ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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外伝:炎の三十バンチ事件:後編

●ラストバトル

 コロニー外では、いよいよ謎のモビルスーツ群との戦いが始まろうとしていた。

プロメテウス機関はハーキュリーズ級三番艦アキレースより発艦、まずは発着口で邪魔している大型機が露払いに飛び立つ。

 

「随分と大きいわねえ。この子ほどじゃないけど、ジムよりよほど大きいわよ」

 ベルトーチカ・イルマは本名に戻した上で参加し、コウ・ウラキのパートナーとして参加。

とはいえその役目も、大型機の専属オペレーターのようなものだ。アキレースには通常よりもオペレーターが多いので、現場に居るだけとも言える。

 

「ん……22m?」

「コーウェン少将が最初のころに開発していたやつかな? やっぱりそうだ」

 ジョン・コーウェン技術少将はガンダムの開発を行っていた。

V作戦に倣って高性能機を作成しつつ、ジャミトフが大型機で開発した技術を受け取って、徐々に統合していったのである。

 

最初は20mクラスに圧縮するのも手間取り、22m級になってしまった。

とはいえその失敗を契機に奮起して、20m級を達成。今では従来機と同じ18m級を目指して居るのである。

 

「こっちの倍くらい居るけど勝てるの? 旧型と言ってもジオンのより強いんでしょ?」

「アキレースの艤装も終わってれば余裕なんだけどな。問題はこっちの遠距離砲撃がどこまで効くかだと思う。同数の勝負を用意できるなら、ヤザン少佐たちは負けないよ」

 ハーキュリーズ級は実験艦でもあるので特徴差が激しい。

アキレースは殆どの能力を機動力に割いているため、唯一、外部砲塔を持たない。だがそれは戦場を掛け回れるという事であり、通常砲塔や副砲を用いればモビルスーツより強力だったろう。

 

またオペレーターの数が多いと前述したが……。

それゆえに戦術管制能力もケタ違いで、同条件の勝負の連続になるのであれば、何倍であろうともヤザン達の腕前があれば圧倒できる。

 

「あら。あの機体、前に出てこないけど……戦う気がないのかしら」

「相手からするとマスドライバーもどきを守れば良いってことなのかな? ならスマートガンで狙い撃ちしてみようか」

 奇妙な気がしつつも、二人はワイズマンの炉心を稼働させた。

今回の指揮官であるジャマイカン・ダニンカンからからは特に何も言われていない。今のところは状況に合わせてヤザンから指示が来るまで牽制か、後に使用するための情報集めが役目になる。

 

「ちょっと待った! それならオレ達も混ぜてくれないとなっ。モーラに良いとこ見せないと」

「こらこら。護衛は近づくのが役目だよ、キース」

 アキレースにはカタパルトが整備されてないので、ようやく護衛機が飛び立てたのだろう。

見習ゆえに二機一組で、チャック・キースとバーナード・ワイズマンのコンビが到着した。この二機は他の機体と違い、遠距離専用の装備固定で大型機ともども援護に当たる手筈になっている。

 

「それなら測距射撃で撃ち込んでみるか。出したデータでリンク射撃してみてくれよ。それで牽制になるだろ」

「「了解」」

 大型機がビーム・スマートガンのチャージを始め、遅れて二機のジム・カスタムがバックパックのキャノンを展開する。

コウが一発放った後で、それがどのくらい外れたかを元に、二機が調整して挟み込むように撃つ予定だった。

 

しかしラッキー・ボーイ三人組(初陣で彼女ゲット)の攻撃は思わぬ形でデータを集めることになった。

 

「あれ……。弾かれた?」

「もしかしてI・フィールドを標準搭載してるのか? 贅沢だなあ」

「まさか。そんなことはないだろ。もしくはビーム攪乱幕を展開してたとかな。こっちも撃つよ」

 煌く幕に阻まれてスマートガンは霧散した。

呑気に驚くキースだが、それもバーニィが促してビームキャノンを当てるまでだった。二発一組で放たれたビームは、やはり敵機の周辺で霧散したのである。

 

 

