狂犬と消失少年   作:火の車

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END 成長した姿

 数年の時が流れ、俺は28歳となった

 

 高校卒業後は専門学校に通い、

 

 今は町で小さな定食屋を営んでる

 

 基本は定食屋だが、夜は少しだけお酒も出す

 

 毎日席が埋まるくらいにはお客さんが来て

 

 今日も今日とて大忙しだ

 

「__陽介君、麻婆定食1つ!」

「こっちはとんかつ定食!」

陽介「はい、少々お待ちください!」

 

 俺はお客さんからの注文が入り

 

 手早く調理を進める

 

 この数年でかなり腕もあがった

 

 多少の事では手間取ったりはしない

 

陽介(出来上がりまで後30秒くらいかな。)

六花「__陽介さん!ただいま戻りました!」

陽介「あっ、おかえり六花!」

 

 調理が終盤に差し掛かったころ

 

 店の暖簾を押しのけながら、

 

 外に出ていた六花が帰ってきた

 

 少しだけ息を切らせていて走っていたのが分かる

 

「お!嫁さんが帰ってきたな!」

「おかえりー!六花ちゃん!」

六花「あっ、日高さんに鈴木さん!いらっしゃいませ!」

日高「あぁ、今日もお邪魔してるよ。」

鈴木「お宅の旦那さんの飯があまりに美味しすぎてね。」

日高「それこそ、家の嫁さん以上だよ!」

六花「ふふっ、奥さんに怒られますよ?」

 

 六花は笑いながら常連2人の相手をしてる

 

 日頃は接客をしてもらったりするし

 

 まさしく看板娘というやつだ

 

 お客さんからも人気があるし

 

 RASのギタリストとしても知名度が高い

 

陽介「はい、お待たせしました。」

鈴木「おー!」

日高「待ってました!」

 

 俺は2人の前に料理を置き

 

 手拭いで手を拭きながら

 

 帰って来たばかりの六花の方を見た

 

陽介「帰って来たばっかりで悪いけど、少しだけ接客頼めるか?」

六花「はい!全然いけます!」

 

 六花はそう言いながら手を洗い

 

 エプロンを身に着けた

 

 毎度のことながら、すごい張り切ってる

 

「六花ちゃーん!こっちにビールおねがーい!」

「こっちには焼酎お願い!」

六花「はい!かしこまりました!」

「六花ちゃん、今日も可愛いよー!」

陽介「......!」

鈴木、日高(......あっ(察し))

 

 俺は食材を切る手を止めた

 

 そして、さっき聞こえた2つの酒を取り

 

 それを席に持っていった

 

「折角だし、お酌の1つでも頼めないかな?」

六花「うーん、どうでしょうか。」

陽介「__お待たせしました。」

 

 俺は静かに飲み物を置いた

 

 そして、笑顔のまま注文したお客さんの方を見た

 

陽介「ビールと焼酎です。ビールはかなーり冷えておりますので、どうぞ。浜田さん?」

浜田「は、ははっ、ありがとうございます(こ、怖い。目が笑ってない。)」

周りの客(いつものだ。それにしても怖い。)

陽介「あ、折角なのでジョッキもサービスですよ。」

浜田「あ、あの、もったら凍傷しそうなんですが?」

陽介「ははは、そんなまさか。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 勿論、そんな危ないものじゃない

 

 あと数秒すれば適温になるようにしてる

 

 流石に怪我させるとかはしない

 

六花「よ、陽介さん?そんなに怒らなくてもいいですよ?」

陽介「俺は怒ってないよ。ただ、注文された品を持ってきただけ。」

周りの客(いやいやいや。)

 

 なんだか周りがみんな首を振ってる気がする

 

 そんな態度に出したつもりはなかったんだけど

 

 俺もまだまだだな

 

六花「もうっ、いっつもそれ言うじゃないですか!浜田さんも冗談で言ってるんですから!」

陽介「分かってるよ。俺も浜田さんがこれを欲しがってるって分かってるから。」

浜田「今日のは手を込んでるねー。本当にヤバいのと思ったよ。」

陽介「ははは、流石にそんなの出せませんよ。」

六花「もう!2人とも意地悪です!」

陽介「あはは、ごめんごめん。」

 

 俺は六花の頭を撫でながらそう言い

 

 歩いて厨房に戻って行った

 

 六花は顔を真っ赤にしてる

 

 まだまだ初心な子で可愛いと思った

 

六花「......もうっ///」

周りの客(あの2人、可愛いなぁ......)

