拙く見苦しい文章なので、最後らへんの出来事があったんだなーっていうことだけ覚えててくれればOKです!!!
────雷の呼吸 伍ノ型『熱界雷』
斬り上げた斬撃は天を衝く勢いで空間を迸り、月を背に虚空を羽ばたく空喜の片翼を斬り飛ばす。体勢を崩し、地面へと落下する空喜へ向かい跳躍。その頸を斬り落とそうと日輪刀を振り上げるも、横から迫る暴力的な旋風がそれを許さない。
「空喜め……。このような餓鬼に一太刀浴びせられるなど情けない。腹ただしい………実に腹ただしい!」
積怒が錫杖を振り回し、雲一つない夜空の彼方から万雷が降り注ぐ。地面を蹴り飛ばし、咄嗟に回避。続けて空喜が大口を開け、衝撃波を吐き出す。超音波にも似た嫌悪感を覚える不協和音に顔を顰めながら大きく跳躍。地面を転がり衝撃を逃し、即座に立ち上がり追撃に備える。
「この猿めが……!」
「カカカッ、良いではないか積怒!儂は久々に楽しいぞ!」
「喜ばしいことだ!俺の爪で自慢の足を刈り取ってくれよう!」
「して、哀絶は何処に?」
「ヤツなら柱と一緒にいた女と遊んでおるわ」
積怒の視線をなぞるように目を向けると、十文字槍を持った哀絶と真菰が壮絶な技の出し合いを繰り広げていた。
「華奢で非力……哀しい……人間は弱く脆い」
「そう言う割には大したことないね」
水の呼吸 参ノ型『流流舞い』
変幻自在の足捌き──では無く、高速移動に重点をおいた歩法により、爆発的な速度で踊り狂う水刃の乱舞。荒々しくもどこか美しい高速剣技、高速移動で哀絶の槍捌きを受け流していく。
「小癪……!」
槍術と体術には絶対の自信があった哀絶だったが、自分よりも数倍力が弱くか細い女が、涼しい顔をして攻撃を受け流す姿を受け入れまいと更に力を込めて槍を突き出す。
「おっと」
『激涙刺突』
瞬き一つの合間に繰り出される無数の突き。ほぼタイムラグ無しで迫り来る正確無比な刺突を、呼吸を深化させて迎え撃つは水の呼吸最速の突き技────。
────水の呼吸 漆ノ型 改『雫波紋突き・極』
名は体を表す────。正しく、突き技の境地。人間という種族が放てる限界点に限りなく近い速度で放たれる刺突。
十文字槍の突きが放たれる刹那、真菰は左足を踏み込み、弓のように引き絞った右腕を解き放った。時間にして刹那未満。ただの一度に踏み込みの合間に、五つの突きを繰り出したのだ。
通常、突き技は『死に技』と言われている。刀を突き出した後にできる隙が大きいからだ。加えて攻撃の有効打となり得る面積が限りなく小さいため、水の呼吸の使い手も好んで漆ノ型を扱う者は少ない。そもそも鬼は頸を斬らねば死なないという性質上、突き技で与えられるダメージなどあって無いようなものだ。咄嗟の受け身や遠方から飛来する攻撃に対する即席の迎撃手段。これが漆ノ型の基本的な出し所。
だが、真菰のそれは音すらも置き去りにする。
「がァァァ!?」
放たれた真菰の刺突が哀絶を穿つ。
しかし突き技では鬼を殺すことは出来ない。
真菰は刀を突き出し、前方へと体勢を崩している。既に再生を終えた哀絶が十文字槍を振りかぶった。
「刀の突き技は自殺行為……嗚呼、哀しい」
槍が真菰の華奢な身体を叩き潰さんと迫って────直後、槍が真菰の日輪刀に絡め取られ、空中へと放り投げ出される。
水の呼吸 陸ノ型『捻れ渦』
身体を地面と並行に向けたまま、空中で高速旋回。哀絶が槍を振り下ろすタイミングを見計らい、上手く渦潮の如き回転の中に絡めとったのだ。
(この小娘────!)
