緋弾のアリア~裏の明智~   作:魂魄木綿季

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第10話 『零也の取引』

「こんばんわ。楽しんでいますか?」カッカッ

 

 

「貴方は、確か壁を挟んだテーブルの学生さんですね?」

声をかけた女性が俺の制服を見ながら言う

 

 

「ええまぁ。そんなところです。

っと、失礼してもいいですか?杖つきなもので」

 

 

「これは失礼しました。どうぞ、お座り下さい。」

許可を貰った俺は女性の向かい側の席に座る

 

 

「楽しんでいますか?“フロッギー”」

 

 

「えぇまぁそこそこにですがね。“ジャップ”」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

 

「この皮肉が通じるって事はやっぱり本物なんだな?“理子”」

 

 

「レイレイこそ。まさかこんな方法で確認に来るとは

思ってもなかったよ。まぁ、あの水色の女は気付いてたみたいだけど」

俺の言葉に少し笑いながら女性、いや理子は返す

ちなみに“フロッギー”と“ジャップ”はそれぞれフランス人と

日本人への蔑称の一種だ。

 

 

「白々しい嘘はやめとけよ。分っかりやすいアピールしたくせに」

 

 

「へぇ。私が何をしたって言うのさ?」

 

 

「お前はさっき店員に変装して俺達のテーブルに飲み物を持ってきたろ?

あの時の歩き方と立ち方。昨日タラップで会ったCAと同じだったんだ」

 

 

「そう?偶然似ていただけじゃないの?」

 

 

「まだある。さっきの店員がお前だと仮定して、

お前が持ってきた飲み物、ソフトドリンクの“コーラ”があるだろ?

それはそのリュックのサイドポケットのコーラのはずだ。」

俺は理子の脇に置かれたリュックに入ってる空のペットボトルを指指す

 

 

「これは理子が店に入る前に飲んでいたやつだよ?」

 

 

「...この状況でもしらばっくれるのか。」

 

 

「しらばっくれてる訳じゃないよ?違うから否定してるだけ。」

 

 

「...なら最後に証拠品を出そうか?お前の脇に置いてるリュック。

その口を開け。中にこの店の従業員の服が入ってるはずだ。」

 

 

「......はぁ。お手上げだね。流石だよレイレイ

伊達に中等部で“探偵科”を履修したわけじゃないってことか。」

諦めた口振りで理子がリュックの口を開く。

中には俺の予想通り女性店員用の服が入っていた

 

 

「そういう事だ。それに俺の“眼”は本来見逃す事も見つけれる。

だから今度から俺を騙したかったら変装や転装生(チェンジ)じゃなく

存在そのものを偽る術を得てから出直す事だな。」

 

 

「...そうするよ。でも悔しいなぁ、結構自信あったんだけど

流石はレイレイ。“日本の明智”は伊達じゃないってことか。」

 

 

「・・・理子、お前はこれから日本を出るのか?」

ここで俺は初めから聞きたかった質問を口にする

 

 

「まったく。レイレイには一体どこまで“視えてる”の?

・・・そのつもりだよ。一旦フランスに戻る。」

俺に答える気はないと察し理子が答える

 

 

「一旦って事は戻ってくるのか。」

 

 

「まぁね。政府との司法取引をして

“短期の留学”って事にしてもらう予定かな。」

 

 

「...」

 

 

「心配しなくても私は上手く逃げるよ。

まぁレイレイとあの水色の女が相手なら厳しいかもだけど。」

 

 

 

「...そんな心配はしてないが。もし、俺がこの場でお前を見逃す代わりに

条件を1つ飲めって言ったらお前はどうする?」

 

 

「本当に驚いた。レイレイからそんな言葉が出るなんて。条件次第かな」

 

 

「あぁ。俺もそう思うよ。お前が“ある条件の対象”

じゃなければこんな提案はしなかった。」

 

 

「ふーん。それで条件ってなに?」

 

 

「ん?あぁ、それはな――――――することだ。」

 

 

「本当にそれだけでいいの?」

 

 

「これは今回頑張ったアイツへの俺なりの褒美のつもりだからな。」

 

 

「ふーん。レイレイって実は優しいんだね。」

 

 

「実はってなんだ実はって。俺は優しいぞ?」

 

 

「それは女の子を平手打ちする男のセリフじゃないなぁ」

 

 

「...見てたのかよ。」

 

 

「まぁね。キー君達が無事かどうか確認に行こうとしたら

あの埠頭でレイレイがレキュを平手打ちしてたんだもん。驚いたよ」

 

 

「・・・」

 

 

「安心しなよ。これは理子の胸の中に閉まっておく。」

 

 

「...そうか。」

 

 

「うん。あ、そろそろ飛行機の時間だ。理子行くね。」

 

 

「おう。気を付けろよ?それと、また今度な。約束守れよ?」

 

 

「もちろん。リュパンじゃなく1人の女。

峰理子としてその約束は破らないと誓うよ。それじゃ」

バイバイ。と言って理子は席を立ち、リュックを背負って店を後にした。

 

