ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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プロメテウスの火

●地球に窮地がやって来る

 ディスプレイにはユーラシア大陸の地図、赤と青の凸印。

赤い凸がアラビアやモスクワに後退すると、青い方もそれを追って移動する。

 

南はイラン・イラクで、北はロシア。

西側はイタリア半島の北側で、赤と青の凸が睨み合っていた。

 

「遅まきながら敵は兵力分散の愚に気が付いたようです」

「まだまだ広いな。オデッサ作戦が始まる前にはもう少し狭めるか」

 最終的にはオデッサからキリマンジャロまでのラインを守るだろう。

連邦の反攻が始まった以上は、兵力に劣るジオンに全てを守る余裕はないのだ。

 

敵将の頭が回るならば、敗北を予期して色々準備してる頃だろう。

 

「判らんな。連中はこんな所を落として何がしたかったのか」

「確かに採りつくされ、大した埋蔵量は見込めません。ですが、こんな話をご存じでしょうか?」

 オデッサ近郊はこの時代には掘る意義が見えない場所なのだ。

東欧は冷戦時代のベールが剥がれると、大した工業力がないことが判明している。

 

そのくらいならばオーストラリア、そしてアフリカ全てを狙う方がマシだろう。

ただし、それは連邦から見ての視点である。

 

「極東のとある紛争で古い鉱山周辺を攻略しました。鉱山からは技術の未熟な時代のカスから、大量の金が採れたそうですよ。もっとも近隣にある港町の方が重要だったそうですが」

「この場合は希少金属や希土類か。確かに鉄など宇宙にはいくらでも転がっておるからな」

 もう一枚地図を出したが、これは戦国時代の甲斐から駿河にかけての侵攻路だ。

 

地球の企業にとっては、今さら掘り返す価値がないからやらなかっただけで、ジオンには必須。

また冷戦当時の技術や機械では効率が悪かった場所も、モビルスーツやソレを作れる技術があれば多少は他の鉱石も採れるだろう。

武田が集めた最新の精錬法で今川の金山を掘り返したのと似ている。駿河湾が希少金属に対応するだろう。

 

一周回って、何もないはずのオデッサは、重要な地域でありながら攻略し易い場所になったのである。

 

「同じように大国ロシアは港を欲しました。どこにでもあるような港であろうとも、凍らない港は必須でしたので」

 次に表示するのは帝政ロシアの地図で、執拗に港町を狙う姿を矢印で描いた。

甲斐は山国ゆえに港町は貴重なのだが、同じことが北国のロシアが不凍港を探した話にも通ずる。

 

「オデッサがジオンにとって生命線であることは判った。で、今後はどうなる?」

「既に連邦が有利……少なくとも勝ちつつあります。つまりここからは、戦後を見据えて動く必要があります」

 地図を消してコリニー中将ではなく、ジャマイカン達の方を向いた。

そこには参謀団も中級将校も居る。共通するのはコリニー閥に所属している者で、後ろ暗い話をしても問題ない者ばかりだ。

 

「詰め将棋を誤らない限りは、連邦の勝利は揺るがないでしょう。軍においては綱紀を引き締め、市民においては人気を集め、得られる全ての物を取りこぼさない必要があります」

「勝てばよいという訳ではないということか」

「……」

 勝てるならば、市民を巻き込むような戦闘は禁物。

まして山賊まがいの接収など、絶対にやってはならない。

 

「念の為に注意しておきます」

「こちらも監督は怠りません」

 上層部は大丈夫だと思っていても、下の者が勝手に酒場を貸し切って料金を払わないなど良くあることだ。

自分が管理する軍管区ならまだしもツケと言い訳が効くが、これから向かう東欧圏ではそうもいくまい。

下士官たちが増長して、その結果がコリニーの悪評に繋がっては問題だろう。

 

「他愛ない話は置いておいて、今後を見据える話の一環で、これをご覧ください」

「今度は独裁国の地図か? 歴史の授業でもあるまいに」

 冷戦後にあちこちの国で独裁国が誕生した。

一部は冷戦中から存在し、悪評が漏れただけではあるが……。

ソ連の頸木から逃れ、あるいは対抗させようと武器を供給した米国が関与を辞めた結果だとも言われている。

 

「米ソのような核保有国と違い、金のないこれらの国が力を欲した場合。開発していったものがあります。それを踏まえた上で、もう一度ジオン占領地域をご覧ください」

「……っ!? 貧者の核か!!」

 恐ろしいことに、BC兵器を開発したことのある地域は、ジオンの占領下だ。

現物は破棄していたとしても、資料が大量に残されている可能性がある。

 

南極条約違反?

