狂犬と消失少年   作:火の車

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瑠唯さんが言ってた「あの子」ってまさか、りん......?


片鱗

 朝、俺はいつも通りバイト前に二人のご飯を作っていた

 

 今日は昼も帰ってこれないし、朝と昼、両方作って行かないといけない

 

陽介「__よし。」

 

 俺は朝ごはんを二人に出しに行った

 

チュチュ「おはよう、陽介。」

パレオ「おはようございます!」

陽介「あぁ、おはよう。朝ごはん、ごうぞ。」

 

 俺はテーブルの上に料理を並べた

 

 二人は席に着いた

 

陽介「今日は昼に帰ってこれないから、お昼ご飯は作ってあるのを温めて食べてくれ。」

パレオ「はい!分かりました!」

チュチュ「OK。」

陽介「じゃあ、もう時間だから行ってくるな。」

チュチュ「行ってらっしゃい。」

パレオ「行ってらっしゃいませー!」

 

 俺はそんな二人の声を背に家を出た

 

チュチュ「......あっ。」

パレオ「どうしました?チュチュ様?」

チュチュ「そう言えば、あの事を陽介に言うのを忘れてたわ。」

パレオ「あ!」

チュチュ「まぁ、大丈夫ね。陽介、弁当を作る時間がないって言ってたし。」

__________________

 

 外はもう7月なだけあって、かなり暑い

 

 記録的猛暑、なんて毎年聞くけど

 

 本当にそう感じるほど暑いんだよな

 

 そんな事を考えながら、歩いてるうちにギャラクシーに着いた

 

陽介「__おはようございます。」

六花「あ!出水さん、おはようございます!」

陽介「おはよう、六花。」

 

 建物の中に入るともう、六花がいた

 

 結構ギリギリになったな

 

陽介「すぐに着替えてくるよ。」

六花「はい!」

 

 俺は更衣室に向かった

__________________

 

 更衣を済ませ、俺は業務を開始した

 

 この時期はなんせ、ライブの予約が多い

 

陽介(この辺りはある程度サークルに集まるって言っても、それでもすごいからな。)

 

 パソコンの画面には多くのバンドの名前が並んでる

 

 そして、それぞれのセトリ、照明や機材の配置の要望

 

 その他にもまとめる情報が多すぎる

 

陽介「......あれ、これ。」

 

 Poppin'Party

 

 そのバンドが目に留まった

 

 どっかで聞いたことあるな

 

陽介「うーん。」

六花「__どうしたんですか?出水さん?」

陽介「六花か。いやな、このバンド、どっかで見たか、聞いたことある気がして。」

六花「あ!ポピパさん!!!」

陽介「!?」

 

 パソコンの画面を見ると、六花が急に大きな声を出した

 

 ポピパ、さん?

 

 あ、思い出した

 

陽介「そう言えば、いっつも六花が言ってたな。」

六花「はい!ポピパさんはとっても素敵なバンドで、大ファンなんです!」

陽介「へぇ、あの六花が。」

 

 六花の演奏技術は凄く高い水準だと分かってる

 

 そんな六花が好きなバンド、少し興味があるな

 

陽介「夏休み中にここでライブするらしいな。」

六花「はい!知ってます!」

陽介「まぁ、だよな。」

 

 六花の態度を見れば、もうライブの事を知ってるのは分かる

 

 チケットの発行も明日からだし、六花は最速で取るんだろうな__

 

六花「もうチケットも頂きました!」

陽介「いや、最速越すのか。」

六花「え?」

陽介「いや、なんでもない。」

 

 驚き過ぎて声が出てしまった

 

 Poppin'Partyのライブの日は六花はバイトの日ではないし

 

 相当楽しみだったんだろうな

 

陽介「......まぁ、楽しむといいよ。俺はちゃんとお仕事しておくからさ。」

六花「はい!お願いします!」

陽介「じゃあ、俺は作業に戻るよ。」

 

 俺はそう言ってパソコン画面に目を移した

 

 前に結構進めてたから、今日の作業は比較的に楽だ

 

 間違えがないかの確認、急な変更にもある程度対応できるようにしておくとか、それだけだ

 

陽介(このバンド、セットの内容が多いな。少しならいいが、大幅な変更があったら骨がリアルに折れそうだ。)

六花「......」

 

 内容はバンドで大きく異なる

 

 でも、照明が派手なバンドとか、こだわりが強かったりするバンドは大変だ

 

 まぁ、チュチュよりマシだがな

 

六花(真面目に働いてる......)