「I・フィールド? コロニーに親機を置いて周囲でなら使えるようにでもしたのか。だが、せっかくのお披露目だというのに相性が悪いな」

 その光景を見ていたジャマイカンが思わず呟いた。

本格稼働の前にデータを集めておきたかったのだが、ある意味、相性が悪過ぎて相手にならない。

 

「どうしますか? マスドライバーを放置できませんが」

「どうもこうもあるか。アスタロスの脅威もあるし、手加減するわけにもいくまい。ヤザンには薙ぎ払えとでも言ってやれ」

 コウたちは驚いていたが、むしろジャマイカンは興ざめしていた。

相手はおそらく、コロニーに大型のI・フィールド発振器を設置している。それを敵機が利用できるようにしているのだろうが……。

 

今回用意した秘匿装備の特徴は、短い範囲でしか使えないという特徴を持っていた。

だが相手がコロニー付近で密集していると言うのであれば、まさにカモ撃ちにしかならないだろう。

 

「薙ぎ払え! 繰り返す、薙ぎ払え!」

「ったく。判りましたよっと。……モビルスーツってのは機動兵器なんだよ。ボーっと突っ立てるんじゃねえ! 機動しろ機動!」

 このボケがあ!

と腹ただしげにヤザンは部隊を動かした。

 

十三機のジム・カスタムが敵機の砲撃を三々五々に分散して避け、再び隊列を築く。

以前に太陽路を巡る戦いでコウは敵が見事な機動を見せたが、この部隊はオペレーターが誘導するのでソレよりも早い。あっという間に敵陣営の中に切り込んでいったのだ。

 

「集結完了。第五種兵装は問題なく稼働中。全機のシステムは正常です」

「汚物は消毒しろ、焼き払え!」

 そして0083年の最後を飾る最後の戦いが幕を開けた。

終わりの始まりであり、始まりの終わりでもある。整列し直した十三機が一斉に第五種兵装に火を吹かせた。

 

『大変です! 無人機が、あの無人機が……』

『どうした? 報告は正確にしろ!』

 パニックを起こしたのは相手陣営だった。

22m大に拡張してもI・フィールドの子機を積むにはまだ足りない。そこでAIに制御させることを思いついた。コロニーの近くでファランクスを組むのだから、細かい制御は必要ない。

 

逆に言えばコロニーの近くならば無敵。

そう思っていた無人機が、あっけなく焼失していくのである。

 

『敵は火炎放射器を使用! 無人機の多くが焼き払われました!』

『馬鹿を言え! ここは宇宙だぞ!?』

 敵側がパニックを起こしたのは無理もない。

宇宙空間では炎など発生しない。酸化剤を噴射すれば使えなくもないが、そんな無駄なことをする相手が居るなどとは思ってもみなかったのである。

 

だが現実にヤザン達の第五種兵装は火炎放射器だ。

一斉発射されたソレは、まさに炎の剣となって焼き払う。一機ごとの射出距離は10mでしかないが、十三機が横並びになれば130m。その列に触れた物を全て焼き払う炎のギロチンでもあった。

 

「このまま立ち塞がる全ての物を焼失させるぞ! いいか、絶対に前面に立つなよ! 絶対に立つなよ!」

「判っている! 私とて、味方の武装で溶けたくはないからな!」

 それは酸化剤と強酸を混ぜた噴射液の仕業だった。

炎の通り道として予め射出され、その列を追うようにして炎が伸びるのだ。こうすることによって敵機は脆い部分が腐食し、内外から焼かれることになる。

 

これはアスタロスの脅威をいかなる場所でも焼き払うため。

そしてWガンダムに登場するアルトロンガンダムをヒントにした、ジャミトフのロマンである。後世の歴史家の中には、ジャミトフがこの装備で逆らう者を焼き殺したとも伝えている。

 

『ひっ。嫌だあ! 焼き殺されるなんて嫌だあ!?』

「ちっ。ロクな抵抗がねえ。これじゃあ今年の最終戦(ラストバトル)どころか、ラストバトル(腐食させる戦い)じゃねえか」

 ビームで撃たれるのも焼き殺されるのも同じだろうとヤザンは言いたい。

だが考えてみて欲しい。仮に死体が残り、運悪く即死しなかったら……。どちらがより悲惨な末路なのかを。

 