 

「......はぁ。」カッカッ

残された俺はレジでカードの使用が可能かを確認してから席に戻る。

心の隅で、レキに謝らなければと思いながら。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜数時間後 零也達のマンション〜

 

 

 

 

「悪いな武藤。送って貰っちまって。」カッカッ

 

 

「ありがとうございました。」

 

 

「武藤くん、ありがとね♪」

 

 

「構いませんよ。明智には肉奢ってもらいましたし。」

俺、沙耶香、刀奈の順で防弾仕様のNOAHを降りる

 

 

「いや、それは契約だからな。守っただけだ。」

流石に会計で6桁になるとは思わなかったが。と付け加える

 

 

「痛いところ突くなよ。だいたい、高いのばっか頼んだのは

楯無さんだろ?俺達のせいじゃねぇよ。

それより明智は大丈夫なのか?昨日の今日で自宅療養なんてよ」

 

 

「ん?あぁ大丈夫じゃないか?医者も大丈夫って言ってたしな」

横で“えぇ〜私のせいなの〜?”と騒ぐ刀奈はスルーする

 

 

「あれは...どちらかと言えば

病院を抜け出した零也さんに呆れたんだと思いますけど」

苦笑いを浮かべながら沙耶香が続く

 

 

「まぁ確かに入院した翌日に抜け出せばなぁ」

武藤が俺に苦笑いを浮かべながら言う。

 

 

「ほらいつまで喋ってんのよ!さっさと車だしなさい!」

 

 

「っと、キンジの嫁さん候補がお怒りだ。そろそろ帰るわじゃあな」

 

 

「おう。いくら交通量少ないって言っても安全運転で頼むぜ?」

NOAHの中で『風穴!』とか騒いでる神崎はスルーする。

 

 

「任せとけよ。んじゃあおやすみ。」

 

 

「お休み零也。また明日学校でね。」

 

 

「アリア、今日は金曜だから明日は学校休みだぞ?」

 

 

「...ほらキンジ。アンタもなんか言いなさい。」

 

 

「下手な照れ隠しだな。っと、それよりも今日はサンキュな

今度は俺の方でなんか奢るよ。」

暴れだした神崎の頭を抑えながらキンジが顔を出す

 

 

「万年金欠のお前がか?期待しないで待っとくよ。」

 

 

「...言ってろ。」

キンジと拳を合わせる

 

 

「レキも。昨日の影響もあるだろうし疲れたろ?

さっさと帰ってさっさと寝ろよ?」

 

 

「......はい。そうさせてもらいます」

 

 

「おう。んじゃあ武藤。くどい様だがくれぐれも安全運転でな。」

 

 

「あいよ。明智、今日は本当にご馳走さん!」

武藤がアクセルを踏み、緩やかにNOAHが発進する

この後はキンジを下ろしてから女子寮に向かい、“車輌科”に

車を返してから武藤は歩きで帰る気なんだろう。

 

 

ちなみに刀奈はと言うと

「私は今日泊まっていくわね♪」

との事で俺達と同じ場所で降りている。

 

 

「...とりあえず“更識”には刀奈が食った分の食費は請求しなきゃな」

 

 

「...うぇ!?な、なんでよ!」

 

 

「いくら原価がお高い焼肉店といっても

刀奈さん、たった1人で87000円分も注文されれば妥当かと。

元より約束していた武藤さんやキンジさん達はともかく

刀奈さんは勝手に参加してきただけですし。」

刀奈の悲鳴にも似た抗議に沙耶香が淡々と答える

 

 

「そういう事です。しかも量は全然なくてただ単に高い肉を

注文する辺りに刀奈さんの性格が滲み出てますね。」

懐から取り出したレシートを見せる。

 

 

「ひ、酷いわ!そんなのオーボーよ!

せ、せめて料金は私が払うから家(更識)に連絡するのは許して!」

 

 

「そこまで言われると悩まされますね。

でも一体なんで更識に連絡されるのがそんなに嫌なんです?」

 

 

「え、えっと、それは......」

 

 

「...妙に歯切れが悪いですね。」

 

 

「え、えと、ととと、とりあえず家はダメ!」

どうやったのか懐からお札を取りだし、俺の胸へ押し付ける

 

 

「ゴホッ、これでも怪我人なんですけど...」

受け取った金額を確認してから俺は財布にしまう

 

 

 

とりあえず刀奈からは料金をしっかり貰ったし

連絡は無しにしておくか。と思いつつ、沙耶香と刀奈を連れて

マンションの中に入っていく。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜数十分後 女子寮・レキの部屋〜

 

 

 

《レキside》

 

 

零也さん達と食事をしてきた私は先程女子寮の自分の部屋へと帰ってきた

そしてシャワーを浴びた後、普段通り銃を抱えながら座り込む

 

 

「......」

この部屋にはテレビもラジオも置いていない

そのため私自身が音鳴らさない限りはなんの音もせず、

内外限らず防音もある程度効くこの部屋では

基本的に無音です

 

 

 

