ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】 作:ノイラーテム
●軍にて朝三暮四は、同じでは非ざる
状況が進行し、地上ではキリマンジャロが陥落。
宇宙でもソロモンが陥落したが、かなりボロボロらしい。
「こちらに比べて宇宙は大変なようだな」
「仕方ありますまい。兵力差で有利でも地形を無視してはどうもなりません」
なんというか、宇宙はゲリラ戦も奇襲もやり易い場所である。
戦争で暗礁区域が広がっているなどザラだ。宙図では何もない場所に障害物がある場所も数多く存在した。それなのに移動は地上よりもやり易く、射程で勝っていても油断できないことが多い。
そう、すべては移動力と射程のなせる
シミュレーション・ゲームをやったことのある人間であれば、この二つがあれば多少の性能や数を覆せるのを知っているだろう。
宇宙ではジオンがそれを活かし、連邦が有効に使えなかった。
ましてジオンには、それを最大限に生かせる人材が揃っているのだ。
戦力こそ原作よりも有利だが、ジオンのパトロール艦隊や機動艦隊は減っていない。
地上で有利だからと戦線を進めては、不利になって当然と言えた。
「まあそれも仕方ないでしょう。チェンバロ作戦の本質はジオンの圧迫にあります」
「すべては予定通りという訳か」
コリニー中将と共に悪い笑顔を浮かべて笑い合う。
一連の流れはある程度、織り込み済みだったのだ。
多少の危険は覚悟してジオンの重要基地攻略を行うことで、相手の行動を守勢に回らせ、二度と攻勢は起こさせない。
その為に戦力は振り分けていたし、地上も宇宙もそれぞれに切り札を用意していたはずなのだ。
「まさかテイアンム中将も、ジオンの宿将が命がけで特攻して来るとは思いもよらなかったでしょう。そこは私も読み違えました」
「我々に良い方向の流れだ。この程度のミスは笑っておけ」
原作と同じ流れになってしまったのは、やはり人材の差だろう。
何が大きいかって、気を配り、任せることのできる大駒が揃ったままなのだ。
人材の差を埋めるはずの切り札であるソーラ・システムが発見されて、犠牲と引き換えに対処されたのが原因だとか。
考えてみれば、アムロとホワイトベースはこの間、ようやくマチルダ隊と合流したばかり。
ゲリラ屋のランバ・ラルや艦隊司令のコンスコンなど、ジオンの将兵が減ってないのだから、まあ見つけられ対処されて当然と言えば当然だ。
とはいえこちらもホワイトベース隊に関して芳しくはない。
助言によって手を回しミデア以外にも追加した物資と戦力は感謝されたものの、残念ながらエージェントはコネを結べなかったとか。残念でならない。
「ともあれ……これで一人脱落か。こちらの戦線では被害が少なかったようだし、また一歩近づいたな」
「はい。手間暇かけた甲斐があったというものです」
前回、作戦の前に基地を一つ落とした。
ワザワザ降下作戦などしたのは、あの基地がキリマンジャロの防衛に重要な役目を持つ場所だったからだ。
戦国時代の城攻めで、『支城』と『付け城』というものがある。
どちらも兵力を配する中間拠点ではあるが、支城は防御用に守り難い場所へ配置し、逆に付け城は攻めるための場所だといえるだろう。
連邦は相手の妨害を受け難くなり、ジオンは妨害され易い状態でキリマンジャロ戦を始めることができた。
加えて降下作戦を知ったことで、対空砲台を重要な場所に集めてしまったのも失策だ。
そんなことをすれば確かに降下などできないが、砲台が減ったならば、正面から攻め潰せばよいのである。
「では、改めて懸案事項を処理しておくとしよう。悪い問題と良い問題の双方をな」
コリニー中将が私室に向かったところで、面倒なことを片付けておく。
あの基地でヤザンが引き起こした、突出問題だ。
これが実に面倒なことに、大きな罰則があると同時に、大きな功績もあったのである。
「まさか……」
「ほぉ……」
驚いたのは入学手続きや面接を済ませたジャマイカンで、笑って見守るのはヤザンだ。
ハッキリいって面倒くさい問題なので、ジャマイカンとしてはお茶を濁して後日決済のつもりだったのだろう。
