狂犬と消失少年   作:火の車

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END 貪欲な幸せ

 商店街にあるコーヒーの香りが充満する落ち着いた雰囲気の店

 

 そこでは常連の人たちや放課後の学生が談笑している

 

 そんな人に愛される店

 

「__陽介さーん!ブレンドコーヒー1つ!」

陽介「はい、少々お待ちください。」

 

 俺は今、そんな店でコーヒーを淹れてる

 

 お義父さんに習った手順を辿り

 

 いつも通りのコーヒーを淹れる

 

 店内に充満する香りが一層強くなる

 

 淹れてる本人も浸りたく香り

 

 俺はそれを感じながら注文があった席に注文された品を持っていった

 

陽介「お待たせしました。ブレンドコーヒーです。」

「わぁ!ありがとう!」

 

 この子は常連の女の子

 

 名前は早霧夕菜ちゃんだ

 

 綺麗な茶髪まとめられていて

 

 ブラウンの瞳は輝き澄んでいる

 

 容姿はかなり整っていると思う

 

 この子は毎週、店に来てくれて

 

 眼帯をつけてる俺を怖がらず気さくに話してくれる

 

 コミュ力の高い子だ

 

夕菜「陽介さんの淹れるコーヒーはいつも美味しいなー!」

陽介「そう言ってくれると嬉しいよ。嬉しいついでに少しサービス。」

夕菜「ケーキだ!ありがとう!」

陽介「勉強頑張ってるみたいだし、甘いものを摂取するのはいい事だよ。」

 

 俺はそう言いながら

 

 テーブルの上のテキストを見た

 

 そこで、ある事に気付いた

 

陽介「30pの問6、間違えてるよ。」

夕菜「えぇ!?ほんと!?」

陽介「簡単な計算ミスだから、もう一回やってごらん?」

夕菜「うん。」

 

 夕菜ちゃんは俺が言った部分を解き直した

 

 途中式を見直していき

 

 何かに気付いたかと思えば

 

 おもむろに計算をやり直していった

 

夕菜「ほ、ほんとだ。陽介さん、頭もいいんだ!」

陽介「あはは、それほどでもないよ。」

夕菜「いいなー、私、勉強苦手なんだよねー。」

 

 夕菜ちゃんはうなだれながらそう言った

 

 高校2年生だし、来年には受験だ

 

 勉強の事で悩みが尽きないんだろう

 

 俺も昔を思い出す

 

陽介「今、ちゃんと勉強してるだけでも十分偉いよ。」

夕菜「ほんとにー?」

陽介「うん、もっと自分を誇っていいと思うよ。」

「__陽介君、注文良いかなー?」

陽介「あ、はい、ただいま!......まぁ、頑張って。ごゆっくり。」

夕菜「うん、陽介さん......」

 

 俺はそう言って夕菜ちゃんから離れ

 

 呼ばれた席に注文を取りに行った

 

 でも、離れる直前

 

 後ろ髪を引かれるような感覚があった

__________________

 

 しばらく時間が経ち

 

 店の閉店時間が近くなってきた

 

 さっきまでいた人たちもいなくなった

 

 けど、1人、ずっといる子がいる

 

陽介「__夕菜ちゃん?勉強は捗ったかな。」

夕菜「陽介さん。」

 

 そう言いながら俺はコーヒーを出し

 

 夕菜ちゃんの向かいの席に座った

 

 テーブルに置かれてるテキストは俺が見た時よりも進んでおり

 

 熱心に勉強してたのが伝わってくる

 

陽介「今日はお疲れ様。」

夕菜「ありがとう!でも、もう少し分かるようになりたいな。」

陽介「向上心があるね。」

 

 俺は笑みを浮かべながらそう言った

 

 置いてあるノートの端には細かくメモがある

 

 流石に俺もこんなことしなかったな

 

 本当に真面目だ

 

夕菜「まぁ、それはそれとして。」

陽介「「?」

夕菜「陽介さん、奥さんとどうなの?」

陽介「つぐみ?」

 

 俺は少し首を傾げた

 

 どうしてこんなこと聞くんだろう

 

