狂犬と消失少年   作:火の車

79 / 82
END 1回目の結婚記念日

 ”日菜”

 

 今日は6月15日

 

 普通の人はなんてことない日だろうけど

 

 あたしにとっては特別な日

 

 そう、今日は陽介君との1回目の結婚記念日!

 

日菜「__陽介君、今日もお仕事?」

陽介「いや、ないよ。けど、用事があるから少し出かけるかな?」

日菜「そうなんだ......」

 

 ......なんだけど

 

 陽介君はまーったく覚えてる感じがしない

 

 分かってるよ?

 

 あっちこっちのレストランやホテルに引っ張りだこで大忙しで

 

 うっかり忘れちゃう事もあると思うよ?

 

 でも、初めての結婚記念日なのに......

 

陽介「昼くらいには帰るよ。」

日菜「う、うん、行ってらっしゃい......」

 

 いつも着てる服を着て陽介君はリビングを出て行った

 

 あたしはそれを見送った後ソファに座って天井を眺めた

 

日菜(どうしよ......)

 

 気分的に1人で家にいるのがつらい

 

 この家がすごく大きい分、余計に寂しい

 

日菜(そう言えば、陽介君の用事って何だろう?)

 

 天井を眺めてると、そんな事が頭に浮かんできた

 

 陽介君、仕事は多いけど用事って今までにあったかな?

 

 しかも、あんな私服で行く用事って何なんだろう?

 

日菜「......気になる。」

 

 あたしはそう呟いた

 

 そして勢いよくソファから立ち上がった

 

日菜「付けてみよう!暇だし!」

 

 あたしはそう意気込んで

 

 この前買った変装用の服を着て

 

 陽介君を追いかけるために家を出た

__________________

 

 尾行を始めて少し歩いて商店街に来た

 

 陽介君は八百屋さんにも肉屋さんにもいかず

 

 慣れ親しんだ羽沢珈琲店に入った

 

 あたしも陽介君に続いて店に入って

 

 今は少し離れた席で2人の話に聞き耳を立ててる

 

陽介「__いやぁ、待たせてすまない。」

蘭「別にいいよ。呼んだのはあたしだし。」

 

日菜(蘭ちゃん?)

 

 陽介君の待ち合わせの相手は蘭ちゃん

 

 高校の時よりも大人っぽくなってて

 

 今は確か、お家で華道してるんじゃなかったっけ?

 

 そんな子が陽介君に何の用だろう?

 

陽介「今日はどうした?俺を呼ぶなんて珍しいな。」

蘭「少し相談があってね。」

陽介「美竹が?それはまた重ねて珍しい。」

 

 陽介君は首をかしげながらそう言った

 

 まぁ確かに蘭ちゃん素直じゃないしねー

 

 陽介君が不思議に思うのもわかるかな?

 

 あたしなんて蘭ちゃんにすごい怒られたし!

 

蘭「まぁ、今回は適任なのが陽介しかいなかったから。」

陽介「俺?」

蘭「その、陽介に料理を作ってほしいの......結婚式の。」

陽介「結婚式!?」

日菜(うそ!?蘭ちゃん結婚するの!?)

 

 いや、蘭ちゃん可愛いんだけどね?

 

 性格的に結婚とかするイメージ無かった

 

 なんか一生幼馴染といる!って感じだったし

 

蘭「こ、声大きいって。」

陽介「あ、あぁ、悪い。驚いてつい。」

蘭「失礼だね。」

 

 蘭ちゃんは不服そうにそう言った

 

 ごめん、あたしも失礼だったね

 

 陽介君は驚き過ぎだけど

 

 いやでも、意外だなー

 

陽介「悪い悪い。それで、料理だったか?」

蘭「うん。安心して任せられる人が思いつかなくて。」

陽介「まぁ、そういう事なら全然引き受けるけど。」

蘭「ありがと。じゃあ、料金とかの話も__」

陽介「いや、別にいいよ。俺個人でするなら。」

蘭「え?」

 

