社会人になってからもバンド活動を続けていた紗夜と日菜。
だが、順風満帆だった2人は突然引き裂かれてしまう……。

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天才の音色は永遠に

「もう一度、貴女のギターを聴かせて…。」

 

 

 

Roseliaがプロデビューして数年経ったある日、私の妹は突然この世を去った。

信じたくなかった、信じろと言われても嫌だった、あの子なら冗談交じりにすぐ戻ってくると思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

でも、彼女は戻って来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

その日、私は彼女に内緒で一般客としてライブ会場に居た。

私は彼女とメディアで共演することは度々有ったが、その日までパスパレのライブを生で見た事が無かった。

当時、アイドルバンドとして大成功を収めていた彼女達のライブはチケットの倍率が凄まじく、抽選の当落が発表されるとその度にファンがSNSを賑わせるのが恒例行事だった。

 

以前から行ってみたいとは思っていたのだが、Roseliaの活動が多忙でスケジュールが中々合わなかったり、“私が居ないときの彼女”をこの目で見てみたいという思いもあって、彼女に私の存在がバレない様に事務所のツテではなく一般抽選で申し込んでいたので中々当たらず、ようやくチケットを手にした頃には数年経っていた。

 

彼女にこんな事を言ったらからかわれそうだが、チケットを手にした時は感激のあまり少し泣いてしまった。

 

そしてライブ当日、この日の為に考案した変装を身に纏い意気揚々と自宅を出る。

余裕を持って開場1時間前に到着したのだが、既に大勢のファンが行列を成して待っていた。

 

(みんな早いわね…。)

 

Roseliaのライブでも熱心なファンが何時間も前から並んでいるのをよく見かけていたが、こちらのファンも熱心さでは負けていない。

ちなみに私はパスパレファンにも顔が知れた存在だ、ここに居るのがバレたらお祭り騒ぎになるだろう…しかし変装のお陰で誰も気付いていない。

 

開場まで暇なのでスマホで今日のタイムテーブルを確認したりSNSの更新をする。最近までSNSはやっていなかったが、今井さんに勧められたのもあって勉強ついでに始めた。

Roselia関連の告知がメインであまりプライベートな事は呟かないが、時々ファンと直接やり取りしたりする。

そして彼女…日菜の呟きをチェックするのも忘れない。

 

(日菜ったら、また本番直前に呟いてるのね…。)

 

こういう時ぐらいはライブに集中しなさいと何度も言っているが、一向に聴く気配が無い。

まあ、それが彼女らしさでもある。

 

(あ、列が動き出したわ。)

 

気付けば開場時間になっていた。

受付で係員にチケットを見せ自分の席へ向かう。

開場から30分程で客席がすべて埋まった。ファンのボルテージは既に最高潮に近い。

 

(もうすぐね…。)

 

私は時計を見ながら心の中で呟く。

後5分…4分…3分…2分…1分…。

 

「みんな~!!お待たせ~!!」

 

(…始まったわ!)

 

ステージが一気にライトアップされメンバー達が一斉に現れた。

 

「ギター担当の日菜だよ!!ぎゅいーん!!」

 

恒例のメンバー紹介、あの擬音みたいなのは決まり文句らしい。

丸山さんは相変わらずMCが苦手みたいね…日菜に何度もツッコまれているわ。

 

「じゃ、じゃあそろそろ始めよう!まずはこの曲…“しゅわりん☆どり~みん”!!」

 

最初の曲はパスパレの代名詞的な“しゅわどり”。

口パクを脱したばかりの頃の演奏に比べると別人レベルで上達している。

 

「…よ~し!次はこれ!“Wonderland Girl”!!」

 

きた、私が一番生で聴きたかったきょくd

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ...

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?日菜ちゃん!?」

 

「ヒナさん…?どうしたんですか!?ヒナさん!!?」

 

「ひ、日菜さん!?大丈夫ですか!!?しっかりしてください!!!」

 

「っ!?スタッフさん!!!!すぐに救急車を!!!!早く!!!!」

 

ザワザワ...

 

(……嘘でしょ?)

 

それはあまりにも突然だった、演奏が始まろうというタイミングで日菜が倒れたのだ。

 

「日菜…日菜…日菜!!!」

 

私は客の目線に目もくれず、一目散にステージへ向かった。

気付いたスタッフが私を止めようとするが、すかさず変装と解き…

 

「Roseliaの紗夜です!!!通して!!!」

 

驚いて固まっているスタッフを突き飛ばしてステージによじ登った。

 

「日菜!!私よ!!分かる!?ねえ起きて!!!」

 

必死に呼び掛ける私。

だけど彼女はピクリとも動かない…。

 

 

 

数分後、救急隊が到着し日菜の搬送が始まった。

私も救急車に飛び乗り病院へ向かう。

搬送中も救急隊が必死に応急処置を行うが日菜の容態は一向に回復しない。

 

