ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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サブマリンゲーム

●虚実の交差

 以前に申請しておいたヒマラヤ級空母が来航し、対潜装備を中心に載せ始める。

最新の対潜水艦航空機であるドン・エスカルゴや、その技術を応用したデプロッグD型が中心だ。

 

「これより別命あるまでこの旗艦をネプチューンと呼称。本作戦以降はポセイドンと改める」

 コリニー中将が愛猫のアキレスを連れてこれに乗り込み、インドシナ方面に向けて出港。

シドニー湾付近に隠れている、ジオン潜水艦隊の出口を塞いだ。

 

同時に雌型のガルダも艤装を中断し、対潜装備を中心に搭載。

未完成ではあるが、雌型は母艦機能重視型なので問題ない。

 

「ジャマイカン大尉。潜水艦を焙り出すが、間違っても沈めるなよ?」

「承知しておりますが問題ありません。彼奴らの航跡はこの通り掴んでおります」

 ニヤリと笑ってジャマイカンが取り出したのは、でっちあげた航跡ログだ。

数日後の日付けが入っており、蛇行したり急進を繰り返してハワイに向かっている。

 

「せっかくですので、奴らが誘導した場合はあえて引掛かってみようと思いますが?」

「……判って来たではないか。そうだな、そろそろ独り立ちしてみるのも良いかもしれんな」

 奴らが採ると想定したのは、他の方面に逃げると見せかけ、ハワイ行きを悟られない為の物だ。

当然行うと思われるし、こちらもハワイだと決めつけていると上層部に悟られたくはない。

 

何度か行うだろうが、ワザと引掛かるのは本当に逃げられると困るコースだ。

コリニー中将が向かった西回りとは別に、南東回りで大西洋に抜けられると困る。

ゆえにコレを塞ぐために、あえてそのコースへの偽装のみ引掛かって見せるのだ。

 

「この追撃戦だけではなく、次の銀輪作戦も指揮を任せても良い」

「っ!? 光栄であります! 全身全霊でお受けします!!」

 喜色満面のジャマイカンだが、当然だろう。

 

精鋭部隊の指揮官として采配を振うのは軍人として大いなロマンだ。

加えて失敗しても問題ない上に、万が一問題が起きたら私がフォローできる。

これで喜ぶなという方が嘘であろう。

 

「追い込んでくれさえすれば良い。欲をかいて失望させるなよ?」

「はっ!」

 実のところ、この采配には裏しかない。

 

秘密工作をしたいのも確かだが、ジャマイカンにバスクに負けない発言権を与えるためにも、色々な意味で時間がない。

 

それはそれとして、ジャマイカンは影響を受けやすい男だ。

バスクほどではないが、後期に問題行動を引き起こしている。

こういった機会を設け、今のうちに矯正しておく必要があるだろう。

 

 

「メラニーの周囲で見かけられた人物、か」

 アナハイムの創始者であるメラニー・ヒュー・カーバインは多忙である。

その中で出会う人間は限られるが、裏向きの人材は少ないものだ。

信用が置けないと困るので何度か面会しているとしても、問題なのはその人物がさらに手下を雇うという形式である。

 

そこからさらに下に降ると多岐に渡り過ぎるので、追いかけるのはその下までだ。

メラニーとの対面がそうであるように、相手の人格を理解し、かつ行動の担保を与えねばならない。だからその下までなら意味のある人物だという結論でもあった。

 

「エルランの部下だったと思うが、このジュダックという男が?」

「はい。元居た地方基地の出身者に調べさせましたところ、あまり似ておらぬとの事です」

 言い訳をさせえもらえば、前世の記憶を全て覚えているわけではない。

面識があった時に何となく違和感がある程度で、ガンダム関係者だと思うくらいなのだ。

 

それが記憶と設定が照合できたのは、エルラン少将の部下だという事だけではない。

オーストラリアで行った、偽家族を潜入させる手配を行っていた時の報告の時だ。

似たような容姿の者をそっくり入れ替えていたのだが、同じことをジオンがやっていたらしい。

 

