大正の空に轟け   作:エミュー

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真菰ちゃんホントに可愛いよね!
皆も書こうね真菰ちゃん!


参話 紫色の雷

「鱗滝の弟子を殺す前に……お前から殺してやる!」

「え」

「死ねぇ!!厄介男!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?嘘でしょなんでぇ!?もしかして怒ってるの!?もしかしなくても怒ってるよねぇぇごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃ!!!!」

「………」

 

────雷の呼吸 肆ノ型『遠雷』

 

先程の数を重視した細く小さい腕ではなく、太く分厚い鋼の様な腕。掴まれたら最後、いとも容易くすり潰されてしまうだろう。

だが、紫電の放った『遠雷』は射程距離のある斬撃だ。その剛腕がこちらに届く前に放射状に広がる紫色の電撃が真っ二つに斬り裂く。まさか斬られるとは思っていなかったであろう手鬼の驚く顔を確認すると、天駆ける稲妻の如き速度で手鬼へと肉薄する。

 

「は、はやい────くそっ!」

 

疾駆する紫電に向けて、手鬼が腕を伸ばす。縦横無尽に、周囲の木々を押し倒し、地面に痛々しい擦過痕を刻みつけながら紫電へと殺到する無数の腕。

それを先程のヘタレ具合とは大きく掛け離れた、静謐さすら漂う落ち着き払った表情で一瞥すると、呼吸を深化させる。

 

紫電までの間合いの空間をよぎり飛来する数多の腕を斬り捌きながら前進すると、一度刀を鞘に納めて跳躍。大木の枝に着地すると同時に再び跳躍。蹴り飛ばされた枝が悲鳴を上げてへし折れた。

 

「雷の呼吸 壱ノ型────」

「捉えたぞ!」

「────っ」

 

空中に身を晒した紫電に手鬼が伸ばした腕を横薙ぎに振るう。暴力的な一撃。空気を切り裂きながら高速で飛んでくる腕を、技を途中で解除して躱す。空中で身体を捻り、軽やかな身のこなしで大地に着地。抜群の体捌きに驚愕の表情を浮かべた手鬼を睥睨する。

 

「お前さぁ!!何本腕生やす気だよ気色悪いよ!!ホントにもうやだぁぁ!!このままじゃ俺死んじゃう!そうやって俺の事甚振って弄んでるんだろ!?あぁぁぁヤダヤダヤダヤダ!!!お前絶対友達いないだろ!!!」

 

甚振っている訳ではない。お前が速すぎるんだと内心毒づく手鬼。いちいち煩いヤツだが、これまで殺してきた剣士達とは明らかにモノが違う。鬼としての再生能力がこの拮抗した状況を保っているが、それも時間の問題だろう。既に紫電は手鬼の攻撃に順応している。

どう足掻いても目の前で喚くヘタレ男に勝てる未来が見えない。

 

逃げるしかないと、本能が告げている。

だが、そうさせてくれないのが紫電だ。

 

涙目のまま猛進し間合いの内側へと飛び込むと、目にも留まらぬ速さで刀を振るう。ほんの一息で放たれた無数の刃風が手鬼へと叩きつけられる。

 

「ぐぁ────!この────!!」

「遅いな。何もかも」

 

足元の紫電を潰しにかかる腕をひらりと躱すと、不用意に伸びた腕の上を疾走し駆け上がり、その頸目掛けて刃を振るう。

直後、死角から伸びてくる腕の気配を察知し跳躍。辛うじて間合いの外へと逃げ出す。

 

「後ろに目でも付いてるのか、お前はぁぁ!!!」

「うるさいなぁぁぁもぉぉぉぉ!!俺!お前!大っっっ嫌い!!!そろそろ死んでよマジでお願いしますお願いしますお願いしますぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

(何だろう……とてつもなく高度な戦いが繰り広げられているんだろうけど……なんか、緊張感がないなぁ………)

 

十中八九、紫電の所為だ。

手鬼が紫電に気を取られている隙に手放した刀を拾う。随分と足の痛みは引いた。これ以上彼ばかりに戦闘を任せる訳にはいかない。これは自分と──死んでいった兄弟子達、そして鱗滝さんの因縁だ。