「......」

普段の私はドラグノフを抱えたこの姿勢のまま座って寝ています

 

 

「......」

ですが普段は目を閉じてすぐに眠れるのですが

今日は何故か目を閉じても眠る事は出来ず

頭の中で2つの出来事が延々とフラッシュバックし続けています

 

 

1つはつい数十分前まで

零也さん達といた焼肉店での食事の風景。

 

 

そしてもう1つは夜の埠頭の風景とその時の出来事。

その出来事が起きたのは昨晩の夜の事だ。

 

 

 

 

 

〜回想〜

 

 

 

「レキ。ちょっと話があるから来てくれ。」カッカッ

キンジさん達の乗る飛行機も無事に着陸し、

警察関係者も退去したあとの埠頭でクラスメイトであり

同じ狙撃科に所属する少年、零也さんが私を呼んだ

 

 

「...分かりました。」

当然断る理由もなかった私はそれに応じ、零也さんについて行きました。

 

 

そしてある程度離れた場所で零也さんは振り返り

 

 

 

パンッ

乾いた音が埠頭に木霊します

私は珍しく自分が何をされたのか分かりませんでした

 

 

「何であんなことをしたんだ!」

認識したのは零也さんの声。零也さんは体を震わせていました

今になって私は零也さんに平手打ちをされたのだと理解しました

 

 

「あんな事、というのが飛行機から飛び降りた事を言うのでしたら

あれが“最善の選択”だったからです。」

 

 

「ッ!」

 

 

パンッ

「ふざけるな!あれで仮に犯人を捕まえられていても

刀奈を俺が待機させていなければお前は死んでいた!」

零也さんが再び平手打ちをします

 

 

「...私程度の命と事件の解決。客観的に見れば優先度は

後者の方が上だと考えます。」

 

 

「違う!人の命を救う事と犯人を捕まえる事は決して天秤には乗らない!

それにお前は“狙撃科”のSランク武偵だ!武偵校にとって必要不可欠な

存在のはずだ!そしてお前は日本の武偵の未来を背負う人間だ!」

 

 

「私はあくまで“1発の銃弾”です。目標に向かって飛ぶだけの銃弾です」

そう。私は“風”が命じるままにするだけの銃弾

 

 

「違う!銃弾が人の言葉を喋るもんか!銃弾は人の形なんてしない!

お前は世界にたった1人しかいない人間だ!」

 

 

「たとえ零也さんがそう捉えていても私の考えは変わりません。

全ては“風”の意志です。そこに私の感情は存在しません。」

 

 

「コノヤロウ......!!!!」

零也さんが拳を振りかぶる

 

 

「貴方が何に怒っているのか、私には理解が出来ません。

私は“風”による指示とその場における最善の選択をしただけです。」

 

 

 

「...レキ、最後に答えろ。」

しばらく経ち、零也さんが再度口を開く

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

「お前に命令を下してる“風”ってのは声か?」

 

 

「はい。」

 

 

「その“風”の指示はそのヘッドホンから聞こえるのか?」

 

 

「正確には違いますが概ねそれで合っています。」

 

 

「...そうか。」カッカッ

そこまで聞ければ充分だ。

と言いながら零也さんは私のヘッドホンを奪い取る

 

 

「......あ、」

 

 

「それならコイツは俺が預かる!お前はもう“風”の指示なんて聞くな!

自分の意思、自分の感情に従え!お前は一人の人間なんだ!」

零也さんが私に対して言う

 

 

「違います。私は1発の銃弾です。」

 

 

「まだ言うか!」

零也さんは今度こそ迷うことなく拳を振り上げ、私の頭に落とす

 

 

「ッ...」

 

 

「とにかく!これはお前にいっぱしの感情があると

俺が判断するまで預かってやる!

お前はせいぜい感情ってモンを勉強しろ!」カッカッ

怒りを隠すことも無く彼は杖をつきながらその場を後にした

 

 

 

〜回想終了〜

 

 

 

 

「......分かりません。私は、どうすれば良かったのでしょうか」

レキは何一つ音のしない自分の部屋で静かに呟く。

 

 

 

「......風の音も声も聞こえません」

普段日常的に装着しているヘッドホンは今、私の首元には無く

“風”の声も聞こえません。

 

 

 

「...分かりません。零也さんが何故怒ったのか理解ができません。」

 

 

 

「...分かりません。私はなぜ胸に穴が空いたような感覚を

覚えているのでしょうか。私には、感情などないはずなのに......」

 

 

 

思い出されるのは全て零也さんの言葉。

『違う!人の命を救う事と犯人を捕まえる事は決して天秤には乗らない!』

 

 

 

『それならコイツは俺が預かる!お前はもう“風”の指示なんて聞くな!

自分の意思、自分の感情に従え!お前は一人の人間なんだ!』

 

 

 

『お前はせいぜい感情ってモンを勉強しろ!』

 

 

 

「...分かりません。私は、どうすればいいのでしょうか」

この日、レキは生まれて初めてドラグノフを抱えずに膝を抱えて眠った。

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