クラスメイトを回収してホルアドの宿でクラスメイトにカレーを食わせて故郷への哀愁を強くして戦う心を完全に折る。まだ戦えそうなのは八重樫と坂上ぐらいか。そして天之河がやらかすのは確定だな。遠藤にメモを握らせて全員に握らせるように指示を出す。
宿屋に戻ったその日の深夜、天之河が部屋から抜け出した。剣を抜身で持ってだ。そして儂の部屋に飛び込むと同時にベッドを一刀両断する。まあ、儂はそこには居らずに扉の横に居るのだがな。
「自分の思い通りにいかなければ暴力に訴える。チンピラと変わらんな、天之河」
驚き振り返った天之河が硬直する。なにせ、扉からクラスメイト達が見ているからな。
「やらかすと思って夕食時に皆には伝えてあった。言い逃れは出来ないぞ、人殺し」
「オレはお前みたいに殺してなんていない!!」
「じゃあ、その剣についている赤い液体は何なんだ?」
ランプを点灯させて見せてやる。天之河の持つ剣にはべったりと赤い液体と肉片がこびりついている。
「殺った手応えはあっただろう?ほら、よく見ろよ」
両断されたベッドと同様に両断された男の死体が転がっている。
「なっ、こ、これ、ぐっ」
胃の中の物を吐いている天之河を蹴り飛ばし、両断された男を見せつける。
「こいつは妻と娘が居てな、詐欺にあって一家揃って奴隷落ちしたんだよ。この世界の奴隷がどんなのか知っているか?分かりやすく言えば黒人のプランテーションよりも酷いぞ。基本は使い捨てだ。男女揃ってな。死んだら新しいのを買ってくるだけ。それが当たり前だ。酷いからとお前が無理やり開放すれば器物損壊に近い罰だな。開放されてもその後の仕事にありつくことはない。そのまま野垂れ死にだ。それが当たり前の世界だ。だから儂はお前に襲われる可能性もちゃんと伝えた上で、この一家を購入して危険手当として10年は何もしなくても食べていけるだけの金を払ってここに寝て貰っていた。お前がちょっとでも自制していれば失われなかった命だ」
断面から血を掬い上げ天之河の顔に塗りたくる。
「温かいだろう。これが命の暖かさだ。それも残り火だけどな。これが命を奪うということだ。さあ、魔族の命を奪ってくると良い。それが勇者なんだろう。いつまでもお遊びダンジョンで楽しんでないで旅立てよ勇者天之河、いや殺人鬼天之河」
腸を引き抜いてマフラーのようにして巻いてやる。それが限界だったのだろう。暴れようとする天之河に専用に用意した種を打ち込んで発芽させる。神星樹の応用で生み出した経験値や能力、もっと言えばこの世界で得た異物を糧に実を付ける。手早く処理して天之河を完全に絞め落とす。ロープで両手足を拘束して転がす。
「ふん、最後までマネキンに気が付かなかったか」
「いや、これ、本当にマネキンなの?本物にしか見えないんだけど」
八重樫が顔を青くしながら聞いてくる。
「ハジメが適当に余っている魔物の素材を使ったマネキンだ。作りが甘いから骨が変な形しているだろう?」
両断されたマネキンを適当に解体して背骨を見せる。一瞬これでバレるかとヒヤヒヤした。
「いや、そんな事言われても普通はわからないから」
「そうか?分かりやすいと思うんだがな。とりあえず、天之河の化けの皮はこれで完全に剥がれた。儂らが地球に戻る術を得るまで大人しくしておれ。生活費が稼げる程度にお遊びダンジョンに潜っておればいい。そうすれば、
これで危険は減るだろう。あとは、1人こちらに引きずり込むのと、1人スカウトしないとな。
「そんなに緊張するな遠藤。儂はお前のことを高く評価している」
「いや、オレなんて全然だろ。南雲もやばいけど、七夜の方が、こうなんていうか、裏方じゃなくてなんだっけ?」
「裏のボス、黒幕か?」
「そう黒幕」
「まあ、あながち間違いでもない。ハジメはバラモスで儂はゾーマで間違いない。だがな、バラモスに恩義を感じておるゾーマだ。そこは間違えるな」