 年頃だし興味があるんだろうか

 

陽介「今は妊娠中だから、家でゆっくりしてもらってるよ。まぁ、落ち着かないのか家事をしたり子供の送り迎えとかするんだけど。」

夕菜「......そうなんだ。」

陽介「?」

 

 夕菜ちゃん、少しだけ元気がないな

 

 少し悩みがあるように見える

 

 所詮、学生の経験に基づくものだけど

 

陽介「夕菜ちゃんは何かあったの?」

夕菜「え......?」

陽介「悩んでるように見えるから、話くらいなら聞くよ。」

夕菜「......じゃあ、聞いてくれる?」

陽介「うん、どうぞ。」

 

 俺がそう言うと

 

 夕菜ちゃんはうつ向き

 

 少しして、話し始めた

 

夕菜「......私、学校で友達いないの。」

陽介「え?」

 

 驚いてつい声が出た

 

 意外だった

 

 夕菜ちゃんは気さくで明るい子だ

 

 きっと学校でも人に囲まれている

 

 そう勝手に思ってた

 

夕菜「うちの学校、派手な生徒ばっかりで話について行けなくて......」

陽介「な、なるほど。」

 

 確かに派手な生徒の話は難しい

 

 俺も学生の時はそんな事思ったことがある

 

 だからこそわかる

 

 学校生活のうえでそれはキツイ

 

夕菜「だから、初めてここに来たときは嬉しかったの。」

陽介「ここに初めて来たとき?」

 

 夕菜ちゃんが小さく頷く

 

 確か初めて来たのは1年前になるのか

 

 そう考えるとかなり通い詰めてる

 

夕菜「コーヒーの香りにつられて店に入ったら、陽介さんが優しく笑いかけてくれた......」

陽介「!」

夕菜「最初は眼帯を付けてて少し怖かった。けど、話しかけたらすごく優しくて、ちゃんと名前も覚えてくれてた......」

陽介「そっか。」

 

 特別に意識したことはない

 

 けど、それが夕菜ちゃんのためになっててよかった

 

 俺がそんな事を考えてると

 

 夕菜ちゃんは俺の方を見て来た

 

夕菜「だから、あのね......///」

陽介「?」

 

 様子がおかしい

 

 顔が少し赤いし、目も泳いでる

 

 そして、次の言葉に詰まってるみたいだ

 

 だが、夕菜ちゃんは大きく浮きを吸って

 

 意を決したように口を開いた

 

夕菜「私、陽介さんの事が好きなの......///」

陽介「......!」

 

 夕菜ちゃんははっきりそう言った

 

 一体、告白されるのは何年ぶりだろう

 

 しかも、13歳年下の女の子なんて

 

陽介「れ、冷静になって。俺にはつぐみがいる。それに俺はもう30歳だ、夕菜ちゃんと13歳も離れてるんだよ?」

夕菜「そんなの、関係ない!///奥さんがいても、何歳離れてても、私は陽介さんが好きなの!///」

陽介「......」

 

 夕菜ちゃんは必死にそう訴えてくる

 

 断るのはきっと簡単にできる

 

 でも、さっきの話を聞くと

 

 少しだけ迷いが生じてしまう

 

陽介(......何回やっても、心が痛むな。)

 

 目を見れば大体わかる

 

 この子は真剣な気持ちをぶつけてる

 

 でも、俺にはこれを断る義務がある

 

 誰も、傷つけないために

 

陽介「......ごめんね、夕菜ちゃん。」

夕菜「っ!!」

陽介「俺にはつぐみを裏切ることができない。」

夕菜「......そっか、そうだよね。」

 

 夕菜ちゃんは悲しそうな顔をしてる

 

 女の子のこんな姿は見たくない

 

 ほんと、こんな子を悲しませるなんて

 

 最低だ

 

夕菜「ごめんなさい、急にこんなこと言って......」

陽介「ちょっと待って。」

夕菜「......?」

 

 俺は席を立った夕菜ちゃんを止め

 

 レジの端にあるメモ用紙を一枚切り

 

 そこにある事を書き込んでいった

 

