〜翌日 朝 武偵病院・病室〜
「結局イギリスに帰るのか?」
「えぇ。キンジには昨日のうちにパートナーの件は無しって
私から言い出したのよ。」
面会人用の椅子に座りながら神崎が答える
「...いいのか?」
「えぇ。元々1度きりのコンビだったから。
これ以上キンジを縛るのは武偵憲章に違反しちゃうしね」
「俺からすればそんなルールなんかよりも
自分のパートナーを見つける方が重要だけどな。
まぁお前が決めたんなら俺は止めないよ。」
「・・・不思議ね。零也ならそう言う気がしていたわ。
私達、まだ知り合ってからひと月も経ってないのに」
「前にも似たような事を言ったかもしれないが...
お互いを理解するのに時間はあんまり関係無いって事だな。
その証拠に、俺はなんとなくお前が言いたいことがわかるよ。」
「あら?それは奇遇ね。私も何となく分かるわ。」
「フッ『零也、私のパートナーになってくれない?』だろ?」
「アンタは『俺には既にパートナーがいるから無理』でしょ?」
「「・・・」」
俺達は2人して顔を見合わせて
「・・・ふふっ」
「・・・ははっ」
どちらからともなく笑う
「...でも、良かったわ。案外元気そうで」
「アホな事言うな。こっちは左足が使えなくて杖つきだぞ?
これでよくもまぁ元気そうなんて言えるもんだな。俺は怪我人だよ。」
ベット脇から医者に渡された杖を出す。俺が武偵という事もあり
小型軽量で機能性を優先した杖だ。(禁書の一方通行の杖)
「時速80kmを超える車から沙耶香を抱えながら投げ出されて
怪我が骨折とはいえ左足の骨折だけで済んでるとか何したのよ。」
呆れたようにヤレヤレとため息をつく
「あ?普通に飛んだだけだぞ?」
「知ってるわよ。でもアンタは怪我したのに沙耶香が無傷なのは
凄いわよね。本当に何したのよ?」
「だから普通に飛んだだけだよ。無傷なのは、奇跡だろ?」
「なんだか適当ね。でもいいわよ。零也には常識が通用しなさそうだし」
「俺の扱い酷いなぁ。」
「そう?奴隷扱いの方が酷いと思うけど?」
「それをお前が言うのかよ。」
はぁ。と大きなため息が出る
「あははっ。それもそうね。」
俺のこの姿が面白かったのか神崎が笑う
「笑い事じゃねぇなぁ...」
俺の呟きは誰にも反応されずに消えていった
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荷物をまとめなければいけないらしく
神崎は足早に病室を後にした。
「なぁ、沙耶香。」
「なんでしょう?」
「なんで俺はベットに手錠で繋がれてるわけ?」
「担当医の先生から“絶対安静”と言い含められたので。」
「いや、ごめん。トイレとかどうするわけ?」
「その際は私が付き添います。」
「・・・」
普通は男が付き添うものだと思うんだが。
「零也さんの面倒見は私が任されているんです。大人しくしてください」
「それなら大人しくしてるから手錠は外してくれないか?」
血流が悪くなってるせいで痛いんだがと続ける
「...分かりました。」
仕方なし。と言った感じで沙耶香が外してくれる
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・なぁ沙耶k...」
「零也さん。」
俺が口を開くタイミングで沙耶香も口を開く
なんか最近止められること多いな。
「お、おう。どうした?」
「私が、どれだけ心配したか分かりますか?」
見れば彼女の顔は下を向き、顔色はうかがえない
「......悪かった。」
「謝られても困ります。私は謝って欲しい訳じゃないんです。」
「だろうな。」
「はい。私から謝ろうにも昨日刀奈さんに止められたので出来ません。」
「当然だろ?あれは車をぶつけるって選択肢しか選べなかった
俺のミスなんだからな。お前が気にすることじゃない。」
「はい。昨日の夜にそう言われました。」
「・・・」
「...零也さん、私はどうすればいいですか?
今の私には色々なことが出来ます。2年前のように抱かれる事も
出来ます。零也さんが求めるなら武偵殺しを始末する事も出来ます」
「・・・」
「...零也さん、ご命令を。私に、役割をください」
ここまで言われて俺は初めて彼女をここまで苦しませていた事に気付いた
「......悪かったな。そこまでだとは思ってなかったよ。」
俺は手を伸ばして沙耶香の頭へ置き、出来るだけ優しく撫でてやる
「......え?」
「勉強は出来るけど上手い言葉が出て来なくてな
今は、こうさせてくれ。俺もそうすれば落ち着くしな。
これがお前の今の役割だ。」
「.........はい。」
顔にはまだ不安の色が濃く残っているがとりあえずは落ち着かせる。
この少女は実に優秀だ。
だがどうにも自分1人で抱え込んでしまうのが短所だろう。
そしてこの少女が抱え込み過ぎた時はこうして
優しく丁寧に頭を撫でて人肌の温かさを感じさせてやるのが一番なのだ
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Prrr......!Prrr......!