まして重装甲でも継ぎ目やパイプはどこかに存在するものであり、そこから炎が侵入したら一巻の終わりである。生き残ったとしても宇宙空間では致命的だろう。

 

『こ、降伏する! だから殺さないでくれ! 焼け死ぬなんて真っ平ごめんだ!』

 その光景は圧倒的だった。

モビルスーツ隊は有人機が少数だったこともあり次々に降伏。特に空気が無ければ生きていけないコロニー内部では、何倍もの兵士が雪崩を打って降伏していった。

 

『これまでだな。降る者は武装を捨てて戦場の外に出ろ』

『ギャルガ隊長は?』

 守備隊を率いていた者が最期の指令を出した。

元が軍人でも主義者でもない者が多く、これ以上は無理だと判断したのだろう。だが軍人であったその男は武装を捨てようとしない。

 

『姉上も兄上も逝った。ここで私が無様を晒すわけにはいかんだろう。未練の無い者だけが続け! 無人機も残っている奴は前に出す!』

『お供します』

 リファインされたMS-15、その脇にガルバルディの試験機が続く。

ギャンEX一機とガズR/Lとでもいうべき存在、たった三機が栄光のジオン親衛軍最後の生き残りであった。

 

『近からん者は音に聞け、遠からんものは目の端にでも止めるがいい!』

「ヒュー! たった三機で突っ込んで来やがるとは。あいつはオレがやる。コッドに指揮を引き継ぐが、コウたちがアスタロスに向かえ!」

 急接近するギャンは盾をかざしてニードルミサイルを放ちながら接近

ヤザンは指示を出しつつ自らが迎撃に向かいつつ、本命であるアスタロス焼失を忘れなかった。コッド隊が中心になって無人機を抑え、牽制していたコウたちがマスドライバーに急ぐ。

 

だが敵もそれを許すはずがない。

ジグザグ軌道でコッド隊の前に回ろうとする。

 

「っ機雷か! そうこなくっちゃな! 第五種兵装は放棄。ツーマンセルで火力不足を補え!」

「「了解!」」

 相手は回避したはず。

教科書通りの動きにヤザンは首を傾げた。一目見ただけで腕前が判るほどの相手だ、ただ避けるだけとは思えないと判断したのだ。

 

即座に危険と判断し、誤射や誘爆の危険がある第五種兵装を捨てた。

相手が少数という事もあり、二機一組でビームサーベル主体で切り込むことにしたのである。

 

「うおおお! ニューディサイズ、ブレイブ・コッドがその首……もらった!」

『隊長! こいつはオレが!』

『すまんなタロス』

 その場に居る二機のうち、亀のマークの機体が反転。

ガズRはランスを構えて突進し、サーベルを受けると同時に手を離した。

 

そこへコッド機の後ろからやって来た二機目に、咄嗟にサーベルを翻すことに成功する。

 

「やるな! こいつらもエースか!」

「トッシュ! 油断するなよ。相当やるぞ!」

 奇襲したはずだが、相手はそれを当然として対処した。

それだけの練度があるということだが、腑に落ちないこともある。こいつらは最後に三機だったはずだ。残り一機は脱出するか、それとも迂回したのか?

 

『ギャルガ隊長。敵集団は無人機に半数が。残りがそちらを追っています。マスドライバーには大型機を含めて三……いえ場外からモビルアーマーが……』

『イリューズ。もういい、急いでそこを離れろ。私なら問題ない』

 なんと魚のマークを付けた機体は、ギャンの撒いた機雷源の中に居た。

ステルス迷彩を施して、戦場を観察していたのである。

 

そして隊長機からの指示が入って彼女が動き出すのと同時に、二機のジムがそこへ向かっていた。機雷が爆発するよりも先に駆け抜けて、高速で突撃する一機と、迂回するように向かう一機に分かれている。

 

『くっ。機雷の中で! 死にたいの!?』

「その気はない! 宇宙人にできるならば、地球人にだってできるはずだ!」

 ジョッシュ・オフショーは以前の戦いを思い出していた。

モビルアーマーでアステロイドに突っ込むアッシマー。あれを思えばこの程度はなんでもないと豪語する。実際、この敵は機雷の中に潜んでいたのだ、相当な距離間隔があると見なしたこともあるだろう。