「なるほどな。エルラン少将経由の命令ならば確かにライヤー大佐も請け負うか」

 先にガルダで独断追撃を掛けた件があった。

本部志向のライヤー大佐がやるとは不思議だとは思っていたが、これでようやく繋がった。

 

エルラン少将は戦略予備軍の指揮官の一人であり、参謀格でもある。

ライヤー大佐の上司とも言えるし、他の中将が命令したことを伝えただけの場合でも信憑性が増すともいえた。

 

(エルランはオデッサ戦で中将に任じられたが、裏切っていたはずだ。ジオンとのパイプ役がジュダックだった……と)

 段々と思い出してきたが、メラニーが関わっていても、いなくても整合性が出てくる。

 

マ・クベの依頼でインドシナ戦線からギニアスを見逃し、即座に追撃させてこれを補う。

戦意溢れる判断で、命令系統的にも間違ってはいない。ジオンと繋がっていることを隠しつつ、他の中将がコリニー中将の足を引っ張れといった場合は恩すら売れる。

 

単にマ・クベとのつながりが今の時点であっただけ。

そんな可能性も出てくるのだが、それとは別にやはりメラニーの関与だと思わしき部分も同時にあった。

 

「敵の母艦はアラビア半島まで下がったのか?」

「戦力を立て直すためか、あるいは再編成して遊撃隊となる可能性があります」

 中東に下がったザンジバルはジオンの領域を斜めに横切り、前線の後ろに当たるアラビア半島に向かった。

最前線で叩かれる危険を避けただけかもしれないが、再編成するならばオデッサやキリマンジャロでも良いはずだ。

 

研究に固執する男が素直に撤退したのも、アプサラスが完成してない事が伺える。

アプサラスにしてもザンジバルにしても、接収されたくないから後方まで下がらなかった可能性が高い。そのまま中東エリアから出ず、せいぜいが請われて援軍を出すくらいだろう。

 

(放置しても良いが、問題はどの程度の完成度かという事だ)

 動かないから放置するとしても、完全放置は問題だ。

かといって証拠もないまま、ジャブローを落とすかもしれない兵器があるなどと口にしたら、そのまま精神病院行だろう。

 

アプサラスに必要なものは、まず高性能融合炉か複数の通常型。

ジオンはまだドムを配備していないか、黒い三連星ほか数チームぐらいか。

ということは現時点で、アプサラスⅢのために融合炉を揃えるのは難しいはず。

 

(メラニーが関与しているとしても、アラビア半島に展開させれば十分だ。ジャブローなどに行かれても困る。余計な資料は渡すまい……)

 融合炉の他にも必要なものがある。

ジャブローの岩盤を貫けるビーム兵器、そして移動用のミノフスキー・クラフト。

贅沢を言わないならば、マルチロック機能と拡散砲は必要ない。

 

(そして必要な物は、全てギニアスの目の前にある。やはりメラニーの仕業か)

 ザンジバルを追いかけているはずの雄型のガルダ。

そこにギニアスが求める全てがある。

 

だが彼の戦力では正面から戦うことは難しい。

撃沈するだけならまだしも、残骸から参考になるだけのパーツを奪う必要があるのだから猶更。

それこそアラビア半島中を掛け回り、手を変え品を変え引きずり回す必要があるだろう。

 

……少なくともガルダが撃沈されるか、アラビア半島のジオンをザンジバルに乗せて移動するまでは安全と思われた。

奪うならばオデッサ戦の前後だが、こればかりは上層部の割り当てになる。

 

「この件は微妙な問題だ。作戦が終了し次第に中将閣下にお目に掛かる。決して口外するなよ」

「はっ!」

 調査を担当していた士官には、上層部同士の政争だと臭わせて黙らせた。

 

エルランの裏切りを再確認し、仲介役のジュダックを思い出しはした。

だが以前に言ったように、陰謀は未然に防いでも利益につながらないのだ。

 

●銀輪作戦

 潜水艦を追って右往左往しながら、作戦は最終段階に入った。

ガルダならば最速で直行すればハワイの防衛圏内に辿り着ける位置だ。

 