逆にヤザンにとっては自分が起こした問題が放置されるか、それとも罰せられるか気になっていたのだろう。
厳罰化されたら苦しい立場になるのは自分であろうに、他人事のように興味津々である。
「ヤザン。多少のことなら面倒を見てやるつもりだったが、初っ端からやってくれおったな」
命令不服従など一つ一つは叱責とか、考課にマイナス評定を付ける程度で済ませても良かった。
問題なのはその程度では済まないこと。逆に大事になっていないのだから、適当に済ませておけないかという意見が寄せられていることだ。
敵司令官を降伏させて重要な資料を手に入れたことで、コリニー中将やジャマイカンは温情を掛けるべしと提案している。
本来であれば勲章ものだし、原作でもヤザンというキャラは好きだから、気持ちは判らなくはない。しかしナアナアにはできない理由と、ここで苦心してでも処理しておく理由があった。
「ミノフスキー粒子散布下で連絡できなかったことは大目に見よう。だが……」
普通ならば命令不服従が最も重い問題だ。
しかし、その程度では問題ではないのだと先に言っておく。
「部下が連動してしまう可能性、長距離砲撃が中断されてしまう可能性。……結果として全軍が危険に晒されるのは看過できまい。下手をすると味方ごと敵を撃てという馬鹿も出てくるしな」
問題を軽々に処理できない理由の大半がこれだ。
正直な話、可能性論の人命など別に構わない。参謀教育というのは人間を数値として管理し、動揺しないことが第一歩と言って良い。
この機に、バスクが原作でやった問題を挙げておく。
それこそがやりたかった事だ。精鋭部隊を作るためにアクの強い人材を集め、細かい事を無視しても良いとは思う。
だが、後の敗北につながるような大問題は、今のうちに排除すべきだろう。
「お前たちも覚えておけ。確かに功績を上げれば称賛もするし、多少ならば問題を庇いはしよう。だが味方を撃って得られる功績や、ジオンの様に味方である宇宙市民まで巻き込んでの勝利など許されまい」
ここでも人命ではなく、行動の方を問題視しておく。
功績のプラスとマイナスを相殺して、問題を起こしても評価は別だと告げておくのだ。
「……それで? 大佐殿はどうなさるんですかね?」
「免責を望む声も大きい。特に……お前が確保した中に、我々の求める『バベルの塔』の資料があったからな。喜べ、お前は地球を救ったぞ。両方を今から勘案するとしよう」
「まさか……それほどの……」
ふてぶてしいまでのヤザンだが、むしろジャマイカン達の方が驚いている。
確保した資料は、あくまで『緑化を想定して砂漠で実験がしたい』という程度の物だ。
それそのものはおかしくないが、今が戦争中というのが奇妙だ。
もしアスタロスの件を輪郭だけでも思い出していなかったら、今後追う事も難しかったろう。その意味で、ヤザンは確かに地球を救ったのだ。
「ヤザン・ゲーブルを二階級降格。その後、二階級特進させる。良かったな、お前は新米中尉殿だ」
理由の残り半分は、コレがしたかった。
階級を上げて落とす、あるいは下げて即座に上げる。
戦記物で偶に出てくる解決策の一つだが、異世界モノで知ってから一度は使ってみたかった。
大問題に対する『冴えたやり方』の一つであり、どの程度、上げて落とすかが判断の分かれ目なのだ。
「けっ。士官学校出のボンボンと同じ身分かよ」
「「おお……」」
朝三暮四という言葉があるが、軍の階級においてはそれは当てはまらない。
どちらを先にするかで席次などが大きく変わる。ベン・ウッダーはヤザンよりも席次が上だったが、仮に逆にしていたらヤザンが上になっていただろう。
また考課の上でもこれは大きい。奴の経歴に大きな傷がつくのは当然だし、それ以外にもいろいろ関わる。
ゲームで言えば経験値の必要な度合いが、大尉の直ぐ下か、少尉の直ぐ上かで変化するといった風情だ。この場合は経験値ではなく、功績の勘案に成る。
そして……下士官と士官の差は、尉官と佐官の差よりも歴然としている。
同じ二階級降格でもありえないほどの大問題であり、二階級特進としてもありえないほどの称賛と言えた。