 

「雷の人!」

 

鋭く叫ぶと、手鬼から距離を取った紫電がこちらへと顔を向ける。

 

「私がコイツの頸を斬る!助けてくれてありがとう。でももう、大丈夫だから」

「え、任せちゃっていいの?いいんですか!?何なの君もしかして現世に降臨した天使様!?はたまた女神様!?!?救いの神様ぁぁぁ!!!」

 

いちいち仰々しいなぁ、と苦笑いを浮かべながら適当に頷く真菰。

 

「………でもさ」

 

直後、がらりと紫電の雰囲気が変わる。

 

「女の子を一人で戦わせる訳にはいかないよ」

 

真剣そのもの。飾り気のないありのままの言葉であろうことはその瞳を見れば解る。不覚にも真菰の心臓が大きく跳ねた。ちがうの、これは吊り橋効果だからね。

 

彼の実力は既に体感した。死ぬだのなんだの喚き散らしているくせに、その実、真菰など足元にも及ばぬほどの剣技の持ち主だ。共に戦ってくれるなら百人力だ。

 

「……みっともなく喚いたりしなかったら、きっとモテるよ、あなた」

「痛いところ突いてくるなぁ……」

 

苦笑する紫電。

それを見て綻ぶように笑う真菰。

 

「私は真菰」

「俺は桑島紫電。それじゃ、共同戦線と行こうか。真菰ちゃん?」

「そうだね紫電。でも、アイツの頸を斬るのは私だからね」

 

頷き合い、ほぼ同時に地面を蹴りあげ手鬼へと迫る。

 

「ちっ────!このぉぉぉ!!」

 

水の呼吸 参ノ型『流流舞い』

 

まずは真菰。よどみなく流れる流水の如き脚運びから放たれる水刃の乱舞。真菰のそれは速度に特化した舞い。踊巫女のように軽やかに、それでいて激流のような速度で踊り狂う。

無数の腕を斬り捌いてゆく。

 

雷の呼吸 伍ノ型『熱界雷』

 

斬り上げた斬撃は、大地から天へと雷が駆け上っていくかのよう。参ノ型を終え、息継ぎの為に一瞬だけ無防備になった真菰へと伸びた腕を斬り落とす。

 

目線だけで礼を伝えた真菰は更に呼吸を深める。

 

「くそくそくそ!!何なんだお前らはぁぁぁ!!」

 

絶叫しながら自身に巻きついた全ての腕を放出する手鬼。この戦いにおいての手鬼の奥の手。これを突破されようものならもう打つ手は無い。己の生存を賭けた大博打。

 

────雷の呼吸 陸ノ型『電轟雷轟』

 

しかし、無情にもそれを打ち破ったのは紫電の雷撃。

自身を中心に全方位へと放たれた紫雷の斬撃。その圧倒的な剣圧の真空波が空間を揺らし、大地を鳴らしながら四方八方に轟く。雷の呼吸最強の型と言っても過言ではないその威力、さしずめ雷嵐。

 

空間を支配するほどの密度で放たれた数多の腕は、紫電の放った技によって一瞬で消え失せた。

 

「な──にぃ──────!?」

「────真菰ちゃん!!」

 

雷撃によって明滅し、霧散した腕の残滓の中から飛び出した真菰。

シィィィィ、と。手鬼の耳に聞き覚えのある呼吸音が聞こえる。

 

「う、鱗滝──鱗滝ぃぃぃぃぃぃいいいい!!」

 

風が逆巻く呼吸音。かつて鱗滝に敗れる寸前に聞いた、忌々しい音。

そして今、その再現が。目の前の少女と、少年によって。

 

「全集中・水の呼吸 壱ノ型『水面斬り』────!!!」

 

果てしなく広がる水面のような一閃が、手鬼の頸を寸分違わず斬り落とす。

 

勝敗は決した。

 

「……勝ったよ、鱗滝さん………皆………」

 

静かに零した呟きは、満天の星空へととけていった。

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

「本当にありがとね、紫電」

 

