モンストの鬼滅コラボが忙しかったんです!()
冨岡さんが最後まで出なかったので、結局90連回す羽目になりました。そんなだから皆に(以下略)
「あー、やっぱお前らそうだったんだな。まあ、俺はかなり前から派手に気づいてたがな」
濃い湯気が立ち込める温泉の隅の方、ド派手に生きるが信条の『音柱』宇随天元にしてはやや地味目な位置取りから、茶化すかのような口調で驚愕する紫電と真菰を交互に眺める。
紫電は両眼をこれでもかと言うほど見開き、真菰は胸を隠すように両腕で身体をかき抱いた。
「音柱てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「あん?」
我に返った紫電が修羅の形相で宇随を睨みつける。
「美人くノ一三人も侍らせるだけじゃ飽き足らずッ!真菰ちゃんの裸まで覗きに来たのかこのスケベ柱ぁぁぁぁ!!!」
「し、紫電……?スケベ柱は不死川さんだよ?」
「いや、先に温泉に入ってたのは俺だぞ?普通気づくだろ」
確かに。宇随は既に肩まで温泉に浸かっていたし、元忍である彼にかかれば気配を消すことなど容易いことだ。大方、紫電と真菰の成り行きをこっそりと見守り、頃合いを図って茶かそうとでも考えていたのだろう。と、真菰は冷静に分析する。
幾分か落ち着きを取り戻した真菰だったが──────。
「そもそもなぁ、そこの狐娘の貧相な身体なんて興味ねぇよ」
「は?」
「なんって失礼なこと言うんだ!!最低だよ謝ってください!!真菰ちゃんに謝れ!!!」
「宇随さん?今私、聞き捨てならないことを聞いた気が────」
「確かに真菰ちゃんは慎ましやかな方だけど、何も大きさだけが全てじゃないでしょうに!!」
「ちょっと紫電?紫電までそんな風に─────」
温泉の熱に当てられたのか、黙っていればいいのに、紫電はせっせと墓穴を掘り進めて行く。
「女性の魅力は胸の大きさで決まるものじゃないでしょう!?真菰ちゃんは胸が大きくなくったって素敵な女性だよ!!儚げで慎ましやか……これを大和撫子と言わずして何と言うんですか!?おまけに可愛くて優しい!完璧でしょうが!!胸が小さくったって!」
「……………」
「おい、桑島。そこら辺にしとけ。俺が悪かったから」
真菰の重い沈黙と宇随の忠告に気づけず、
「そりゃあ宇随さんは三人もお嫁さんがいて、皆出るところは出てるから、胸の小さい女性は物足りないかもしれないですけど」
「……………」
「桑島、おい桑島。聞こえてんのか?」
真菰の暗い笑みから溢れ出すどす黒い波動にも気づけず、尚もその口が閉じる事はなく、
「真菰ちゃんは胸が小さくったって、宇随さんのお嫁さん達に負けないくらい…………いや、世界中の誰よりも素敵な女性ですッ!!たとえ、胸が小さくてもッッ!!!!」
「……………あははっ」
「ああそうだった、コイツは派手に馬鹿だったわ」
雄弁に語った紫電は宇随を指さし高らかに言い放つ。
「真菰ちゃんに失礼なこと言った宇随さんは今すぐに謝ってください!!!ねっ、真菰ちゃん!!」
「…………ねっ」
「ねっ?宇随さんどうしてやろう?本当、失礼なこと言うよねぇ」
「ね……────『捻れ渦』ッッッ!!!!」
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあどうしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
拾ある水の呼吸、その陸ノ型『捻れ渦』。
身体を捻り、その爆発的な力を回転に乗せて巨大な渦のような斬撃を周囲に放つ技。濡れて重みを増した手拭いを刀代わりに、水中でこそ威力を発揮するその回転斬りで紫電を吹き飛ばす。空高く舞い上がった紫電は宇随の隣に落下し、ド派手な水柱を打ち上げた。
