年甲斐もなく、一人の男と、我も忘れて踊ったのはそれが最初で最後のことになるのだろう。しかも、それが私の生徒なのだから検挙されれば問題になりかねない。
世知辛くなったものだ。世間の目は厳しく、ましてや私自身、体裁や法律なんて言葉が極々身近なものになっていて、それを意識せずとも受け入れているのだから。
大嘘をこいた癖に完成させたこの派手なプロムが設定した駐車場。海浜であるからか、人通りはそこそこと、もうそれの余韻は感じられない。赤いスポーツカーが鈍く光り、口元が綻びる。ここに君を乗せるのは、もうこれから片手で数えるほどしかないのだろう。そもそも、乗せる機会があるかすらも怪しい。
彼に説いたように、人間関係なんてそんなものだ。どれだけ親しくあろうが、疎遠になるものは疎遠になる。
私はその車の重厚感あるドアを開け、ピシャリと張った自慢のシートに腰を下ろして、車のエンジンをかける。重低音が腹の底に響いて、やけに懐かしくなる。
「さて、橋にでも行くかな」
そう、独り言を呟いて、車を走らせた。いつもよりやや早く、ここから逃げるかのように。
***
目的地へは案外早く着いた。
車を停止させて、通りのない寂しげな夜の海を眺める。月が水面に写って、あの時と一緒の情景を照らし出していた。
比企谷、久しいな、この場所は。
憎らしくも、可愛らしい人間だよ。君は。それこそ、後、君が十年早く、もしくは私が十年遅く生まれていたら……。
もし、そうなっていたら、私達はきっと巡り合わなかった。あぁ、運命というものは酷だよ。私達が出会えたのは私が教師で、君が生徒だっからだ。
私はそんな無粋なことを思いたくないし、君もきっとそれを分かっているだろう。残酷な運命の果てに私達は巡り逢った。残酷で素晴らしい奇跡だ。
なぁ、聞こえているか、比企谷。よく聞いておけよ、面倒臭い私の最高の生徒。
「リア充爆発しろぉぉぉぉ!!!!!!」
橋の手摺りを掴んで、半身を乗り出してそう言った。体裁なんて知るか。条例なんてクソ食らえ。だから君も後悔をするな。
「幸せになれよぉ!!! クソッッッッタレぇぇ!!!!!」
前を向け、幸せになれ、私に祈らせろ、願わせろ、最高の生徒よ。
また会う日まで、進み続けよう。また会う日は君がまた満点の解答用紙を持ってくる日だ。それが君と私の関係だ。
だから、またな。比企谷。
さよならは言わないぞ。その方が好みだろ?
私はコートを翻し、車に乗れば、また走り出した。開けた窓から吹き込む風は、もうその冷たさを含まない。
春が訪れた。
平塚先生みたいな教師と出会いたかった…。
いい先生ですよね。