「ええっと、王様でも戦場で危険に陥った所を成り上がり男爵に助けられてお気に入りになるって感じでいいのか?」
「ここまでの経験をして、なおもラノベ風に解釈できるとは精神的にもタフだな」
「いや、逆にそう考えないと耐えれそうにない。それで、何をさせる気なんだ?」
「これまでと同様だな。普通にクラスメイトと一緒にいればいい。だが、万一の場合、助けれるだけ助けろ。そのための力と装備、技術を与える」
目の前のテーブルにこの前のスニーキングアイテムと天之河から抽出した神星樹の実を並べる。
「遠藤、お前は存在感の薄さに悩んでいるようだが、それは技術として身についていないからだ。簡単に言えばお前は悟天状態だ」
「つまり超サイヤ人には成れても舞空術が使えない。その舞空術というか気のコントロールで存在感を出せるってことか?」
「そういうことだ」
「へへぇ、よろしくお願いします七夜様!!」
見事なジャンピング土下座を見せる遠藤にちょっとだけ不安になる。不安になるが期待の方が上回るので良しとする。
「七夜!!俺に何をした!!」
カフェで新たな食材の種を作っていた所に天之河が怒鳴り込んでくるが、そちらに顔を向けずに面倒くさそうな態度で答える。
「子供が刃物を振り回していたら取り上げるだろう。同じことだ」
「取り消せ!!俺は子供なんかじゃない!!」
「そうか、大人として扱ってほしいか」
骨を折らないように力加減に気をつけて天之河を蹴り飛ばす。地面を転がっている天之河を見下ろしながら会計をテーブルに置く。店への迷惑代も兼ねて多めに置いておく。未だに地面に寝転がっている天之河を路地の方へと投げ捨て、全身を痛めつけるように蹴る。動けなくなった所で装備や財布、ステータスプレートを奪い取り糞尿の溜まりどころに投げ捨てる。
「これがこの世界での生意気な大人に対する行いだ。そのまま朽ち果てろ」
これで契約は終了だ。これで旅の続きができる。ミュウにはこんな黒い面を見せるわけにはいかないが、あまり待たせすぎるのも問題だからな。まさか儂が子供の面倒をみる日が来るとは思ってもみなかったわ。
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天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:
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「あまり旅って感じがしないのね」
クラスメイトが現状維持に傾いたことでまとめ役から開放された八重樫、全員が名前呼びなのだからと名前で呼ばされるようになった雫が助手席でぼやく。
「どうもきな臭い感じが濃くなってきてるからな。出来るだけ急がないと面倒が増えるぞ」
遠藤からの定期連絡から王城内で言動が急に変化する者が増えているどころか、人に擬態している何かが存在していると伝えられた。おそらくだがエヒトが世界をかき混ぜるために使っているマドラーだろうと予想を付けマーキングだけするように指示を出した。
「それにしても光輝は大丈夫かしら」
「坂上からみても駄目だと思えば力ずくで止めるように言ってある。改良した部分欠損すら治療可能な仙豆も王国に知られないように谷口に渡しておいた。他にもいくつか保険は用意してきた」
「いつの間に」
「言っただろう、これでも元暗殺者だ。世界が変わろうと人間なんて変わらないんだよ。上下関係をはっきりさせればあとは従順だ。時折締める必要もあるがな。そこらは別の機会にレクチャーしよう」
「いや、そんなのをレクチャーされてもって、またその可哀想な物を見る目は止めてよ」
「だって、なぁ」
「何があるっていうのよ」
「儂の口からは何とも。八重樫家に関わることだし」
ガチの忍者の家系だってのに裏に関わらずに済むわけ無いじゃん。