油断させる為にガウと同じ程度の速度に留めているが、信じるほど相手も迂闊でもあるまい。

既にスクランブルを掛けてドップが出撃できる態勢だろうし、ハワイが群島である以上は島ごとに、対空砲座もスタンバイしているはず。

 

「これより銀輪作戦を開始する! ネプチューンはポセイドンに名前を変えた」

「繰り返します!  ネプチューンはポセイドンに名前を変えた!」

 暗号文を発行し、ミノフスキー粒子を散布。

今頃はヒマラヤ級を旗艦とする船団がこちらに向かい、各空母からジェットコアブースターが飛び立つ準備をしている。

 

とはいえこちらは手持ちの護衛と搭載している部隊だけが精々。

普通に攻め立てたのでは、普通に戦っても苦労する群島要塞を攻略はできまい。

 

だがジオンの事情とハワイ基地の歪さがこの苦労を半減する。

後期に攻略された場所の一つであり、修復にあたる人員と資材が限られる。

そして労力の第一は、潜水艦隊の本拠地建設に割かれているということだ。

 

「銀輪部隊、出撃!」

 加えて攻撃隊に工夫があった。

ジャマイカンが特務を発進させることで状況は一変する。

 

銀輪という言葉は、かつての日本軍の装備から取っている。

難攻不落のシンガポール要塞を、旧日本軍は自転車を使って攻略した。

自転車で回り込み、要塞砲の死角を一気に突いたのである。

 

「こちらリチャード・ハイマン。スフィンクス、出ます」

「こちらエイガー・エイム。グリフォン、出ます」

 先行するジェットコアブースターに続いて、出たのは二機の大型機。

デプロッグとは明らかに違う、その雄姿は魔獣の名前に相応しい。

 

原作とは若干バランスが異なるものの、Gファイターが空を舞った。

 

「マ……。レイヤー大尉、投下しても構いませんか?」

「いつでも構わない。言い難いだろうからどちらでも構わないよ」

 親しく成れば名前を呼ぶものだが、難しい名前の人物もいる。

マスター・P・レイヤーという男のことだが、さすがに主人でもない男性をマスターとは呼べまい。

 

冗談のような会話が終わるころ、Gファイターからガンダムが投下される。

ただし防水やセンサー管理を徹底することで、本家に近くなった陸戦ガンダムではあるが。

しかしこの場合は十分だろう。

 

何せ、ガンダムは水など物ともせずに上陸できる。

そしてガンダムが砲台の一つへ向かった頃、支援するために手近な群島へ降り立つマシンがあった。

 

「グリフォン、セミ・トランスフォーム。砲撃態勢へ」

 二機あるGファイターのうち、エイガー機はガンダムを搭載してない。

原作と違う最大の部分……この試作型はガンタンクを搭載できるのだ。

 

宇宙で使う簡易機体はガンタンクⅡの予定だが、この試作用機はガンタンクを想定。

GファイターのSTOLと、ガンタンクの下半身に備えられたブースターがうなりを上げる。

四足獣めいた姿で着地し、180mmの凶悪なフォルムが群島に設置されたトーチカを睨んだ。

 

 グリフォンが降下した場所は、本来、戦車も軍艦も立ち寄れない小島。

上陸艇に積めるような砲門ではトーチカを叩けないが、180mmなら十分に到達する。

裏口に侵入した大型砲が、いまかいまかと号令を待ちわびていた。

 

「測量開始。いつでも行けます」

「イエスかノーか問い質せ! 降伏するならば南極条約に則ってやるとな!」

 リチャード機が上空から観測を行い、エイガー機にデータを送る。

砲戦が始まりトーチカの砲台を次々に叩くと、狙いにくい場所へはレイヤーのガンダムが裏手より上陸した。

 

こうして群島の一つを落とすと、また別の島へと移動。

D型からA型やB型へ換装したデプロッグが、死角の増えた群島上空を移動し始めた。

本島であるオアフ島へ向かう頃には、コリニー中将の本隊が到着しているだろう。

北京で編成中の攻略部隊がいつになるか分からないが、そのころには防空網に大きな穴が空いているに違いない。

 