得物を失った哀絶。回転を終え、地に足を着いた真菰が飛沫のように跳ね上がり、哀絶の頸に刃を突き立てる。
「さよなら。私、はやく紫電のところに行きたいんだ」
水の呼吸 壱ノ型『水面斬り』
寸分たがわず放たれたどこまでも続く水面のような一閃が、哀絶の胴と頸に二分に斬り裂いた。
真菰が哀絶の頸を斬る、ほんの少し前────。
紫電は積怒、可楽、空喜の三体の鬼との激闘を繰り広げていた。
「哀絶は随分と苦戦しとるのぉ!」
「たかが小娘一人に何を遅れを取っているのか……!」
「カカカカッ。早う終わらせてしまおうぞ!」
爆風。万雷。衝撃波。異なる三つの異能が三位一体となって紫電に降り注ぐ。
「癪に障る……!ほんっとめんどくさい能力だな……!」
斬撃の弾幕を瞬時に作り、縦横無尽に駆け回ることにより、自身への被害を皆無に留める。上弦の鬼である半天狗も紫電の速力には舌を巻いた。
「小賢しい猿めが……!」
「小賢しいのはどっちだよ……ッ」
雷の呼吸 参ノ型『聚蚊成雷』
固まった三体の鬼を取り囲むように周囲を高速回転し、紫雷の波状攻撃を仕掛ける。雷撃の渦が発生し、竜巻もかくやという威力。しかし紫音を追わねばならないという焦りが剣閃を鈍らせる。更には三体を同時に仕留めようと意識しすぎ、回転の円を大きく描きすぎた。常ならば絶対にしないであろう致命的なミス。雷渦の間隙を見出し空へと逃れた空喜が衝撃波を飛ばし、再び半天狗との距離が空いてしまう。
舞い上がる砂塵を斬り裂き、再び疾走。地を駆ける紫色の稲妻となって、三体の悪鬼の頸を斬らんと迫る。
「馬鹿の一つ覚えが!やはり猿じゃのう!」
はやく紫音を追わなければ。あの日の事を聞き出さなければ。なぜ鬼になったのか。なぜ無意味な殺戮を繰り返すのか。聞き出さなければ進めない。
「だから……邪魔するなって言ってる………ッッ!!」
雷撃での遠距離攻撃では致命傷を与える事ができないと判断した積怒は、錫杖を槍のようにして紫電へと肉薄する。哀絶と比べると動き数段遅いが、しかしさすがに上弦の鬼。柱以下の隊士では防ぐだけで手一杯であろう速度で錫杖を振るう。その軌跡には雷撃が付随し、厄介なことこの上ない。
日輪刀と錫杖が交錯し眩い火花が飛び散る。白兵戦では紫電に分がある。高速剣技で積怒を斬りつけるも、その頭上から空喜が衝撃波を放つ。数瞬前まで紫電と積怒が鍔迫り合っていた空間が圧殺され、土煙が巻き起こる。堪らず飛び退いた紫電に襲い掛かるは、可楽の団扇が生み出した突風と積怒の落雷。口では言い合いしかしない半天狗の分身体だが、その連携は敵ながら天晴れ。
爆風によって吹き飛ばされた紫電だが、無数の斬撃を飛ばして追撃を牽制。紫雷の斬撃が縦横無尽に駆け巡り、三体の鬼は塞がれた退路の中から最も被弾の少ない箇所を瞬時に選択して回避。怪我を負っても瞬きの間に回復する鬼らしい選択肢とも言える。しかし、それが紫電の狙い。
「────かかった」
「馬鹿者!近づきすぎだ!」
紫電の上がった口角を見て積怒が叫ぶも、時すでに遅し。三体が密集するように動きを誘導されていたのだ。
そして、紫電の左の頬に現れた深い紫色の稲妻のような痣。
(あの餓鬼の痣……あれは────)
積怒の思考を遮るように、耳を劈く轟雷が響き渡る。
────雷の呼吸 陸ノ型『電轟雷轟』
極光が爆発し、視界の全てを紫雷が呑み込む。紫電が乱舞し、無数の稲妻が分身体を斬り刻み肉塊へと変える。超広範囲斬撃。痣者となった紫電の最大出力の技が三体の頸を同時に斬り飛ばした。
