ますき「__ただいま。」
陽介「......」
俺は佐藤に引っ張られ、佐藤の家と思われるところに来た。
ますき父「遅かったな、ますき__って、男!?」
ますき母「え!?」
ますき「話を聞け。」
佐藤はお父さんとお母さんに事情を説明した。
最初は複雑そうな顔をしてたますきのお父さんとお母さんも話が進むにつれ神妙な表情になって行った。
ますき父「そんな事が......」
ますき母「ひどい......」
ますき「あぁ。だから取り合えず今日はここに泊める。」
ますき父「そういう事なら仕方ないだろう。むしろ好きなだけ泊ってくれていい。」
ますき「だってよ、出水。」
陽介「......ありがとうございます。でも。」
ますき、ますき父、母「?」
陽介「すぐに出ていきます。」
ますき「なんでだ!?」
陽介「......一人で考えたいこともあるから。」
ますき「......」
佐藤はそれ以上何も言わなかった。
俺の心中を察してくれたんだろう。
陽介「今日はお世話になります。佐藤のお父さん、お母さん。」
ますき父「あぁ。」
ますき母「えぇ。」
その後、俺は佐藤のお父さんに言われ、風呂に入ることにした。
__________________
陽介「__ふぅ......」
俺は体を洗って、湯船につかった。
『......今まで君が感じてた両親の愛情などは忘れた方がいい。』
陽介「......クソ。」
嫌でも思い出す、あの言葉。
認めたくない、嘘であってほしい、夢であってほしい。
そう願っても、これは現実で、残酷に俺に降りかかってくる。
陽介(なんで、なんでだよ......)
目を閉じれば、昨日の事のように家族との思い出が蘇ってくる。
小さい時から今まで、俺は親の愛を疑ってきたことはなかった。
間違ったことをすれば叱ってくれて、良い事をすれば優しく褒めてくれた母さん。
仕事帰りにいつもお土産を買ってきてくれて、いつも優しかった父さん。
陽介(全部、嘘だったのかよ......)
自然と涙が零れる。
目を失った事より、何より、家族を失った。
それが何より悲しい。
陽介(......俺に生きる意味なんかあるのか?)
そんな考えが頭をよぎる。
湯船にたまったお湯が目に入る。
思えば、俺にはもう、何もない。
陽介(ここで溺れれば、俺は死ねるのか......?)
俺は湯船に顔を近づけていった。
生きることも考えたけど、俺には何もないから__
ますき『__おい、出水?』
陽介「......佐藤?」
ますき『着替え、ここに置いとくぞ。親父ので悪いけどな。』
陽介「あ、あぁ。ありがとう。」
佐藤はそう言うと着替えを置いて風呂場を出ていった。
陽介(ここじゃ駄目だ。佐藤の家族に迷惑がかかる。)
死ぬなら誰もいない、静かな場所で。
そう思いながら、俺は風呂からあがった。
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風呂を上がると、夕飯の用意がされてた。
ますき「__お、あがったか。座れよ。」
陽介「お、おう。」
俺は佐藤に言われて席に座った。
ますき父「じゃあ、食べようか!いただきます!」
ますき「いただきます。」
陽介「いただきます。」
夕飯を食べ始めた。
今思えば、久し振りに病院食以外を食べる。
そして......
ますき父「__いやー、ますきが男を連れてきたときは焦ったなー!」
ますき母「そうねぇ。」
ますき「だから違うって言ってんだろ。」
こうやって、誰かと一緒にご飯を食べるのが久しぶりだ。
そして、家族のぬくもりも__
陽介「__!!」
ガチャン!
茶碗を落としてしまった。
陽介「す、すいません。」
ますき母「大丈夫よ?」
ますき「大丈夫か、出水?」
陽介「は、はい。」
ますき父「人間失敗なんていくらでもあるさ!あはは!」
ますき母「そうよ。この人みたいにいくら失敗しても明るく生きてる人がいるもの!」
ますき父「待て、どういうことだ!?」
ますき母「つまり、そういう事よ。」
ますき「まぁ、そうだな。」
ますき父「ますきまで!?」
陽介(......暖かい家族だな。)
心の底からそう思う。
皆が笑いあってて、楽しくて。
陽介(......俺だって。)
俺だってついこの間まで、こんな風に......