陽介(......ん?)

 

 六花から視線を感じる

 

 やばい、なんかやらかしたか

 

六花(パソコン、打つの早いなぁ。指も綺麗で、女の子みたい。)

陽介(な、なんだ?ずっと見てるぞ?)

六花(首も細くて......)

陽介「あ、あの、六花?」

六花「ふぇ?は、はい!」

陽介「さっきから、ずっと見てるけど、どうした?」

六花「」

 

 俺がそう聞くと、六花が固まった

 

 そして、段々、顔が赤くなっていった

 

六花「な、なんでもないんです!///ごめんなさい!///」

陽介「いや、何もないならいいんだ。」

 

 俺はそれだけ言って、作業に戻った

 

六花(なんで、出水先輩の子と見てたんだろ?)

陽介(あー、焦った。何かミスしてるのかと思った。)

 

 俺はそうして、昼まで作業を続けた

__________________

 

陽介「__あー。」

 

 昼休憩の時間になった

 

陽介(なんとか、昼までに作業が終わった。昼からは、近日中にあるライブの準備しないと。)

美子「__陽介くーん?」

陽介「はい?」

 

 俺が一人で椅子の背もたれにもたれかかってると、店長が顔をのぞかせた

 

 何か用がある様子なので、俺は店長の方に行った

 

陽介「どうしましたか?」

美子「出水君にお客さんだよ。」

陽介「お客さん?」

 

 思い当たる人物がいない

 

 佐藤なら遠慮なく入って来るし、チュチュとパレオはライブの準備にかかりっきりだし

 

 何者だ?

 

美子「可愛いお客さん、だよ?」

陽介「?」

 

 俺は訳が分からなかったが、お客さんとやらの所に向かった

__________________

 

 確か、店の方にいるって聞いたけど

 

 どこにいる

 

陽介(......あっ。)

日菜「よ、陽介君!こんにちは!」

 

 お客さんとは氷川さんの事だったようだ

 

 ひとまず、詐欺とかそういう類じゃない

 

陽介「どうしたんですか?」

日菜「え、えっとね、チュチュちゃんから陽介君、お昼持って行ってないって聞いて。」

 

 氷川さんはそう言って、カバンの中から弁当箱を取り出した

 

日菜「その、お昼、作ってきたの......///」

陽介「!?」

 

 この人、料理とかするんだとか、なんでわざわざ作って来たんだとか、そう言うのはいい

 

 どういう意図なのか分からないけど、良い思いをしてるわけだし

 

 何がまずいって、俺、味を感じないんだよ

 

陽介(だからと言って、断ると、あらぬ誤解を招くし。)

日菜「陽介君......?」

陽介「い、いや、その。」

日菜「やっぱり、いらなかったかな......」

陽介「!」

 

 氷川さんは悲しそうな声でそう言った

 

 女子が悲しむのは良くない

 

 氷川さんは善意でしてくれてるわけだし

 

 そう思ってからの、俺の行動は早かった

 

陽介「お昼を持ってきてくれたのは、嬉しいですよ。」

日菜「え......?」

陽介「ただ、少し事情があるので、お話しします。」

 

 俺は氷川さんに味を感じない事を話した

 

 それで、わざわざ作ってきてくれたのが申し訳ないとも話した

 

日菜「__そ、そうだったんだ......」

陽介「はい。わざわざ作ってきてくれたのに、すいません。」

日菜「いやいや!陽介君は悪くないよ!」

陽介「いえ。俺の身体の事です。」

日菜「あと、栄養は考えて作ったから、食べるだけ食べてみて!」

 