サンドワームを排除し、倒れている男を診察すると結構やばい状態だった。香織でも治療に苦戦するようなので気休めを施す。
「ちょっとだけ我慢しろよ」
男を仰向けにして4箇所のツボを突く。
「むっ、急に身体が軽くなった」
「気休めだが効果はあるようだな。肉体を活性化させる秘孔を突いた。魔力に耐えられる身体になれば多少は保つのだろう?」
「いやいやいや、ツッコミが追いつかなくなるから止めてよ。秘孔って北斗神拳!?」
「正確にはただの鍼灸だな。さすがに爆散させたりは出来ない。精々この刹活孔もどきが限界。毒耐性というか免疫力を高める方が楽だったりする。ちなみに検体は4人ほど」
「げっ、お前いつの間に突きやがった!!」
「大迷宮でハジメを拾ってカレー粉を試す前ぐらい」
「全然気づかなかった」
「あの体がボロボロにされるのに耐えている時にこっそりとな。2回目からは問題なかっただろう。ちなみに雫も既に押してある」
これでも健康には気を使っていたんだぞ。儂らの食生活って結構あれだから。
「動ける者は全員手伝え!!隣の病室にうつ伏せに寝かせろ!!」
話に聞いている以上に事態は逼迫していた。診察する余裕もない。全員に刹活孔もどきを叩き込む。病床から起き上がれない者ではなく、まだ動ける者を優先して処置を施し回転率を上げる。
「いいか、これで治ったわけではない。ただの気休めだ。それでも数日は保つ。その数日で薬は届く。諦めるな!!」
病は気からと言うが、気合があれば多少の延命になる。生きる希望を失った者から次々と倒れる。
「手が空いている者は全員患者を動かせ!!この場以外でも良いから一箇所に集めろ!!毒の入っていない水がすぐに用意される!!余裕がある者は農業区画に行け!!」
そこにユエが用意する水がある。それが希望となれば持ちこたえれる者が出てくる。
「おら、死ぬんじゃない!!子供が親より先に死ぬことほどの親不孝は無いんだぞ!!」
どれだけの人数を処置したのか考えるのすら無駄と割り切って処置を続ける。体が出来上がっていないが故に数の少ない子供の患者に刹活孔もどき以外の処置も施す。
「糞が!!時間が足りん!!」
天之河に植えた神星樹を改良して一定量の血中の魔力を吸い上げる物をマルチタスクで組み上げていくが時間が足りない。仙豆には魔力が含まれているために逆効果なのが最悪だ。儂のスキルは万能に近いが時間と死にだけは勝てない。腑抜けていたのは儂も同じだったようだな。自惚れてもおった。ミュウが、娘のような存在が出来たことでそれがよく分かった。だが、それが悪いことではない。儂にも、普通の人間らしい感性が芽生えておるということだからな。
「って、そうか!?この手があった!!」
自らに刹活孔もどきと限界突破を行う。自分の能力を上げることで捌くスピードを上げる。治療のために刹活孔もどきを突きすぎていた所為で本来の肉体の活性化の方を見落としてしまっていた。これは恥ずかしい。
「なんでこう体内残留系が多いかな」
「すまぬのぅ、徹」
「良いから寝てろ。すぐに調整して毒素を抜いてやる」
ティオの傷口から血液を採取して成分をスキルの水質調査で分析する。毒素に見えて実際の所は特殊な魔力であることが判明したので静因石が入手できなかった時用の神星樹の種を調整する。魔力の種類の指定だけで済んだのでそれをティオの手のひらに植える。
「なんか変な感じじゃ」
「我慢しろ。成長が止まれば治療完了だ。それにしても、話を聞く限り魔族も中々やるな。だが、情報は十分に得られた」
「魔物の強化、正確には徹の植物の改造と同じじゃろうが、神代魔法の1つと見ていい。それ1つでこれほどの驚異となろうとは」