「フゥゥゥゥゥ…………はぁ」
不意に横を見遣ると、残った分身体も真菰が頸を落としていて、既に決着が着いていた。
けれど。
「はぁ……もういい加減にしてくれよ」
弱点である頸を飛ばした。普通なら絶命するはずだが、四体の鬼はさも当然のように再生を始め、何事も無かったかのように立ち上がった。
「不覚……不覚……不覚の極み!」
「嗚呼……哀しい……」
紫電は小さく舌打ちすると、再び分身体に向かって駆け出す。
追従するように、紫電の背中を真菰が追う。
四体同時に頸を斬るのが弱点ではないのなら、本体は別に存在すると考えた方がいいだろう。遠隔操作なのか、自律した個体なのか、はたまた頸以外が弱点なのか。見極める必要がある。
真菰はそう冷静に判断を下すが、紫電は修羅の如き怒りの形相で力任せに技を放っていく。
「わっ……!紫電待って!冷静になろう!」
広範囲斬撃の巻き添えを喰らうまいと一度立ち止まる。必死の叫び。けれど紫電には届かない。
「巫山戯るな……!いい加減邪魔なんだよッッ!!」
常ならば優しげな表情を崩さない紫電が、憤怒の激情に身を任せて暴れ狂うように刃を振るう。ここまで感情を顕にした紫電を見るのは初めてかもしれない。やはり先程の女性────紫電の姉が彼の心を引っ掻き回しているであろうことは容易に想像できた。
だからこそ、真菰は自分の声が紫電の心に届かないことに酷くショックを受けていた。紫電は自分の事を一番大切だと言ってくれた。一緒に未来を生きようと言ってくれた。真菰の暗く塞がった未来を明るく照らしてくれた。なのに、今の紫電はまるで真菰の事など眼中に無い。彼の心の中に真菰の居場所は無い。
「………ッ」
胸の奥がツンと痛んで、涙が零れそうになった。
満成は言った。後悔する前に想いを伝えて欲しいと。だから、紫電に秘めたる想いを打ち明けようとしたところで紫音が現れ、立て続けに上弦の肆だ。勘弁して欲しい。
雷を纏い、疾風迅雷の躍動で駆け回る紫電。その頬には見慣れない痣があった。
視界が涙で滲むのをなんとか抑え込み、一歩踏み出す。
仮令、紫電の心の内に自分の居場所が無くとも、紫電の力になりたい。
水の呼吸 捌ノ型『滝壺』
強く地面を踏み切って跳躍。真菰に意識を向けていなかった空喜の脳天に振り下ろした斬撃を叩き込む。咄嗟に回避した空喜だったが、肩口を斬り裂かれ、地面に叩き落とされる。それを見た紫電は地に伏した空喜の頸を一閃。頸を大きく跳ね飛ばすと、身体を踏み抜いて壱ノ型を繰り出す。
雷の呼吸 壱ノ型『霹靂一閃』
積怒の万雷の嵐の中を一瞬で過ぎ去り、神速の抜刀術で斬り伏せる。更に錫杖を遥か遠くへ蹴飛ばし、反撃の暇を与えない。
紫電に向かって飛び込んできた哀絶には真菰が対応。十文字槍の鋭利な突き技を水のように柔らかく受け流す。体勢を崩した哀絶の脇を駆け抜けていく紫電。すれ違いざまに両腕を斬り落とし、無防備となったところを真菰が確実に頸を落とす。
「なんだ、こやつらの連携は……」
お互いが目線すら合わせぬ阿吽の呼吸。紫電の動きに真菰が合わせる。同じ速力を武器とする剣士同士、息が合うのは必然。何度も共に任務をこなしてきた信頼関係が、怒りで我を忘れかけている紫電でも無意識の内に高度な連携を可能としている。
