奇跡的なので、これが続くように頑張ります……」
「…むぅ」
”隠”を連れていくしのぶとは別に、義勇と共に那田蜘蛛山に到着した私なのだが、いつの間にか居なくなった義勇のせいで迷子と化してしまった。
道であれば迷うなんてことはないのだが、残念ながらここは山奥。目的地の場所すらわからない上にこんなところに放置されては誰でも迷子になるというものである。
「なにか、ないかな?」
この山にはかなりの数の鬼殺隊員がいる。彼ら、もしくは鬼の痕跡が見つかればと思い私は辺りを見渡した。
「あれは…………?」
少し東の空に、大きな糸の先のようなものが見えた。
その糸には人の足のようなものが絡まっており、上下に少しだが揺れている。
私は足が見えたところで、すでにそちらに向けて走り出していた。
◇◇◇◇
私の視界が開けたときには、既に勝負はつこうとしていた。
小さな鬼が目の前に倒れている鬼殺隊員に手を下そうとしているところだった。
「…月の呼吸 参ノ型 三日月」
前方に回転しながら斬撃を放つ田単純な型。
それ故にこの技は使い手によって威力に天と地の差ができる。
目の前の鬼を斬るためではなく、鬼と鬼殺隊員との間に入るために私は型を放った。
「よく頑張ったね。あとは私が片付けるから安心してね」
今にも意識を飛ばしそうな少年。彼が目の前の下弦の鬼をここまで追い詰めたのだろう。
「さて…」
私の言葉なんて待つことなく、目の前の鬼は血鬼術を放ってきた。
”血鬼術 刻糸輪転”
前方から迫る糸。
周りの木が豆腐のように切れていく。
「全集中・月の呼吸 六ノ型 朔月」
月の呼吸唯一の防御の型。
義勇さんの”凪”とは違い受け流すというイメージではなく、相手の技に斬撃を合わせその力を利用して反撃に転じるのがこの型。
「さようなら」
鞘へと日輪刀を戻す。
鬼の首が落ちたところで、先ほどの彼の様子を見ようと振り返るとその先に見覚えのある影を見つけた。
「……人を喰った鬼に情けをかけるな」
到着するなり、労わるように私が斬った鬼の服に手をかけている彼に義勇さんは言った。
「義勇の言う通りだよ。鬼に隙を見せたら、こっちがやられるしそれによって大切な人まで危険にさらすことになる。でも、義勇死者を踏みつけるのはダメ」
そう言いながら私は義勇の足をどかす。
未だに倒れている少年も私の言ったことに少しは納得してくれたのか、義勇さんを睨むのをやめた。
「…あれ?その子……」
少年の身体の下に守られるように抱えられている少女。その少女の雰囲気は人間のそれではなかった。
だが、それを尋ねるのは新しい来訪者によってさえぎられる。
「義勇、ごめんなさい」
「えっ?」
私は唖然としている義勇さんの頭を思いっ切り下に押し付けた。
ガキィィィン
刀同士が交わることで起こる甲高い音が静かな山に鳴り響く。
「あら?どうして邪魔するんですか?雫さん」
「今の防いでなきゃ、この少年に当たってたよ」
新しい来訪者。それは、味方であるはずのしのぶ。
もちろん、敵になったわけではないがそれでもこちらに刃を向けている理由。それはこの少年がかばっている少女だろう。
「冨岡さんも鬼とは仲良くできないって言っていたくせに何なんでしょう?そんなんだから、みんなに嫌われるんですよ」
「俺は嫌われてない」
そう言いながらもこちらを見る義勇に、私はただ微笑むことしか出来なかった。
「坊や、坊やが庇っているのは鬼ですよ。危ないですから離れてください」
若干ショックを受けている義勇を他所にしのぶさんは背後の少年に語り掛ける。
流石に庇っている少年もそのことには気が付いていると思うが、それに加え鬼であるにも関わらずあれだけの傷を負いながらもなぜあの少女は彼を襲わないのか。
「ちっ……!!違います、いや違わないけど…あの妹なんです。俺の妹で、それで」
彼のその告白はこの状況を納得させるには十分ではなかったが、私が彼を庇う理由としては十分すぎた。
私には出来なかったことを、彼はやろうとしているのだから。
「まぁ、そうなのですか。可哀想に……。では……苦しまないように優しい毒で殺してあげましょうね」
しのぶのその言葉は少年に絶望を与えるのには十分だっただろう。
彼からしたらこの場に柱が3人。うち一人は顔見知りとはいえ、あと2人は敵に見えていることだろう。顔見知りの一人も鬼である妹を庇ってくれるとは思ってもいないだろう。
「……動けるか?」
義勇のその言葉は私を驚かせるには十分だった。
あの義勇が鬼を庇うことを容認するとは思いもしなかった。
「動けなくても根性で動け。妹を連れて逃げろ」
そういわれた少年はの表情は驚きで包まれていた。
それはそうだろう。敵だと思っていた人が味方だったのだから。
「……はぁ。そんな身体で人一人庇いながら、逃げられるわけがないでしょう…義勇が連れて行ってください」
私の言葉に3人とも驚きの表情を見せるが、義勇はすぐさま少年を抱えるとその場から去った。
「これは、隊律違反なのでは?」
「まぁ。罰なら後で受けるよ」
そう私が言ったところでしのぶは刀を鞘へと納めてくれた。
「………雫さんのことです、なにか理由があるのでしょう」
そう言ってしのぶはリラックスした表情へと変わった。
鬼殺隊員の誰もが何かしらの志を持っている。その理由にその人の過去が関わっていることも多く、過去に触れることは本人から話さない限りほとんどしない。
しのぶも義勇も、そして私も。過去になにかを持っているのだ。
「伝令!伝令!カアァ」
静寂を破るように鎹鴉の声が鳴り響く。
「炭治郎・禰豆子両名ヲ拘束。本部ヘ連レ帰ルベシ!!」
「炭治郎及ビ鬼ノ禰豆子、拘束シ本部ヘ連レ帰レ!炭治郎額二傷アリ。竹ヲ噛ンダ鬼禰豆子」
「「っ!?」」
この伝令により、先ほどの少年とその妹は”隠”によって産屋敷に運び込まれた。
半年に一度の”柱合会議”が開かれるこのタイミングで。
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それでは