ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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大団円、あるいは……

●God Save the Queen

 地球方面において一つの事件が起きた。

ソレは偶然のもたらした悲劇であり、背後の事情を考えてみれば必然だったのかもしれない。

 

バスク・オムはとある資料によりエギーユ・デラーズの戦力事情を推測しており、手持ちの艦隊戦力が少ないことに気が付いていた。

エゥーゴを設立した際に、他の主義者たちと提携を組む上で少なくない艦艇を提供せざるを得ず、そしてジオン時代の軋轢もあり矢面に立たねばならなかったのだ。

その状況でフェイントを行うまで連邦を抑え、そして補給切れの部隊へ近づこうとするコロンブスの妨害を行っていれば、手持ちが少なくなるのは予想できる。

 

「外部大型メガ粒子砲、着弾!」

「やりました! 直撃です。グワデンの直衛艦、沈みます!」

 ハーキュリーズ級大戦艦は一部を除いて外部大型砲を採用している。

これにより技術の急激な進歩に影響されることなく、高い火力を発揮できるのだ。コロニー軌道の変更でフェイントを掛けられたが故の隻数の少なさを、コレが補った。

 

「ようし。モビルスーツ隊を押し出せ! 正念場だ、こちらの手持ちを残らず投入して抑えろ!」

「ブルターク隊、ウッダー隊に合流して前進を開始しました」

 この機にバスクは手元に残しておいたブラン・ブルタークの精鋭部隊を投入。

ティターンズより接収したアッシマーも含めて、一気に殲滅を図った。戦場全体を見直す必要と、余裕の両方がバスクにあったのである。

 

『ガトー! あとは任せた。敵中は俺のヴァル・ヴァロが切り拓く!』

『すまん! 私はこの場を抑えねばならん』

 モビルアーマーにはモビルアーマーをという訳にもいかない。

むしろハーキュリー狙いを仄めかしつつジムを蹴散らすために、ケリィ・レズナーのヴァルヴァロは飛び立った。モビルスーツ隊を率いるアナベル・ガトーもまた防戦一方で余裕はない。

 

普段激高し易いバスクが冷静に成れる奇妙な余裕が、その後の悲劇を呼び起こしてしまった。

 

(……なんだ、アレは? コロニーへ作業機械で接近だと……デラーズめの悪あがきか?)

 バスクが戦場を確認し直すと、地球へ向かっているコロニーを追う影があった。

 

見張りを怒鳴りつける前によく見ると、それはプチモビのような作業マシンであった。

数機一組でタンクのようなナニカを幾つか運ぼうとしている。

 

(いや、違う! まさか、アレは……おのれ。ジャミトフの仕業か!?)

 その正体は作業用のブースターが付いた輸送装置だろう。

要塞建造やコロニー建造に使用されるものだ。複数あればコロニーを移動させることもできなくはない。確かにまだ逸らせば重力圏に捉われない範囲ではあった。

 

そして難民や移民への経済支援として行われた、建設業・デブリ掃除への補助を考えればジャミトフの関与を疑っても仕方あるまい。実際にはマイッツアー・ロナの手配であったが、バスク自身もスポンサーも排除したがっているジャミトフの関与と疑ってしまったことがその後の運命を変える。

 

「誰がコロニーの確認を怠って良いと言ったか! まだ間に合う! 大型砲を……いや主砲で構わんコロニー方向に向けろ! デラーズめは一般人に紛れて手を打っておる!」

「申し訳ありません! ……コロニーに向かう無数の作業機械を確認!」

 参謀たちはデラーズに意識を向けており、ジャミトフの策(?)に気が付いていないようだ。

いまならばまだ排除できると、バスクは排除を即断した。

 

「待ってください! コロニーを逸らそうとする善意の協力者である可能性も……」

「馬鹿者! それならばこちらに事前連絡が入っておるわ!」

 中には冷静に通信なりモビルスーツで連絡を取ろうと提案する者も居るが……。

そんなことをされて、ジャミトフの功績が確定されては困る。仮にデラーズ討伐で失態を補ったとしても、ジャミトフが返り咲いたら何にもならない。場合によってはスポンサーが排除の手を伸ばすこともあるだろう。

 

「毒ガスを搭載して地球を汚染……。よしんばブースターだとしても、今度こそダカールを狙うに違いあるまい! 思い出せ、あの方法はジオンのお家芸だろうが!」

「……ブリティッシュ作戦」

「りょ、了解しました。牽制射撃を兼ねて測距データを取ります!」

 参謀たちの勘違いを助長させる事ができたのは、ジオンのコロニー落としの手法が同様だったことだ。

 