そんな甘いことを信じている人間は此処にはいなかった。

 

「まさかとは思うが……。念のために対策はしておるのだろうな?」

「はい。先日、エージェントを数組中東に送り込みました。コードネームはシンです」

 シンとはメソポタミアの神の一柱で、月と暦を司るらしい。

農耕や牧畜に関わりが深く、生物化学兵器を直接意味しないが間接的なコードネームとしては悪くないのかもしれない。

 

「アフリカ方面軍に送り付けた、ウラヌス・システムの類似品であるラーのコードキーを与えてあります。情報が入り次第に演算するでしょう」

「ならばよい。今の段階ではあくまで可能性に過ぎないのだからな」

 ウラヌス・システムには演算コンピューターとしての一面もある。

アフリカ方面の気候にアジャストさせた、ラーと結びつけば、こちらで心配するよりも情報が得易いだろう。

 

もちろんジャブロー辺りで使う可能性もあるが、研究そのものはアフリカで行う可能性の方が高い。

 

「その件はいったん置いておこう。エルランの裏切りはどう処理する?」

「考慮の余地は二つです。泳がせておいてジオンの裏をかく。もう一つは脅しつけて強引に味方とします」

 エルラン少将は戦略予備軍の指揮官であるため、レビルに従って一軍を率いるだろう。

それが両翼なのか遊撃隊なのかは別にして、消極的に動かないという裏取引が最も可能性が高い。

 

何しろ連邦が有利なのは揺るがない。

寝返るはずはないし、手心を加えつつ、レビルの本隊に攻撃を集中させることで統帥権を揺さぶらせるくらいだろう。

 

「理想を言えば味方にはしたいな。奴が出世すれば二票分の確保は大きい」

「ですが裏切っている者が味方し続けてくれますでしょうか? 最悪、ジオンの方から暴露するかと」

「ハニートラップの類というものはな。最初から上層部に周知しておけば良いのだ」

 コリニーの要求に首を傾げる者が出たが、ジャミトフはつまらなさそうに切り捨てた。

最初から上層部に周知して、渡しても良い情報や行っても影響ない行動のみを採る。

 

いわばダブルスパイになると、上層部に告白・提案すれば良いのである。

現段階では遅いように見えるが、コリニーが以前から聞いていたと口添えすればよい。

 

「とはいえその場合の影響度は軍内政治に限られます。ここはオデッサ戦でも閣下が活躍して、レビル将軍の後を継がれた方が良いのでは?」

「それが建設的だろうな。エルランが動かないことを前提にしているならば、そこが穴になっているはずだ」

 コリニー軍がどこかの方面を任されて動けないとしても……。

快速部隊を幾つか手元に残すのは難しくない。

 

エルランが動かず、ジオンが手薄にしていると分かった段階で動けばよいのだ。

後は適当なところで手を打ち、エルランの裏切りを突き止めたことにすれば良い。

 

「エルラン少将次第なところもあります。様子を見てどちらが良いか判断されては?」

「優先順位を付けた上でなら様子見でも問題はないでしょう。オデッサを確実に落とすだけでも中将はまた一歩階段を登られます」

「それが十三階段ではないことを祈るのみだがな」

 オデッサ戦はもはや消化試合だ。

しかし、先ほどのBC兵器疑惑がある。気が付いたら巻き込まれて死ぬなど願い下げであろう。

 

「安心するためにはアフリカを攻略する必要があるでしょうな。宇宙と二者択一になりますが」

「宇宙はジオンの本拠地だ。BC兵器の可能性を上層部に提出して、ワシがアフリカに当たるとしよう」

 そんなことを言いながら、ジャミトフとコリニーは笑い合った。

 

この場のエルランやジオンの秘密兵器のことなど既に相談済みだ。

だから鉱山のような呑気な話をしたし、BC兵器かもしれないといった詳細を聞いて驚いて見せただけのことだ。

 

地上でアフリカとアメリカを制圧する功績と、宇宙でソロモンやア・バオア・クーを制圧する功績。

どちらも同じであれば、敵のホームグラウンドにある危険な罠を避けるべきだ。

ソーラー・システムのことを聞いていたので、ジオンにも同様の物があるかもしれないなどと想像するのは容易かった。

 

