狂犬と消失少年   作:火の車

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友希那ルート
10年越しの想い


 1月の中旬、俺はいつも通り学校に来てる

 

 いつも通り授業を受け、いつも通り5人と話す

 

 ......なんていう事は出来ず

 

 俺の状態はいつも通りからかけ離れている

 

ひまり「__だ、大丈夫、いずみん?」

陽介「だ、だだ大丈夫だぞ!?」

ひまり「いや、ガッチガチじゃん!」

巴「いやー、緊張してるなー。」

 

 そう、今俺はかなり緊張してる

 

 心拍数は全力疾走後くらいかもしれない

 

 変な汗も流れてくるし、落ち着かない

 

 端から見れば情緒不安定もいい所だ

 

蘭「まぁ、陽介が緊張してる理由は明らかだね。」

巴「決めたんだろうな。」

モカ「そうだね~。」

陽介「あ、青葉。」

 

 俺は落ち着きがないまま、

 

 青葉の方に視線を向けた

 

 この一週間ほどで俺は5人に返事をした

 

 青葉と羽沢もその中に入ってて

 

 もう、断ったと言う事になる

 

モカ「そろそろ時間でしょー?行かなくていいのー?」

陽介「そ、そうだな。行ってくる。」

 

 俺は青葉にそう言われ

 

 椅子からゆっくり立ち上がり

 

 そして、大きく深呼吸をした

 

陽介(大丈夫、佐藤や六花に日菜さんに頑張れって言われたじゃないか。出来る、俺は出来る。)

 

 俺はそう意気込んで

 

 勢いよく教室の外の方を向いた

 

 さっきよりは落ち着けたみたいだ

 

陽介「よし、行ってくる。」

つぐみ「い、出水君!」

陽介「羽沢?」

つぐみ「頑張ってね!応援してる!お幸せに!」

陽介「!......あぁ、頑張るよ。」

 

 必死な、何かを我慢してるような声

 

 俺はそんな羽沢の言葉を背に教室を出て、

 

 待ち合わせ場所である屋上に向かった

 

 ”アフターグロウ”

 

蘭「......つぐみ、大丈夫なの?」

 

 陽介が去った後、蘭はそう尋ねた

 

 つぐみはスカートの裾を抑えながら

 

 4人の方を向いた

 

つぐみ「大丈夫だよ!一週間前にちゃんと割り切ったもん!」

ひまり(つぐ......)

巴(やっぱ、キツいよな......)

 

 つぐみの手は小さく震えてる

 

 それは、必死に気持ちを押し殺すようで

 

 見てるだけで4人の表情が曇る

 

モカ「つぐー、ちょっと付き合ってよー。」

つぐみ「え......?」

モカ「モカちゃん、今からパン食べに行きたいんだー。」

つぐみ「!」

 

 モカはつぐみの手を握り

 

 そして、教室のドアの方に引っ張った

 

 つぐみは慌てながらもそれについて行った

 

モカ「一緒にやけ食いしようねー。」

つぐみ「......うん!」

蘭「行ってらっしゃい、2人とも。」

巴「お腹壊すなよ!」

ひまり「あんまり無理に食べさせちゃダメだからね!」

モカ「了解了解~。」

 

 モカはそんな返事をしながら

 

 つぐみを外に引っ張って行った

 

 その様子を見て3人は軽く息をついた

 

巴「モカもつらいだろうに、ほんと良いやつだな。」

ひまり「私、うっかり泣いちゃいそうだった。」

蘭「......陽介が幸せになるのに、罪悪感はいらないからね。」

巴「蘭?」

 

 蘭はポツリとつぶやいた

 

 その表情はまるで見守る姉か母親の様だ

 

 巴はそんな蘭の方を見て首を傾げた

 

蘭(お幸せに、陽介。)

 

 蘭は口角を上げたまま目を閉じ

 

 心の中でそう祈った

__________________

 

 ”陽介”

 

 俺は廊下を全力で走り

 

 待ち合わせの場所の屋上まで来た

 

 もう来ているのだろうか

 

 俺は扉の前で何回か深呼吸をし

 

 意を決して扉を開いた

 

陽介「__お待たせしました、湊さん。」

友希那「あら、もう来たのね。」

 

 扉を開け、見えたのは湊さんの姿だ

 

 風で長い銀色の髪は靡ていて

 

 向けられた笑顔は夕日よりも美しい

 

