狂犬と消失少年   作:火の車

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再会

陽介「__うん、ここは......?」

 

 目が覚めると、保健室のベッドの上にいた

 

 部屋も暗いし、外はもう夜なんだろう

 

 頭もいたい、どんなに寝たんだ

 

陽介「?」

 

 なんだろう、少し違和感を感じる

 

 暗闇に目が慣れて来た

 

 そして、段々と誰かのシルエットが浮かんできた

 

陽介「湊さん?」

友希那「すぅ......」

 

 どうやら、眠ってるみたいだ

 

 今まで俺についててくれたんだろう

 

 後夜祭をしてる時間だろうに

 

友希那「んぅ......陽介......?」

陽介「おはようございます。」

友希那「えぇ、おはよう。」

 

 湊さんはすぐに目を覚ました

 

 そこまで、深い眠りじゃなかったんだろう

 

 湊さんは目をこすっている

 

陽介「湊さん、目に悪いですよ?」

友希那「大丈夫よ、これくらい。」

陽介「そうですか。」

 

 そこで会話が止まった

 

 寝ぼけた頭が少し冴えてきて

 

 昼の光景が鮮明に蘇ってくる

 

 叩かれた右頬の痛みも思い出して来た

 

陽介(そっか、俺は母さんを......)

 

 俺は自分の親に蹴りを入れて、暴言を吐いた

 

 どんな人間でも、親にそんな事をするのは

 

 やっぱりいい事じゃない

 

友希那「あなたは、どんな人間にも優しいわね。」

陽介「え?」

友希那「自分の親にあんなことをして、心を痛めてるのでしょう?」

陽介「......はい。」

 

 湊さんに俺の事はお見通しらしい

 

 そんなに顔に出てるわけでもないだろうに

 

陽介「昼の俺はどうかしてました。冷静になれれば、もっといい解決策もあったと思います。」

友希那「あなたを全く知らない人から見たら、そうかもしれないわね。」

陽介「はい......」

 

 心臓が痛くなる

 

 暴力でしか訴えられないのは、ダメな人間だ

 

 俺の親と何も変わらない

 

友希那「でも、私からすれば、あなたの行動は正しいわ。」

陽介「!」

友希那「私はあなたの小さい頃の事を知っているから。」

陽介「昼も言っていましたよね?」

友希那「えぇ、あなたは忘れてるかもしれないわね。周りが見えていなかったから。」

 

 湊さんはそう言って、俺の手を握った

 

 暖かくて、優しい手だ

 

友希那「私があなたと出会ったのは10年前。公園の木々の陰だったわ。」

 

 湊さんは静かにそう語り始めた

 

 俺は少し、思い当たることがあった

 

友希那「私が歌っているときに、信じられない姿の男の子が現れたの。」

陽介「信じられない、姿?」

友希那「頭から出血してるのに、医者に言った形跡もなく、適当にまかれた包帯だけ。袖から見える腕には無数の傷が見えたわ。」

 

 湊さんは悲しそうな表情でそう言った

 

 俺は自分のそんな状態を、気にしたこともなかった

 

友希那「その時、私は慌てて問いかけたわ。どうして、そんな怪我をしているかを。」

陽介「......」

友希那「その問いかけに、その男の子は転んだと答えたわ。私は頭が真っ白になったわ。」

陽介(あれ......?)

 

 その話、記憶にある

 

 でも、あの時の子は......

 

友希那「嘘をつかないでと言ったら、あなたはお母さんがそう言ってたからそうなんだよって、笑顔で言ってたわ。」

陽介「!」

友希那「当時は春で暖かくなってきてたのに、私は寒気がしたわ。」

陽介「......(やっぱり、記憶の合致する。)」

 

 確か、それから、俺はその女の子と会うようになって

 

 それで、俺は家で何をしてるか答えた

 

 それが、母さんに見つかって......

 

陽介「ま、まさか、ゆきちゃん......?」

友希那「そうよ!」

陽介「やっぱり。」

 

 俺がここまで話してる相手は1人だけ

 

 でも、あの子は......

 

陽介「ゆ、ゆきちゃんって、年上だったんだ......」

友希那「え?そこだったの?」

陽介「いや、俺も最初は小さいのに歌が上手いなーと思ってて。」

友希那「あなた、失礼ね。」

 

 湊さんは不服そうな表情を浮かべている

 

 俺は苦笑いしながら湊さんをなだめた

 

友希那「でも、そんな事より......」

陽介「っ!」

友希那「なんで、私の前から消えたのよ......」

 

 湊さんは俺に縋り付くように抱き着き

 

 消え入りそうな声でそう言った

 

友希那「最初はあなたの事が怖かった、でも、次第にあなたに歌うのが楽しくなっていたの......」

陽介「湊さん......」

友希那「なのに突然、あなたは消えて......私ずっと、さがして......!」

 

 湊さんは涙声でそう言ってる

 

 でも、俺には引っかかる部分があった

 

陽介「俺の事、いつ気付いたんですか?」

友希那「二回目に会った時、あなたの額の傷が見えて、名前を聞いて確信したわ。」

陽介「そんな時から、気付いてたんですか。」

 

 なんで、湊さんが最初から優しかったとか

 

 あんなに安心できたのとか

 

 色々と合点がいった

 

友希那「あなたが彼女たちといた時点でもう、親がいないと言うのも分かったわ。」

陽介「そうですか......」

 

 湊さんは全部気付いてたわけか

 

 わざわざ、俺の事を覚えてて

 

 今まで......