これをモデルケースにするのであれば、味方ごと敵を撃ち、コロニー落としやGガスで勝とうという馬鹿は出ないだろう。
「参考までに聞きたいんですがね。……模範解答を教えてくださいますかね?」
「き、貴様! 大佐殿に温情をもらっておきながら!」
「良い。それほどまでに聞きたいならば、教えてやろう」
楽しそうに尋ねるヤザンだが、周囲は唖然としている。
ジャマイカンが呆れるのを通り越して、怒り出すのも、周囲が沈黙するのも無理はない。
差し引きゼロどころか、マイナス評価。
しかし大問題を起こしながら、少なく抑えてもらえた。場合によっては勲章取り消しの上で、一階級降格・営倉入りもあり得たのだ。
「全ては、ヤザン・ゲーブルという男があれほどの動きをできると説明しきれなかった、お前が悪い。エースの中のエースと知っていれば、部下も遜色劣らぬツワモノならば周りは何も言うまい。その腕と態度に免じて、転属命令を追加してやろう」
「っ!」
査問会ではないので、この場での弁明など答えない。
代わりに答えるのは、どうすれば功績だけをもぎ取れたかだ。
必要なのは名声……いや、理解者であり同等の存在なのだと告げるとヤザンの顔つきが変わった。
「ヤザン・ゲーブル中尉。本日付けで戦技教導隊への隊内転属を命じる! 精々、信頼できる部下と背中を守れる相棒を見つけるのだな」
「はっ! 拝命いたしました!」
一瞬だけ痺れるような様子を見せた後、あっけなくヤザンは直立不動の態勢になった。
しかしそれも僅かな事、ガハハと笑って周囲に抱き着いているではないか。
「大佐殿……。よろしかったのですか?」
「お前もやってみるか? もしギレンを毒殺などしてみろ。墓に勲章を供えてやるぞ。……冗談はさておき、暗礁区域に高速で突入できる部隊は今後必要になる」
部屋に戻るのについてくるジャマイカンに、笑いながらそう例えておく。
毒ガスを使って終戦に持ち込んでも、処刑は免れないと知っておけば、大問題には成るまい。
それとは別にジオンが敗退した後、デブリの飛び交う暗礁区域に敵が逃げ込む可能性はデラーズの例を思い出すまでもない。
それを考えれば、巡回であろうと戦闘であろうと、危険地帯に笑って飛び込める男は必要なのだと説明しておいた。
●地球の脅威に備えて
砂漠にあった、あの基地。
他に森の中でも比較試験を行う予定だという文言。
それらに戦時中ということを踏まえて、これは植物を操る兵器の実験だという推測を付け加え演算機に掛けた。
他にも基地には細々とした資料や応答文、相手部隊の足跡があり……確証ではないが、限りなく黒に近いグレーであろうとのレポートを受け取る。
「見たところ、可能かもしれないがコロニーの中で実験が失敗というところだろうな。何も起きなかったら地球で試そうともせんだろう」
「植物の性質変化……あるいは消失でしょうか?」
ゴクリと唾を飲み込むジャマイカンに適当に答えながら、他の資料や別件についての報告書をめくっていく。やはり気になるのは、アプサラスに関することだ。
「痕跡を見つければ叩き潰すが、可能性論であっても我々が地球を救うという大義を持てるな?」
「はっ。はい! 確かにこれならば、ジオンを叩き潰した後でも、十分に大義が成立します!」
青ざめた表情のジャマイカンだったが、権力を握るための算段に成ると知って表情を変えた。
信じさせるのは民衆でも学者でもなく、軍上層部や政治家どもだ。特にテロリズムの方法と喧伝でき、対処の必要性がずっと続くという点で興奮物であった。
とはいえあくまでこの段階では、予想に過ぎないし上がどう転ぶか分からない。
喫緊の問題として、アプサラスの方に目を向ける。
「それで……。クロトワは戻ってきたのだな?」
「はい。まずはこの資料をご覧ください」
提出された映像は、はっきり言うとキリマンジャロの報告よりも見たかったものだ。
そしてその資料を見たことで、ようやくアプサラスⅡが存在できた謎が氷解する。
そこには大型のブースターを取り付けられた球体が、ガルダに突き刺さって大破した姿が映し出されていた。