 陽介君は軽い口調でそう言った

 

 蘭ちゃんは凄い驚いてるけど

 

 あたしからすれば別に意外な話でもない

 

 陽介君はずっと、『アフターグロウの皆は俺を支えてくれた恩人。』って言ってるし

 

蘭「いや、仕事で料理してるんでしょ?それは問題あるんじゃ__」

陽介「大丈夫大丈夫。折角の恩人の門出だし、ちょっとくらい頑張ってもいいだろ?200人までなら全然捌くよ。」

蘭「いや、そんなにいないからね?」

 

 蘭ちゃんはそうツッコミを入れた

 

 陽介君もあたしに似て来たねー

 

 これはすっごくるん♪ってする!

 

蘭「全く、陽介は変わったね。」

陽介「そうか?そんなに変わらないと思うが。」

蘭「変わったよ。昔に比べてすごく明るくなった。」

 

 蘭ちゃんは笑いながらそう言った

 

 うんうん!陽介君はいいお友達を持ったね!

 

蘭「本当に良かったよ。」

陽介「そう言う美竹はあんまり変わらないな。」

蘭「そう?」

陽介「そうそう、悩み事を隠すのが下手な所とか。」

蘭「え?」

日菜(え?)

 

 陽介君は真面目な声でそう言った

 

 蘭ちゃんが悩んでる?

 

 そんな様子は無かった......と思う

 

 陽介君には何が見えたんだろ?

 

蘭「な、何急に?あたしは別に悩んでないんだけど。」

陽介「いや、今の美竹の顔がさ、昔日菜さんに俺のノート見られた時と一緒なんだよ。」

蘭「っ......!」

日菜(!)

陽介「どうだ?」

 

 陽介君は蘭ちゃんにそう尋ねた

 

 蘭ちゃんは少しだけ下を向いて、何か言いずらそうな顔をしてる

 

 さっきの言ってたのはほんとだったんだ

 

蘭「......あたし、結婚したくない。」

陽介「え?」

日菜(えぇ!?)

 

 蘭ちゃんはしばらくして小さな声でそう言った

 

 いやいやなんで!?

 

蘭「今回の相手の人は華道の名家の人で真面目で優しくて、すごいいい人なの。きっと、いい結婚生活を送れると思う......」

陽介「それなのに、何で悩んでるんだ?」

蘭「......この人と結婚していいと思ってる。けど、したかった人じゃない。」

陽介「したかった人じゃない?」

日菜(!)

 

 蘭ちゃんの気持ち、少し分かる

 

 もし仮にあたしが陽介君に選ばれてなかったら

 

 もしもそれで結婚してって言われたら

 

 あたしも同じことを思ってたかもしれない

 

蘭「だって、あたしの初恋は始まる前に終わったから......!」

陽介「美竹!?」

日菜(蘭ちゃん!?)

 

 蘭ちゃんは涙を流してる

 

 それを見て、少し嫌な予感がした

 

 けど、あたしは話を聞くことにした

 

陽介「だ、大丈夫か?ほら、涙拭けって。」

蘭「あたし、陽介が好きだった......初恋だった......」

陽介「え?」

日菜「っ!」

 

 蘭ちゃんは泣きながらそう言った

 

 ど、どうしよう

 

 蘭ちゃんがそう思ってたのを知らなかった

 

蘭「だけど、この気持ちに気付いた頃には陽介は日菜さんと付き合ってて、それで海外に行って......」

陽介「そ、そうか......」

 

 陽介君も困惑してる

 

 けど、私はそれ以上に不安を感じてる

 

 陽介君が蘭ちゃんを選ぶことじゃなく

 

 どうやって断るのか

 

 変な断り方をしたら、蘭ちゃん傷ついちゃう

 

陽介「だが美竹、俺には日菜さんがいる。それは結婚したからと言う責任じゃなく、ただ俺が日菜さんといたい。だから__」

蘭「分かってる。」

陽介「!」

蘭「だから、今回のことお願いしたの。」

日菜(!)

