大正の空に轟け   作:エミュー

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柱にとって下弦は弱すぎるし上弦は強すぎるし、ちょうどいいくらいの強さの鬼いないかなぁって思います。



弐拾伍話 憎愛

「やー、お待たせ真菰ちゃん。獪岳も」

「………」

「……兄弟子、恨むぞ」

「へ?」

 

暗い笑みを浮かべながら幽鬼の如く佇む真菰の横で、獪岳は紫電を怨嗟の表情で睨みつけた。仮にでも同門の兄弟子……加えて、鬼殺隊最高位の『柱』に向けていいものでは無い。

真菰から逃げるようにして紫電に駆け寄った獪岳は、真菰に聞こえないように耳打ちする。

 

「あんたの女、やべぇよ」

「真菰ちゃんは俺の女じゃないよ」

「あ?あんたら、恋仲じゃねぇの」

「恋仲じゃないよ」

 

有り得ない、とでも言いたげな獪岳の視線は無視して、紫電は真菰の隣へと移動する。

 

「娘さん、みたらし団子喜んでくれたよ〜。また傷が完治したら一緒にお茶でもどうですかって。真菰ちゃんも一緒に行こうよ。同い年だから、きっと共通の話題もある筈だし」

「………あはっ、私は遠慮しておくね」

「えー、そっか。残念」

 

(つーか、それを本人の前で話すか?普通……。娘さんも不憫だな。仮に鱗滝が兄弟子に着いて行ったら修羅場不可避だろ……)

 

凡そ起こりうる最悪の事態を想像しただけで背筋が冷える。

四半刻ほどどす黒い嫉妬の感情を孕んだ笑顔を浮かべる真菰と一緒に居たのだ。獪岳は既に心身ともに限界に近かった。

 

「よっし、それじゃあ合同任務、頑張って行きましょうか!」

 

そもそも、なぜ紫電と真菰と獪岳の三人が一緒にいるのかというと、急遽本部から「十二鬼月の可能性あり」との報告を受け、高難易度の任務を言い渡されたからである。午前中の用事を終わらせた紫電の元に二人が合流した次第だ。

 

「久しぶりだねぇ。真菰ちゃんと一緒だなんて」

「そうだね。ここ最近は単独任務が多かったから」

「実力のある隊士の宿命的なものだよね。獪岳も真菰ちゃんを見習うんだぞ!」

「兄貴面すんな。そもそも鱗滝の剣技は参考にならねぇよ」

「こら獪岳!真菰ちゃんは君より年上なんだからちゃんと『さん』をつけて敬語で話さなきゃダメだろ!」

「だから兄貴面すんなって!」

 

まるで兄弟喧嘩だなぁ、と真菰は頬を緩めた。

獪岳は口調こそ荒いが、紫電の剣技を認めているようだし、案外上手くやっていけるような気がする。慈悟郎お墨付きの実力者であり、紫電の弟弟子なので、実は一緒に任務をこなすのが結構楽しみだった。

 

「ちっ。あの善逸(カス)そっくりの『鳴柱』とか、勘弁してくれよ」

 

大きく息を吐き出し、先行する紫電と真菰の背中を追いかける。

 

街を抜け、一山超えた先の街に辿り着く頃には、既に空は茜色に染まり夜が近づいていた。

 

「俺たちの速力でギリギリ夜までに間に合ったね。今回の人選は大当たりだ」

「獪岳は少し休んでていいよ。私と紫電でお話してくるから」

「いらねぇ気遣いだ。別に疲れてねぇし」

 

口では強がっているものの、鬼殺隊の速力上位二名の背中を必死に追いかけて来たのだ。そこいらの鬼の首を斬るよりもずっと苦労した。正直体力的に厳しいが、紫電を超えると言った手前、彼に情けないところを見せたくなかった。

 

「それじゃあ三人で行こう」

 

夕暮れ、人の往来が少なくなった大通りを抜けると、まさに豪邸と呼ぶに相応しい洋風の屋敷が強烈な存在感を放ちながら佇んでいた。

産屋敷邸もかなりの規模の屋敷だが、こちらも勝るとも劣らない規格外さ。

洋風に親しみの無い三人は呆気に取られ、しばらく巨大な門の前で口をあんぐりと開けて硬直していた。

 

「な、なにこれ……。もしかしてナポレオンとかが住んでるの?」

「いや、兄弟子。エリザベスかもしれねぇぞ」

「パンがないならケーキを食べれば……ってやつ?まあ、俺ならみたらし団子食べるね!」

「それマリー・アントワネットだよ?」

「えくすきゅーずみー!まいねーむいずしでんくわじーま!オジャマシマース」

「ここ日本だよ……?」

 

完全に語彙力を失った紫電。何故かカタコトで喋っている。

こういう時、ツッコミ力に定評がある雷の呼吸使いの獪岳が紫電を罵倒する筈だが、獪岳も獪岳で珍しく目を泳がせて緊張している様子だ。もしかしてまともなの私だけ?と真菰は頭を抱えた。

 