「これは……大気圏脱出用のブースターか? 随分と無茶をしたものだ。まさかガルダ程度を狙ったものでもあるまい?」
「はっ。技術部の報告では見過ごせぬ出力があったと……」
言葉を濁されたが、その先は知っている。
ギニアスが目論んだ最終目標は、ジャブローだからだ。
「ハッキリと言え。完成すればどこまでやれる? 北京か、ベルファストか。……それともジャブローの岩盤を貫けると?」
「……信じがたい報告ですが、このまま技術が進めばという前提で、ジャブローを」
脅威が育っていることに舌打ちをしたが、手を挙げて詫びと弁解を辞めさせた。
目の前に居るのは中間報告に訪れた情報部ですらない。
いや、問題があるとしたらギニアスやメラニーだろう。他人に当たっても仕方があるまいか。
「黙っていられるよりも良い。それに……技術部はガルダやペガサスを知っているから判断しただけの可能性もある。早々に辿り着けまい」
「はっ! 油断は禁物ですが、確かに完成は遠いかと」
問題があるとすれば、ギニアスがここまでの無茶をやった以上、人を派遣して参考にするために観察していた可能性がある。
こちらも似たようなことをやったのだ、奴がやってないと考えるのは愚かだろう。
しかし、気に成ることがあった。
(……どうしてギニアスは博打に踏み切った? 完成してないなら無理にアプサラスⅡを動かす必要はないはずだ。まして脱出用のブースターを使ってまで)
考えられる一番分かり易い理由としては、アフリカがいよいよ落ちそうということだ。
オデッサは既に無く、キリマンジャロが陥落すればアメリカと切り離されるどころか、孤立してしまう。
しかしその為に、宇宙を経由するためのブースターを使い捨てては何にもならない。
ブースターがあれば宇宙に逃げることも可能だし、同じ博打をするならばジャブローに未完成のアプサラスをぶつける方が理にかなっている。
メラニーにでも焚きつけられたのか、それともギニアスが追い詰められただけか。
「発進したHLVを落とせるだけの準備を整えておけ。謎の植物実験にしても、新兵器をジャブローにぶつけるにせよ必要になる。こちらに尻尾を振る政治屋どもへの連絡はその後で良い」
「はっ! 発進前、発進後の双方に備えて準備しておきます」
以前に水爆を阻止するために用意したガイアの護り作戦。
あんな感じで、飛び立つHLVを落とせるならば間に合う可能性は高い。
それはそれとして、交渉を持ち掛ける場合でも、いつでも撃ち落とせると脅すのは重要だ。
メラニーに焚きつけられた場合、その事実を見せつければ、条件次第で乗ってくるかもしれないのだから。
交渉しないにしても、座して滅亡を待つのは論外である。
という訳で少しだけ状況が進みました。
キリマンジャロが落ちて中東もカウントダウン。
アスタロスやアプサラスにも王手が……かかっているといいなあ。という状況です。
あとはA君の戦場で見て以来、使ってみたかった昇進後即座に降格。
他にはタイラーあたりで見たような気もしますが、違ったかな。
二階級降格・二階級特進にはあたらないかもしれませんし、人前でやる作業ではありません。
誰であっても、そうした処理を行って処罰は処罰、功績認定は別個で行うとの態度を見せただけです。
ヤザンの態度もその辺を見透かしたうえで、じゃあどうするんだよ大将?
と質問。
ジャミトフさんとしては、スペシャルな部隊をやるから頑張れよといった感じですね。
●チェンバロ作戦に関して
原作からしてかなり無茶ッポイ作戦。
ですがまあ、ジオンを受け身にして連邦が数で押すための作戦なら判らない話ではない。
ちゃんと採算をとるためにソーラー・システムがあるんでは……という感じになってます。(地上は空挺部隊)
それに対してですが、ゲリラ屋であるランバ・ラルが隠れそうな場所に、連邦の方から秘密兵器を隠しそうですよね。コンスコンさんだって生きてれば突撃したでしょうし、そうでないにしても、ドズルがビグザム抜きで戦えるだけの下地を作ったはず。
なので原作よりも戦力多いけど、ジオンは死んでない人+地形も合わせて。ほぼ原作通りに進んでいます。