 

そして二機居ることもありこちらも有利に進む中、残ったヤザンも同様に戦いを愉しんでいた。

 

「爆薬付きの盾で……多重フェイント? だけど、その腕……もらっていく!」

「無理しなくていい! お前は下がってな!」

 恐ろしいことに、敵はミサイル入りの盾でゼロ・ムラサメの機体を殴りつけた。

攻撃と共に敵機の左側が爆発し、ゼロの機体も巻き込まれる。だが彼はそのままやられたりはしない。咄嗟に盾を切り離したはずの左腕へ、追撃を掛けて切り落としたのだ。

 

「至近距離で爆発したろ? ダメコンする時間くらいは待っててやるぜ」

『必要ない。もう済ませた』

 本当にそんな操作をしたら攻撃しようと思ったが、そっけない返事が返ってくる。

もちろんそんな時間があるはずもないので、即座に奇襲の可能性を疑って切り捨てたはずだ。あるいはヤザンと同じで少々のバランス変化くらいならばなんとかしてしまうタイプかもしれない。

 

『かかって来い!!』

「いいねえ! そんじゃあ、イザ尋常に勝負ってな!」

 ギャンは最初に一回だけブースターを吹かせて、損傷を確認した。

アナハイムの改修でアポジモーターという概念が追加されているのだろう、即座にどの部位の噴射でバランスを取るかを判断すると……。

 

ヤザンとの接触の瞬間に、思いもしない部分を噴出させた。

右足だけを吹かせた思いもよらぬ蹴撃。その後に再度全身を調整し、真空中での飛び膝蹴りを仕掛けてきたのだ。

 

「おう! てめえの感覚はどうなってんだ!」

『お互い様だ!』

 ヤザンは咄嗟に逆進用の胸部スラスターを使用。

敵機同様に足のアポジモーターを稼働させ、宇宙でサマーソルトキックという暴挙に出る。

 

だが共にそれで止まるような常識人ではなかった。

ヤザンは蹴撃戦の途中から先行入力で、敵機の左から右にビームサーベルを薙ぎ払いを掛けた。同じくギャンもそれをあえて受け止めつつ刺突に出る。

 

同時にコックピット周辺をサーベルが行き交う殺し合い。

まさしくデッドorアライブ。ヤザンが生き残ったのは、単に味方にその後を任せられること。そして生命にしがみつく気持ちの強さゆえだろう。

 

『見事……』

「くそが。まともにやってればオレの勝ちだってのに。相打ちに持ち込みやがった。これだから自滅覚悟の連中は嫌だね」

 敗者に称賛など必要ない。

ヤザンは悪態こそが相応しい相手だったと思いつつ、念のために機体を捨ててゼロに収容される。

 

そしてマスドライバーは最後の悪あがきとしてエネルギー完全充填前に射出していた。

出力は大気圏を突破できるか怪しいレベル。しかし問題なのは……そこからの再計算であった。

 

「コウ! 大変よ、あのカプセル。分裂しちゃってる!」

「この段階でクラスター化を実行したのか? 敵には相当の技術者が居るぞ……。くそ、減速軌道で不時着させる気だ!」

 かつての宇宙時代、アメリカは強引に大気圏を突破した。

スペースシャトルの耐久性能があったればこそだが、一方で技術力に劣り始めたソビエト連邦は、ゆっくりそっと時間を掛けて降りるという穏当な手段で降下していた。その例に倣って出力不足を補ったのだろう。

 

いかにビームスマートガンやビームキャノンがあろうとも、たった三機……いや駆けつけているというモビルアーマーを含めて四機ではクラスター化した子爆弾・孫爆弾を落としきれない。

 

地球はこれまでなのか?

そう思った時、故人の遺志が世界を救ったのである!!