 氷川さんはそう言って、弁当箱を開けた

 

 確かに、栄養バランスは見た感じ、すごくいい

 

陽介「それじゃあ、いただきます。」

日菜「うん!あ、お箸!」

陽介「ありがとうございます。」

 

 俺は氷川さんから箸を受け取った

 

陽介「それじゃあ、いただきます。」

日菜「うん!めしあがれ!」

陽介「じゃあ、まずはハンバーグから。」

 

 俺はハンバーグを箸で割り、口に運んだ

 

陽介「!!!」

 

 口に入れた途端、俺の身体に衝撃が走った

 

 信じられない、なんでだ

 

 しばらく、縁遠くなってた間隔、これは......

 

日菜「よ、陽介君......?」

陽介「お、美味しい?」

日菜「え?」

 

 自分でも信じられない

 

 俺からは味覚が消えてるはず、味を感じるわけない

 

 でも、今......

 

 俺は二口目を口に運んだ

 

陽介「やっぱり、美味しい。」

 

 信じがたい、けど、俺は確かに味を感じてる

 

日菜「ほ、ほんとに?」

陽介「は、はい。信じがたいですが、美味しい、味を感じてます。」

日菜「......」

陽介「氷川さん?」

 

 感想を言うと、氷川さんは静かになった

 

日菜「__やったー!!」

陽介「!?」

日菜「よかった、頑張った甲斐あったよ!」

 

 氷川さんはそう言って、喜んでいた

 

 俺はその姿を見て、心が温かくなった

 

陽介(......あれ?この感じ。)

 

 感じたことがある

 

 暖かくて、幸せで、楽しく笑いかけてくれる人がいる

 

陽介「__あ。」

 

 あった

 

 小さいときに、家族でご飯を食べてた時に感じてた

 

 母さんは感想を聞いて来て、父さんはそれを嬉しそうに見てた

 

 俺はそれを思い出しながら、弁当を食べ進めた

 

陽介(小学校くらいの時、本当に家族で食べるご飯が楽しくて毎日早く帰ってたっけ。それで、父さんの帰りを母さんと一緒に待って。)

 

 暖かい記憶が溢れてくる

 

 優しくて、誰も傷ついてない、優しい時間

 

陽介(確か、母さんの作ったハンバーグが一番だって、クラスメイトと喧嘩したこともあったなぁ。)

 

 俺はそんな事を思いながら、最後の一口のハンバーグを口に運んだ

 

 そして、弁当箱の中身はすべてなくなった

 

陽介「ごちそうさまでした。」

日菜「うん!」

陽介「ありがとうございました。本当に、美味しかったです。」

日菜「陽介君?」

陽介「はい?」

 

 氷川さんは不思議そうに俺の顔を見ている

 

 何かついてるのか

 

日菜「なんで、泣いてるの?」

陽介「え?」

 

 頬に触れると、生ぬるい液体の感触があった

 

 涙が流れてる

 

 でも、なんでだろう

 

陽介「......なんだろ、これ。」

日菜「うーん、疲れてるんじゃないかな?」

陽介「疲れ?」

日菜「うん。少し寝たら?」

陽介「......そうですね。奥に戻って__」

日菜「はい!」

陽介「?」

 

 俺が立ち上がろうとすると、氷川さんは自分の膝を叩いていた

 

 何のサインだろうと思い、俺は数秒その光景を見てた

 

日菜「あたしの膝、使いなよ!」

陽介「いや、悪いですよ。」

日菜「いいよいいよ!......そもそも、陽介君以外にはしないよ///」

陽介(......ふむ。)

 

 女子の膝枕は正直、かなりの特権だ

 

 ただ、俺と氷川さんは付き合ってるわけでも、ましてや身内でもない

 

 そんな相手にしてもいいものなのだろうか

 

日菜「あ、大丈夫だよ!お仕事が始まる前に起こすから!」

陽介「いやそういうことじゃ......」

日菜「ほら!おいでおいで!」

陽介「......」

 

 俺はかなりチョロいらしい

 

 疲れてるのもあっただろうけど、結局、日菜さんの膝枕にお世話になることになった

 

陽介(......柔らかい。)

日菜「ゆっくり寝てね。」

 

 氷川さんは気を使ってか、かなり小さい声で俺にそう言った

 

陽介「......すいません。」

 

 俺はそう言うと同時に、意識を手放した

 

 ”日菜”

 

 陽介君はすぐに寝ちゃった

 

 本当に疲れてたみたい

 

日菜(それにしても......)