「勘違いしているようだが全ては使い方と練度次第だ。儂のこの植物の改造は農家としてのスキルだ。農家という可能性を最大限まで引き出しているにすぎない。だが、神代魔法に劣っているとは思わぬだろう?むしろ神代魔法のすごい所は素養がないはずの者でも継承できることだ。それが使いきれるかどうかは別として」
「それもそうか。それにしても大火山の神代魔法は習得不能となってしもうたの」
「敵は手に入れているようだがな。まあ、使い手が増えない方向で考えるしか無いな」
ハジメの索敵を逃れた時点で大火山の神代魔法は転移系、空間魔法といった所だろうな。使い方次第ではマテリアル体最強呪文と言っても良い。エーテル体やアストラル体には効果が薄いだろうが汎用性は抜群だろう。前者よりも後者に対する攻撃方法がないとエヒト相手は面倒だ。儂は一応重力魔法を利用した因果律すらもすり潰す一撃を用意してあるが世界そのものへのダメージもデカイ。神代魔法のどれかに後者に特攻を持つ物があれば良いのだが。
「とりあえず、治療の目処が立つまでは滞在だな。ハジメ達を追うのはその後だ。幸いにもマグマの流れから大体の位置は追えた」
見事に次の目的地であるエリセンの方に流れていっている。このままなら海中に出るだろう。
「毎度毎度思うのだが、この中にトラブルメイカーがいる」
「言われなくても分かってるよ!!オレだって言いたいんだろ!!」
ハジメ達と合流する前にエリセンでミュウを先に母親の元へ帰そうと思ったのだが、桟橋でハジメ達が揉めているのを見て、ティオに龍の姿のままで降りてもらい揉め事を中断させる。
「まっ、それはともかく無事で良かったよ。さすがに奈落程度ならともかくマグマを潜れっていうのは勘弁して欲しい」
「色々やばかったがな。対策、手伝ってくれよ」
「任せとけ。毒素の治療は既に確立させた」
笑っていると警備兵が怒鳴り込んできたがこっちには紋所があるのだ。まあ、偽造した勅命書なんだけどな。儂が耕した土地の税に関する物の勅命書を書かせたのが役に立った。儂らに対して一切の公的権力の執行の不可、ならびに情報統制。逆らえばその場での処分の許可まで書いてある。背後から胡散臭いものを見る目で見られているが気にしない。ミュウに関してはフューレンの支部長からの使命依頼書とハジメの金ランクで納得させる。これぞ権力の力。
ミュウに腕を引かれる形でエリセンの街を小走り気味に歩き、ハジメ達のとは別の騒ぎを聞きつける。遠目にミュウに似た女性が色んな人に囲まれている。よく見れば両足に包帯が見られる。今にも倒れそうな姿を見てミュウを抱きあげて走る。ミュウも母親に気が付き手を伸ばす。向こうもこちらに気づき、走ろうとして転びそうになるのを限界突破の身体能力で受け止める。周りも受け止めた母親も驚いているが後回し。宝物庫から適当なマント取り出して敷き、その上に母親を座らせてミュウを手渡す。
「奇跡的だったな。もう手放さないように」
なんと声をかけるべきか分からなかったが、とりあえずありふれた言葉を掛けて離れる。最初は二人して再開を喜び、母親が懺悔するように謝罪を続け、それをミュウが慰める。人攫いによる過酷な環境、命を狙われる恐怖、そしてアンカジでの鉄火場の空気に触れたミュウは大きく成長した。子供は大人よりも成長が早い。短期間で普通の大人以上の経験をしたミュウは別れた時とは大きく違っている。それが分かったのか、全身から力が抜けて、優しく抱きしめている。ミュウも甘えるように抱きついて、足の包帯に気がつく。
「トオルパパ、ママの足が!!」
ミュウのトオルパパ発言に周りがざわつく。意外でもないが狙っている男が多いようだ。女性陣も心配しているようだが、そんなことは後回し。ミュウの期待に答えてやらないとな。ミュウの母親をミュウごと横抱きに抱えあげて家まで運び、ソファーに座らせる。
「少し確認させてもらう。足を触るが大丈夫か?」
「え、ええ」