状況的にはデラーズが艦隊戦を囮に、プチモビなどの作業機械でダカールへの修正を行った。そう言われても、何の不思議もない状況であったのだ。

 

 

「大変です! コロニー静止に向かった作業者たちに砲撃が……」

「あの猪武者め! 労せずしてコロニーを止められたものを!! 馬鹿者が!」

 これに慌てたのはマイッツアーの工作を黙認していたグリーン・ワイアットだ。

届け出が政府機関に送られていないのではない。ちゃんと送った上で、現場に居たワイアット艦隊が監修するという手筈だったのだ。

 

「いかがいたしますか?」

「この期に及んで採るべき行動など一つだ! 機関最大戦速。全艦は竿で侵入し彼らを守れ!」

 ここで即座にワイアットは動いた。むしろこれまでのゆったりとした動きとは裏腹である。

 

「ですが本部からはまだ何も……」

「我々軍人の本分は民間人を守ることだ。それが地球を守るという事にもつながる! 全艦放送の用意を、原稿が上がるまでオープン・チャンネルでミス宇宙軍の歌でも流しておけ!」

 民間人の弾避けとして軍艦を使う。

それは本分であり、ロマンであり、同時に窮地にあっては愚策でもある。

 

しかしワイアットは躊躇う事はなかった。

ここで引き返されてはむしろコロニーを防ぐ方法が間に合わないし、だからといって艦隊でコロニーを破壊しては今までの流れが無駄になる。

 

もちろんそれ以外に方法が無ければ仕方がないが、どうにかできる大義名分と機転を彼は持ち合わせていた。

 

『インヴァルネラブル・アドミラル艦隊より、新宇宙時代を目指す移民諸君へ!』

 これより支援すると、ワイアットは全艦放送で艦隊、および周囲にオープン・チャンネルで呼びかけた。主戦場ではミノフスキー粒子がまかれているが、こちらではそうでもない。加えてプロジェクターで自身の姿を映し責任の所在を確かにする。

 

そして艦隊運動に微妙な変化があった。

六隻のマゼランが最も危険な位置で停止し、サラミスやコロンブスがその前をゆっくりと移動し始めていたのだ。それは本来行われる形での観艦式であった。

 

『口さがない者は君たちを宇宙棄民などと称する。だが、そうでないことはこれまでの歴史が証明している』

 ワイアットの演説と共に、数人の将官が脇に並んで通過するサラミスに敬礼を送った。

まるでそれは……。

 

「軍のお偉いさんが、俺たちに敬礼してるみたいじゃないか……」

「偶然だろ。でなきゃ、予定通りにブースター付けろって催促だよ」

 そう言いながらも、マイッツアーによって雇われ、あるいは扇動された人々。

彼らは人知れず高揚感に包まれた。これほどの軍艦が一列になって行動する姿など見たことがない。ましてや高級将官一同が整列して敬礼しているのだ。

 

『コロニーを辺境と呼ぶのであれば、歴史を振り返ってみよう。古代ローマ時代に、ガリアは確かに辺境だった。だが、時代が下ればフランスは一流国家だ』

 ここで地球……それもヨーロッパの地図がプロジェクターで映し出される。

ローマ帝国がマークされ、光る矢印と共に、辺境部として北部ヨーロッパがピックアップしているのか輝いて見えた。

 

そしてフランスの名前を出した後、今度はその一部であるノルマンディが輝く。

 

『フランス諸侯の一人。ノルマンディ候は当時辺境だったイギリスの王になった。そしてイギリスは太陽の沈まぬ国となり……』

 正式にはブリテンだ。

だがそんな古い呼称など知らぬ一般人に配慮し、あえてイギリスと呼称する。

 

そしてイギリスから世界地図の各地へ、ピックアップの輝きは広がっていく。

その光の矢印と輝きの動きは、まるで虹の橋の様であった。ただの偶然であろうが、前後して没したはずのギニアス・サハリンが見たらどう思ったであろうか。

 

『イギリスが支配した辺境である、アメリカがどうなったか。そこまで言えば君たちの中にも知っている者は多いだろう。辺境は何時までも辺境ではない!』

 最後に南北アメリカ大陸に矢印が移動する。

最初こそ北アメリカのみであったが、一年戦争時の臨時首都は南米のジャブローであったと言っても良いだろう。

 

『君たちが暮らしているコロニーを辺境というのは、今だけの呼び方だ。未来の歴史家たちは今日の事をこう呼ぶだろう!』

 地球を現していた地図が小さくなり、周囲に七つの星が描かれる。

それがサイド1からサイド7までのコロニーを示しているのは明らかだ。ゆっくりとスローモーで描かれていくのは火星であろうが、もしかしたら木星まで描かれるのかもしれない。