「紫電のばかぁ!!!もう謝っても許してあげないんだからね!!」
水飛沫によって視界が遮られた一瞬の隙に『水流飛沫』で温泉から出ていった真菰。さすが水の呼吸最速の剣士。結果、二人の男性と混浴してしまったが、その身体を晒すことはなかった。
「げほっごほっ……。うぅ……俺は真菰ちゃんのフォローをしたのに……」
「お前、あれでフォローした気になってんの?馬鹿じゃねぇの?」
「胸が小さい」の一言が無ければ口説き文句にでもなっていただろうが、紫電は未だに虎の尾を踏んずけた事に気づいていないし、龍の逆鱗に触れたことに気づいていない。真菰に一番言ってはいけないことを言ってしまったのだが、やはり紫電は気づいていない。馬鹿だ。
宇随は一等大きな溜息を吐き出すと、濡れた前髪を掻き上げる。悔しいが物凄い美丈夫だ。
「……で?どこまで進んでんのよ?」
「へ?」
唐突に宇随が聞いてくるものだから、紫電は間の抜けた声を上げた。
「へ?じゃねぇよ。あの狐娘だよ。一緒に温泉入る仲なんだろ?」
「えっと……まあ、そうなるんですかね………?」
「ってことはもう恋仲くらいにはなってんのか。で?結婚とかしねぇの?お前ら、もういい年頃だろ」
「いやいや、結婚だなんて宇随さん。俺と真菰ちゃんはお付き合いすらしてないですから」
「は?」
「え?」
宇随は真顔で聞き返した。
「恋仲でもないのに一緒に温泉入ってたのか?」
「真菰ちゃんが親しい友人同士なら普通だって言うから……あっ、俺は宇随さんと違ってやましいこと考えたりはしてないですからね!?そこんとこ、勘違いしないでくださいよ!?」
「人を色魔みたく言うんじゃねぇよ、ボケが」
今の会話で紫電が恋愛方面への理解度が皆無だということを再認識した宇随は、まるで好意に気づいてくれない紫電に懸想している真菰を不憫に思った。
(こりゃぁ重症だわ)
恐らく紫電も真菰のことを好いているはず。他人の好意にも自分の好意にも鈍くて無自覚すぎる。
あれほど真菰を大切に思っていながら、あれほど熱い言葉を投げ掛けておきながら、恋仲ですらないなんて────。
(……ほんと、狐娘が可哀想だな)
再度、真菰を不憫に思った。
「にしても宇随さん、居たんなら言ってくださいよ。割と恥ずかしいこと言った気がするんですが……」
「ド派手なタイミングで登場したかったんだがな。お前らが地味に良い雰囲気だったから、しくじった」
悪戯を思いついた子供のような笑みを零す宇随。
「俺が真菰ちゃんを守るから……ってか。さすが、『鳴柱』様は言うことが違ぇわ」
「ほんと良い性格してますよね宇随さん……」
「だろ?もっと褒め称えろ!ド派手にな!」
何かと宇随からよくイジられる紫電。久しぶりに可愛げのある後輩が出来て嬉しいのだろう。宇随より若い『柱』の面々はあまりにも個性的すぎるし我が強いので、可愛がろうにも可愛がれない。(不死川とか伊黒とか冨岡とか)彼らに比べて紫電は常識人だし、基本誰にでも愛想がいい。宇随の使う呼吸が雷の呼吸から派生したものという事も手伝っているのだろう。よく飯に誘われる。
「ところでよ、お前、狐娘に鬼殺隊やめろって言ってたな」
「ああ……。そうですね……」
真菰との会話の全てを聞かれていたので仕方ないと割り切り、何処か遠い目で虚空を眺めながら心の内を吐露する。
大切な彼女には、普通の女の子としての幸せを享受して欲しい。素敵な殿方と結ばれて、幸せに包まれながら天寿を全うして欲しい。嘘偽り無い素直な想いを告げ、それを聞いた宇随は、
「馬鹿じゃねぇの。脳味噌爆発してんのか」
「えぇぇぇぇ!?酷くないですか!?」
改めて、紫電の馬鹿さ加減を認識した。