少し触ってみるが反応が鈍い。視覚情報からの幻痛だな。ということは神経系はほぼ駄目になっている。さすがにこれは北斗神拳もどきでは無理だな。となると仙豆改しかないな。
「かなり酷い火傷だな。高位の蘇生級が必要なほどだ」
「はい。治療を施してくれた方からそう聞いています」
「まあ問題ない。手持ちの薬で十分治療可能範囲だ。ちょっと特殊で豆の形をしているが効果はお墨付きだ」
仙豆の詰まった袋を取り出して1粒を手渡す。
「そんな貴重な物、いただけません」
「いや、貴重でも何でもない。地面さえあれば幾らでも量産出来るからな」
10粒ずつの小分けにしてある袋ではなく100粒入の袋を見せてやる。在庫はまだまだ残っているのだ。これを世間にばらまくつもりはないが、半身内なら別に構わないだろう。
「それに仲間に高位蘇生系が使えるのが居るが、手間を考えるとその薬で治療した方が楽だ。だから遠慮する必要はない」
「ママ、大丈夫だよ。トオルパパ、すっごいお医者さんなの!!この前もいっぱいの人を助けてたの!!」
別に医者ではないのだがそれを言うとミュウが笑顔を曇らせるので何も言えない。母親もミュウの説得によって渋々だが仙豆を口にする。その説得の内容がハジメなら顔面赤化すること間違い無しのような内容だったが気にしない。そして仙豆によって火傷の痕が綺麗に治り、足を触って感覚があることに驚いている。治ったことを試そうと勢いよく立ち上がり、弱っていた筋力に気づかずに転びそうになるのを抱きとめる。
「しばらく歩いてなかったんだ。しばらくは歩く練習からだな」
手を引いて立たせて横に立ってエスコートする。そのまま家を出て心配そうにしていた住人達に元気になった姿を見せる。そこの男泣きしている下心満載の男共騒ぐな、新しい春が来たとか言わないでおばちゃんたち、ミュウもパパはすごいのってアピールしない、周りからの話で名前を知ったがレミアさんも満更ではなさそうに頬を赤く染めないでくれ。によによしているハジメはあとでぶっ飛ばす。外堀どころか内堀まで埋められて城門まで打ち破られた気がする。
そのままレミアさんが復調するまで世話になることになったのだが夜に問題が起きた。ミュウにとっては父親と母親と一緒に寝るのは当たり前だとばかりに主張し、レミアさんも普通に受け入れるどころか狙われている気がする。ハジメ達に縋ろうとするとあとはご三人でごゆっくりと見送られた。雫だけが苦笑していたが助けてくれなかった。結局、ミュウを真ん中にして同じベッドに身を任せることになってしまった。
「うふふ、こんなに楽しそうにするミュウを見るのは初めてです」
「故郷に、母親の元に帰ってこられたのだからな」
「それだけではなく新しいお父さんもいるからでしょう。ね、あ・な・た」
「本気、いや、正気か?今日あったばかりの得体のしれない男相手に何を言っているんだ」
「ミュウがあんなにも信頼してますし、私も夫に先立たれて5年になりますしそろそろいいかと」
「いやいや、レミアさんならよりどりみどりでしょう。こんな訳の分からない、いや、茶化すのはやめよう。真面目に儂はまともな産まれ方も生き方もしていない。何処まで行っても普通には成れん」
「あら、元々種族が異なるんですもの。お互いの普通は普通でもないでしょう?」
「……いや、確かにそうだが、儂にはまだまだやらねばならないことがある」
「ええ、分かっています。それが大変なことも、ただ、それを絶対に成し遂げることも」
まっすぐと疑うことすらなく儂を見つめるレミアさんに背中がむず痒い。ハジメやミュウから寄せられる信頼とは別物で、これが男女間での信頼なのだろうか。今更だが、儂は信頼されて頼られることが好きというか、嬉しいと思う人種だったのだと理解させられた。寄せられた信頼に応えたいと思っておる。
「……すぐに答えは出せないが、前向きに考えてはみる」
「はい」
う〜む、儂、ここまでチョロかったか?