陽介「これ、俺の連絡先。」

夕菜「え......?」

陽介「夕菜ちゃんの想いには答えらえないけど、学校や勉強の相談に乗ったりは出来るよ。」

夕菜「陽介、さん......」

陽介「はい、どうぞ。」

 

 俺が目も容姿を差し出すと、

 

 夕菜ちゃんはそれを受け取った

 

 それを見て、俺は少しだけ笑った

 

陽介「学校で友達がいなくて寂しかったら、いつでもおいで。俺はいつでも待っているから。」

夕菜「うん、ありがとう、陽介さん......///」

 

 夕菜ちゃんはそう言うと

 

 慌てた様子でカバンを持ち

 

 ドアの方にパタパタと走って行った

 

夕菜「また来るからね、陽介さん!」

陽介「うん、いつでもお待ちしてます。」

夕菜「またね!」

 

 夕菜ちゃんはそう言って店を出て行った

 

 その瞬間、俺の体から力が抜け

 

 近くの椅子に腰を下ろした

 

陽介(取り合えず、片付けとかして帰ろうか。)

 

 俺はそんな事を考えて腰を上げ

 

 さっさと店の片づけを済ませ

 

 2階の家の部分に帰って行った

__________________

 

陽介「__ただいまー。」

 

 帰るまでの時間ほんの数秒

 

 店から直通の我が家に帰ってきた

 

 俺はリビングの扉を開け入ると

 

 何か異様な気配を感じた

 

つぐみ「おかえり、陽介君。」

陽介「え、あの、何か怒ってないか?」

 

 リビングでソファに座ってるつぐみは何か怒っているように見る

 

 表情はいたって可愛らしい笑顔だが

 

 雰囲気で何か恐ろしいものを感じる

 

つぐみ「女子高生の可愛い女の子に告白されて嬉しかった?」

陽介「え、なんで知ってるんだ!?」

つぐみ「見てたよ。お手伝いに行こうとしたら話し声が聞こえて、覗いてたんだ。」

陽介(や、やばい、猛烈にヤバい。)

 

 つぐみはかなり怒ってる

 

 蛇に睨まれた蛙になった気分だ

 

 変な汗も止まらない

 

 いや、悪いことはしてないんだけど

 

陽介「あ、あのな?俺もあんな風に思われてるなんて知らなかったし、きちんと断ったs__」

つぐみ「でも、連絡先は渡すんだね?」

陽介「......」

 

 それを言われるとぐうの音も出ない

 

 いやでも、あれは一大人として力になりたかったというか

 

 別にやましい思いはなかった

 

陽介「な、悩んでるみたいだったし......」

つぐみ「......そうなんだ。」

陽介(ど、どうしよう。)

 

 結婚して結構経つけど

 

 今までで一番怒ってるかもしれない

 

 ていうか、こんなこと今日が初めてだし

 

 前例がないから余計に怖い

 

つぐみ「......やっぱり、30歳超えたら魅力ない?」

陽介「え?いや、そんな事ないって!そんなこと思ったこともないし!」

つぐみ「妊娠中でご無沙汰になってるし、やっぱり若くてかわいい女子高生の方が魅力的だよね......」

陽介「......」

 

 マタニティーブルーの症状なのか

 

 今日のつぐみは何だか暗い

 

 日中は1人で子供の相手をしてるし、

 

 やっぱり、負担が大きいのか

 

陽介「......そんな事はないよ。」

つぐみ「!」

 

 俺はつぐみの方に歩み寄り

 

 体を揺らさないようにゆっくり

 

 優しく抱きしめた

 

陽介「ただでさえ不安を感じる時期なのに、ごめん。」

つぐみ「陽介君......」

 

 つぐみは涙声で名前を呼んできた

 

 そして、俺の背中に腕を回した

 

 よかった、拒否されなくて

 

陽介「つぐみ一人に負担かけてごめん。もっと配慮するべきだった。」

 

 つぐみなら大丈夫

 

 そう思ってしまっていた節がある

 

 つぐみを労わってるつもりだったけど

 

 まだまだ、俺は何も足りてなかったみたいだ

 