紫電の背丈の三倍はあろうかという巨大な門を潜ると、舶来のスーツに身を包んだ使用人達が通りの両脇に整列していた。紫電達の姿を見るや、全員が頭を下げる。一糸乱れぬ動き。これには軍隊もびっくりだろう。

 

「ようこそおいでなさいました、紫電様。真菰様。獪岳様。産屋敷耀哉様よりお話は伺っております。どうぞ中へ」

「せんきゅーせんきゅー。まいねーむいずしでん。ワタシ、キサツタイ。オニ、コロス」

「紫電、大丈夫?帰ってもいいよ?」

 

鬼との戦闘ではこの上なく頼りになる紫電だが、今回はこれっぽっちも頼りになりそうにない。明らかに人選ミスだなと思ってしまった。

 

「だ、大丈夫だよ真菰ちゃん……」

「あ、紫電が日本に帰ってきた」

「見てた?俺、結構英語喋れるんだ………っ!」

「………案内、お願いします」

 

真菰は紫電を無視することにした。尚もカタコトの英語を披露する紫電と視線が泳いでいる獪岳の首根っこを掴み、強引に引っ張って使用人の後ろをついて行く。大理石が敷き詰められた回廊を抜け、黄金の螺旋階段を上り、燃ゆるような紅の絨毯の上を歩いて、案内されたのは和風の客間。

 

「どうぞこちらへ。この屋敷の主である足利(あしかが)満成(みつなり)様がお待ちです」

 

無駄に大きな襖を開くと、中から騒がしい声が部屋中に響き渡る。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!耀哉殿からの使いはまだかぁぁぁぁああ!?もう夜が来るぞ!?あいつが私を殺しに来る!!急いでくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「落ち着いてください満成様!今しがた鬼殺隊最高戦力が一柱『鳴柱』桑島紫電様がお越しになられましたので!」

 

一目見てわかる高級そうな座布団の上で膝立ちし、隣に控えている使用人の肩を掴んで振り回す青年──足利満成。質のいい和服に身を包み、座っていてもわかる高身長。顔立ちも整っていて、悔しいが宇髄に近い美丈夫なのだが、ぎゃんぎゃんと騒ぎ立てる姿を見るや、三人の視線は段々と冷たいものになっていく。

 

「おおおおおぉ!!紫電殿ぉぉぉ!!噂は聞いているぞ!!紫電を纏いて戦場を駆け回るその姿!雷神と紛うほどの高速剣技はまさに大正の空に轟く稲妻の如しとな!!」

 

その両手を取らんばかりの勢いで近づいた足利が紫電に縋り付く。

 

「頼む紫電殿!!私を守ってくれないだろうか!!」

「近いってば!!いい大人が恥ずかしくないんですか!」

(いや……最近はマシになったけど紫電も似たようなものだったよ……)

 

遠い過去でも眺めるかのような眼差しで、足利を叱責する紫電を見ながら、真菰は大きな息を吐き出した。やはり、まともなのは自分だけのようだ。

 

「あの、足利さん。お伺いしたいことが……」

「────っ!!」

 

真菰が声をかけると、夢幻でも見ているかのような表情で呆然とする足利。真菰は首を傾げた。

 

「なんと愛らしい………」

「え?」

「こんな可愛らしいおなごが鬼殺隊の剣士とは!!是非!是非お名前教えてはくれないだろうか!?」

「えーっと……真菰です」

「真菰殿!いやぁ、なんと愛らしい女性か。まるで御伽噺の中から抜け出してきた妖精のようだ」

「はぁ……?」

「今夜私の部屋で────」

「待って」

 

真菰の手を取ろうとした足利の手首を、紫電が掴み取る。

 

「真菰ちゃんにちょっかい出さないでくれませんか。それよりもまずは鬼の情報を教えてください」

「う、うむ。そうだな」

 

ほんの僅かな怒気を漏らした紫電を中心に、周囲の温度が一気に低くなった錯覚を覚える一同。顔は笑っているが、その目はまるで笑っていない。圧倒的な威圧感を放つ紫電を見て、真菰と獪岳は思わず一歩後ずさった。後から着いてきた隠は「柱怖いまじ怖い……」と涙目でそう零している。

 

足利の手を離した紫電が息を吐き出すと、辺りを覆っていた緊張感が弛緩し、つられるようにして真菰と獪岳も安堵の息を吐き出した。

 

「隠の者から聞いているとは思うが、鬼は一体。女の鬼だ。私に恨みを持つ鬼だ」

「恨み……?」

「ああ。その鬼は……私と関係を持っていた女の成れの果て。ひと月ほど前だったか、別れを告げた後、姿が見えなくなったと思えば、鬼として私の命を狙うようになったのだ」

「はぁ?ひと月だと?」

 

何か引っ掛かるのか、獪岳が口を挟む。

 

「たったのひと月で隊員を二十人以上返り討ちにする程強くなるもんなのか?」

「そうだね。それが鬼の恐ろしさだよ。鬼舞辻無惨が人間に血を与えて鬼が生まれる。与えられる血の量が多ければ多いほど、鬼舞辻の血への適応力が高ければ高いほど強い鬼になるんだ。今回の鬼はその手合いだろうね」