「閣下。お喜びください。オデッサ戦に向けて朗報が入りました」

 コリニー中将を出迎えつつ、私はエルランの件を報告する。

 

さて、奴が動かさないことになっている配置上の穴を突くべきか。

それとも奴を脅して味方につけるべきか。実に悩ましい問題だった。




 という訳でハワイが攻略されました。

メラニーさんとギニアスくんの行動を予想しつつ、エルランの尻尾を掴みます。
まあ転生者ならエルラン・ジュダック組のことを覚えてるだろ? とか色々ありますが、都合よく覚えているとは思えない事と、覚えていても面白くないのでこうしています。
同時にメラニーさんの行動が確定しても面白くないので、微妙に判らないけど非常に怪しくしております。

●アプサラスの完成度とガルダ雄型
 V作戦が一カ月早まったことで、もろもろの予定が前倒し。
ギニアスくんはアプサラスⅡができているか怪しいところで、仕方なく後退。
現在はアラビア半島で再起を図りつつ、現地企業のガーベイ・エンタープライズが大変な目にあっている状況です。生き残ったらジオンに協力したからだろうと言われる予定。

 本文でも述べていますが、以下の三つが必要。
1:高性能融合炉か、融合炉複数。
2:長射程ビーム兵器の参考モデル
3:ミノフスキー・クラフトの参考モデル

これらが揃ったら完成すると思いますが……。
なんということでしょう、ライヤー大佐の乗っている雄型ガルダには揃っていますね。
手に入れて参考にするためには、アラビア半島を火の海にして四方八方から攻め立てる必要があるでしょう。
もちろんメラニーさんは別途で用意できますが、関与していたとしても絶対に渡しません。

●対エルラン
 設定としてレビルの参謀であり、部隊を預かる将軍。
微妙な矛盾が出るので、戦略予備軍の将軍であり、参謀としても行動できる……としておきます。

 彼が裏切ることは思い出しましたし、そうと分かれば怪しい行動を繋げて証拠もでっちあげられます。
しかしそれを取り締まっても、コリニー陣営には何の利益にもなりませんので悩み中。

●今回の装備

1:ドン・エスカルゴ
 最新式の対潜爆撃機。
ミノフスキー影響下でも使える高性能なセンサーと、爆雷を投下する機能がある。

2:デプロッグD型
 ドン・エスカルゴに使用された装備を使って、対潜性能を向上させたもの。
お高い装備であるが、対潜装備から通常装備へと換装できるので採用された。
ガルダの中で順次換装が行われ、ハワイ沖に到着したころにはA型やB型になっている。

3:試作型Gファイター(読者的にはGディフェンサー)
 ガンダムを搭載、あるいは合体して戦闘が可能。
宇宙用のGファイターにはガンタンクⅡの上半身だけ合体の予定だが、試作品なのでそのままガンタンクも搭載できる。
前部分はセンサーや測距装置、後部分は砲門やSTOL噴射機として機能する。

ガンタンクが合体する場合、下半身の戦車は本家Gファイターのキャタピラ部分を構成する。
この簡易変形を行うために、むしろGディフェンサーのような形状をしている。

リチャード機は普通にガンダムを搭載、エイガー機は砲撃戦のために半変形した。

4:ガンダム(陸戦ガンダム水密仕様)
 陸戦ガンダムを改修して、ちょっとだけ本家に近い物になった。
といっても水中に入っても水漏れしないとか、センサーが多少良い物になっている程度。

5:ヒマラヤ級空母『ネプチューン』 → 『ポセイドン』
 ガルダが先行して潜水艦隊を追いかけていましたが……。
ハワイに本拠地があったので、インドシナに向かっていたこの船がそのまま艦隊旗艦を務めました。
到着したころには砲台が減っているため、楽勝したので活躍はしていません。
一番の功績は、北京に居るハワイ攻略部隊の残り半分に連絡したこと。

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