 

友希那「優しいあなただから、あんな親にでも優しくすると思うわ。」

陽介「......はい。」

友希那「だから、悲しければ私を頼って。いつかは、悲しみからも解放してあげるから。」

陽介「......はい。」

 

 湊さんは優しく、俺の頭を抱いた

 

 俺の方が体が大きいのに、包み込まれる

 

陽介「でも、まだ、終わってません。」

友希那「?」

陽介「俺には、まだやるべきことが残されています。」

 

 俺はそう言って、湊さんを離した

 

 そう、俺にはまだやるべきことがあるんだ

 

陽介「まだ、決着はついてないですから。」

 

 俺はそう言って、ベッドから立ち上がり

 

 服をきっちりと着直した

 

陽介「また泣くのは、全部終わってからにします。」

友希那「決着って......」

陽介「家族と過ごした過去と決別します。」

友希那「っ!陽介......」

 

 体が震える

 

 捨てるのが怖いのは、俺の性なんだろう

 

 でも、捨てないと俺は前に進めない

 

陽介「......っ。」

友希那「陽介?」

陽介「はい?__!?」

 

 湊さんの方を向くと

 

 首に手を回され、ベッドに引き寄せられた

 

 形的には、俺が湊さんを押し倒した形になってる

 

陽介「み、湊さん!?」

友希那「怖いんでしょう?」

 

 湊さんはそうささやいた

 

 俺は肩が跳ねた

 

友希那「だから、勇気をあげる。」

陽介「勇気......?」

友希那「ここで、私をあなたのものにして......?///」

陽介「え?」

 

 湊さんは首に回してた手をほどき

 

 俺に体を差し出す体制になった

 

陽介「い、いや、そんな事をしたら......」

友希那「大丈夫よ///」

陽介「?」

友希那「私はずっと、あなたが好きだったから///ずっと、こうしたかった////」

陽介「!?」

 

 湊さんは拒むどころか、受け入れる体制だ

 

 俺の頭の中はパニック状態だ

 

友希那「陽介......?///」

陽介「み、湊さん......」

友希那「昔みたいに、ゆきちゃんって呼んでもいいのよ?///」

 

 頭では断らないといけないと思ってる

 

 でも、体が言う事を聞かない

 

 心のどこかで、このままでいいと思ってるんだ

 

陽介(駄目だ、まだ......)

友希那「陽介?」

陽介「まだ、駄目です。」

友希那「え......?」

 

 俺は理性をフル稼働させ

 

 湊さんの上から離れた

 

陽介「こんな中途半端な状態で、湊さんとそういう事をしたくない。」

友希那「そう......」

陽介「全ての迷いが晴れてからでも、何も遅くないですから。」

友希那「え?」

陽介「あっ。」

 

 俺、完全にやらかしてるな

 

 これじゃあ、本当は望んでますって言ってるようなもんだ

 

 いや、嘘でもないんだけど

 

友希那「それは、期待してもいいって事よね......?///」

陽介「あ、えーと、はい。(思考停止)」

友希那「じゃあ、その時を楽しみにしているわね///」

チュチュ「__陽介!」

陽介、友希那「!?」

 

 話を終えたのと同時にチュチュが保健室に入ってきた

 

 俺は湊さんから急いで離れた

 

ますき「大丈夫か、出水?」

陽介「佐藤も?」

チュチュ「あなたの母親が来たらしいけれど、大丈夫なの?」

陽介「あぁ、湊さんが助けてくれた。」

 

 俺がそう言うと、チュチュはホッ吐息をついた

 

 佐藤も安心したようだ

 

チュチュ「湊友希那。」

友希那「なに?」

チュチュ「陽介をありがとう。」

陽介、ますき、友希那「!?」

 

 チュチュは湊さんに頭を下げた

 

 俺たちは全員、かなり驚いた

 

陽介「チュチュ......」

チュチュ「あなたは私の家族なんだから、礼を言うのは当然なのよ。」

陽介「ありがとう、チュチュ。」

ますき「......いいやつだな。」

 

 改めて、チュチュの優しさが身に染みた

 

 家族って言ってくれたのも、嬉しかった

 

チュチュ「き、今日は帰るわよ!///」

陽介「おう。」

ますき「あたしも帰る。」

陽介「佐藤も来てくれてありがとうな。」

ますき「あたしも心配だったし。だがまぁ......」

陽介「?」

 

 佐藤は俺の目を真っ直ぐ見た

 

 そして、ふと笑った

 

ますき「いい目になったな、出水!」

陽介「!」

 

 佐藤は笑顔でそう言って

 

 拳を突き出して来た

 

陽介「あぁ......!」

 

 俺は自分の拳をあてた

 

友希那「......」

陽介「あ、湊さんはどうしますか?」

友希那「私も帰るわよ。」

 

 そう言って、湊さんもベッドから立ち上がった

 

 チュチュと佐藤は先に保健室から出た

 

友希那「陽介。」

陽介「はい?」

友希那「さっきの話、少し帰るわ。」

陽介「?」

友希那「あなたが選ぶ相手は私に限られていないわ。」

陽介「え?」

 

 湊さんの言う意味が分からない

 

 どういうことなんだ?

 

友希那「私はあなたが好きだけれど。」

陽介「は、はい。」

友希那「私以外にも、たくさんいるみたい。」

陽介「えぇ?」

友希那「もちろん、負けるつもりはないけれど。その子たちを選んでも文句は言わないわ。」

 

 湊さんはそう言って、保健室から出て行った

 

 俺はポツンと一人残された

 

陽介「ど、どういうことなんだ......?」

 

 俺は湊さんの言った意味を理解できないまま

 

 先に出て行ったチュチュと佐藤を追いかけた

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