「お姉さん!!妹さんに呼び掛けて!!」

 

「は、はい!!…日菜!!目を覚まして!!日菜!!!」

 

救急隊員から檄が飛び、私も必死に呼び掛けた。

 

「死なないで!!!!日菜ぁ!!!!」

 

程なくして病院に到着、日菜は手術室へ担ぎ込まれた。

手術中の間、扉の前で日菜の無事を祈り続ける。無力な私にはこれ位しか出来る事がなかった。

 

「神様…どうか日菜を助けて下さい…。」

 

そして数時間後…手術室のランプが消え、担当の医師が出てきた。

 

「先生!!!日菜は…日菜は助かったんですか!!?」

 

「手は尽くしました、ですが…。」

 

 

 

 

 

「もう手遅れでした…。」

 

 

 

 

 

一番聞きたくなかった言葉、それを突き付けられて私は崩れ落ちた…。

 

 

 

 

 

「あぁ……あああ…!!!!」

 

「あああああああああああっ!!!!!」

 

 

 

 

 

人生とは残酷な物である。

だが、幾らなんでもこれはあんまりだ。

 

「日菜ぁ……目を覚まして……うわあああああぁぁん!!!」

 

霊安室での無言の対面。

言葉にならない程の悲しみに泣き叫び、涙が止めどなく流れた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日菜がこの世を去って半年…。

私は生前に日菜と交わした約束を守り、Roseliaの一員としてギターを続けている。

そして今日は全国ツアー最終日…。

 

「…最後の曲行くわよ、Determination Symphony。」

 

その時だった、ステージの端から誰かの足音が聞こえ始め、私の方へ近づいてきたのだ。

リハーサルでこんな演出は無かったのでメンバー全員が足音のする方向へ顔を向け、観客達もそれにつられて顔を向ける。

 

その足音の正体は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな!!あたしも一緒に弾かせて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紛れも無い…私のただ一人の妹…日菜だった。

 

 

しかも衣装は私と同じ、持っているギターは生前彼女が使っていた物だ。

その場に居た者は皆信じられないといった表情、そして彼女は私のマイクを持ち…。

 

「急に出てきてごめんなさい、どうしてもこの曲を…Roseliaと…おねーちゃんと弾いてみたかったんだ。」

 

「あたしの最期のワガママ…きいてくれますか?」

 

彼女の言葉に会場が静まり返る…すると最前列のファンが…。

 

「私、ずっと待ってたんだ…紗夜ちゃんと日菜ちゃんが一緒にセッションするのを…!」

 

「私も!」

「俺もだ!」

「あたしも!」

 

それをきっかけに再び会場が熱気に包まれ始めた。

 

「ありがとうみんな…!」

 

彼女は目に涙を浮かべながら観客にお礼を言う。

 

「…日菜、Roseliaにすべてをかける覚悟はある?」

 

「もちろんだよ!おねーちゃん!」

 

「その返事を待っていたわ…!」

 

 

 

「「 聴いてください!! Determination Symphony!! 」」

 

 

 

…………

………

……

 

 

 

「おねーちゃんと一緒に弾けてすっごいるんっ♪ってした!!!」

 

「相変わらずね日菜は…でも、貴女とのセッション…とても楽しかったわ…。」

 

ライブは大成功…我ながら歴史に残るものだと断言出来る程に。

その後、私は打ち上げに参加せず日菜と共に一足先に帰路についた。

湊さん達も私と日菜が2人きりになるタイミングを待っていた様で、快く送り出してくれた。

 

「さ、上がって、あまり広い家じゃないけど。」

 

「ここがおねーちゃんの部屋か~!ん~~!るんって来た!!」

 

半年前の悪夢なんて嘘のような光景だ。

私の家に、私の隣に……日菜が居るのだから。

このまま正夢になってくれればいいのに…。

 

「…おねーちゃん?泣いてるの?」

 

「っ…。」

 

「日菜っ…私…一人ぼっちになりたくない…。」

 

「ずっと一緒に居たいの!!」

 

「……あたしもだよ、おねーちゃん。」

 

「でも…それはちょっと無理かな…。」

 

「っ!?日菜、体が透けて…!!」

 

「あ~あ、もう時間切れか~…神様もケチだなぁ…。」

 

「おねーちゃん、あたしの魂はもうこの世に来られない…だから最期に…。」

 

 

 

 

 

「大好きだよ、おねーちゃん…。」

「私もよ、日菜…!」

 

 

 

 

 

チュッ...

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

………

……

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ、ここはとある病院の病室。

今日、一人の患者が旅立とうとしていた。

 

 

(懐かしい思い出が……これが走馬灯……というものなのね……。)

 

(ああ……。)

 

(長かった……。)

 

(ようやく……会いにいける……。)

 

(Roseliaのみんな……それから……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日菜……今……逝くわ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《おねーちゃん!!一緒にギター弾こっ!!》


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