手鬼を倒した俺たちは、適当な岩場へと腰掛けて暫し休息を取っていた。

 

改めて見ると、真菰ちゃんは可愛かった。果てしなく可愛かった。可愛いという言葉は真菰ちゃんの為に作られたのではないのだろうか?そうだ、きっとそうだ。

 

爺ちゃんの元で修業に励んでいた俺は同年代の子と接す機会なんて滅多に無かったし、異性ともなればその機会は更に減る。

故に、戦いを終えた安堵感からか、変に緊張してしまって真菰ちゃんの目が見れない。年頃の男の子の恥じらい、と言うやつだろうか。

 

「気にしないで。俺はただ……そう、たまたま居合わせただけだから」

 

加えて、恥ずかしげも無く晒してしまった醜態。真菰ちゃんは敢えてそのことを伏せてくれているのだろう。心まで綺麗だなんて、何なのこの子。最高過ぎない?最強すぎるよ。

 

「紫電が居てくれてよかった。じゃなきゃ私死んでたもん」

 

「おっきな貸し、作っちゃった」と舌を出していたずらっぽく笑う真菰ちゃん。可愛すぎて抱きしめたい衝動に駆られるが、流石にキモすぎるし嫌われたく無かったので、ありったけを理性を総動員して歯止めをかける。

 

「ホント、気にしないでよ。真菰ちゃんが無事でよかった」

 

笑いかけると、一瞬硬直した後、真菰ちゃんも花が綻んだように笑う。邪気のない、美しい笑顔だった。

 

「お互い生き残ろうね。最終日、また会おう。約束だよ?」

「はい!」

「ふふっ、紫電は強いから心配してないけど」

 

そう言うと、真菰ちゃんは風のように駆け出した。

その背中が見えなくなると、紫電は大きく息を吐いた。

 

「はぁぅ……真菰ちゃん可愛かったなぁ。あんな可愛い子にまた会おうなんて言われたらさ、そりゃあ頑張れますよ」

 

緩んだ頬を引き締め直し、さあ、行こうと振り返ると、前方の茂みがガサリと音を立てて揺れた。

 

「ははっ、鬼なんでしょどうせ鬼なんでしょぉぉぉ!?だがなぁ!今の俺は真菰ちゃんとの約束を果たすべく鬼を狩る!!!不思議だ、今ならどんな鬼でも倒せちゃいそう!!!」

 

そしてひょっこりと顔を覗かせた鬼と視線がぶつかる。

 

────雷の呼吸 壱ノ型『霹靂一閃』

 

雷光。鞘鳴りの残響が消えゆく頃にはもう、鬼は灰塵となり虚空へと散っていった。

最終選別において、初めて紫電が鬼の頸を斬った瞬間であった。

 

「やったよ爺ちゃん────!俺、鬼を斬れた────!」

 

喜びも束の間、新たに近づく鬼の気配。

 

「ふっ、今の俺に勝てる鬼なんかなぁ、いるわけ──、いる……………えっと」

 

徐々に語尾が濁ってゆく。

視線の先、鬼。

問題はその数。

 

「ぎひひ、久しぶりの食糧だぜ」

「あれは俺のモンだ。手ぇ出すなよ」

「うるせぇ!俺のだ!」

「美味そうだなぁ。脳をな、啜りながら食うのが美味いんだよこれが」

 

「えっと………団体様は……御遠慮頂きたくって…………」

「「「「ああぁん?」」」」

「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!やっぱり無理ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!!鬼怖いよマジで怖いよ何なの鬼って皆野蛮だよねぇぇぇぇぇ!?!?もう嫌ぁ!!真菰ちゃん助けてよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

やはりヘタレだったらしい紫電は、みっともない悲鳴を上げながら逃げる、逃げる、逃げる。

 

絶叫を撒き散らしながら藤襲山を駆け回り────。

 

気づけば、最終選別は終わりを迎えていたのであった。

 

 




主人公、実は結構強かったりする……?
個人的には常中使えてるし、現段階で柱稽古前の炭治郎くらいには強いイメージで書いてます。どうでしょう?

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