浜田(飯が美味い。)

 

 俺はそれからも注文をさばき

 

 閉店時間間近まで手を動かし続けた

__________________

 

 少し時間が経って閉店間近

 

 店内には常連の2人が残ってる

 

 俺は一息つきながらカウンター席に座った

 

鈴木「いやー、今日も良いもの見せてもらったよ。」

日高「仲のいい夫婦を見ていると更にご飯が美味しくなる。」

陽介「ははは、それはよか__」

 

 ガラガラガラ

 

 俺が話してる途中、

 

 店の戸がゆっくりと開いた

 

 そして、ある人物が顔をのぞかせた

 

陽介父母「よ、陽介......」

六花「っ!」

陽介「......」

 

 入ってきたのは俺の両親

 

 前よりも大分老け込んでいて

 

 上手くいってないのか顔が死んでる

 

 俺は席から立ち上がり

 

 2人の前に立った

 

陽介「いらっしゃい。お席に案内します。」

六花「!(陽介さん......)」

 

 俺はあくまで客として対応する

 

 席に案内し、お冷を出し

 

 注文を取ると言う作業を遂行するだけだ

 

父「よ、陽介、久し振りだな。」

母「げ、元気にしてたかしら......?」

陽介「ご注文は?」

 

 俺は淡々とそう言った

 

 あの2人は関係ない事ばかり言ってくる

 

 早く注文を言って欲しい

 

父「な、なぁ、久し振りの親じゃないか。」

母「子供がいるんでしょ......?一度くらい会わせてくれても......」

陽介「......」

 

 俺は2人の対応が面倒になり

 

 厨房の方に歩き、袖をまくった

 

六花「何を、作るんですか?」

陽介「この場に相応しい料理だよ。俺が勝手に作るから、お代を取る気はない。」

鈴木(こんな陽介君、初めて見たな。)

日高(何が起きるって言うんだ?)

陽介「......」

 

 俺は大量の鶏肉を取り出し

 

 手早く炒めていく

 

 そして、辛みのある調味料を入れ

 

 それをご飯の上に乗せた

 

日高(うっ、すごく辛いにおいだ。)

鈴木(でも、美味そうだなぁ......)

陽介「......」

 

 俺は丼をお盆に乗せ

 

 ゆっくりと歩きながら2人の席に運ぶ

 

 大丈夫、平常心でいられてる

 

 六花が心配そうにしてるのも見えた

 

陽介「お待たせしました。」

 

 俺は丼をテーブルに置いた

 

 まじで存在しないもの作ったかも

 

 完全な思い付きの創作料理だし

 

母「こ、これは......?」

父「何だって言うんだ......?」

陽介「親子丼卵抜き。さっさと出て行け風でございます。」

父母「!!」

 

 俺は笑顔でそう言った

 

 2人の顔が少しだけ歪み

 

 俺の方を凝視してる

 

陽介「申し訳ありませんが、俺の親は六花のご両親だけなので。家の子にはもう会っていただきました。」

父「な、何を......」

母「私達を忘れたって言うの......!?」

父「お前は出水だろ......!」

陽介「出水?はて、何のことですか?」

父母「は?」

 

 2人は目を丸くしてる

 

 俺は少しだけ口角を上げて

 

 優しい声で次の言葉を口にした

 

陽介「俺は朝日陽介ですよ?」

父母「!?」

 

 俺は2人に背中を向け

 

 六花の方に歩いた

 

 もう、この2人に用はない

 

陽介「六花、もう家の方に戻ってもいいよ。後は俺が片付けておくから。」

六花「いえ、私は一緒にいます。」

陽介「はは、そっか。」

鈴木「じゃあ、俺達も帰るかな!」

日高「そこの2人も連れて!」

陽介「!」

 

 鈴木さんと日高さんは席から立ち

 

 あの2人の方に歩いて行った

 

鈴木「ほら、あの夫婦の邪魔するのも悪いし早く出て行こうや。」

日高「今からあの2人は忙しいんだからさ。」

陽介「あの、シレっととんでもない事言いましたね。」

六花「この後って__っ!///」

鈴木「じゃあね!2人とも!」

日高「お代はここに置いとくから!」

父「な、なんだ、あんたたちは!」

母「は、放して__」

 

 酔った勢いもあったんだろうか

 

 常連の2人はあっさりとあの2人を連れて行った

 

 俺は軽く一息つき、さっき作ったのを片付け

 

 そして、2階の住居部分に帰った

__________________

 

 六花と2人でリビングに入ると

 

 こっちに走ってくる影があった

 

 俺はそれを受け止め、軽く持ち上げた

 

?「おかえりなさい!パパ!ママ!」

陽介「ただいま。」

六花「今日はますきさんが来れなかったけど、寂しくなかった?」

?「うん!ちゃんとおるすばんしてた!」

陽介「そうか、葵は偉いな。」

葵「うん!」

 