一体だけ残った可楽は団扇を振るう。局地的に巻き起こる暴風を斬り裂くかのように紫色の稲妻が木々や大地を抉り取りながらか楽へと迫る。身体を軽く右に振って回避した可楽だったが、間髪入れずに飛び込んできた真菰に頸を飛ばされる。
圧倒。上弦の肆が生み出した分身体をいとも容易く撃破した二人。当然、本体である半天狗は彼らを危険分子と見なした。
────直後、天地が鳴動し、紫電と真菰は逃れられない衝撃と雷撃によってゴム鞠のように吹き飛ばされた。
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「かはっ……げほっ……」
背中を木の幹に強く打ちつけられ、肺に残った空気を一気に吐き出した。喘ぐように酸素を求め、痛み止めの呼吸でなんとか意識を繋ぐ。
「いてて………。随分吹っ飛ばされちゃったなぁ」
真菰は先程自分たちの身に起きたことを反芻する。
瞬きの間に積怒が他の三体の鬼を吸収し、新たな鬼が生まれた。五つの太鼓を背負った雷神のような子供の鬼。そいつが刃物のように鋭利な撥で太鼓を叩いた瞬間、先程まで戦っていた鬼の異能と同じ雷と爆風、衝撃波が一気に襲いかかったのだ。
なぜ真菰が無事なのか。それは────。
「────紫電……っ!紫電!」
紫電が真菰を庇うようにして攻撃を一身に受けたからだ。瞬時に斬撃の弾幕を構築したが、至近距離からもろに喰らってしまったのだ。無事ではすまないだろう。
背後で力無く横たわる紫電を見るや、真菰は背筋が凍りつく錯覚を覚えた。
即座に脈を測り、呼吸音の確認。大丈夫、息はある。
「紫電………、ごめんね……いつも私……守られてばっかりで……!」
あのような状況の中、紫電が真菰を庇ったのは無意識が成した必然であった。真菰を守る。彼女が幸せになるように守り抜く。心に決めた決意が咄嗟に身体を動かしたのだ。
意識を失い、力無い呼吸を繰り返す紫電の手を小さな身体で抱き締める。
ふと、思い出すのは上弦の弐・童磨との戦闘。カナエを喪ったあの戦いの後のこと。亡骸となったカナエに縋り付いて泣き喚くことしかできなかった弱い自分。大切な人が鬼に奪われる痛みを身をもって知った日。もう二度と、あんな思いをするのは御免だ。もう二度と、喪ってなるものか。
「……紫電はいつも私を守ってくれたね。私が欲しい時に欲しい言葉をくれて……いつも、私を支えてくれた」
紫色の稲妻模様の痣が浮かび上がった頬を優しく撫でる。
「私はね、そんな紫電がだいすき」
温かな気持ちが溢れ出る。一番伝えたかった言葉が、溢れ出す。
紫電には届いていないだろうけど、もう、後悔は無かった。
「紫電が私を守ってくれたように、今度は私が守るから」
そっと。紫電の頬に唇を寄せた。切羽詰まった状況なのに、どうしてか頬が熱い。想い人に口付けをしようとしている。訳の分からない動揺を頭の中から追い払い、不思議な痣の上に、自分の存在の証を上書きするかのように。そっと口付けを落とした。
紫電の胸の上に鱗滝がくれた狐の面を乗せる。鱗滝さん、どうか紫電を守ってくださいと心の中でお祈りする。
立ち上がった真菰は、感情が溢れて滲み出た涙を強く拭った。
紫電を守る。仮令、今日死ぬことになったとしても。
「だいすき」
もう一度、言い残して。
昂る気持ちに応じて高まる体温と心拍数。深まる呼吸。
真菰は駆け出す。
その左の頬に流れる涙の跡を追うように、滴る雫のような深蒼の痣が発現したことに気づくことなく────。
次回、真菰覚醒す────?