 

 あたしは眠ってる陽介君を見た

 

 穏やかな表情で寝息を立ててる

 

日菜(か、可愛すぎるよぉ......///)

 

 眠ってる陽介君は、いつもの影がかかってる感じじゃなくて

 

 すごく、幼く感じる

 

 この間まで、こんな姿を見せてくれるなんて、考えられなかった

 

日菜(す、少しだけ撫でちゃダメかな?///)

 

 起こしちゃうからダメ、そう思っても手は言うことを聞いてくれない

 

 段々と陽介君の頭の方に伸びていく

 

陽介「......ん。」

日菜「!」

 

 もう少しで触れるところで、陽介君の口が動いた

 

 今、なんて言ったんだろう

 

陽介「......かあ、さん......」

日菜「っ!」

 

 陽介君がお母さんを呼んだ

 

 確か、陽介君はお母さんとお父さんに捨てられたって言ってた

 

日菜「よ、陽介君......」

陽介「......」

 

 陽介君の目から、涙が零れて、あたしの太ももにまで滲んできた

 

 その涙はひどく冷たく感じた

 

 まるで、温度がなくなったみたいに

 

 あたしは静かに、陽介君の涙を拭いた

 

 その後、陽介君を優しくなでた

 

日菜「大丈夫だよ。陽介君。」

陽介「......」

日菜「今の陽介君の周りにいる皆は誰も、陽介君を置いて行かないから。」

 

 そう言うと、陽介君の表情が少し柔らかくなった気がした

 

 こんなに寝てるのに、起きてるんじゃって疑っちゃった

 

日菜(あたしも、絶対に陽介君を置いて行ったりしない。嬉しくないかもだけど、あたしはそうしたい......)

 

 あたしは心の中でそう呟いた

__________________

 

 ”六花”

 

六花「......」

 

 お昼を済ませて、ギャラクシーに戻って来ると

 

 出水さんと氷川先輩がいた

 

 出水さんは氷川先輩に膝枕をされてる

 

六花「......」

 

 私は扉の隙間からその光景を見てます

 

 穏やかな表情で眠ってる出水さん

 

 それをいつからは考えられない優しい表情で見てる氷川先輩

 

 そんな、微笑ましい光景

 

 普通なら、そう思うはずなんです、でも......

 

六花「......っ。」

 

 なんで、こんなに胸が苦しいんだろ......

 

 私だって、膝枕くらいできます

 

 お昼ご飯だって、作って来れます

 

 私の方が出水さんと一緒にいました

 

 一緒にお勉強もしました、メールだってよくします

 

六花(なんで、私じゃ駄目なんですか......)

 

 黒い感情がずっと渦巻きます

 

 私は氷川先輩よりも前から、出水さんの事情を知ってました

 

 氷川先輩はつい昨日じゃないですか

 

 なんで......

 

六花「出水さん......っ。」

 

 胸が苦しい

 

 何かに握られてるみたい

 

美子「__六花ちゃん?」

六花「っ!?」

美子「そんなところで何してるの?入らないの?」

六花「す、すいません、もう少し外に出てます。」

美子「え?六花ちゃん?」

 

 私は店長にそう言って、階段を上がって行きました

 

美子「六花ちゃん......?」

 

 

 




モニカ新作は準備がおおよそ整いました
自分は最初ましろが好きでしたが、ストーリーを読んで好きなキャラが変わりました
(ただ、ましろも性格に人間味があって好き)
なので、その子をヒロインとします。

明日にでも投稿するのが、良いんでしょうか。
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