今や紫電と真菰の甘酸っぱい(?)大恋愛は一部の熱狂的な真菰ファンを除き鬼殺隊全体で見守っている状況だ。もちろん宇随もその内の一人で、なんだかんだ言って二人の行く末を案じている。
恋愛方面の大先輩として一言助言を………と思ったが、この恋愛愚鈍者に何を言っても無駄だろう。
だからせめて。
「はぁ………。桑島、お前の馬鹿さには心底呆れた」
「なんか今日の宇随さんすごい辛辣……」
「そんなお前でも分かるように、狐娘を鬼殺隊から引退させる方法を一つ……教えてやる」
言うや、紫電の眼の輝きが増した。
それを見た宇随は口角を持ち上げ、告げる。
「孕ませろ」
「はい?」
この手の話においては経験豊富な宇随だから、きっと紫電が考えつきもしない素晴らしい名案を提案してくれるだろう────そう、思っていたのに。いや、紫電が考えつきもしないというのは合っていたが、これはあまりにも予想外過ぎた。
「えっと、宇随さん?」
「孕ませろ」
「あの……それって」
「孕ませろ」
「だから……」
「孕ませろ」
「……………」
「はら────」
「分かったから!!もう分かったからそれ以上言わないでぇ……!!」
宇随の言わんとしていることを理解した紫電は顔を両手で隠しながらかぶりを振った。
「簡単だろ。サクッとヤって子供こさえりゃ狐娘は引退せざるを得ない」
「あんた馬鹿かぁ!?」
「お前が養えばいいだろ。『柱』なんだし、金には困らねぇだろうが」
「そういう問題じゃないです!!結婚はおろか、お付き合いすらしていない女性にそんな事出来るわけないでしょうが!?!?」
「はぁーーー、冗談だよ冗談。これだからガキはよ」
「宇随さんの場合冗談に聞こえないんですが……」
今度は紫電が呆れる番だった。
けれど、真菰と結婚し、子宝に恵まれ、幸せな日常を謳歌する姿を瞼の裏に映し────思考を止めた。
なれない。幸せには。
できない。真菰を幸せには。
自分では駄目だ。もっと他に相応しい人間がいる筈だ。彼女に相応しい人間は、自分とは違い長生き出来る、生きれる者だ。
そんな紫電の胸中を察したのか、宇随は真っ直ぐに紫電を見つめた。
「お前の自己評価の低さは冨岡に次ぐレベルだと思ってはいたが………まぁいい。あのなぁ桑島。狐娘の幸せをお前が勝手に決めてんじゃねぇよ」
「え………?」
「はっ、後は自分で考えな。あー、出来の悪い後輩のせいでのぼせちまったぜ」
バシャバシャと派手な水飛沫を上げながら、宇随は温泉を出ていってしまった。
一人残された紫電は満天の星空をぼんやりと眺めながら、宇随に言われた事を反芻した。
「……真菰ちゃんにとっての幸せ………か」
少なくとも、自分と一緒にいることではないよな、と。
後ろを向いてしまうあたり、宇随に言われたことをまるで理解していない紫電であった。
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「うぅ〜……ちょっと冷えちゃったよ……」
「………あっ……!」
借りた部屋の布団の上で寝転がっていた真菰は、ようやく温泉から帰ってきた紫電の姿が見えた瞬間、目にも留まらぬ速さで飛び起きた。随分とだらけきり、無防備な姿を晒していたからだ。着崩れていた浴衣を急いで整えると、まるで何事もなかったかのように笑顔を向けた。
「温泉から結構距離あったもんね」
「よく考えればまだ少し夜は肌寒いよねぇ」
言うや、真菰の座っている布団の隣にぴったりとくっつけられて敷かれてある布団の上に座り込む。
風呂上がりの紫電からやけにいい匂いがして、真菰は一瞬だけ眩暈がした。
「……紫電、身体………冷えちゃった?」
それは、ちょっとした出来心だった。
「え?うん………そうだね。ちょっとだけね」
「じゃあ………」
紫電の横にそっと寄り添い、身体を密着させた。