 

 蘭ちゃんは静かな声でそう言った

 

 それで何となくわかった

 

蘭「陽介の仕事を見れば、きっと遠くに行ったって思えるから。キッパリ諦められる。」

陽介「......分かった。」

 

 蘭ちゃんの言葉に陽介君はそう答えた

 

 あの顔、仕事をしてる時の顔だ

 

 真面目でキリっとした、かっこいい顔

 

陽介「その仕事、謹んでお受けしよう。」

蘭「うん、ありがとう。」

陽介「でも。」

蘭「?」

陽介「遠くに感じる必要はないよ。」

日菜(陽介君......!)

 

 陽介君はそう言って笑みを浮かべた

 

 蘭ちゃんは目を見開いて

 

 驚いた顔で陽介君を見てる

 

陽介「美竹は友達だ。今、俺が生きてられてるのも美竹のお陰でもある。」

蘭「陽介......」

陽介「俺はずっと、美竹の幸せを願ってるよ。」

 

 そう、これが陽介君

 

 一途で絶対に誰も不幸にしない

 

 やっぱり、るん♪ってする

 

陽介「何かあれば、俺が店を開いてればいつでも来ればいいよ。いつだって、俺が作れる限り最高の品を用意して待ってるさ。」

蘭「うん、ありがとう、陽介!」

陽介「まぁ、そこまでは良いけど。」

蘭「?」

日菜(?)

 

 陽介君は話がひと段落すると立ち上がり

 

 笑いながらこっちを向いた

 

 そして、ゆっくり口を開いた

 

陽介「全く、まさか本当について来てるとは。プライバシーも何もないな、日菜。」

日菜「えぇ!?何でわかったの!?」

陽介「まぁ、ある程度予想がついたし。こっちにも諜報員がいるんでね。」

つぐみ「あ、あはは......」

日菜「しまった!ここ、羽沢珈琲店だった!」

 

 ”陽介”

 

 日菜さんは目に見えて慌ててる

 

 いやー、分かりやすい

 

 慣れれば日菜さんの行動読みやすいな

 

陽介「全く......」

蘭「まぁ、あたしも薄々察してた。」

つぐみ「注文の時に頼まれました。」

日菜「全員気付いてたの!?」

 

 なんかあたしバカみたいじゃん!

 

 つぐちゃん、どんな目であたしを見てたの?

 

 ずっと店の端っこで立ってたけど!?

 

陽介「この分じゃ、結婚記念日のプレゼントはお預けかな。」

日菜「え?」

陽介「ん?どうかしました?」

 

 俺はわざとらしくそう言った

 

 大方、忘れてると思ったんだろうな

 

 残念ながら中々マメにしてるから忘れないんだよな

 

陽介「じゃあ、美竹。俺は日菜を連れて帰るよ。さっきの話はまた連絡してくれ。あと、お代はここに。」

蘭「うん、ありがとう、陽介。」

つぐみ「ありがとうございました!」

陽介「日菜、帰るよ。記念日のお祝い、したいだろ?お義姉さんも来るらしいしけど、今日の事は報告な。」

日菜「えー!?そんなー!?今日は許してよー!」

陽介「だーめ。」

日菜「陽介君ー!」

 

 俺はそう言いながら店を出て

 

 日菜も後に続いて店を出て来た

 

 

 俺はプレゼントを渡す心の準備をしないといけない

 

 けどまぁ、これから何個の渡す内の1つだ

 

 一体、あと何回結婚記念日を迎えるか分からないけど、まだ1回目

 

 俺と日菜はまだまだこれからだ 

 

 日菜に習って、るん♪ってする日々を送れれば

 

 きっと、幸せなんだろうな

 

 

 




もう少し付き合ってください
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。