「んっ?寝ちまってたか。」
ベット脇のテーブルに置かれた携帯が電話の着信を告げる
『電話着信 遠山キンジ』
「キンジから?珍しい事もあるもんだな。」
そう呟きながら『応答』のボタンを押す
『零也、やっと出たな。』
聞こえてくる声は間違いなくキンジの声だったが
俺は何となく違和感を覚えた
「...お前もしかして?」
『あぁ。使える俺だよ。それで零也、突然ですまないんだが
アリアの乗った飛行機の便は分かるか?』
「飛行機の便?30分くらいあれば調べられるが...」
『そうか。分かり次第教えて貰えるか?』
「あぁ。それはいいが...お前はどこにいるんだ?」
『俺は今自転車で空港に向かっているところだ。
アリアを助けるためにね。空港までは後40分って所かな』
「......なるほどね。分かった。絶対に40分以内に調べるよ。
さて、行くかな。っと、流石にバランス取りずらいな」
そこまで言って俺は通話を切る。そして布団を退けて立ち上がる
「......行ってくるぜ」
俺は一通り防弾制服を着てからベット脇で
椅子に座ったまま寝ている沙耶香の頭を撫でてから病室を後にする
カッカッ
「...待ってろよ。」
時間は夕方。神崎の性格上世話になった教師達に
挨拶をしてからしか空港には向かわないだろう。
ガラッ
「......え?」
俺が扉に手をかける前に病室の扉は開いた。
「......何をしているのですか?」
扉の先にいたのは狙撃科所属のレキだった。
「わ、悪いなレキ。俺はやる事があるんだ。」
レキの肩を少し押しながら俺は脇を通る
ガッ
「待ってください。どこへ行くのですか?」
レキが俺の手を掴んで止める
「......」
「言えないんですか?」
レキの目が僅かに細まったように見えた
「......」
「それなら私もついて行きます。」
「...は?」
今レキはなんて言った?
「零也さんが行き先を言えないというのなら
私もついて行きます。そうすれば貴方がどこに行くのかが分かります」
「...空港だよ。」
「空港ですか?」
「あぁ。神崎を助けに行く。」
「...そうですか。」
それだけ言うとレキは俺の手を離す。
「それじゃあそういう事だかr...」
「やはり私もついて行きます。」
「...は?なんで?」
「今の零也さんの状態では神崎さんを救う事が出来ても
帰ってくる事が出来ないでしょう。私が貴方の足代わりになります。
それに私に任されたのは零也さんを呼んでくることです」
そういってレキがスタスタと歩いていく。
「...どういうことだよ?」カッカッ
言うだけ言って歩き始めるレキを追って俺も廊下を進む。
〜数分後 病院・駐車場〜
「はぁ〜い♪」
「アンタかよ!」
俺は停車しているハマーの運転席から降りてきた人物に
膝を着きそうになる心を抑える
「ふふんっお姉さんは自分の幼馴染が怪我させられて
そのまま帰るほど心優しくはないのよん♪」
降りてきたのは昨日、夜這いをしかけてきた少女。
明智家内分家、更識家の当主【更識刀奈】だった
「......」
レキは先程の廊下から何も言わない。
「レキを使って俺を呼んだのはアンタか。悪いが今の俺には
刀奈の悪ふざけに付き合う時間はないぞ?」
「悪ふざけとは失礼ね。せっかく空港まで送って上げようと思ったのに。
行くんでしょ?零也くん。」
「......なんで知ってる?」
「ふふっお姉さんの愛の力ね。といいたいけど...ココよ」
刀奈が自分の首筋に触れる
「...擬態効果のあるシールを使った盗聴かよ。」
指示に従って触れるとシールが貼られていた。
そしてその接着部の中心には小型の盗聴器が着いている。
「そういう事よ。もちろん零也くんと遠山くんの会話も聞いてるし
アリアちゃんが乗る予定の飛行機も調べてあるわよ?さ、早く乗って。」
言い切ると刀奈は運転席に戻る。
「......本当、そこが知れねぇなぁ」
ここまでされては仕方がない。そう諦めて俺はハマーの助手席に座る
「......」
そしてレキも後部座席へ乗り込む。
「それじゃあシートベルトはしてね?途中で遠山くんも拾いましょうか」
レキが乗っても何も言わない事からして刀奈からは予想通りなんだろう
「そうだな。それじゃあ頼むぜ?刀奈。」
「えぇ。任せてくれていいわよ。」
「狙撃はおまかせを。」
俺と刀奈の言葉にレキが続く。
割とこの3人の息は合ってるんじゃないか?
「そうだな。さっさと神崎連れ帰るか。」
「えぇ...!」
「......」
やっぱ息合わないんじゃない?
何とも締まらない感じだが刀奈が
ハマーを発進させた事で俺は気持ちを切り替えた。