俺は食事を済ませた後、どうすればいいか迷ってた。
ますき「おい、出水。」
陽介「どうした?」
ますき「ついてこい。」
陽介「あぁ。」
俺は佐藤について行った。
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ますき「__というわけで、お前にはここで寝てもらう。」
陽介「ここって......」
扉には『ますき』と書かれた札がある。
ここはますきの部屋だ。
陽介「いや、まずいだろ。流石に同級生の男を入れるのは。」
ますき「大丈夫だ、むしろ、今お前を一人にする方がまずいっての。」
陽介「っ......!」
心臓が飛び跳ねた。
そして、自分のさっきの行動を思い出した。
ますき「まぁ、入れよ。」
陽介「......あぁ。」
俺は佐藤の部屋の入った。
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陽介「これは。」
部屋にはぬいぐるみが大量にある。
全体的にファンシーさを醸し出す部屋は佐藤の外見イメージとはかけ離れたものだった。
ますき「......なにか言いたそうな顔をしてるな。」
陽介「い、いや。そんな事ないぞ?」
ますき「まぁ、言いたいことは分かる。見た目とイメージが違う、とかだろ?」
陽介「」
佐藤はエスパーかなんかか?
さっきから心を読まれてる気がする。
ますき「まぁ、いいけどな。私は風呂入ってくる。」
陽介「あ、あぁ。」
そう言って佐藤は部屋から出ていった。
俺は床に座った。
陽介「......よく考えれば、佐藤に似合ってるよな。可愛い物。」
俺はそう呟いた。
佐藤は可愛いし、優しいし。
普通なら、好きになってたかも......なんてな。
ますき父『__陽介君。』
陽介「佐藤のお父さん?」
俺が答えると、佐藤のお父さんは部屋に入ってきた。
陽介「あの、何かありましたか?」
ますき父「陽介君にお礼を言いたくてね。」
陽介「?」
佐藤のお父さんは真面目な表情だ。
ますき父「ますきを助けてくれてありがとう。」
陽介「!」
ますき父「もしも、ますきを失ってたら、そう思うと背筋が凍るよ。ありがとう、陽介君。」
陽介「......いえ、当然の事ですよ。友達が危なかったんですから。」
ますき父「そうか。」
佐藤のお父さんはそう言うと、また口を開いた。
ますき父「陽介君には感謝してる。でも、謝らないといけない。」
陽介「え?」
ますき父「君の左目。」
陽介「!」
ますき父「ますきに聞いたよ。庇ったときに......」
陽介「そんな、気にしないでいいですよ。名誉の負傷ってやつですよ。」
ますき父「俺たちには君に返しきれないほど恩がある。困ったことがあったらいつでも力になるよ。」
陽介「......ありがとうございます。」
ますき父「それじゃあ、ゆっくりしていってくれ!」
そう言って佐藤のお父さんは部屋から出ていった。
陽介(......本当にいいんですよ。あってもなくても変わらないから。)
そう、もう俺には左目があろうがなかろうがどうだっていい。だって__
陽介(__俺はもう、終わりを選ぶから。)
俺がそう思って、しばらく時間が経つと、佐藤が部屋に帰ってきた。
ますき「__ふー、さっぱりした。」
陽介「おかえり、佐藤。」
ますき「あぁ。って、もうこんな時間か。」
時計を見ると、もう12時近い。
ますき「寝るか。」
陽介「そうだな。」
ますき「確か、予備の布団があるから出すかー。」
陽介「俺がやろうか?」
ますき「私もやるよ。」
俺と佐藤は予備の布団を出して敷いた。
そして、部屋の電気を消した。
陽介(......今日に限れば、暗い方が落ち着くな。)
ますき「__起きてるか、出水?」
陽介「どうした?」
布団に入ってから少し経つと、佐藤が話しかけてきた。
ますき「起きてたのか。」
陽介「あぁ。どうしたんだ?」
ますき「......ごめん。」
陽介「?」
ますき「私のせいでお前の目は......」
陽介「あー、その事?別にいいって。」
ますき「よくねぇ。」
陽介「?」
ますき「私はお前の人生を壊したんだ。いいわけねぇよ......」
陽介「......それこそ、どうでもいいよ。」
ますき「え?」
陽介「ますきは助かったんだ。それでいいじゃないか。」
俺は笑いながらそう言った。
陽介「助かってラッキーくらいに思っててくれよ、な?」
ますき「......お前も絶対、救ってやるからな。」
陽介「......」
ますき「じゃ、おやすみ。」
陽介「あぁ、おやすみ。」
それから、俺たちの会話はなくなった。
窓からは月明かりが入ってきて、とても綺麗だ。
陽介(佐藤、ごめん。)
俺は佐藤の方を見た。
穏やかな表情で寝てる。
俺はそれを見て起き上がった。
陽介(俺は、誰にも救えないよ。)
俺は寝てる佐藤に「ありがとう。」と言った。
そして、俺は書置きを残し、佐藤の家を出た。
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