「いや〜、見事に熱々夫婦だったねぇ」
「そうだよね、理想的な家族だったよね」
「ん、いつかハジメと一緒にあんな風になる」
「完全に父親じゃったのう」
女性陣から逃れるように装備の点検と重力魔法の練習を行う。ミレディはこいつをただの押しつぶす力としてしか使えなかった。重力の特性と行き着く先を知らないからだ。重力とは宇宙に存在する絶対法則の1つ。これを使いこなすことで因果律すらも捻じ曲げ、すり潰すことが出来る究極の力を得ることが出来、繊細に扱うことで汎用性を得ることも出来る。
最大出力を使うことは出来る。時間はかかるがこれは慣れで短縮されていく。繊細に扱うのは未だに微妙だ。当分は重力魔法の制御を重点的に鍛えないとな。
「……雫、生きてるか」
「私よりも七夜の方が大変じゃない!!仙豆、うっ、落とした!?」
クリオネというか、スライムというか、よく分からない魔物から逃走するために足元を崩し、激流に身を任せる事になったのだが、よりにもよって一番弱い雫だけがはぐれそうになってしまった。追いつける手段が重力魔法しかなく、演算も間に合わず左半身を高重力で潰すことになった。よりにもよって宝物庫の指輪と仙豆の入った小袋ごとだ。雫も落としたようで回復手段は原始的な応急処置と北斗神拳もどきだけだ。とりあえず止血だけは行っておく。
「雫、予備の刀を2本貸してくれ」
「どうするの?」
「1本は添え木代わり、もう1本は杖代わりだ。ハジメたちは儂ならどんな状況でもなんとかすると思っておるから助けは来んぞ」
さすがにここまで致命的な状況になるとは思ってないだろうからな。儂も想定外だ。雫に応急手当を手伝ってもらいながら今後のプランを組み立て直す。
「信頼が仇となってるわけね。縛るわよ」
感覚はほぼなし。それでも義足と考えれば歩けるな。
「肩、貸すわ」
「止めておけ。両手は確保していろ。オルクスのお遊びダンジョンとは比べ物にならないのは今の時点で分かっているだろう?」
「それは」
「お遊びが100層、本番も100層、ちなみに魔族が連れていた魔物は本番の10層程度の能力だ。こんな死にかけでも、雫の方が命の危険がある、ぞ」
近寄ってきていた保護色で隠れている蛇を杖代わりの刀で頭を地面に縫い付ける。
「ちなみに魔物でもなく普通の蛇だな。毒持ちみたいだが」
まあ、今は注意散漫でも許そう。立て直すには経験が物を言うからな。
「物理無効、物理に魔力は魔力分だけ、魔術も魔力分だけで副次効果は効いていない。雫、どうする?有効な手立てがないだろう?」
「まだやれるわ!!」
狂信者の幻影を魔力をまとわせた刀で切り捨てていく。幻影と分かっていても狂信者とやりあうのは精神を削られる。超アウェイ空間だからな。これが普通の人間なら火を放って丸焼きにするのが一番ラクなのだが、魔力しか干渉出来ない以上は広範囲に重力魔法をかけて纏めてかき消すしかない。雫も狂信者の空気に飲まれてちょっと変になっているのでそろそろ終わらせる。合図もなしで広範囲に重力魔法を発動し、雫が振り返った所で胸ぐらをつかんで頭突をお見舞いする。余計な怪我をしないように額同士をぶつけるようにしたので痛みと衝撃の割には怪我をしにくい。
「いきなり何を」
「雫、儂の目を見ろ」
「何「良いから儂の目を見ろ!!そうだ、よく見ろ。これが狂信者ではない者の目だ。よく見て、忘れるな。ほら、深呼吸だ、吐いて、吸って、吸って、吐いてー。もうワンセット」
よしよし、狂気の影響が引いたな。なら次に来るのはアレだ。儂を振り払って物陰に飛び込む雫を見送り、背の低い椰子の木を育てる。急成長した椰子の実をもぎ取り、端っこを切り落として飲めるようにしておく。
神代魔法を手に入れたというのにクリオネ型の魔物に再度襲われる。前回は逃げるしか手がなかったが今回は違う。
「喰らえ!!重力魔法と再生魔法の合わせ技!!」
重力魔法でのブラックホールの生成、そして再生魔法によるブラックホールの影響を受けている状態から受けていない状態への再生。再生魔法の射程が短いからこそコントロールを無視することが出来る荒業だ。絶対使い方を間違っていると思うが気にしない方向で。
柱の後ろから飛び出して頸動脈を締め上げる。5秒と立たずに無力化した兵士を客室らしき部屋に押し込む。これで巡回は全部潰した。念話石に合図を出してから本来の目標に取り掛かる。遠藤からリアルタイムで送られてくる位置情報を元にターゲットに接近し、忍ばない忍者共の螺旋の玉をモデルにしたブラックホールを背後から叩き込む。再生魔法でパッケージすることで周囲への影響をゼロにすることに成功した便利な魔法だ。ターゲットが驚きながらも何らかの魔術を発動したのか廊下の一部が崩れる。崩れ去った石の一部を触ってみる。綺麗にバラバラな感じから分解でもされたのだと当たりをつけておく。この分解が魔力にも通じるのかどうかで正体が見えてくるはずだ。