「私達が何年とかけてようやく強くなれるのに、鬼はたったの数日で何倍も強くなる。狡いよね」

「……なるほどな」

 

勉強になった、という表情で納得した獪岳。こういう、自分の成長に対する姿勢は貪欲だし好感が持てる。もっと言葉遣いが優しくなってくれれば可愛げがあるものを。

 

「つーかよ、足利さん、だっけか?あんたが振った女の鬼なんだろ?どんな最低な別れしたら鬼に堕ちるんだよ」

「………、……元より、お互い遊び感覚だったのだ」

「はん。どうせあんた、沢山の女に手ぇ出して遊んでんだろ?自業自得じゃねぇか」

「獪岳」

「はっ、そのツケが回って来たんだろ」

「やめないか、獪岳」

 

事実、隠から足利の前提情報を得ていた紫電は彼の人となりを少しは理解していた。

女遊びに興じていることも。

けれど、どこか表情に影が差した足利を見て、紫電は眉を寄せた。

 

「……彼の言う通りだ。あの女……彩歌(さいか)は私を憎んでいる」

「まあ、問題はそこじゃねぇよな。あんたと鬼の関係なんてぶっちゃけどうでもいい。そいつは何処に居るんだ?」

「…………近くの山の中。私を探して彷徨っているらしい」

「だとよ、兄弟子」

 

獪岳は気怠そうに紫電の方へ首を向けると、紫電は小さく頷く。

 

「情報通りだ。行こう二人とも。鬼狩りの時間だ」

 

窓から差し込む月の光。静寂に支配された長い夜が幕を開ける。

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

「噂通りの最低な女たらしのクソ野郎だったな」

 

背の高い木々が乱立する山の中を疾走する三人。足元を照らすのは淡い月明かりのみ。けれど、明るい平地を走るのと何ら変わりない速度で駆け抜ける三人の実は言わずもがな。

 

「そうだけど……私は何か、今回の鬼と足利さんの間に何かあると思うなぁ」

「はっ、どうせ数いる女の内の一人だろ」

「うーん、そうなんだけど……何だかなぁ」

「女の勘ってやつ?」

「そんな感じ」

「わかんねぇな」

 

どこか通じあっている紫電と真菰。獪岳は理解が及ばなかったので、特に何も言わない。

 

「まあ、足利さんのことは置いておこう。俺たちは鬼を狩る。気を抜かないでね。隊員を二十人以上殺した油断出来ない相手だ」

 

十二鬼月の可能性だってある。下弦程度の鬼なら瞬殺することが可能だが、数字を貰っていない鬼でも下弦以上の実力を持つ鬼もいる。気を抜けばやられるのはこちらだ。

 

「さて、言ってる傍から」

 

鬼の気配を察知した三人は足を止め、前方の闇を見据える。

徐々に近づいてくる鬼の気配。強い殺気。憎しみ。怒りを纏いながら、ソイツは現れた。

 

「憎い……あな憎し……。満成様……どうして………どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!!!」

 

死装束に長い黒髪。美しい顔立ちは怒りと憎しみでぐちゃぐちゃに歪んでいる。長い爪で頬を抉り、怒りで身体を震わせながら、呪詛のように忌々しい声で繰り返す。

 

「私を捨てた……捨てられた……私は……こんなにも……愛していたのに…………!!!」

「……それはそれは、お気の毒さま」

 

雷の呼吸 壱ノ型────

 

────直後、三人は何かに殴られたかのような衝撃をその身に受け、後方へと吹き飛んだ。

 

「なっ────!?」

 

不可視の一撃。咄嗟に受け身を取った紫電と真菰だったが、経験の浅い獪岳はもろに喰らってしまい、地面を数回跳ねながら木の幹に激突。短く息を吐き出した。

 

「憎い……憎い……憎い憎い憎い憎い!!!」

「絶対……ヤバイ奴だよコイツ………」

 

紫電は日輪刀を引き抜くと、警戒心を最大限まで引き上げる。

真菰を庇うようにして構えを取る紫電だったが、真菰がその背中を押し退ける。

 

「真菰ちゃん……?」

「自分の身は自分で守るよ。いつまでも紫電に守られてばっかりの私じゃないからね」

 

温泉でのことを根に持っているのか、悪戯っぽい笑みを浮かべる真菰。こんな時でさえ可愛らしい彼女に、紫電は頬を緩めた。

 

「下弦以上上弦未満って感じかな。おーい獪岳!無事?」

「あたりめぇだろ。こんなんでへばるかよ……!」

「そっか。頼もしいね二人とも」

 

不可視の攻撃を繰り出す悪鬼。苦しい戦いになりそうだと、紫電は苦笑した。

 

 




アンケートのご協力ありがとうございました。
そっか、皆さん幸せがお望みなのですね……。


満成様はお金持ちで顔もいいです。なので女が寄ってくるんですけど、その目当ては大概が金なのです。女に嫌気がさした満成様は彩歌さんと出逢います。そこに真実の愛があったりなかったり。そんな感じ進む予定()

ここから怒涛の急展開になる予定です()
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