 この子は俺と六花の第一子

 

 女の子で名前は朝日葵だ

 

 俺と六花を丁度半々にした見た目で

 

 良い部分が六花に似てすごく可愛い

 

陽介「ご飯はもう準備してあるし、食べようか。」

葵「うん!食べる!」

 

 俺はそう言う葵を下ろして

 

 キッチンに用意してある夕飯を温めた

 

 そして、それをよそってテーブルに並べた

 

葵「いただきまーす!」

六花「いただきます!」

陽介「あぁ、どうぞ。」

 

 葵は手を合わせた後

 

 目の前にある料理を食べ始めた

 

 この年なのに好き嫌いがない

 

 作る身としては本当に助かる

 

葵「美味しい!」

六花「本当に美味しい、流石パパだね!」

陽介(可愛い。)

 

 嫁も娘も天使だな

 

 確かに目の前で良いものがあるとご飯が美味しくなる

 

 あれは本当なのか

 

葵「あ、パパ笑ってる!」

陽介「笑ってるよ。」

六花「どうしたんですか?」

陽介「2人が可愛くてついな。」

葵「葵かわいい?」

陽介「あぁ、可愛いよ。」

 

 俺はそう言いながら葵の頭を撫でた

 

 嬉しそうに目を細めてて

 

 本当に可愛らしい

 

六花「食べ終わったらママと一緒にお風呂入ろうね?」

葵「うん!はいる!」

陽介「じゃあ、早く食べないとな。」

 

 それから俺達は食事を進め

 

 食べ終わった後は俺は洗い物

 

 六花は葵を風呂に入れに行った

__________________

 

 2人が上がった後、俺も風呂に入り

 

 葵はもう眠ってしまった

 

 俺と六花は今、リビングのソファに座ってる

 

六花「あの、陽介さん?」

陽介「ん?どうした?」

 

 しばらく静かに座ってると

 

 六花が控えめな声で話しかけて来た

 

 俺は顔を横に向けた

 

六花「あの、大丈夫でしたか?あの2人が来て......」

陽介「全然大丈夫だよ。」

 

 心配そうに尋ねてくる六花に俺はそう答えた

 

 学生の時には克服してるし

 

 今更来ても思う事は何もない

 

陽介「心配かけちゃったか?すまないな。」

六花「やっぱり、高校生の時の陽介さんを見てるので......」

陽介「あはは、優しいな六花は。」

六花「......///」

 

 俺は六花の頭を撫でた

 

 風呂上がりで良い匂いがする

 

 心が落ち着くな

 

陽介「愛してるよ、六花。」

六花「私も愛してます、陽介さん......///」

 

 俺達はそう言いあった後、

 

 ゆっくり唇を合わせた

 

 時間にして3秒ほど

 

 だが、体感は何倍にも感じた

 

葵「ぱぱー、ままー......」

陽介「葵?起きたのか?」

葵「ままいなくなったんだもん......」

 

 葵は眠そな声でそう言った

 

 半分は寝てるんだろう

 

 俺と六花はアイコンタクトをした後

 

 ソファから立ち上がった

 

六花「一緒に寝ようね、葵ちゃん。」

葵「うんー......」

陽介「ほら、おいで、葵。」

葵「うんー......」

 

 葵は両手を前に出しながらこっちに来た

 

 俺はそんな葵を抱き上げ、

 

 リビングの電気を消した

__________________

 

 寝室に来た

 

 部屋の中は小さな灯りだけが付いている

 

 俺と六花は間に葵を寝かせ

 

 葵越しに目を合わせている

 

葵「すぅー、すぅー......」

陽介「良く寝てるな。」

六花「はい、可愛いですね。」

 

 六花は嬉しそうにそう言い

 

 眠っている葵の頭を撫でた

 

 その表情は母親らしく、美しい

 

陽介「......なぁ、六花。」

六花「はい?」

陽介「俺、六花と葵を守れるように頑張るよ。」

六花「!......はい。」

 

 俺はベッドの中で六花の手を握った

 

 柔らかくて、暖かい

 

葵「んぅ......」

陽介「......あんまり話してると起きちゃうな。」

六花「私達も寝ましょうか。」

 

 俺は枕元にある明かりを消し

 

 部屋の中は真っ暗になった

 

 でも何とか六花の顔は見える

 

六花「愛してます、陽介さん。」

陽介「愛してるよ、六花。」

 

 俺達は手を繋いだまま眠りについた

 

 3人で眠るベッドの中は暖かくて

 

 今、自分が幸せだと感じる事が出来る

 

 これからも、六花と葵と一緒に

 

 俺はこの幸せを噛み締めていたい

 

 

 

 


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