(やれやれ。何とか誘導できたか。アスタロスの件を思い出すのが遅れていたらと思うとゾっとする)

 忘れていたことや、そもそもあのゲームを前世でプレイしていない。

マスター・P・レイヤーを配下に収めた時は、オーストラリア出身だったかと思うくらいだ。ジュダックのことで安易な決めつけは問題と考え、色々関連付けて思い出さねばスルーしていた可能性は高い。

 

……原作ではオーストラリアに持ち込まれた兵器である。

既に平定してしまい、残るジオンの地はアフリカと北米。これに対処する手段を残すために、ジャミトフはコリニーを地上に誘導したのであった。

 

●大いなる炎

 そしてオデッサ戦が連邦の勝利で終了するだろう。

だが最初にして最大の花火がまだ残っている。

 

「こちらリチャード。スフィンクスは予定通りに上昇中。『ガイアの護り作戦』開始いたします」

 急上昇を掛けるGファイター。

いや、内部にモビルスーツを格納している以上はGアーマーと呼ぶべきだろう。

 

スフィンクス・グリフォンと呼称される試作機の内、この機体は格納形態の研究用だった。

もう一機が合体・変形の研究機であるのに対し、よりスムーズな分離と特務装備に充てられている。

 

「やれ。核など必要ない。我々の志こそがプロメテウスの火なのだ」

 我々が奮闘する意味は何だ? 世の為、人の為?

いいや違う。自らが持つ克己心、好奇心、あるいは自己満足のために戦っている!

 

「切り離してくれリチャード!」

「ガイアの護り、発動!」

 スフィンクスからガンダムが切り離される。

 

打ち上げロケットをシンプルに追えないならば、合体して追えばいい。

ジオンの放った水爆をGアーマーに搭載されたガンダムが追いかける。

緊急発進用の装備を付けたガンダムは、分離後即座に急加速を掛けた。

 

「我々一人一人は小さな火でも、合わされば大いなる炎になるであろう!」

「我々が持つ火、我々の心で燃える大いなる炎のために!」

 そしてガンダムは水爆を食い止めた。

専用装備で打ち上げられ、予め調べてあった場所を切り裂くのだ、原作のようなニュータイプは必要ない。

 

 

 こうしてオデッサ戦は終了した。

エルランの裏切りもその計画も看破し、快速部隊も編制してある。

これ以上語る必要もないだろう。

 

「あっさりと上層も信じたな」

「何パターンか考えて提出しましたが、こちらの予測通りでしたからな」

 かくしてジオンの卑劣な策謀に対処したコリニーは、改めて地球方面を任された。

 

「本当に存在しているかは分からんが、何、可能性だけでも発見できれば良いのだ」

「ですな。……これより目標施設を『バベルの塔』と呼称。存在すると仮定して調査・追跡を行います」

 地球を滅ぼす危険性を説明しておいて、対処したという事にする。

コリニーの楽観に内心で苦笑しながらも、ジャミトフは頷いておいた。




 という訳でオデッサ戦が終了しました。
戦っている様には見えませんが、まあ原作通りなので仕方ないところですね。
アムロが居ない分は、エルラン(とマ・クベ)をマークしておけば良いので。

●『プロメテウスの火』
 このストーリーではティターンズではなく、プロメテウスになるんじゃないでしょうか。
保守層の集まりではなく、むしろ革新的・野心的なエリート集団。表向きは地球を滅ぼそうとする危険に対処する集団です。
全ては、大いなる炎のために。

●シン
 今回編成されたエージェント集団です。
月と暦を司る神様がモデル。ガルダやネプチューンに搭載されたウラヌス・システムと同様で、アフリカ仕様の演算コンピューター『ラー』を使う権限があります。
端末である『メジェドの眼』を持っているのが特徴。

●今回のメカ
・Gファイター試作型
 二機ある大型試作機ですが、Gアーマー形態こそが真価です。
グリフィンは前回のようなセミ・トランスフォームやハーフ・トランスフォームなどの、複数の可変機構実験機。
スフィンクスは合体・分離をスムーズに行い、その都度、必要な装備を付ける実験機。

前者を元に簡易変形や、そもそも分離しない宇宙用のガンタンクⅡ・MAが作られる予定。
後者の方が計画の本命で、高性能な輸送機・支援機と、高性能な機体+特務パーツを増やしていく予定。

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