友希那「今日は一体、何の話かしら?」

陽介(絶対に分かってる。)

 

 湊さんは悪戯っぽい笑みを浮かべてる

 

 こんなに意地悪な湊さんは初めてだ

 

 でも、それすら可愛く感じるのは

 

 俺が湊さんを好きだと言う事なんだろう

 

友希那「あなたの口からちゃんと聞きたいわ。」

陽介「......分かりました。」

 

 俺は湊さんの方にそう言われ歩み寄る

 

 近寄るたびに心拍数が上がる

 

 でも、さっきよりも大丈夫だ

 

 皆の言葉がちゃんと効いてるんだ

 

 言える、絶対に言える

 

 俺はそう思いながら、湊さんの目の前で足を止めた

 

陽介「俺は、湊さんが好きです。」

友希那「!///」

陽介「いつも優しくて、俺を助けてくれた。湊さんの存在はいつも、力になってくれました。俺はそんな湊友希那さんが大好きです。」

友希那「陽介......!///」

陽介「!」

 

 俺が言葉を言いきると、

 

 湊さんの身体が俺の方にもたれ掛かってきた

 

 俺の胸元に頭を押し付けてきてる

 

 その行動は物凄く可愛らしい

 

友希那「10年間、待っていたわよ///」

陽介「はい、お待たせしてすいません。」

友希那「いいのよ///」

 

 湊さんはそう言って服を掴んでくる

 

 10年も前から思われていた

 

 あの時は何も見えてなかった

 

 ただ、親に言われた事をするのに必死だった

 

 でも、今は湊さんの姿がはっきり見える

 

友希那「陽介?」

陽介「はい?」

 

 しばらくその体制のままいると

 

 湊さんが小さな声で名前を呼んだ

 

 俺は視線を下げ、湊さんの方を見た

 

友希那「私に、全てをかける覚悟はある......?///」

陽介「!」

 

 そう問いかけられた瞬間、

 

 俺の心臓は大きく跳ね、そして目を瞑った

 

 少しだけ甘えるような声、赤くなった顔

 

 そして、上目遣い......

 

 まともに目を向ける事すら難しい

 

 だが、俺は目を開け、次の言葉を口にした

 

陽介「もちろん、その覚悟を持って今日は来ました。」

友希那「そう......」

陽介「っ!!」

友希那「んっ......///」

 

 湊さんは俺の顔を引き寄せ、キスをした

 

 身長が少し足りなくて懸命に背伸びをしてる姿に愛おしさを感じる

 

 キスの時間はほんの5秒ほどのはずだが、

 

 それ以上に時間が長く感じた

 

友希那「なら、私の全てをあなたにあげるわ///」

陽介「!」

友希那「これからもよろしく、陽介///」

陽介「はい、湊さ__」

友希那「友希那よ。」

陽介「......友希那さん。」

友希那「......今はそれでいいわ。」

 

 友希那さんは不服にそう言った

 

 下から来る視線が痛い

 

 でも、流石に年上を呼び捨てには出来ない

 

 今の俺にそんな根性はない

 

友希那「じゃあ、一緒に帰りましょうか......と、言いたいところだけれど。」

陽介「?」

友希那「今日はいつもよりも寒い気がするの。そして、手袋も忘れてしまったわ。」

陽介「......?」

 

 友希那さんはこっちをチラチラ見てる

 

 手袋忘れたのか

 

 じゃあ、俺のを貸すか?

 

 俺は別に大丈夫だし

 

友希那「......鈍感ね///」

陽介「友希那さん?__!」

友希那「こうやって、手を握れば寒くないわ///」

 

 友希那さんは恥ずかしそうにそう言った

 

 今のは手を繋ぎたいと言う事を遠回しに伝えようとしたと言う事か

 

 全く分からなかった(鈍感)

 

友希那「帰りましょう、陽介///」

陽介「はい。」

 

 つないだ手は手袋より温かい

 

 何より、心が温かい

 

陽介「ゆきちゃん。」

友希那「っ!?///」

陽介「10年前はそう呼んでましたね。」

友希那「......それでもいいわ///」

 

 友希那さんは恥ずかしそうにそう言った

 

 10年前に出った女の子とまた出会って

 

 救われて、好きになって

 

 そして、こんな風に付き合う事が出来た

 

 ゆきちゃんを待たせた10年

 

 それをこれから埋めていくとしよう

 

 

 

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