 

「こちら天田・愛奈……いえアイナ・サハリンです」

「アイナさん!?」

「助かるけど増えてもたった四機じゃあ……」

 やってきたのは旧名、アイナ・サハリン。

ジオン公国から亡命したという触れ込みの……科学者の妹である。

 

「問題ありません! このアプサラスⅣには拡散メガ粒子砲を搭載しています!」

「助かった! カレン、マルチロック用にデータを送信するんだ!」

「もうやってる! あと、私の本名はベルトーチカだって何度も言ってるでしょ!」

 救世の天女アプサラス。

その正体はジャブロー襲撃用重モビルアーマー。岩盤を容易く破壊する貫通力とは別に、迎撃機をまとめて薙ぎ払えるだけのマルチロック機能を備えていた。

 

終戦後に役に立つのは何分の一か。

億万か、それとも那由多の果てか。それでも研究ができるなら構わないと研究し続けた、狂的科学者の最高傑作であった。

 

「アイナ! 全クラスターをロック完了! 生き残りがあっても第二射で掃討できる!」

「あなた……。信じてくれてありがとうございます。アプサラス、己の仇を討ちなさい!!」

 独立戦争時、アイナたちはメラニーの野望に利用された。

インドシナ戦線での窮地を救われたのはたしかだが、移動したアラビア半島でジオンが悪事を働いたとカモフラージュに利用されたのである。

 

地球での最終戦闘に徴収されたアプサラスⅢが使われたこともあり、その名は地に落ちた。

 

だがしかし!

この日を境に、アプサラスとギニアスの名前は歴史に復帰したのである。

 

●重力の錨は巻き上げられ、炎の宇宙開拓時代が始まる

 三十バンチの一件が伝えられたメラニー・ヒュー・カーバインは思わず絶句した。

仮に見つかって殲滅されたとしても、そのことを利用しようと各所にカメラや、ティターンズの装備を付けた偽兵士を用意していたのだが……。

 

「何の冗談だコレは?」

「全て本当の出来事です。用意していた偽兵士も降伏しました」

 映っていたのは、どう見ても悪の兵士だった。

耐熱性の軽環境スーツで身を固め、同じ性質のシールドに火炎放射器で武装している。ティターンズ兵士の装備を付けている物などどこにも居ない。

 

だが、それはまだ悪趣味で許容できる。

問題なのは、宇宙で起きている戦闘画像が荒唐無稽なことだ。

 

「何の意味があって宇宙で火炎放射器なぞ使っているのだ? あまつさえ、敵艦には旗が翻っているだと?」

「火炎放射器は酸化剤でも吹かせたのかと。……さすがに旗と煙は意味が判りませんが」

 望遠画像でピックアップすると、被弾したアキレースからは煙が立ち上っている。

ブンドル式と呼ばれた特殊な方式で、旗を宇宙で翻して士気を高揚させ、被弾時に煙を使って場所を把握する戦闘技術であったそうな。

 

そんなことを知るはずもないメラニーは、即座にこの光景をプロパガンダに使う事を諦めた。

こんな画像を見せても、良いところ映画の撮影にしか見えないだろう。高いコストを払ってまで、宇宙空間で炎を使った攻撃をするなど誰にも理解されまい。

 

「お前はお前でロマンチストだったのだな、ジャミトフ。早く言ってくれれば、地球征服の計画でも持ちかけた物を」

 メラニーは結局、自分が中途半端なロマンチストであることをようやく理解した。

こんな馬鹿げた光景など、生粋のロマンチストにしか不可能だろう。思えばダカールを緑化した時も、面白そうだと口にしたそうではないか。

 

それを早い段階で理解していたら、ジャミトフを誘って聖地奪還を試みただろう。

そうすればアフリカの人間を一人残らず宇宙に上げるくらい、今頃は実行できた可能性が高い。宇宙を操る老人二人が、最大級のロマンチストであるなどと誰が思おうか。

 

 

『しかし今更、大規模農場計画など必要でしょうか?』

『それがいかんのですよ。人は必要が無ければやらない傾向にある』

 その日の会見は、新型のコロニーであるオアシス・タイプを農場として利用する計画だった。

極限まで効率化した循環システムをフル稼働させ、大量に食料を自給可能とし、逆に各サイドのコロニーからは農場区画を別の区画に割り当てさせる。

 

『かつて石油ショックがあった時のこと。とある国はあざ笑う産油国へ面従腹背している間に、消費コストを半分にした』

 ジャミトフは極東の日本という辺境国の話をした。

第二次大戦後に急激な復興をした国の話題で、今や知る者はヤシマ重工など系譜をひく者でも少ないだろう。

 

