価は各種センサーもさることながら、蛋白質と水の循環器を、可能な限り小型化したことである。
一週間も積んでいない保存食と水を可能な限り再利用して、一日半分に切り詰めることで、かなり保つはずであった。
素人のカレンがパニック気味なのに、マシンスペックを知っているコウが妙に冷静(チャイルド)なのはその為。

MS-06FZ/14F『ザクⅢ』
 MS統合生産計画機である、ザク最終生産型とゲルグルマリーネの中間。
この計画機は可能な限りパーツと操縦方法が共通化されているが、ザクを受け取って訓練中に終戦。
パーツを持ち出したり、新しく手に入ったジャンクで少しずつ改装していた。
完全にゲルググにになっているのは、シーマ専用機のみである。

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