 

『それは、栄光のフロンティアであると! フロンティアに住まう新時代の人々よ!』

 宇宙時代の航路図をバックにワイアットはゆっくりと敬礼した。

 

『私は、我々、地球連邦軍は。君たちを守れることを、君たちと共にあることを光栄に思う!』

 それはとても愛嬌のある微笑みだった。

どうみても背後から撃たれる心配をしているようには見えない。もちろん驚いて発砲を停止したからでもあるが……一歩間違えば何もできずにハチの巣である。

 

『平和を守った連邦の新兵器、ガンダムの事を聞いたことがあるかもしれない。だが、それは一つの兵器を意味するのではない』

 続けてワイアットは、航路図の下にガンダムやジムの集団を映し出した。

だが、それは人々を圧するために使用しているのでも、鼓舞するために使用するのでもない。

 

『地球を、いや世界を。それら愛するべき未来を守ろうとする全てが。戦った将兵が、今また作業を志願してくれた君たちが……』

 モビルスーツの画像の周囲に、無数の小さな星が現れた。

それは最大望遠で映した……。

 

プチモビなどの作業マシンである。

 

『君たちこそがガンダムである! どのようなマシンであるかに意味はない。世界を守り、世界の為に働こうとする大いなる意思全てが。ガンダムであり、スーパーロボットだ!』

 即ち、そこに映し出された姿の全てが英雄(ガンダム)であると言い切ったのだ。

 

「俺が……俺たちがガンダム?」

「……俺が、ガンダムだ!」

「はは!! オンボロのこいつがスーパーロボットだってよ!」

「スーパロボット、万歳!」

「スーパーロボット! スーパロボ!」

「「おおお!!」」

 人々は歓声をあげた。

作業中の人々だけではない。観艦式に参加する将兵たちも含めて。

彼らは通過するたびに、コロニーに辿り着くたびに、敬礼をしあるいは帽子やタオルを振っていた。

コロニーが地球を逸れるまで。気の良い連中は、それてからも帰還の間ずっと見守っていたという。

 

●新時代に向けて

 軍法会議において、とある人物の処刑が決まった。

彼は懇意にしていた人物に、『私は貴方の右腕だと思えば努力していた』と弁護どころか有耶無耶にすることを請い……。その人物は『私の右腕は此処にある』と告げたそうである。

 

さて、それよりもエゥーゴを率いていたエギーユ・デラーズに話を移そう。

 

「尋ねるが弁護士の必要は?」

「私は自らの行為を否定する気はない。ただ、事実を述べる機会だけを与えてもらえばと思う」

 後に処刑されるデラーズは、実に立派な態度で裁判に臨んだという。

全ての責任は自分にあり、部下たちに罪はないのだと。

 

コロニー落としを企んだ罪を一人で背負えば、極刑は間違いないというのにだ。

アナハイムに反乱を強要されたことを訴えることもなく、徹底して宇宙に移民を行った者たちの窮状とその弱い立場を述べたに過ぎない。その潔い態度に本来は敵であるはずの、多くの連邦将校や政治家たちが敬意を表したという。

 

「デラーズ閣下。貴方の行為は地球連邦の一員として許せはしない。だが、その理想のみを引き継ぐことで、エゥーゴの活動にトドメを刺したいと思う」

「ブレックス准将。貴方の様な方が連邦にも居ると知って、安心して逝けますぞ」

 弁護の声を断るデラーズが、最後に面会したのはブレックス・フォーラーであると伝えられる。

連邦議会にも籍を持つブレックスが理想を継いでくれると知って、デラーズは満足して処刑された。

 

 

「ジャミトフ閣下。議会からは貴方が愛人を囲っているという噂が立っていることについてお聞かせください!」

「訂正があるとしたら。彼と違って愛人一人に収まる器ではありません。四人くらいは居るとでも伝えていただきたい」

 それから時は流れ議会に舞台を移した。

下世話なプレスを利用してでも切り込む敵派閥の政治家に、ジャミトフはユーモアを交えて切り返したという。

 

ひとしきり笑いが記者たちの間でした後、そのうちの一人が予定にない質問を浴びせた。

 

「地球に住める人の数を制限するという議題について、お聞かせください!」

「君! そんな質問は……」

「構わんよ」

 政治家に対する公開質問は内容を予め尋ねて許可が出た物に限られる。

でなければ答えようがない質問もあるし、こういった、どう答えても問題の出るデリケートな内容は却下される傾向にあった。

 