 3人目の子供で気付くなんて

 

 遅すぎるにもほどがある

 

つぐみ「全然、陽介君は悪くないの......」

陽介「つぐみ?」

つぐみ「最近、体調が悪くて、それで、陽介君に当たっちゃったの......」

 

 つぐみは悲しそうな声でそう言った

 

 俺はそんなつぐみを少し強く抱きしめ

 

 ゆっくり背中を撫でた

 

陽介「それならよかった。」

つぐみ「え......?」

陽介「それがつぐみのためになるなら、いくらでも当たってくれていい。」

つぐみ「うぅ......」

 

 つぐみは胸元に頭をグリグリしてきた

 

 かなりストレスが溜まってたんだろう

 

 こんなに甘えてくれるのはよかった

 

 俺は少し安心し、体の力を抜いた

 

つぐみ「ごめんね、ごめんね......!」

陽介「いいんだよ。」

 

 こういう状況だけど

 

 やっぱりつぐみは可愛い

 

 学生時代よりも髪は伸びて

 

 顔も少しだけ大人になった

 

 まぁ、30歳になったし当然か

 

陽介「落ち着けるように、暖かい飲み物淹れようか。子供たちはお義母さんとお義父さんが見てくれてるし。」

つぐみ「うん。」

 

 俺はそう言ってつぐみから離れ

 

 キッチンに行き

 

 カフェイン抑えめのコーヒーを淹れた

 

 つぐみはそれを飲んで

 

 少しだけ落ち着いてくれた

__________________

 

 つぐみとソファでゆっくりし始め

 

 大体、40分が経った頃

 

 リビングのドアが勢いよく開き

 

 2つの小さな影が飛び込んできた

 

?「お父さんだー!」

??「おかえりー!お父さん!」

陽介「あ、風呂からあがったのか。香織、叶。」

叶「うんー!」

香織「さっぱりー!」

 

 2人は元気にそう言った

 

 我が子が子供で一番かわいいと思うのは

 

 親ばかと言う奴なんだろうか

 

香織「お父さん!」

陽介「どうした?」

叶「私達、お風呂で考えたの!弟が生まれたら何しようか!」

陽介「おぉ。」

つぐみ「それは、どんな?」

 

 つぐみがそう尋ねると

 

 我が子達は輝かしい笑顔を浮かべ

 

 嬉しそうな声で次の言葉を口にした

 

叶「私は、お勉強教えてあげる!」

香織「私は一緒に遊ぶの!」

陽介、つぐみ(可愛い。)

 

 俺は眉間を抑えた

 

 もう、可愛すぎる

 

 目に入れても痛くなさそう

 

 入れる目が1つしかないけど

 

叶「だから、お母さんのおなかにいるうちに話しかけるの!」

つぐみ「わわっ!」

香織「おねーちゃんだよ~!」

 

 2人はつぐみのお腹に顔を近づけ

 

 中の子に話しかけている

 

 微笑ましい光景だな

 

叶「でも、この子の名前何なの?」

香織「そう言えば、知らない!」

陽介「あれ、言ってなかったっけ?」

つぐみ「あっ、忘れてたかも。」

 

 つぐみははっとした顔でそう言った

 

 我が子達は興味津々で俺達の方を見てる

 

叶「教えて!」

香織「気になる!」

陽介「そうだな、言っとこうか。」

つぐみ「ふふっ、そうだね。」

 

 俺はつぐみと目配せをし

 

 呼吸を合わせて

 

 同時に3人目の子の名前を口にした

 

陽介、つぐみ「この子の名前は廉人だよ。」

叶「わぁー!かっこいいー!」

香織「廉人ー!おねーちゃんだよー!」

陽介「ふっ。」

つぐみ「ふふっ。」

 

 早速、名前を呼んでる

 

 中の子より気に入ってるんじゃないか?

 

 俺とつぐみはその様子を見て笑った

 

 

 これが、今の俺の家族

 

 毎日、幸せに過ごしてる

 

 でも、まだまだ貪欲に求めて

 

 文句を言われるくらいもっと幸せに過ごしたい

 

 

 

 

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