『以降、産油国ではその国を怒らせるなと忠告し合うようになった。さて、その後にレア・アース抗争が起きた時……どうなったと思うかね?』

『またもや半減させたのですか?』

 記者の返しにジャミトフは笑った。

そう思うのが普通だが、結果はさらに冗談めいている。

 

『ゴミ処理場の効率を上げてな。機械ゴミを利用した都市鉱山という概念を作り出す。他の国でレア・アース鉱山を開発し始めたのにも協力し、結果として殆ど困らなくなった』

 冗談のような話だが、本当の事である。

もちろんそこまで効率は良くないが、短期的には産出国の禁輸を無視できるようになったという事が大きい。

 

『さて、ここで重要なのは今の例は良し悪しということだ。本気になれば可能なことも、追い詰められないとやろうとしない』

『なかなかできる事はありませんけどね。まあこれは完全循環型コロニーにも言える事ですが』

 新型のコロニーが開発されたのは、そもそも一年戦争で融合炉の技術が革新したからだ。

一気に性能が上がり、ソレをコロニーに利用しようなどと誰が優先しよう。本来であれば効率の問題で無視された事だろう。

 

だが、ジャミトフはあえて注目した。

己の政治的武器として、モビルスーツではなく完全循環型コロニーこそを利用したのである。

 

そして彼のロマンは次の開発に注目した。

マズイと評判の合成肉を改良し……。死後に完成するとある施設でも新宇宙時代を演出したのである。

 

次回、『ロスト・ジ・ジャミトフ』

世界は最後まで、彼によって翻弄されたという。




 という訳で、戦闘物の後半です。

とりあえずロマンで戦闘してみました。
火炎放射器が宇宙では使えない? よろしい、ならば本気で遊んでみよう。
「このジャミトフ容赦せん!」とばかりに、プロパガンダ画像ができなくなるほどの無茶をやりました。

●ラッキー・ボーイズ
 見習いであるキースとバーニィは、ジムカスタムの納入時に事故を起こした。
マグネット・コーィングで敏感だったせいもあるのだが……。
その時にモーラやクリスと仲良くなったとか。
コウもカレンつ付き合ったので以降、三人は最初の出撃で彼女をゲットしたラッキーの象徴。

●今週のメカ
ハーキュリーズ級三番艦『アキレ-ス』
 このクラスの中では唯一、外部砲塔を持たない。
大型ブースターまたは、大気圏突入ユニットのどちらかを装備する。
ドゴスギア並みの大きさだが、機動母艦であり戦場を掛け回れるのが特徴。
なお無数の対空銃座と、戦術管制を兼ねてオペ娘が二十人くらい居る。
ハーキュリーズ級にしては搭載量が少ないので、ほとんど二機に一人のオペ娘が付く。

『第五種兵装』
 以前、使う事はないと言ったな? あれは嘘だ!
という訳で、宇宙で使ってみました。
酸化剤と金属腐食性を持つ溶液を射出し、炎で宇宙を彩ります。
コロニー内で使用したら、どうみても虐殺にしかならないので注意しましょう。

『ビルゴガンダム』(仮)
 22mのテスト機のデータをパクリ、無人機に仕立て直した物。
仮称はジャミトフが勝手につけた。
大きさはそのまま重装甲に成り、コロニー付近でのみI・フィールドの子機が稼働する。
AIゆえに戦術面ではあまり役に立たないので、ファランクスを組んで砲撃するのが役目。
しかしながら火炎放射器による10mx十三機による130mの大剣の前に、容赦なく焼失した。
重装甲もI・フィールドも火炎放射器の前には無力だったのである。

MS-15『ギャンEX』
 リファインされたギャンで、一応はビームライフルも使える。
ガルバルディの試作機であるガズR/Lが両脇を固めるので、何気に格好良い。
なお今回は相手が相手なので、ハイドボンブの方が火炎放射器を使うのを躊躇わせるのに有効だったという。

『アプサラスⅣ』
 元はジャブロー強襲用の重モビルアーマーである。
何気に大気圏突入能力を持っているので、間に合わなかったとしても処理できる。
この期を境にギニアス・サハリンの名前は表舞台に復帰し、サハリン家はアイナとシローの子供に受け継がると思われる。

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