イエスと言えば特権政治家がどうのと言われ、ノーと言えば地球保護をする気がないと言われかねない。そもそも軍人であるジャミトフに尋ねるのがお門違いなのだが、平然と口にすることもあり、特ダネを掴もうとする者が出るのは仕方がないだろう。

 

「我々が日夜議論している次なる目標は、小型のリゾート用コロニーであるオアシス・タイプ。そして試験的なものになるが、統治形態の異なる自治区の許可性だ」

 その回答には、地球に対する居住権問題など含まれてはいない。

だが制限するのではなく、新たな魅力で外に惹き付けよう。その方向性が判っただけでも十分な内容だった。

 

「オアシスは……まあ判るとして、統治形態ですか? ジオン公国のような?」

「貴族でも宗教でも、いっそ博打や格闘技でも構わんよ。連邦の許可が必要とさせてもらうがね」

 最高のギャンブラーが統治する自治区、あるいはモビルスーツ格闘のチャンプが王となる国。

先ほどのリゾートに重なっている内容ではあるが、その魅力は明らかであった。連邦内にもそういった自治を望む声があり、許可と監視さえあれば可能なら積極的に関わってくるだろう。

 

『イデオロギーの重要性……ですか?』

『そうだ。犯罪者や拝金主義者が幅を利かせる時代が来るだろう。連邦が形骸化し、新しき銀河連合にとって代わることもあるやもしれん』

 この話題が出る前の事、マイッツアー・ロナはジャミトフと接触していた。

 

地球を省みない者への反発心が、自分の中で新時代の貴族主義に変わっていった。

その事をオブラートに包んで伝えたところ、個人的な主観ではなく、ジャミトフにイデオロギーとして確立する必要があると言われたのだ。

 

『君の宇宙貴族主義は悪くない。だが他の統治形態と争って、自分の理想こそが最高だと言い切れるかね? 仮に数年に一度、ガンダムでの決闘で統治者を決める国があったとしよう。問題は山積みに見える』

『しかし理想的な君主がチャンプに成れば……ですか』

 例えとしてジャミトフはガンダム・ファイトを上げた。

もちろん極端な例であるが、ガンダム・ファイトの代わりに宗教国家の主導者でも良い。

 

失敗も多いだろうが、絶対的な君主が数年間指導するという意味では、帝国制と大統領制の中間点にある。

その点でマイッツアーの理想は弱い方だ。貴族主義の理想の形やら、穴を埋めたり、長所を伸ばしたりといったことまで決まっていないのだから仕方がない事ではある。

 

『だが悪くはない。面白いとさえ思いはする。だから他の連中に負けない目標と、コネクションを持つのだな』

『連邦政府が許可を出すころには完成させて見せます!』

 他にも同様の理想を持つ者が居る。

同時にその枠は、決して広くないのだとも教えられた。

 

『しかし意外でした。その、閣下は実利の方を好まれる方かと』

『人間には衣食住が必要なのだ。別にもう一つくらい増えても構わんだろう?』

 それが麻薬よりは、宗教だの貴族の方がマシだと思うに過ぎない。

そう言われて面白かろうはずなどないが、奮起する気概がマイッツアーにはある。

 

これ以降、マイッツアーはワイアットと共にブリタニア・コネクションを結成。

月企業体のルナリアン・コネクションや連邦系工業のボルガ・テック、宗教色の強い南洋コネクションやアヌビス・コネクションなどと争いながら、宇宙貴族主義を目指すことになる。

 

そして木星公社が隠れ蓑に使うガニメデ・コネクションが、真っ先に木星帝国の自治を達成した後……。

対抗する形で、火星圏の一角に置いてフロンティーラ王国を設立する許可が降りたのである。




 という訳でバスクは行殺されました。
それと今回は、ワイアットさんほか名前を一部、劇中で呼ばれている方に統一しております。

序盤は多少強引ですが、整合性を取りつつ、バスクが処刑されてもおかしくない流れにしております。
後半部分は抑え込んでいる地球連邦への反動を、管理下で爆発させる方向で行った感じ。許可枠は地球・月面で少なく許可される主義も狭く、火星・木星で多く、許可の幅も広い。
F91のフロンティア・サイドもクロスボーンの木星帝国も、南洋同盟とかその他と一緒に、火星や木星に分散して小さくまとまった上で、それぞれ対抗し合った感じですね。

騒動(せんそう)は続くと思いますが、ジャミトフさんの生きている間は楽しく喧嘩(せんそう)しているかと思います。
第二部はこれでほぼ終わり、今回が短く終わった分だけ、外伝を一・二本書くのではないでしょうか?

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