ほんの少しだけでも紫電が自分のことを意識してくれるようにと。
「わ、私が温めてあげよっか……?」
「……………真菰ちゃん」
「なぁに?………きゃっ………!?」
途端、真菰の視界が反転して、紫電の紫色の瞳が真っ直ぐに真菰を捉えていた。背中に感じる柔らかな布団の感触と、紫電の後ろに見える天井から、紫電に押し倒されたのだと気づくのにはそう時間がかからなかった。
「し、紫電……?どうしたの………?」
互いの吐息すら感じられるほどの至近距離。ほんの少しでも顔を動かせば唇が触れ合ってしまいそうだ。おかしいくらいに心臓がどきどきと跳ね上がり、けれど冷静を装って紫電に尋ねる。
「……真菰ちゃんがあんまりにも可愛いから、我慢できなくなった」
「えっ………?んぅ……ふぅ……やっ……紫電………」
唇を塞がれ、抵抗しようとした手首も掴まれて紫電に初めての口付けを奪われる。強引だが、けれどどこまでも優しい口付けに、真菰の胸は否応にも高鳴ってしまう。
「真菰ちゃん、もしかしてこういうこと……期待してたの?」
「はぁ……ふぅ……そ、そんなことないもん……」
「ほんとかな?一緒に温泉入ったり、無防備な姿晒したり……。あのね、俺だって男なんだよ?」
紫電の吸い込まれてしまいそうな瞳の奥底に見え隠れする劣情に、真菰は背中をゾクリと震わせた。
こういうことを期待していなかった────というのは嘘だ。紫電とこうして触れ合ってみたいと思っていたし、その先のことだって。
だけど、その前にどうしても聞いておきたいことがあった。
「紫電……こういうことはっ……好きな人同士ですることでしょ……?」
「真菰ちゃんは俺のこと嫌い?」
「え………っ……その……あの……っ」
「好き」────いざ口にしようとすれば、恥ずかしさからか喉元につっかえて上手く言葉にならない。
おどおどと戸惑う真菰を見おろして、焦らすようにして唇をなぞり、その口角を上げ、妖艶に笑った。普段の優しそうな、清潔さすら漂う様子からは想像もできない顔。
やっとの思いで「好き」と絞り出すと、紫電はふにゃりと笑った。
「じゃあ、一緒だね」
何度も甘い口付けが降ってきて、真菰の理性は焼き切れそうになる。恥ずかしさとか、もうそんな感情は頭の隅に追いやって紫電の全てを受け入れようと、彼の首に腕を回した。また、紫電は妖艶に笑った。
「なるべく優しくするね」
不意に伸ばされた紫電の手が、真菰の着ている浴衣を脱がそうとして──────
「フゥゥゥゥ………げほっごほっ!?肺が痛いよぅ!!」
(まあ、あの紫電だし。そんな間違いが起こるわけないよね……)
────全ては真菰の妄想であった。
布団の上で胡座をかいて、全集中の呼吸の精度を向上させようとする紫電の背中を眺めながら、真菰は大きな溜息を吐き出した。
恋する乙女だもの。妄想の一つや二つ、理想のシチュエーションを思い浮かべたりしたっていいじゃない。
(私……魅力ないのかなぁ…………?)
一緒に温泉に入って。同じ部屋にいて。まるで真菰に興味が無いと言ってるような紫電の態度に、頬を膨らませた。
(いや、でも待って……。さっき紫電、私の胸が小さいって言ってたけど………)
「世界中の誰よりも素敵な女性ですッ!」と確かに言った。
(……ふふふっ、紫電ったら、もう……ほんと、よく分からないなぁ)
彼の心中を察するのは骨が折れる。けれど、そう遠くない内に二人が心を通わせることは、今はまだ知る由もない──────。
実は真菰ちゃん鬼化敵対ルートとか、鬼化味方ルートとか、色々考えてるんですけど、生存ルートも捨て難いんですよねぇ。割と死亡ルートも考えてるので、もしかしたらアンケートをお願いするかもしれません!そんときはご協力お願いします。